日本は「反故」、イギリスは「保護」

山本一太(以下、山本):なるほど、その「若者」「バカ者」「よそ者」でいうと、この本の中で何度か出てくる「小西美術工藝社」。400年か500年の歴史をもつクールジャパン企業の、(デービッド・)アトキンソン社長。この人が外国人の視点で観光政策を語っていて、なかなかおもしろいと石破大臣が指摘をされてますが、どういうところですかね。

そういうイギリス人の目じゃないと、……例えば日本の文化財はもうちょっと活用できるとか、それはまさによそ者の視点なんですかね。

石破茂(以下、石破):このデイビッド・アトキンソンさんという人の書いた本って、実におもしろいですよ。あ、そうなんだ、って気付かされることがいっぱいあるんですけどね。イギリス人ですけど、本当に流暢に日本語を操る人ですよね。

山本:この番組にも出てくれて。

石破:そうですか。

金融関係でものすごく儲けて悠々自適で「京都の町家に住もうかな」って住んでたんですけどね。ひょんなご縁で「小西美術工藝社」という日本の寺社仏閣、文化財的な価値のあるものを修復する会社の社長に、イギリス人がなるわけですよね。

イギリス人の目で日本の観光政策を見てみると、母国のイギリスとこんなに違うんだということですね。文化財にかける予算はぜんぜん違う。日本の場合、文化財はまず「反故するもの」。イギリスの場合は「保護する」と同時に「活用するものなのだ」ということですよね。

じゃあ、文化財を活用してどうするんだろうか。

例えば、二条城には幕末の歴史の舞台となった大広間がありますよね。あそこ、私が中学生の国会見学で行って記憶がぼんやりしていたのですが、ホールって書いてあるんですよね。「ホールですかい」と。いや、ホールには違いないんだけれど、「ここ1800何年のものになんでこんなことが書いてあるんだよ」と解説して。場合によっては、誰かが公家に扮して、誰ががお侍に扮してやってもいいしね。

だから、日本の歴史や文化とか、そういうものって外国人が大好きじゃないですか。でも、部屋に「ホール」とだけあったら、なんだったのかとなっちゃう。

山本:なんにもわかんなかったら、ただの部屋に入ったような感じですもんね。そういうことを、アトキンソンさんの目から提言していますね。

「なにもないからダメ」じゃなくて「あるものを活かす」

それで今日、いろいろ聞きたいことがあるんです。石破さんがいろんな成功事例に触れている。「こんなところにまで行ってんのか」と感銘を受けたんですけれども。つまり、地方創生の起点はどこにでもある、と。うちの街には新幹線がない、交通も良くない。ないないないじゃなくて、発想を変えればいろんな起点がある。とても紹介しきれないのですが、すごく面白くて。

例えば、島留学とか、森林の美術学校とか。ここらへん、すごくおもしろいと思ったんです。1つ、石破さんが感銘を受けた例を紹介していただけないでしょうか。

石破:隠岐諸島ってありますでしょ、島根県に。あそこに海士町、……海のさむらいって書くんですけどね。海士町っていう小さな小さな町があるんですよ。そこはどんどん人が減っていて、県立高校が1つあったんですけど、廃校寸前になっちゃったわけですね。

公共事業はあらかたやり尽くしたし、町は合併していないので国からの交付金も少ないわけですよ。どうするんだって話になって、今の町長さん……山内(道雄)さんというのだけれど。町長さんが3期前かな、4期前かな。立候補されるときに「もう公共事業はあらかたやったでしょ」「合併しなかったから、国からお金もそんなにこないでしょ」「だったら、うちの島にあるもので生きていくしかないじゃないか」と言い、町民の多くがその人を(町長に)選んだわけですよね。

彼が言っていたのは、この隠岐諸島は日本全体から見れば離島。だけど、日本だって世界全体から見れば離島じゃないか、と。我が島が生き残りを考えることは、日本が生き残りを考えることだという考え方に基いて、島留学を始めたんです。島でしかできない教育です。

今、ネットを使うことで、地方でも東京や京都と同じような教育を受けられるわけですよね。子どもたちに、島で生きていく教育とともに、受験だけがいいと言わないけれど、そういう教育をやったわけですよね。それをやるについて、いろんな島の外の人の意見も取り入れたんです。

そうすると、潰れそうな高等学校が今、一学年2クラスですよね。でも町長は、どんなに日本国中から入りたいって言ってきても、島の子を半分は残すんだって言ってますよね。

あるいは、サザエが特産。じゃあ、このサザエでカレーを作ったら……という発想ですよね。シーフードカレーを、またちょっと捻ったような美味しい味なんですよね。

あるいは牡蠣。牡蠣って、日本海側は特産なんだけど、あれって夏のものだよね。大きな岩牡蠣って、養殖が難しい。そして、冷凍ができないと言われていた。だけど、養殖に成功して、CAS(Cells Alive System) システムっていう技術を使って冷凍にも成功。冬でも獲れたてとほとんど変わらない牡蠣が食べられて、常に完売状態ですよね。

あるいは隠岐牛。これは日本海の潮風をうけて育つ、ミネラル分いっぱいの牧草を食べて育つ牛。目一杯運動するし、それはストレスの少ない飼い方なんです。この牛を売り出すためには、東京で松坂牛と勝負しなけりゃダメ。それは本当に、松坂牛とほとんど変わらないランキングですよ。

なんにもないんだダメなんだ、じゃなくて、この島にあるものをどうやって活かす。そういう発想で、そういう島が、町が、現にあるわけですよね。どうせダメなんだって決めてかかる。「中央の政策が間違っているんだ」って決めてかかる、それって私は正しいとまったく思わない。

「いつかは花の都で」「故郷に錦を飾る」は日本特有?

山本:なるほど、今日、実はみなさんに島留学の話をされておられるんですよね。このほかにも、商店街からコンパクトシティを成功させている例からも、ありとあらゆることがあるんですよね。森林の美術館とか、紹介しきれないようなことがいろいろ詰まっているんです。

時間がなくなってきたのですが。ぜひ聴きたいのは、石破さんが前創生大臣として言っているUターン組の活力についてです。すごく面白かったです。

みなさん、日本はなんとなく田舎で育って成功し、最後は花の都へ行って成功しようというものがあります。もちろん、アメリカだってショービジネスの世界はブロードウェイで一旗揚げようとか、ロンドンで起業してみようというのもあるかもしれません。でも、花の都というコンセプトって、あまり欧米ではないと本に書いてありました。

これ、すごくおもしろかったんですけれど。そのあたりをぜひお話しいただきたいです。

石破:いつかは花の都で、とかね、故郷に錦を飾る、とかね。

山本:「ふるさと」もそうですよね、志を果たして〜、いつの日にか帰らん〜。今日は歌じゃないんで(笑)

石破:そういうさ、「この手の歌ってありますか」って聞くと、ないなあ。故郷に錦を飾るって、おたくの国でどういうふうに言うんですか。そんな言葉そもそもない、っていうお話なんですよね。確かにロンドンとかパリとか、それなりに素敵な街なんだけど、そこで成功してお金持ちになって偉い人になって、そして故郷に帰る。そういう価値観はあまりないらしいんですね。

日本って、一寸法師でも「京の都で」って話でね。金太郎でもそうですよね、

山本:金太郎も、足柄山で熊と相撲をとってたのが大力士かなんかになるんですよね。

石破:そういう時代から、「都で偉い人になって故郷に帰って錦を飾る」って1つの価値観ですよね、でもそれだって連綿と平安時代とか、ひょっとしたら奈良時代からある価値観だから。これを変えるって、すごく大変なことですよね。

都会の幸せ、地方の幸せ

山本:なるほど。それ、本当におもしろかったんだけど。欧米とそこらへんの発想はなにが違うのかなと思っているんです。本に紹介されている私が一番お気に入りのエピソードが、メキシコの漁師の笑い話です。解説していただきたいんですよ。これすごいシュールだけどいい話。

石破:これ、ある人から教えてもらったものなので、私のオリジナルじゃないんですけどね。

メキシコで漁師さんが漁をやってました。そこへアメリカのビジネスマンがやってきて、「あんた魚獲るの上手だね」「もっと設備を新しくしてもっとたくさん獲れるようにしてお金を稼ぎなさいよ」「ふーん、それで?」「その金でどうすんの?」「いやだから次はさ、ニューヨークに来て会社を興してその金を元手に世界中でビジネスしてお金を儲けるんだよ」「それで? それでどうなんの?」「そうしたらさ、今度はマイアミとかフロリダで別荘を買って、自由な時間、素敵な景色、豊かな生活」「夢だろあんた」っていうわけですよね。

そしてメキシコの漁師は、「それだったら今やってるじゃないか」と言った、っていう話なんですよね。

シュールだけど、人間の幸せってなんなんだろうねってことじゃないんですかね。だから地方の、1つの幸せって、私は間違いなくあると思うんですよ。東京みたいに「隣はなにをする人ぞ」みたいな、隣のマンションの部屋も知らないし、なにが起こってもわかんないっていうのが好きな人もいるでしょ。だけど、地方の濃密な人間関係……、「あんたが大切なんだよね」っていう人間関係が好きな人もいるわけですよ。

私、この間、九州のうきは市ってところに行っててね。そこへ移住してきた若い女性の話を聞いたんですよね。やっぱり3.11で、「東京ってなんだろう」って思った人がいましたよね。つまり、東京って時間とお金があると楽しい街だけど、時間なくてお金ないと、なんとなく楽しくない。

山本:時間なくてお金なかったら辛いですよね。

石破:辛いでしょ。でも、そのある女性の方がね、「一所懸命お金稼ごう、一所懸命時間作ろうっ」てしたんですって。めちゃくちゃ働いてね。時間を無理やり作ってさ。でも3.11ってのは、どんなにお金を出してもモノを買えなかった日が、何日間かがありませんでしたか。

山本:ありましたね。

石破:そこで「東京ってなんだろう」って思ったっていうんですよね。

いろんなものを中心に力を発揮する

私は、東京の富と人を地方にばらまこうなんてつまんないことを言ってんじゃないんですよ。冒頭で山本さんが言ったように、東京って金融の中心、文化の中心。いろんなものの中心として、これから先も力を発揮してもらわなきゃ困るわけですよ。

だけど、東京に負荷がものすごくかかるときに、その力は発揮できますか。東京の負荷を減らして地方の潜在力を増やして、というのは両立する話だし。

山本:東京に住んでる人にとってもいいってことですね。

石破:と、思います。私はね。

山本:なるほど。かなりいろいろお話ししてきてみなさんお感じになったと思いますけど。

私も石破前大臣がすごく好きなんですね。私、思ったことしか言わないんですけど、やっぱり政治家としての哲学というか情念があるので、その点すごく尊敬してるんです。

唐突なんですけどね、今日なかなかそこまで行かなくて本当は北朝鮮問題から憲法改正からやろうと思ったんですけど。今日も地方創生の話がおもしろすぎちゃって、それでも山ほど話したいことがあるんですが。唐突なんですけど、自民党のあり方にも関わることなんですけど、今、安倍総理がいろんな実績をあげている。

そしてご存知の通り、私は一本気な上州人なので安倍さんをずっと応援してきて、これからもなにがあろうと安倍総理を応援していこうと思っているんです。

石破:どうぞどうぞ。