IoT導入に立ちはだかる課題は?

谷畑良胤氏(以下、谷畑):さて、あと15分になりましたので、今までの議論のなかでも少し出てきたとは思うんですけれど、これからIoTのビジネスを進める、IoTを導入していく上での課題を出していただきたいと思います。

技術的な要素もあると思いますし、人為的なところもあると思いますし、コスト的なところもあると思うんですけれど、少しまとめの段階に入っていきます。森川先生からお答えお願いできますでしょうか? たぶん、必要性は今まででわかってきたと思うんですけれど。

森川博之氏(森川):やっぱりIoT、気付きが重要なんですけれど、こちらはIT技術者、ICT技術者のアメリカと日本での分布を示したグラフなんですね。

左側がアメリカで、この黄色のところがユーザー企業で、ピンクのところがIT企業になります。この左側のアメリカのやつは今の最新のデータだと、IT技術者の51パーセントがITのユーザー企業にいると。

それに対して、日本は4分の1弱ということで、おそらくここが課題なんだろうと思っています。

IoTはこの黄色のエリアが重要になりますので、黄色のエリアをスマート化していくというのがやはりIoTの保守本流になりますから。このIT、ICTの人たちが圧倒的に少ないわけです。

やはり欧米には黄色のところにIT、ICTをよくわかってる人たちが多くいます。日本は生産性が低いと昔から言われていますけれど、これが1つの大きな要因かなと思っています。この人材の偏りは大きな問題かと思っています。

谷畑:ふつうに一般オフィスで、さっきみたいな人間が動いてるところを見て、もっと効率的に動くだけでもぜんぜん生産効率が上がってきて、ということですよね。ありがとうございます。

ユーザー企業から正しく言及できているのか?

八子さん、どうですか? 課題的なところ。

八子知礼氏(以下、八子):まさにこういう技術者もそうなんですけれども、技術者の方々が、例えばどういうビジネスに対して、どういうアーキテクチャーで実装するのが最も安価なのか。

とくにIoTの場合は、全部クラウドにあげるのではなくて、先ほども申し上げたように、もう少しエッジ側に、コンピューティングリソースを落とさざるをえないというモデルがどうしても必要になります。

そうすると、そのアーキテクチャーを、例えば、このICT企業の方々がかけるのか、もしくはユーザー企業の方々がかけるのか、というところが当然ながら問題になります。

その場合に、例えばクラウドサイドと言いますか、データセンターサイドに必要とされるような機能も当然ながら変わってきます。

もう1つは、より高密度に実装していかなければ、先ほども森川先生がおっしゃられたように、どんどん安価に求められる部分は否めないということです。

そうすると、そういったところを例えばデーターセンター事業者とか、もしくはインフラ事業者とか、もしくはネットワークの事業者、SDNを使ったりして、そうした事業者に対して、こういう要件、こういう要件レベル感でなければ、フェアマーケットバリューに合わない、と。

ベンダー側からのプロダクトアウトな要件だけを受け付けるのではなくて、こういう要件で出してくれという、例えば喧々諤々の議論が、はたしてユーザー企業の方々がICT企業の持つリソースに対して言及できているのかどうか。

おそらくそれは、米国で言われているものと、日本で議論されているものというのは、だいぶレベルが違うんじゃないかと思いますね。

議論を先導すべき存在は誰か?

谷畑:誰が先導して行かなきゃいけないんですかね? ユーザー側の技術者がやらないといけないのか。ベンダー側がやらなきゃいけないのか。その間に立つ人がやらないといけないのか。データセンターがやらないといけないのか。どうなんでしょうか?

八子:悩ましいですね。でも、本来的にはユーザー企業のなかにいる、IT部門の方々になるんだろうと思うんですね。とくにIoTは、IT部門主導ではないので。

ここが一番のポイントになると思うんですけれど、IT部門の方たちがいくら旗振りをしたところで、現場が動かなければ、IoTと言いましょうか、さまざまなモノゴトをつなげていくという発想にはいたらない。

そうすると、やはり黄色い領域の方々のなかでも、ITのことをよく知っておられる方々が、「アーキテクチャーはこう」「データセンターに求められる要件はこう」「ネットワークに求められる要件はこう」「アプリケーションはこう」というようなところをもう少し言及していかなければならないんだろうと思いますね。

谷畑:僕は八子さんの共創、オープンイノベーション的な発想がすごい好きなんですけれども。そういう技術、ノウハウを持ち寄って、解決する手段もあるかなと思いますけれど。

八子:そうですね。これ、1社のなかだけでこの比率であれば、足りないリソースであるとか、考え方は当然ながらあると思うんですけれど。複数の企業にそれをプロジェクションすると、でこぼこが当然ながらあるわけですよね。

ある企業はデータセンターのところが得意、ある企業はアプリケーションのところが得意、ある企業はデバイスのところが得意ということであれば、複数の企業と合わさって、例えば米国型のモデルで技術者が、「こういう要件でやりませんか」というようなところを議論できるんじゃないかなとは思いますね。

成功への道は明確な目的を持ち、周りを巻き込むこと

谷畑:森脇さん、同じ質問なんですけど、BIとか導入していただく前に、失敗してしまったみたいな例ももちろんあるかと思います。いろんな課題があるかと思いますが。

森脇匡紀氏(以下、森脇):非常によくあります。成功例で言うと、共通している会社、お客様は、まず目的が明確にあることですね。

あとは、思いを持ってチャレンジするリーダーが1名必ずいるんですね。そういう人が現場を無視して1人だけで推進する。これはまず失敗するんですね。成功するリーダーはやはり周りの重要な人たちの共感を呼ぶような取り組みに努力され、成功されています。

例えば弊社の事例にもなっていただいている名古屋のお客様で、トランコム社の加藤様という方がおられるんですけれど。

初めはデータ活用に突出した自分がこだわりを持ちながら進めてきてたんですけれど、「一瞬、現場から浮いた存在になってしまった」とおっしゃっていました。

加藤さん自身が転勤族で各地の現場を経験していたことから、現場と乖離したことをやろうとしていたわけでないことを証明する必要がある。仕事が増えるのではなく、効率化することを結果で見せるしかないと必死に成果を出すよう努力された。出る杭は打たれますが、「出まくると誰もなにも言わなくなるんだ」とおっしゃっていました。

あとは「データを活かして、人を活かすんだ」と。そのためにもマネージャーメンバーの意識を変えなければいけないんだ、と。マネージャーというのは可視化をすると、部下の働き方について非常に余計なものまで見えてきたりするんですよね。

それで部下に怒鳴り散らしながら、「なんだお前、できてないじゃないか」「どうなってるんだ!」みたいなことを言い始めるわけです。

そうすると、「いや、あんたもできてないでしょ」「なんで口だけそんなこと言ってるの?」みたいなかたちで、またまた会社がどんどん冷たい状態になっていく。

マネージャーの仕事は「そうではないですよ」と。マネージャーの仕事で大切なのは人材育成であると。管理職がしっかりと社員を形成して、文化を形成していく。自分たちの価値感や思いを伝え、いい会社・良いチームを育てていくべきだという重要性を話されていました。「データを活かして、人を活かす!」。目的と現場から共感を得ることができるリーダーの存在。この2つは非常に重要です。

企業の悩み「データサイエンティストがいない」

谷畑:なるほど。私が見た大阪の商工会議所の700社くらいのデータ、ビッグデータ研究会というところのデータなんですけれど。

ここの6割の企業さんが、「データサイエンティストがいない」と。要するに、解析・分析する人がいない。どう解析したらいいかわかる人がいない、というのが中堅・中小企業の悩みだったんですけれど。

その辺りはどう思われてますか? それは必要ないのか。「ベンダーに任せてくれればいいんだよ」という発想なのか。それとも違う考えがあるのか。いかがでしょう?

森脇:「いない!」という会社様には私はストレートにベンダーさんを紹介します(笑)。育てたいと言われたら答えは変わってくるかもしれませんが。

谷畑:はいどうぞ、八子さん。

八子:データサイエンティストも、今の段階では重宝されてますけれども、今から5年、10年経ってくると、ラジカルな言い方をすると、いらなくなるだろうなと思っています。

というのも、人が触ってくるAIではなくて、人が触らないAIになってくるので、そうなってくると、データサイエンティストが目利きをするということもあまりなくなってきます。そして、そのためには、データを大量に持っておかなければならないわけですね。

よくAIという話が出ますけれど、そんなにバラ色みたいな話じゃなくて。データを持っている、溜まっている企業こそがちゃんと学習させることができるわけで、データもないのに、「人工知能使います」とか言っているのはチャンチャラおかしい話。

なので、データを大量に持つ。この要件が重要になってくるだろう、と。という感じで、宇佐美さん、バトン渡りました?

データドックとして今、確実にすべきこと

宇佐美:ありがとうございます。おっしゃるとおりで、私もやりたいことというのは、先ほど申し上げたとおりで。今みたいなお話聞いていると、まさしくその渦中に入りたいと思ったりもします。

森脇さんのお話は、まさしく企業の、組織のマネジメントをコンサルティングしてるんだな、と。

やりたいという思いは改めて強いんですけど。今、じゃあデータドックとして確実にやれること。もしくは絶対に外しちゃいけないことというのは、このブルーゾーンの高集積のインフラ。

要するに、八子さんがおっしゃる、大量のデータをちゃんと預かる・運用できる、そこでリアルタイムで「やれるんだよね?」と言われたときに、「もちろんです」と。

「まさか高くないよね?」「お値打ちです」ぐらいは言えないと、しょうがないよねと。そうところは、まずマストとして必要なんだなというのを改めて感じました。

その上に冒頭から言っている志のところを、いろんなベンダーのみなさまと協力しながらつなげていくんだろうなと思っています。

ちょっとうまく言語化できないですけど、アーキテクチャーというようなレベルの方々が今後必要となってくるんじゃないのかな、という気はしますし、そこにはチャレンジしていきたいという思いを改めて強くしました。

谷畑:ありがとうございました。やはりデータを支配したい(笑)。

宇佐美:持っている強みはやはりあるなと思います(笑)。

谷畑:そうですね。

宇佐美:ありがとうございます。

オランダの全自動植物工場から学べること

谷畑:はい。森川さん。

森川:宇佐美さんのデータドックで僕が好きなのは、やはり長岡でやられるということなんですね。こちらのスライドよろしいですか?

僕も農業とか第1次産業系をけっこう昔から調べてまして、例えば、植物工場でもこちらをご覧いただきたいんですけど、これはオランダの花を作っている植物工場なんですが、全自動なわけです。

こういう植物工場、動く植物工場は日本にはほとんどないんですけれど。

これは、僕らから見るとまさにIoTなわけです。このなかにセンサーを入れて、センサーのデータを全部クラウドに蓄積して。フィードバックをかけるということで。

こういうオランダの農家は年収が1,200万から2,000万ぐらいありまして、彼らはなにしてるかというと、いわゆる先物取引をやっているようなものなんですね。半年後の花の値段がどうなるのかを予想して、生産量を調整する。こういう農家をやっぱり地方にも作っていきたいわけです。

例えば1次産業系でいうと、これは島根の事例なんですけど畜産の発情検知。

もう5年ぐらい前ですかね。僕、驚いたんですが、牛に加速度センサーつけて発情を検知する。こういうニーズって畜産の現場に行かないとわからないんですね。

地方だからわかることを開拓してほしい

やっぱり長岡だからわかることがたぶん絶対あるはずなので、こういったところを地道に開拓していっていただけると、僕としては非常におもしろいし、国としても非常に重要なのかなと思ってます。今、現在はどうしても都会に集まってきちゃってますからね。

こういったところを1次産業系、3次産業系、IC・ICTが一切入ってないところもありますから、そういったところでデータを扱うといろいろとおもしろいことができるはずですので、そのあたりを僕としては非常に期待してます。

谷畑:牛は生まれるときにけっこう死んでしまうんですね。死なないように、そのタイミングで人間が起きていて出さないといけない、と。そのためにこれをやっているんですね。牛、高級ですからね。

宇佐美:新潟は錦鯉がすごいですよね。錦鯉のマークは、こういう色は高く売れるというのがあるらしいですね。それを高い確率で出すにはどうするって、きっとこれビッグデータの世界かもしれないですね。そういう意味では。

谷畑:じゃあウフルさんに頼みますかね? 錦鯉。

(八子氏が手を振って断る)

海外の安価なデータセンターとどう戦うのか?

谷畑:わかりました(笑)。あと2分ぐらいなんですけれど、最後に八子さんと森脇さんに、データドックさんになにか質問、「本当にやるの?」「マジ?」みたいな質問を出していただければ。八子さん、いかがですか?

八子:やっぱり日本のデータセンター、なおかつ、高集積なデータセンターならではなので、やはりなんだかんだ言って、海外の比較的安いデータセンターのビジネスと比べられてしまうと思うんですよね。それは、宇佐美さん、価格とかは……どんな感じなんでしょう?

宇佐美:価格をどういう比べ方をするかというところもあると思うんですよね。外資さんのサービスは今の状況だと、立ち上げはすごく軽くていいと思うんですけど、はたして「今の状況で安いんですか?」と問うたときに、「はい!」と言う企業さんばかりではないと思うんです。

ただ、そうなってしまっているというところがあると思いますので、私どもができるのは、「今後こういう活用シーンに入ったときに、弊社のサービスのほうがお値打ちになるんじゃないですか?」ということをスマートに言える営業力が必要かなと思いますし。それをビジュアルにしていくというのがあると思っています。

ですから、検討の物差しを変えるという。これは営業の世界だと思っていますので、私は営業力でなんとかなると思っています。

八子:Amazonの価格の値下げも一旦止まりましたからね。ある意味チャンスかもしれないですね。

宇佐美:と思ってるんですね、それは営業力だと思ってます。

閃きを生む、コミュニティの重要性

谷畑:森脇さん、いかがですか? なんでもいいですよ

森脇:質問下手なんですけれど(笑)、みなさん、IoTをビジネスのチャンスだと思われていて、変わるチャンス、あと変わる覚悟だと思ってるんです。

とは言いながら、アイデアって必要じゃないですか。目的、アイデアですよね。アイデアって考えても考えても出てこないですよね、というので、僕らがなにしてるかというと、コミュニティとか、そういうものにけっこう顔を出しています。

なぜかというと、アイデアって閃きですよね、「閃き」って門構えに「人」って書くじゃないですか? 

なにか思ってることがある。そのときに、コミュニケーションを取って鍵穴をカチャンって開けてくれる人っていません?

そうすると、「ああ、なんでこんなことしか説明してないのに、なんでこんなことがわかったの」みたいになって、アイデアが自分のなかで、わ~っと。だからこそけっこうコミュニティに出たりしています。

さっきのIVIも、そういうものを求められて集まってるのかもしれませんし、ウフルさんも、IoTパートナーコミュニティをやられていて、我々も参画させていただいているんですけど。

なにかそういうコミュニティみたいなものを計画されたりしていますか、と。すみません、下手くそな質問で。

さまざまな人が集まる基盤を作りたい

宇佐美:やります。非常に重要だと思ってまして。

谷畑:新潟、お酒おいしいですからね。

宇佐美:そうですね。そういうことで引力はあると思ってますし。いろんな観点とか経験とか視点とか知識とか、そういったいろんなプロフィールの方が集まって来るIT基盤みたいなコンセプトでやっていけないかな、というのはものすごく思うんです。

いろんなアイデアをお持ちの方が世の中にいて、そのアイデアを活かすときって必ず相手が必要で。

そうなったときに、「データドックの側に行ったら、いい感じで使わせてくれるんじゃん?」とか、「しばらく貸してくれるらしいよ」とか。

そんなことも含めて、昔のトキワ荘じゃないですけど、いろんな人が集まるような基盤になればと思いますし、そんな機会があれば、ぜひいろんなところに顔を出させていただきたいと、本当に思います。

森脇:宇佐美さん、すごいタイミングだなと思ってるんですけど、実は弊社・東京渋谷に本社がありまして西のほうは名古屋・大阪・福岡。あと北のほうが仙台・北海道に今、拠点がありまして。来月、なんと新潟に新しく拠点出すんですよ。

宇佐美:やった(笑)。

森脇:人のつながりができるかもわかりません。ここでいう話ではまったくないかもわかりませんけれども(笑)。宣伝でもございます。

宇佐美:いえいえ、ぜひよろしくお願いします。

森脇:よろしくお願いします。

ロゴはクラウドワークスで募集

谷畑:ありがとうございます。そろそろ時間なんですけれど、ちょっと最後に1つだけ。このデータドックさんのマーク、これは船のドックですか?

宇佐美:これ実は雪氷を横にした感じなんですね。

谷畑:ああ〜、雪氷ですか。

宇佐美:はい。

谷畑:外れちゃった(笑)。

宇佐美:いえいえ。実は、このロゴはクラウドワークスのクラウドワーカーさんに、Web上にお題を出して、いろんなクリエイターの方にバーっとエントリーしていただいて決めました。

私も以前クリエイティブをやっていましたけれど、本当に大きく動いていますので、そういう動きに敏感に、我々も悪い意味でどっしり落ち着かずに、腰を軽くいろんなところに顔を出して行きたいと思いますし、アイデアいただければありがたいです。

谷畑:わかりました。少し時間がオーバーしてしまったんですけれど、私、司会やっていましたけれど、BCNも実はデータホルダーでございます。家電量販店のPOSデータをけっこういただいてるんです。

けれど、これは単なるローデータで、今みなさんがおっしゃったように、データの価値はあるんだけども、見えないものが見えるかというと、「売れてるものが売れてるよ」と見えるだけで、在庫の管理が見えるかどうかというと、わからないですし。これが今はお金にはなっていますけれど、将来的にお金になるのかな、と。

そんな自分のこととして考えて今日話を聞いていて、非常に参考になりました。ぜひみなさんも、先ほど冒頭ではあまり手は挙がりませんでしたけど、IoTはこれから必ずキーワードになります。

組み込みソフトウェア開発して、センサーデバイス作って、組み込みやってるような、そんな人までも需要を喚起できる仕事が渡って来るようなキーワードだと思っています。

このあとも懇親会があると思いますので、みなさま方と、一緒に考える機会をいっぱい作らせていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

(会場拍手)