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急成長する世界のeコマース企業(全2記事)

「Amazonでプラダは買わないでしょ?(笑)」 急成長のファッションEC・Farfetch創業者が明かす、消費行動の本質

欧米で急成長を遂げているファッションECの「The RealReal」と「Fatfetch」。消費者心理をついて巨人・Amazonの間隙を縫うそのビジネスモデルを、両者の創業者が解説しました。(IVS 2014 Spring/session1:急成長する世界のEコマース企業より)

世界を席巻するEC、FarfetchのCEOが登壇

田中:では次に、大西洋の向こう側からまた違ったお話をお伺いできることでしょう。ポルトガルとUKの様子についてです。

José Neves氏(以下、José):田中さんは私たちの過去の秘密をバラすことに最善を尽くしているようです(笑)。私はポルトガル出身です。皆さん日本の方なので、ポルトガルと日本の歴史について少しご存知の方もいらっしゃるでしょう。1974年生まれ。日本は大好きで、15年ほど前からよく滞在しています。キャリアの中で、ほとんど常に日系企業と取引させていただいています。日本料理も大好きです。

田中:今朝の朝食をご一緒した時、私は洋食をフォークとナイフで食べる反面、彼は箸を使って和食を食べていたんですよ。

José:私は、8歳ごろからテクノロジーが大好きになりました。これをクリスマスに買ってもらいました。見たことがある人はいらっしゃいますか? もしかしたら日本には進出しなかったかもしれない。

田中:どの言語のプログラミングされてました?

José:BASICです。

田中:同じ時期に僕もBASICをプログラミングしていましたが、これとは違うプラットフォームでした。

José:キーを見てください。面白いんですよ。基本的な説明が全部キーに書いてあるんです。

田中:おぉ、それは当時としてはユーザーフレンドリーですね。

José:この48Kメモリーの端末を手に入れました。最近ではヤフーEメールもそれくらいみたいですが(笑)。ゲームが無かったので、これでゲームのプログラミングを始めました。テクノロジーに情熱を捧げていたのです。

靴のデザインからファッション業界へ

José:19歳の時に最初のテクノロジービジネスを始めました。私がいたポルトガルの北部地域はファッション業界が盛んでしたので、私たちの顧客は自然とファッション業界の方が多かったのです。ファッション業界にVIPを紹介したり、マネージメントプログラムを靴会社に提供したり。それが、靴デザインに興味を持つきっかけとなりました。人生で第二の情熱を見つけたのです。ファッション、特に靴です。

田中:待ってください。最初はファッション業界にマネージメントソフトウェアを提供していた。そのうちにファッションがやりたくなったと?

José:ファッション業界を見ていて思ったんです。自分はプログラミングが出来る、それなら靴だってデザインすることが出来るだろう、って。若気のいたりです(笑)。

田中:それはまったく別のスキルなのでは……(笑)。

José:とにかく21歳の時、若くて考えることもクレイジーな時期、人生なんだってやれば出来るんだ! と思う年頃にですね、靴のデザインを始めました。少し恥ずかしいのですが、これは東京のファッションサイトに出した靴です。

田中:(笑)。これをあなたがデザインしたのですね?

José:そうです。でもドラッグを使用していたわけではないですよ。

田中:これを作った時に彼が何を吸っていたかなんて聞きません(笑)。この靴をお金を出して「欲しい!」という人はいたのですか?

José:もちろん! 現在でもですよ。まだeBayに載っています。

田中:これは「TokyoFashion.com」のブログサイトからですね?

José:そうです。ググってもらえば僕の恥ずかしい靴がたくさんでてきます。

田中:ちょっとググりましたよ。これはなんですか!?

José:70年代のロックバンド、KISSのメンバーがこんな靴を履いていたので、リメイクしました。

田中:これはKISSに影響を受けているんですね。たくさんデザインされていますね。

José:実は日本のパートナーと一緒に原宿で店をやっていました。そのころから東京にはよく来ているんです。

田中:そして日本食にハマったんですね、これらの靴と共に(笑)。

ネットさえあれば、世界中のお店をまわれるFarfetch

José:とにかくテクノロジービジネスをしている時にファッションに出会いました。そしてFarfetchのアイデアを思いつきました。Farfetchはハイエンドなファッションブティックの集まる、キュレーターのためのマーケットプレイスです。

アメリカやヨーロッパのおしゃれなお店に実際に行ってみて、世界各所にあるお店を一か所に集めたマーケットプレイスです。日本には、似たようなプラットフォームとしてZOZOTOWNがありますね。確か彼らも色々なショップを一か所に集めて買い物が出来るようにするコンセプトですよね。

田中:Farfetchに集まるショップはすべて実際のお店があって、それぞれの店の在庫をオンラインサイトとも連動するようにしたのですよね?

José:そうです。在庫はリアルタイムで連動しています。ちょっとビデオをお見せしましょう。

【サービスの紹介動画を是非ご覧ください】

田中:たくさんのお店が出てきましたが、もう少し詳しく教えてください。

José:世界各地の色々なお店を巡る感覚を表現しています。大きなデパートではなく、小さなセレクトショップ、素晴らしいキュレーションや商品を持っているところを厳選しています。

田中:いま出てきたショップには、すべて実際に足を運ばれたんですよね。

José:その通りです。それら各地に実際に行ってきた、ということをお見せする目的もあります。オンラインでオーダーすると、ショップにリアルタイムでオーダー情報がいきます。注文時の決済料金には関税も含まれています。パリのセレクトショップから東京、大阪、札幌に約5日で商品が届くのです。

着想から1年でサービス開始

田中:つまり、どこにいようがiPadで世界中のセレクトショップから買い物が出来るのですね。もう少しお話を聞かせてください。

José:Farfetchを設立して約6年です。私たちはパリで靴会社をしていました。さっき見ていただいたものよりも、もっとクラッシーな一般的な靴を取り扱っていました(笑)。たくさんの大きなデパート、そして小さなセレクトショップを見ることになります。

そこでわかったのは、セレクトショップはストアをオンライン化するのに試行錯誤していた、ということです。オンライン化するのはビジネスを行う際、重要なポイントですよね。そこでそれらのセレクトショップが世界に向けてビジネスが出来るようなプラットフォームを作ろうと思ったんです。セレクトショップの力だけで世界市場を相手にビジネスが出来るように持っていくことは、難しいだろうと考えました。

セレクトショップにとっても、買い物をしたいと思っているお客さまにとっても、winwinだと思ったので、本腰を上げて自分でお金を出して会社を始めました。始めた時に投資は受けていません。

田中:アイデアを思いついてから、実際にビジネスにするまでにどのくらいの時間がかかりましたか。

José:1年です。1年で契約を結んでくれる25のセレクトショップを得て、プラットフォームも同じ一年の間に。テクノロジービジネスのエンジニアに、「VIP向けのプロジェクトはもうやめよう、これからはEコマースでやっていくぞ!」と言いました。そしてFarfetchは2008年の10月にパリでローンチしたんです。

田中:打診した時、あなたのアイデアに懐疑的なセレクトショップはありましたか?

José:一番やっかいだったのは、バイヤーがいない時に「セラーになってくれ」と説得することでした。これにはいくつか秘訣があるのですが、あとで説明します。現在、世界25か国からセレクトショップが集まっています。お客さまは世界150か国以上の方々。ではいくつかの数字を動画でご覧ください。

VIPからも支持されるECである理由

田中:すごくたくさん数字が出てきて全部思い出せませんが、素晴らしい業績ですね。一人の一回のオーダーで最も多かったのはいくらでしたっけ?

José:41,000USドルです。これまでを合計すると50万ドル以上を支払っている方がいます。

田中:それはすごいですね。どんな人たちなのでしょうか。

José:世界中にいますね。例えばブラジルは大きな市場です。今お話しした50万ドルの顧客は香港にいます。

田中:もしも私が50万ドルを使う顧客だった場合、特別な扱いはあるのでしょうか。

José:VIPプログラムがあります。Farfetchプライベートクライアントです。24時間、365日、いつでもパーソナルスタイリストへコンタクトすることが出来ます。新商品をいち早くお見せしますし、特別待遇でおもてなしします。

田中:そのようなVIP顧客に直接会ったことはありますか?

José:もちろん! 今回の日本滞在は時間がないので出来ませんが、数か月前にオーストラリアに行ったときはお会いしました。VIP顧客とは常に直接会う機会を設けます。

田中:そのようなVIPの方たちは直接ブティックに行って買い物をすることに何の問題もないと思いますが、なぜ彼らはあなたのサイトから買い物をしてくれるのだと思いますか?

José:ファッション業界は動きがとても速いです。もしかしたら、実際にニューヨークに行って買おうと決めた欲しい商品が、ニューヨークに着いたころには売れてしまっているかもしれない。そして一点ものの商品を手に入れたい場合、そして狙いの一点ものがイタリア、フランスだとか違う国にいくつか点在したら?

Farfetchでは商品返品も無料ですし、便利です。でもFarfetchを旅行のガイドとして使っている人もいますね。例えば、ヨーロッパに旅行に行くことになった、どのブティックに行ってみようかな、なんて事前に調べるんですね。

田中:つまりある人々はあなたのサイトでまずブティックを知り、そして実際に行ってみる、ということですね。

José:その通りです。ですので、旅行ガイドのアプリも今年の終わりには出す予定です。

田中:このことについてブティック側はどう感じているのでしょうか?

José:彼らはとても喜んでいます。Farfetchがなければ絶対に得ることがなかった顧客―彼らのショップを知ることもなかった顧客―を得ることが出来るのですから。

特に中国にいるお客さま。中国のラグジュアリーショッピングの3分の2以上が中国国外で行われています。しかし、そのような中国から来た彼らが、ニューヨークに行ってもどこで買い物をしたらいいかわからないので、結局デパートに行きます。ブティックには行きません。

それを「こんなブティックがあるよ」と教えてあげることが出来れば、ブティックにとっても中国からのお客さまにとっても良いですよね。私たちにとって中国は大きな市場です。中国と香港を合わせると、私たちの市場の中で4番目に大きいですね。

田中:中国からたくさんのアクセスがあるのですね。でも中国語のページはないですよね?

José:はい、自然に中国からのお客さまが私たちのサイトを訪れるようになりました。今年中に中国語版のサイトもつくる予定です。

日本でのビジネスモデルは?

José:これはセールスの成長を示しています。

田中:最近1億ドルを達成されたのですか。

José:目標を予定よりも早く達成することが出来ました。USドルで、です。イギリスのポンドだったらあまり業績は良くないですよね(笑)。このカスタマーのグラフは、商品を少なくとも一度購入して、返品しなかった方々のデータを基にしています。顧客の人数を増やすことだけが、ビジネスの成長の鍵ではないのです。ハイエンドな顧客が集まればいい。顧客全体の1%が私たちのセールスの25%を握っています。

私たちの特徴は需要と供給の両局面でグローバルなプラットフォームであること、急成長を遂げていることです。一か月後には日本でもローンチします。もともと日本は「需要」の部分であると考えていましたが、日本のデザイナーもグローバルなプラットフォームで展開する「供給」に加えようと思いました。日本の中小ブランド、セレクトショップは世界展開するのが難しい。

田中:では、日本でのビジネス、需要と供給の両面を考えていらっしゃるのですね。

José:その通りです。昨年インドで同じようにしました。日本でどのようにやったらうまくいくか、アドバイスがあれば歓迎します。

Amazonではショッピングを楽しめない

田中:あと20分程度時間がありますので、まず私からいくつかお二人に質問をして、その後会場の方からの質問を受け付けたいと思います。

まずは、典型的なVCからの質問をしたいと思います。こんなことを言われたことはありませんか? 「あなたたちがEコマースをやりたい、ということはわかった。でももうAmazonがあるじゃないか。すぐにダメになるんじゃないの?」。

VCは皆さんのビジネスに投資してリターンを得られるか懐疑的。こんなネガティブな感じでVCから言われたことはありますか? Amazonと比較されることや、すぐにダメになるんじゃないの? と言われたことなどについて経験があれば、教えてください。

José:その質問はよく受けます。特にアメリカのVCから「もうAmazonがあるのに……」って。「Amazonでプラダを売ればいいじゃないか」と言われれば、「どうしてウォールマートではプラダを売っていないと思いますか?」と返します。すると彼らは、「なるほど。わかりました」と引き下がります(笑)。

キュレーターの集まるマーケットプレイスだと認識される必要があります。キュレーションの中では価格設定がコアになるのではなく、どれだけ素晴らしいものを提供できるかなのです。これはAmazonには出来ないことです。Amazonは素晴らしいですが、全く別なものなのです。私はAmazonプライムの会員ですが……。

田中:Amazonで買い物するのですか?

José:はい、買い物はほとんどすべてAmazonでしています。一度やりだすと止まらないですよね。素晴らしいプラットフォームだと思います。しかし、ハイエンドなラグジュアリーなファッションのショッピングを楽しむ場所ではないと思います。

田中:つまり、プラダがおむつだとか他の商品と一緒にアマゾンに並ぶのは相応しくない、と。

José:そうです。そこがポイントです。ハイエンドな顧客にとっては、気分良く、納得・満足して高額な金額をファッションに支払いたいのです。大好きなもの、とても気に入ったものに対し、それに見合う金額を払いたいと思っているのです。オンラインでおむつだとか食器洗浄機の横に商品があると……ね。なんだか気分が上がらないじゃないですか。購入する時は感情です。

Rati:私もその意見に賛成です。eBayから「The RealReal」に面接に来る人がいます。彼らは言います、「eBayではキュレーション作品を売ることが出来ない」。

田中:eBayにはニセモノのブランド品も出回っていますしね。

Rati:そうですね。本物であることをきちんと確かめられるか否か、という問題もありますね。

田中:残り10分なので、会場から質問があるか聞いてみましょう。

質問者:ファッション業界者ではありませんので、ファッションについては素人です。成功の一番のポイントはなんでしょうか?

José:マーケットプレイスでの最初の課題、それは、まずはセラーに来てもらわなくては始まらない。セラーが参加してくれれば、素晴らしい商品もついてくる。The RealRealもそうだと思いますが、セラーとの関係を良くするためにホワイトグローブサービスが大切です。

セラーの中にはEコマースビジネスのやり方がわからないところもあるので、実際にショップに行って、商品の写真を撮ったり、カスタマーサービスの類をこちらで請け負ったり、つまりビジネスの部分は全部こちらでやってあげるんです。すでにブティックがあるのであれば、5日でFarfetchに載せることが出来る。

マーケットプレイスにセラーが参加することで、セラー独自でオンラインストアをやるよりも、手間が省けるメリットを提供することがセラー獲得の鍵だと思います。まずはセラーの数を増やす。セラーが集まることによって、さらに多くのセラーが集まる。幸運なことに、需要と供給の両方が伸びています。常に需要と供給のバランスが崩れないように気を付けています。特にサプライのほうに重点を置いています。

田中:いつ頃クリティカルマスに届いたと感じましたか? ターニングポイントは?

Rati:とても記憶に残っているのは……Joséが言うようにサプライヤーについて常に重きを置いています。

田中:つまり、お二人にとっては顧客の問題ではないと。

Rati:需要は問題ではありません。供給・サプライが鍵です。8か月目くらいの時に、パールのネックレスだとかを直接私たちに送ってくる方が大勢いました。ラグジュアリーなジュエリー担当マネージャーが全米16都市にいます。

彼らは担当マネージャーと話すのではなく、私たちに直接送ってきたのです。しかも普通郵便で! 2万ドルの高価な真珠のネックレスを! バーキンのリザードを! そこで私たちは気が付きました。ジュリーと顔を見合わせて、「私たち、イケるわね」って。

田中:Joséはどうですか、ティッピングポイントはいつでしたか?

José:それは多分一年半くらい前に、新規セレクトショップと契約すれば上手くいくとわかった時でしょうか。彼らがすぐに業績を上げることが。それらセレクトショップの売り上げが0から、10万または25万ドルに上がる。最近、初めて一日で200万ドルを売り上げた日がありました。とても嬉しかったです。

田中:ありがとうございます。Ratiはすでに日本でも展開していて、Joséも来月日本でのローンチが待っている(※この講演は2014年5月に行われたものです)。最後にお二人から一言ずつお願いします。

José:私たちにとって、日本はビッグで素晴らしいチャンスです。東京のあるビジネスマンと昨日話していて、「今は不景気だし、マクロ経済は? リテールって難しいんじゃない?」等々言われましたが、あまり関係ないと思います。日本ではラグジュアリー品のオンライン購買率は5%ほど。95%が実際の店舗での購入です。日本はファッション大国です。つまり巨大な市場が未開発のままなのです。なので、今回の日本でのローンチ、とてもわくわくしています。

田中:つまり、オンラインラグジュアリーファッション市場は開き始めたばかり、ということですね。

José:その通りです。他のプレイヤーは日本には来ていませんからね。The RealRealは、日本に着目したパイオニアだと思います。

Rati:Joséと同じように感じています。8か月前に日本でローンチしました。まだまだ始まったばかりです。日本は世界にまれにみるラグジュアリー・ブランド品大国です。これから日本でビジネスをやっていくことにとてもわくわくしています。

田中:ありがとうございます。

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