ほかの人と同じことをやっていてはダメ

孫正義氏(以下、孫):やはり、まさに今日集まっているような、若い異能のみなさんというのは、知恵の力の優れた人たちですよね。

せっかくの優れた知恵の力や考える力があっても、それを宝の持ち腐れで、普通の人と同じように、ただなんとなく人生を過ごしてしまうと、本当にもったいない。ほかの人がしてないことであれば、当然ユニークなものになる。人がやっていることでも、その中でさらに大きく抜きん出たら、これまたすごい人になる。

だから、やっぱり強烈に考えたほうがいいと思うんです。少なくとも今日現在で人間のほうがコンピューターより優れているのは、考えるということですよね。新しく生み出す。すでに過去にあるものを繰り返すのは、コンピューターに絶対負ける。過去にないものを作り出していく時に、まだチャンスがあると思います。そのために必要なのは考えることですよね。

研究者は、ほかの人と同じことをやっていても研究者とは言えないですよね。やっぱり新しく考えなきゃいけない。

羽生名人も、過去の手と同じ手だったら、丸暗記ではそれはもう勝てないわけですから。それはやっぱり新しい手を考えなきゃいけない。ビジネスの世界、僕らがやっている事業の世界でも実はそうなんですよね。ほかの会社、ほかの人がやっていることと同じことをやっていたのではダメだから、やっぱり考えなきゃいけない。

考えるということが大事で、悩むとは考えているということなんです。考えてない人は、なにも悩まないから。ある意味、幸せな人かもしれない(笑)。悩むということは、実はもうすでに幸せなんだ、と。悩むということは、考えている証拠。若い時はおおいに悩んでほしいし、そこで見出したものは考えた結果ですからね。

ぜひぜひ僕は考えてほしいと思う、持っている力を発揮してほしいと思います。

人類はこのまま何事もなく生き残るとは思えない

では、次のテーマとして「これからの世界はどうなるのか?」ということですけども、どうですか? 先生。

山中伸弥氏(以下、山中):これは楽しみでもあり、怖くもありますね。もういろんなことが急激に変わりすぎていて。

:さっきの人工知能とかもどんどんシンギュラリティで、コンピューターのほうが賢くなっていく。

山中:そうなんです。

:そういう時に、人間としてさらに考えて、さらにこれから人々に役立っていこうとか。

山中:今までの地球の歴史を見ると、一時は恐竜が地球を支配して。でも、滅びてしまって。「それと同じことが人類に起こらないか?」というのは、すごく怖いですね。今、AIとか原子力などの技術、僕らのバイオテクノロジーも含め、これだけ技術が進んで、ちょっと前まではSFでしか出てこなかったことが、どんどんできるようになっていて。

このままこれが、人類がどんどんそれをいいように使って、豊かになっていったらいいんですけどね。恐竜は隕石がぶつかったかなんかの天候変動でいなくなったといいますけど、実はその前に、先ほど原人の……。

:クロマニヨン人?

山中:はい。ネアンデルタール人とかいっぱいいたんですよね。僕たちの研究によると、おそらく私たち人類はそういったネアンデルタール人とかから進化したわけではなくて。猿までは一緒で、そこからネアンデルタール人がまず生まれて。

その後に、それとは別に私たち人類が生まれて。姿形も脳もほとんど一緒だったんですけれど、ある時にピタッとほかの原人がいなくなって、人類だけが残ったんです。なにが起こったかは誰もわかんないんですけども。

:こっちがいたのに、片っぽがピタッといなくなって。

山中:はい。それには2つしか可能性がないんですよね。1つ目は人類が原人を滅ぼした。

:ああ。

山中:もう1つは、なんらかのものすごいクライシスがあって、人類は頭がよくて生き残ったけれども、ネアンデルタール人たちは生き残れなかった。

:なるほど。

山中:とにかく、ほぼ人類に近いネアンデルタール人たちは完全に滅んだんですね、わずか数万年前に。だから私たち人類がこのまま未来永劫、何事もなく生き残るとは思えなくて。今のこの急速な技術の進歩が、もしかしたら人類を滅ぼす理由になるかもしれない。「そんなの、まだまだ先の話」と思われるんだったら、いいんですけども。

もし孫さんが言われたように、30年で100万倍になり、次の30年でさらに100万倍になるとしたら、これが人類にとっての恩恵じゃなくて脅威になるんじゃないかという。今ここにいる人たちがどう使うかによって変わると思いますから。すばらしい社会になるか、それとも大変な社会になるか。僕たちというよりは会場のみんなが決める。

人口を見てもこの1万年ぐらいずーっと横ばいで、この50年でビューッと上がっているんですよ。だから、この人類が今までに経験しなかったことが、この人口だけ見ても起こっていて。「食糧がどうなるんだ?」という、問題にも直結しますし。そして「このいろんな技術によって、逆に滅んじゃうんじゃないか?」という、そういう大変な時にいるのも事実。

:そうですね。気候変動とか、いろいろな問題がありますけども。気候の変動以上に技術の変動が与える影響は、はるかに変化が激しいということがありますね。

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