成長曲線はN字型でも、社会への貢献は右肩上がり

吉田:では、質疑応答に行きましょうかね。

宇野:そうですね。せっかくなので、僕でも吉田さんでも、何かご質問ある方は、言っていただけると。

質問者1:吉田さんに質問なんですが、先ほど公益資本主義とおっしゃっていましたが、その公益資本主義を目指したきっかけってどんなことだったんでしょう?

吉田:いくつか理由はあるんですが、まず事象を研究したことが挙げられるかもしれないですね。どういう事象かというと、メガベンチャーになっている日本の会社を全部、IR資料も含め、創業から何が起きたかについて歴史を分析した。

そうしたらやはり、楽天しかりソフトバンクしかり、サイバーエージェントもそうですが、ああいった会社って一回上場してから潜っている時期があるんです。それも圧倒的に。もしくは潜らないにしても「踊り場に来ている」とか、そういう時代が必ずある。

事業って一筋縄では行かないので、上場までのストーリーの中では、ひとつの事業で、何かアイデアがあってそれが市場にヒットしたときに上場するんですけど、会社の経営って「社会に対して貢献をする」とか「雇用をつくる」という作用があって、当然上場の後もそれが続いていくわけです。

で、この成長の過程って一直線じゃないんですよ。実際のカーブは、大体N字型になっている。一回伸びて下がって、また上がっていく。この実際の成長曲線のN字型に対して、「いや、社会に還元しているんだから評価は一直線にしましょう」と言ってもらえるのが一番ありがたいんですけど、そうもいかないわけですね。

でも、経営者のイメージとしては一直線に成長しているんです。別にお金とか関係なく、人々の共感とか社会に対してインフラを積み上げていくということにおいては、一直線になっている。それに対してお金っていうのはコモディティなので、宇野さんの言う目が¥マークの人じゃないですけど、「やべーこれ新しいわ」「あれが話題らしい」ということになると、そこ対してすごくお金が集まる。

で、それが期待はずれだっていうことになると、どーんと落ちるんですよ。その浮き沈みが一段落するまでだいたい10年とか、それぐらいの時間がかかる。だからうちの会社のメンバーにも10年とか、そういう話をよくします。

要するに、事業を始めるときに一番最初は、先輩を勉強したりだとか事象の研究が大事です。そういう意味では、今はいい時代で、孫さんとか三木谷さんは本当の意味ですごい。要はベンチマークする先輩の会社がなかったわけですよ。なのに楽天だったら流通1兆円、ソフトバンクだったら営業利益1兆円ということが実現できた。

私なんかはちょっと楽させてもらって、三木谷さんや孫さんを研究していけばいいわけですよね。そうやっていって初めて社会のインフラが整備されていく。そういう感じで、「公益資本主義」ということを考えるようになりました。

人は変えられない できるのはきっかけを与えることだけ

質問者2:先ほどのお話の中で、クラウドソーシングの仕組みが社会の雇用の流動化の中でいわゆる割を食った人の働き場になるのではないかということだったのですが、これから数年でもっと流動化は進んでいきますよね。でもその一方で、日本型の雇用という強い仕組みも残るわけじゃないですか。そうしたなかで割を食ってしまうのは弱い立場にある人だと思うんです。

僕は勉強不足でクラウドワークスがどういう仕組みの事業なのかわからないところがあるのですが、そういった弱い立場に置かれている人が使ってちゃんと食べていける仕組みなのか。どうしてこういう質問をしたかといいますと、クラウドソーシングっていう言葉からは、「どこでもやっていけるようなスーパーマン」みたいなすごい人が使ってこそ意味があるのかなという印象を受けたので……。

吉田:そうですね。おっしゃる通りで、ざっくばらんにお話しすれば、正社員じゃないということは何かしら問題があるとか、能力が他の人に比べて劣る可能性があるわけです。私は実際に現場に立っていろんな方々と話すのですが、そこは一筋縄では行かないなと思います。

行政の助成金による人材育成の出口戦略のようなかたちで、今けっこうお話をさせて頂いているんですけど、パソコンを使う仕事を得るために教育を受けている人と実際に面談してお話をすると、パソコンを持っていなかったりするんですよ。

「どういうことですか?」と聞くと、「買う金が全然ないんだ」と。で、「スマホは持っていないんですか?」と聞くとガラケーしか持っていないんですね。「じゃあ、ケータイを買い替える時に費用0でパソコンもついてくるキャンペーンなどもあるので、まずは買いましょうよ」と。すると、「そんなもの無理です。私はガラケーでいいです」と言われてしまったりします。

他にも、「クラウドソーシングって、いろんな会社から受注とれるんですよ」という話をしたら、「いや、そんなの無理です。私は今、1社在宅ワークでお仕事頂いている会社で手いっぱいなので、10社とか無理です」と。私としては、「いやいや、そういうことじゃないんですが……」という感じで、完全に話す次元が異なってしまう。

我々は「10社から仕事を貰えているほうが、1社だけと仕事をしているよりも安定している」と思っているわけですから。でも、我々はそういう方々を相手にする仕事なんだってことを常々覚悟しています。一朝一夕にはいかないんですよ。

メディアに出るときは常に背伸びをするしかないので夢を語りますし、「こういう未来でありたい」ということは言いますけど、少なくとも我々は、「人を変える」ということは簡単にはできないと思っているわけですね。

湾岸戦争のときに私は中高生で、学校がカトリックだったので神父さんがいて、いつも「平和のために祈りましょう」とか言っていたんですが、私はその神父さんにすごく警戒心を抱いていた。「祈ったって全然平和にならないじゃん」「何で祈りましょうって言ってんの?」と思っていたんです。

でも10年たって分かるんです。要は、人が人を変えるというような大それたことなんて、なかなかできない。でも、考えるきっかけを与えることはできるわけです。現に、私は10年経ってもその神父さんについて考えていた。あの人が、なぜあそこで自信をもって「平和について祈りましょう」と言い続けていたのか。それは、考えるきっかけを与え続けていたんだと思うんです。

だから我々の役割というのは、きっかけを作ること。そういう人たちにしっかりと対応しながら、でも「変わってください」とは言えないから、「そうはおっしゃいますけど、こういうことがあって、こういうことがあれば、稼げる可能性があります」「ぜひ一度パソコン買ってください」――という、きっかけ作りでしょうね。パソコンを買うか買わないかは、本人が最終的に決めることですから。

複数社から仕事を受ける文化づくりを

宇野:それ、僕は文化の問題でもあると思っているんです。日本って基本的に会社員文化で、そこから溢れた人は日雇いという世界。だから、会社員じゃない人が仕事を取るときに、基本的には特定のコネクションに頼るしかないという文化になっている。「営業する」というか、「自分を売り込む」という文化がないんですよね。

でもクラウドソーシングは要は営業システムを代行しているわけです。こういうサービスが定着していくことによって、会社員じゃない人間が、お決まりの相手ではなくて、複数のクライアントから常に仕事を受注している状態が当たり前になるという文化を育てることができるか。

そういうことが当たり前になったら、最初からみんなやるじゃないですか。これって、卵が先か鶏が先かの話であって、クラウドワークスさんでもランサーズさんでも、クラウドソーシングサービスがこのまま大きくなって定着していくことによって「会社に入っていないということは、じゃあどこかのクラウドソーシングサービスに登録しているんだろうな」と思うのが普通になる世の中をつくるということだと思う。

吉田:本当におっしゃる通りで、私はクラウドワーカーというのを一つの職業にしていきたいんですよね。つまり、「職業:クラウドワーカー」っていうと一定の信頼があって、「あーそうなんだ。オンラインでいろんな仕事とってるんだ」というイメージが湧くような、そんなかたちにしていきたいなと思っています。

宇野:全米退職者協会のようなイメージで、「フリーランスの人は結局みんなクラウドワークスに入っているんでしょ」みたいな、そういう感じですよね。本当にフリーでやっている人ってほとんどいないわけです。要は「ネットにつないでいてグーグル使っていない人はほとんどいない」みたいな、それぐらい当たり前のインフラになっていくことが大事で、そうすると文化は自然発生していくんじゃないかと僕は思います。

定年退職者の知恵を有効活用するには?

質問者3:私、定年退職になりまして、さきほどお話にも出た団塊の世代の人間です(笑)。やっぱり定年退職後なんで、今会場にいるみなさんはお若いからあまりピンと来ないかもしれませんけど、大変な時代でございます。仕事はまずない。いま、定年になって空いた時間にスーパーでパソコンをやっているんですが、そのスーパーの中に奥様と買い物に来て、ぼーっとしている定年退職者が圧倒的に多いです。

だから、こういう人材をクラウドワークスさんで、どんどん、私みたく使い方がわからないと言ったときにぜひフォローして頂きたい。定年退職者に夢を与えていただければ非常にありがたいと思います。

吉田:本当に、そういう意味では社内でも議論しておりまして、やっぱりサイトを分けておくべきかなということは考えています。シニアの方々から要望をいただくのは、印刷して一回一回確認したいとか、あと文字がもっと大きいものがいいとか、そういったことです。そういうご要望を反映させるためには、今のクラウドワークスのサイトとは別のユーザー体験の設計が必要かな、と。ただ、我々もすべてがいきなり理想形にはいけないので、段階的に実行していきたいと思っています。

宇野:やっぱりね、僕のところなんかもそうだけど、経理や法務のスペシャリストとか、定年退職した人たちの知恵が欲しいって人はいっぱいいると思うんですよ。

ところが残念ながら、ちゃんとした企業で、ちゃんとした経歴を持った人であればあるほど、自分の会社の取引先の数社以外の人とほとんどつながっていないし、当然ネットを使える人も少なくて、僕らと結びつかない。政府やお役所がそういうミスマッチをケアしていくことは現実的にちょっと考えられないので、やはり民間のサービスでやるしかないと思いますね。

インターネットのサービス全般に言えることですが、今まで自分とまったく関係のなかった人たちを見つける機能をしっかりと背負っていってほしいなと思います。

吉田:はい。がんばります。

ビッグデータは使いよう

質問者4:楽天カードの信用情報の話で、楽天がビッグデータを蓄積してそれを信用情報にできるというお話がありました。それって、どんどんこっちがデータを取られてばっかりだという話でもあるわけですよね。そう考えると気分はすごく暗いんですけど、宇野さんは、将来は自分のデータを搾取されるよりも、信用情報を積み上げて自分の基礎にできるというポジティブな捉え方なんですか?

宇野:ビッグデータって、ただデータが大きいだけのものですよね。たとえば、包丁って別に善でも悪でもないものなわけで、人を刺すこともできれば、神のように旨い刺身とかもおろすことができる。それと一緒だと思います。

ビッグデータの話って、たとえば個人情報が悪用されたり、監視社会につながるとか、左翼っぽい体制批判にも超使われていて、僕が思うにそういう批判ってぶっちゃけそこまで間違っていない。

ただその一方で、けっこう収入がある人間でもフリーランスだというだけで不動産借りられないとか、カードが作れなかったりする。でも買い物情報があれば、「こいつ会社員じゃないけど、ちゃんとカードを延滞しないで支払っているな。じゃあ月に1万円くらいの保険料だって絶対払えるだろう」と判断できるわけで、何だって使いようなんですよね。

逆に言うと、あらゆる状況とか生まれてしまったものって、利用するしかないじゃないですか。だから、そこはポジティブに捉えてもいいんじゃないかなと思います。