「シンギュラリティ」とはなにか

孫正義氏(以下、孫):みなさん、こんばんは。

会場:こんばんは!

:孫でございます。今日は本当にうれしく思います。今まで何回か人前で話をしたことがありますけども、今日は小学生のみなさんも、小学校へ行く前のみなさんもこの会場に来ています。

なぜこの財団を作ろうと思ったのかについて、少し話をさせていただきたいと思います。

まず30分近く私から話をさせていただいて、そのあと、私が大変尊敬しているお3方も一緒にここに座っていただいて、対談をしたいと思います。

みなさんご存じの、ノーベル賞を受賞された山中先生。そして東大総長の五神先生。また、これまた私が大変尊敬しております羽生3冠、名人。お3方とも大変な頭脳の持ち主です。立派な自分の道を歩まれました。

「シンギュラリティ」という言葉、知っていますか? 聞いてみましょうね。シンギュラリティという言葉の意味を知っているという人、手を挙げてくれますか?

(会場挙手)

はい。さすがですね。この会場には、シンギュラリティという言葉の意味を知っている人が約半分いました。

一般的にこういう場で「シンギュラリティの意味を知っている人?」と聞くと、今年あたりはだいたい3パーセントか4パーセントぐらいが手を挙げるようになったかもしれませんね。去年、一昨年に聞くと、ほとんど1パーセントもいるかどうかという状況でした。

シンギュラリティという言葉の意味について、まず少し話をしたいと思います。「技術的な特異点」、そういう意味です。シンギュラリティというのはある特異点のこと。「技術的な観点で見た『ある時点』を迎えると、そこから著しく変わる」、そういう意味の言葉になります。やや抽象的になりますけどもね。

もう少しわかりやすく言いますと、コンピューターのチップの能力や計算能力などが人間の知能をはるかに超えていく。その結果、今まで常識としてきた世の中のものごとが、ことごとく変わっていくということを意味しています。先ほど、コンピューターの計算能力と申しましたけども、それだけだと少し定義が小さくなりますね。

計算に関していえば、もうすでにコンピューターのほうが人間よりもはるかに早く、はるかに大きな数を、より正確に計算することができます。

しかし、コンピューターは単に計算のために使われる役割をもっとはるかに超えて、さまざまなものごとを思考する、コンピューター自らが学習をする、推論をする、そう進化してまいります。

羽生名人が来ておられますけども、チェスの世界ではもう何年も前に、コンピューターが人間のチェスのチャンピオンよりも強くなりました。最近では将棋の世界、囲碁の世界においてもコンピューターのほうが強いという状況にまでなってきましたね。単純な計算だけではなくて、ものを思考する、推論する、理詰めで考えていくということです。

マイクロコンピューターの写真を見て涙した孫青年

今までは人間のほうがはるかに賢いといえる部分が多かったわけです。今日、現在はまだそうだと思います。僕は16才でアメリカに留学しまして、19才の時、サイエンス雑誌を読んでいました。

その時の光景、今でもよく覚えているんですけども、道に枯れ葉が舞っていました。車を降りて、舗道を歩きながらサイエンスの雑誌をパラパラとめくっていたんですね。

そうしたら、なにか摩訶不思議な未来都市の設計図のような、そういう写真が1ページ、ドンと出てきたわけです。

「なんなんだろうな?」「初めて見る写真だな」と。なにか、幾何学模様の不思議な写真でした。次のページをめくったら、それが人の指の上に乗っかったマイクロコンピューターのチップの拡大写真であるということが、初めてわかったんです。驚きましたね。

子供の時、手塚治虫さんが描いた『鉄腕アトム』の世界で、コンピューターというもの、ロボットというものに憧れていました。ヒーローでした。子供ながらに「アトム、すごいな」と思っていました。お茶の水博士という鼻の大きな博士が出てきて、コンピューターをいろいろいじくっているんですね。

その時に「コンピューターすごいな」と憧れて、16才でアメリカに渡って、高校を飛び級して大学に入って。大学ではさっそくコンピューターを触って、プログラミングを始めました。今からもう四十数年前ですね。

その時に初めてコンピューターを触ったんですけども、まさかその大型のコンピューターが指先の上に乗っかる未来がやってくるなんてことは、まったく想像していませんでした。

そのサイエンス誌で初めて、生まれたばかりのマイクロコンピューターの写真を見たわけですね。それを見て、涙があふれてきたんです。雑誌をパッとめくって、歩いているその瞬間、立ち止まったその瞬間に、もう涙があふれて止まらなくなった。

その瞬間、ほんの1〜2分だと思いますけど、その瞬間に「ついに人間、人類は、自分たち人類の頭脳を超えるものを自ら発明してしまった」と私は思いました。「これは人類史上、何十万年の歴史の中で最も大きな発明になる」「後々の世の中の人々が振り返ってみた時に、最大の発明になる」と思いました。

「地球でもっとも優れた人類の知能を、それが初めて超えていく」「そういうものを作る」。「そうすると、人間とはなんなんだろう?」「我々の仕事、人間がやるべき仕事、知能というのは、どんどんコンピューターに置き換わっていくだろう」「そうすると、我々の将来、未来はどうなるんだろう?」。いろんなことを1〜2分の間にワーッと考えて。

考えた結果、両方の手と足の指がジーンとしびれて。長く正座したらしびれますね。感動的な映画とか音楽とか、見たり聞いたりすると、もうなんか頭がワーッとなって、指先がしびれるという現象が起きるでしょう。

あれはきっと血液が瞬間的に脳にバーッと集まって、末端の指先に血が通いにくくなって、しびれるという現象が起きるんじゃないかと、僕は勝手にそう解釈しているんですけども。

そのぐらいバーッと瞬間的に頭にいろいろな考えが浮かんで、もうグルグルと目まぐるしく想像しました。それで、立ったまま涙があふれて止まらなくなったんですね。それが初めてマイクロコンピューターに出会った時の感動でありました。その写真を切り取って、透明の下敷きみたいなのありますよね。それに入れて。

よく10代の時に、自分の憧れのアイドルやスターの写真を下敷きに入れて持ち歩いたりしますね。僕にとっての最大のアイドルというか、スーパースターは、そのチップだったんです。

そのチップの写真を入れて、毎日寝る時は枕の下に敷いて。大学に通うのも、リュックに背負って、教科書と一緒にそれを持って。勉強する時もそれを下に敷いて、その上でノートに書く。そういう日々を毎日過ごしていました。

半年以上、そうやっていました。大事にしすぎて、どこかでなくなっちゃいましたけども(笑)。

(会場笑)

でも、その時の思いが僕の人生を決めてしまったんですね。その衝撃、その感動。それが僕の人生を決めた。去年には、ついにそのチップを設計するARM(Holdings plc)という会社を、3兆数千億円で買収するというところまでいきました。

人類の将来のために設立した孫正義育英財団

チップというのは、この30年間で約100万倍、計算能力が進化したんですね。計算する力が100万倍になり、メモリーの容量が100万倍になった。その結果、通信するスピードも約100万倍になった。この3つが、基本的な要素ですね。

計算し、記憶し、通信で伝える。この3大要素がそれぞれ、この30年間で約100万倍になったわけです。100万倍になった今、先ほどの囲碁・将棋だという世界はコンピューターによって変化した。

天気予報だって、今や人間がコンピューターに負けている。漁師さんが「明日は嵐がくる」とか、そんなことを言っていて、昔の人はよく「ニュースでやる天気予報よりも、漁師のおじいさんのほうがよく当たる」と。僕らが子供の時は、そうやって言われていました。

それで、ニュースの取材の人が「どうしておじいさんは明日雨だと、嵐だとわかったんですか?」と聞いたら、「ワシの背中が言っていた」と(笑)。

(会場笑)

なんか、わけのわからない(笑)。でも、おじいさんのほうが当たってたんですね。

でも、今や漁師のその名人のおじいさんに明日の天気を聞くよりは、やっぱりコンピューターによる天気の推論、そちらのほうがはるかに当たる世の中になっている。Googleで検索したら、いろんなものが検索で出てきますね。いろんな分野で、コンピューターのほうがもう人間の知能を超え始めてきています。

だけど、みなさん考えてみてください。ここからたった30年間で、今からもう1回100万倍になるんです。「今はまだ人間のほうが優れてるよ」と言いたい人は、いっぱいいると思います。大半のテーマでは人間のほうが優れてます、知能がですね。しかし、「ここから100万倍になった時にいったいどうなるんだ?」と。

人間の知能を比較する時、よく一般的に使われる代表的なものさしにIQというものがありますね。このIQは、必ずしも人間の知能を一番よく表すかというとそうではないと思います。でも、1つの立派なものさしです。

それで一般的な人が、偏差値で100。(アルベルト・)アインシュタインとか、(レオナルド・)ダ・ヴィンチは、だいたい200ぐらいあったと言われています。100が平均で、200になると天才といわれます。

それで、人工知能、いわゆるAIですね。この人工知能の能力が今から30年後、つまり計算能力が今の約100万倍になった時、IQにカウントし直すと100でも200でもなくて、1万になる。IQ200で天才ですよ。

1万になったら、なんと呼んだらいいのか。超・知性だということですね。仮に30年経って、「いや、孫さん、違ったじゃないか。IQ1万じゃなくて、3,000でしたよ」と。まあ、誤差です(笑)。

(会場笑)

要するに、人間よりは賢くなる。じゃあ、30年じゃなくて50年後だったとしても、僕に言わせれば、それも誤差だ。なぜなら先日、クロマニヨン人の展示を、国立科学博物館でチラッと見に行ってきました(注:特別展「世界遺産ラスコー展~クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」、2016年11月1日〜2017年2月19日)。

もう何万年も前から、人間は今の骨格、今の知能にほぼ近いものを持っていたわけですね。もうクロマニヨン人ぐらいになると、顔形も今の我々現代人とあんまり変わらない。何万年も、我々の脳細胞の数はほとんど変わってない。少なくとも1000〜2000年という単位であれば、ほぼ間違いなく我々のDNAは変わらない。ほぼ今のDNAと一緒ですよね。

つまり、(頭を指して)この中にある大脳でニューロンの数が300億個とか、小脳まで含めると1,000億個とか、いろいろ言われていますけども、コンピューターはそれを、はるかにはるかに超えていくわけです。100万倍ぐらい超えていくことになる。

今までは人間がいちいちプログラミングしていた。「人間がプログラミングするんだから、人間より賢くなるわけないじゃない」と言いたいと思うんですけども、最近の人工知能の技術はディープラーニングということで、プログラミングしなくても勝手に学習していく。勝手に学習して推論していく。

人間より当てていくことになってきているわけですね。そうすると、プログラミングしなくてもどんどん人間の知能を超えていく。

さて、そういう時代がきたとするならば、シンギュラリティの時代が今から30年後・50年後にきたとするならば、「じゃあ、我々人間はどうしたらいいんだろう?」「全部、彼らによって知能的に支配されてしまうのか?」と。

「いや、そういうわけにもいかないぞ」と。我々人間もがんばらなきゃいけない。我々人間も、全部彼らに超えられるわけには……それはくやしいじゃないですか。

ですから、そういう意味でぜひ、私は今日ここに集まっている人、この財団に応募してくるような人たちは、もう「人間代表だ」くらいの人間の知能……まあ「人間代表」というとおかしいね。人間の中でも最も優れた知能、潜在能力を持っている人たちに、ぜひいろんな意味で考えてほしい。ただ丸暗記するんじゃなくて、考えてほしい。

暗記だけならば、コンピューターのほうが超えます。考えてほしいんです。考えに考えに考え抜いて、我々人類の将来のために役に立ってほしい。そういう意味で、私はこの財団を作りました。今日はそのオープニングです。

どういうかたちでこの財団が今後人々に貢献できるのか、よくわかりません。でも、少なくともそういう思いでこの財団を始めたということを、今日みなさんに直接お伝えしたいと思いました。

今日をスタートとして、日本を代表する、若く知能の優れた多くの人たちにいろんな挑戦をしてほしい。いろんな支援をしたいと思っています。「留学したい」「もっと学びたい」、そういう人に特別な支援をしたい、いろんな機会を提供したい、応援したいということで作りました。

山中伸弥氏、五神真氏、羽生善治氏が登壇

あまり私の話を長くやりすぎてもなんですから、せっかく今日機会いただきましたので、先生方と一緒にお話をさせていただきたいと思います。どうぞ。

司会者:本日の登壇者をご紹介いたします。山中伸弥、京都大学iPS細胞研究所所長・教授。1987年、神戸大学医学部を卒業。2012年、ノーベル生理学・医学賞を受賞。五神真、東京大学第30代総長。1982年、東京大学大学院理学系研究科物理学専門課程、修士課程修了。理学博士。2015年4月より総長に就任。羽生善治、6才から将棋を始め、1985年15才でプロ入り。1989年、初タイトル「竜王」を獲得。1996年、史上初7冠独占を達成。

(会場拍手)

本日はみなさま、よろしくお願いいたします。

:先生方、ありがとうございます。羽生さんもありがとうございます。いかがですか、先生方。小学生、小学生になる前からのお子さんも、今日は来ていますけども。僕はまだ若い彼ら、優れた知能を持っている彼らが将来、大人になって、その知能をなんの分野にどう使っていくのかに興味がある。