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世界の限界に挑戦する人生(全4記事)

“現代の魔法使い”落合陽一さん、人生は自由ですか? 世界の限界に立ち向かう挑戦者たちの思考

3月15日、慶應義塾大学ビジネススクールとNTVPとの共催にて「スタートアップカンファレンス2016 ファーストペンギンを目せ!~スタートアップが世界の未来を拓く~」が開催されました。イベント全体のテーマは、「ファーストペンギンを目指せ! スタートアップが世界の未来を拓く」。そのなかのセッションのひとつ「世界の限界に挑戦する人生」には、メディアアーティストの落合陽一氏、アテネオリンピック柔道金メダリストの塚田真希氏、キックボクサー日菜太氏という異色の3名が登壇し、自身で新しい道を切り開いてきた、それぞれの生き方について話しました。

「ファーストペンギン」という生き方

山口揚平氏(以下、山口):みなさん、こんにちは。今日は大変花粉が飛んでいるなか(笑)、お越しいただきまして、ありがとうございます。

今日のお三方は非常に異色で、かなりバラツキがあります。アスリートからアーティストの方まで、キャリアは分かれていますが、みなさん世界の限界に挑戦しています。今回のカンファレンス全体のテーマである、「ファーストペンギン」という生き方を選択してこられた方々です。

この3人のセッションでは、大きく3つ話したいと思っています。できればメディアで話せないような、本音の部分も聞き出していきたいと思っています。

まず1つ目は、世界の限界に挑戦する孤独なファーストペンギンみたいな生き方には、どういうメリットとデメリットがあるのか。これはみなさん、大変興味があることだと思います。

2つ目は、パートナー、コーチ、メンターなど、そういう周りの支えている人たちの存在が、孤独の癒しや自分の成績にどうつながっているか、ということ。

3つ目は、切実な問題でもあって、現実的な問題でもあります。第一人者としてなにかを切り開いていくフロントランナーは、お金とどう付き合うのか。

この3点のテーマに絞って、3名の方にお話をうかがいたいと思っています。

まずは、落合さんよろしいでしょうか? 

落合陽一氏(以下、落合):大丈夫です。

山口:落合さんは、メディアアーティストとして活躍されています。最近、『魔法の世紀』という本を出されています。私も読みました。

魔法の世紀

すこし難しい内容なのですが、ものすごく読みやすい。非常に明晰な文章で、滑らかで、読んでいて気分がよくなる、感じがいい本だと思いました。

落合:ありがとうございます。

「落合さん、つらいところはありませんか?」

山口:その落合さんですが、第一人者として、研究者、メディアアーティストとしてご活躍だと思うんですが、そういう生き方は、実際、ご自身でどうですか? 自由ですか? つらいところはありますか?

落合:つらいところ?

山口:ザックリとした質問で恐縮です(笑)。

落合:よく研究者の友達と話すことは、研究者は職じゃなくて生き方なので、やめようと思ってもやめられない。そうなってくると、それで飯が食えるところに行くか、自分でお金を稼いで飯を食うしかない。逆に言うと、そこが楽しくできるならば、すごく楽しい職業です。だけど、お金を稼げないと、そこは厳しいかもしれないです。

つまり、社会との折り合いをどこかでつけないといけない。僕の場合は、例えば「微分方程式を解けない奴とは喋りたくない」みたいなところはないです。むしろ逆に、「まあ、そこは魔法でいいじゃん」みたいな感じで、やわらかくやっています。

多分そこの発見がなかったら、やっててもおもしろくないと思います。つまり自分の全部をわかってもらおうと思うと思うと、研究者をわかってもらうのはのは極めて難しい。それはなぜかというと研究を理解するのに博士くらいの学位が必要です。それくらいの胆力がないと、「この研究はおもしろい研究だね」と思えない。

それは、はっきり言って、例えば野球を見に行って、「野球がおもしろい」というくらいのルールブックを10年分くらい勉強しないとおもしろいと思えない。それは、オペラを見にいくよりも大変じゃないですか。

だけど「わー、なんかおもしろそうだなあ、きれいだなあ」みたいな感じにお客さんが受け取ってもらうことに対して、あまり抵抗がないのです。そこを割り切ってからは比較的楽しく研究してます。

山口:いつくらいからですか? その割り切りができるようになったのは?

落合:2011年くらいだったかな。

山口:4年くらい前ですね。

「人類は魔術化しない」と思っていたけれど

落合:震災のあった年。その年までは「人類は魔術化しない」と思っていました。

それは、例えば、あらゆるフィンテックがどう動いてるかなんて、誰も知らないじゃないですか。なんとなくやってることはわかるけど、C言語でちゃんと実装できるかと言ったら、たいていの人はできないです。

そういうことを使うだけの人は、いけないんじゃないかと思っていて。フィンテックを実装するためのライブラリをめちゃくちゃ軽く作って、それを全員が勉強すれば、人間はみんな賢くなると思ってたんですが、そういうのはもう無理だと諦めたんです。

時代はどんどん魔術化していって、やる人たち、みんな専門家にわかれていった。それは、もう必然なんだなと。それに、抵抗しないようにしようと思ってからは、わりと。

なぜそうなったかというと、メイカーズムーブメントってあったじゃないですか。メイカーズムーブメントに、刃向かおうと思って。メイカーズムーブメントでやってることは、めちゃくちゃ簡単なことなんです。

例えば、3Dプリンターに物を突っ込んだらグイッと出てくる。そこには別に構造解析の知識もいらないし、3Dプリンターを作るようなプログラミング能力もなくていい。

そういうのを勉強しないのに、そういうのができちゃうのはすごく嫌だと思ってたんです。そこにいくら刃向かっても人間は楽なほうにいくので、「無理だ、これは戦ったら絶対にやられる」と思いました。

その流れに身を任せ始めて、自分は「専門のことをやればいいや」と思ったときから、あらゆるものが魔法化していきました。「それでよいかな」と思ったときからわりと楽になりました。

山口:ありがとうございます。最初からすごく示唆に富む話だと思うんですが。先日、「今でしょ!」の林修さんが「最も優秀な学生はどういう学生ですか?」とテレビで質問されたときに、「それは“横綱相撲”を取る人だ」と言っていた。

横綱相撲を取る学生というのは、自分のやり方に固執しなくて、「これもいいけど、ああなるほど、それもいいんじゃないのかなぁ」とあらゆるやり方を取り入れるタイプの人、という話をされていて。

自分の専門だけでなく、ほかにも「それもいいんじゃない」。あるいは、自分のことが理解されなくても「あ、それもいいんじゃない」というふうに、あっちもできるし、こっちもできるという器用さのようなものが、1つこの時代の生き方の必須科目なのかもしれないと、今の落合さんの話を聞いて思いました。

キックボクサー日菜太氏が目指すところ

それでは、次。日菜太さんはいかがですか。

日菜太氏(以下、日菜太):こんにちは、キックボクサーの日菜太です。キックボクシング知ってますか? 僕はキックボクシングというマイナー競技をメジャー競技にするために、今、がんばっています。

いろんな縁があって、今日ここに呼んでもらいました。今してた話は、僕も一応大学を卒業してるんですけど、チンプンカンプンなところがすごくあって。今日参加しているみなさんに僕の話が届くかわからないですが、今日は自分のやってることが少しでも伝わればいいかなと思います。

山口:まぶたの傷は、大丈夫ですか?

日菜太:そうですね、僕がやってることは戦うことが仕事です。今回、ここ(おでこ)にバンドエイドを貼ってるんですが、ここを4針縫ってしまったり、試合でケガをすることもたくさんあります。

それでも、なぜこれをやってるかというと、楽しさや充実感だったり、得られるものがすごくあるから。すばらしいスポーツだと僕は思ってるから、キックボクシングをやっています。

山口:もちろん試合でのがんばりは当然として、日菜太さんにさっき、どうやってファンを集めるか、スポンサーを集めてくるかと、そこまで考えるビジネスマインドがないと切り開けないという話をされていていました。そういう話を後輩にもされているという話をしていたので、そのあたりもお願いします。

日菜太:キックボクシングだけで飯を食うのは、すごく大変です。マイナースポーツをやっていて、トップ選手になってやっとご飯が食べられるくらいなんです。

だから、人を呼ばなきゃいけなかったり、お金やスポンサーを集めることもすごく大変で。マネージャーがついてるわけじゃなくて、自分で動かないといけなかったりすることが、すごくあるんです。

僕は去年、自分の後輩たちやキックボクシングが少しでも盛り上がるように、種がまけるように、選手向けにセミナーをやりました。それが引っ張って、いろんな縁があって、こういう場所に呼ばれたりしたんですけど。

武井壮さんが、今すごく好きで。自分がやっている競技がマイナーだったら、そのマイナー競技で飯を食えるように努力すればいいみたいな、それが今すごく響いています。緊張しちゃって、普段あまりこういうこと話さないんですけども(笑)。

(会場笑)

日菜太:僕が話すことはリングで戦うことだったり、リングで試合が終わったあとに「次は誰とやります!」みたいな、そういうことだったりするので、こういう話をするのはすごく緊張します。

少しでも、今日の話を聞いてくれた人が「キックボクシングってなんだろう」「日菜太って誰だろう」と検索してくれて、僕の試合を見に来てくれたら、それは大成功だと思う。僕、緊張してますね(笑)。

五輪金メダリストの塚田真希氏の今

山口:いやいや。改めて、お話を振りたいと思います。では、塚田さん、教えていただいてよろしいですか。生き方のつらいところや、いいところみたいな話をうかがえますか。

塚田真希氏(以下、塚田):ええ。

山口:塚田さん、ケガ大丈夫ですか?

塚田:私は柔道をやっていて、今はキャリアを引退して教員をやってるんですけれど。いろんな考え事をしていたら、自転車で車とぶつかってしまって、顔を負傷してる状態です(笑)。

山口:試合でぶつかったわけじゃないという(笑)。

塚田:それで、ここ(おでこ)に絆創膏がついてるんですが、今日は髪の毛で隠してる状態です。私も非常に緊張してます。ここに来てるのは、そこにいる丸山君が私の後輩で、その縁で呼んでいただいて、いろいろお話をさせてもらうことになりました。

私自身は、ずっとアスリートとして全部自分でマネジメントしていました。どこの大会に1つポイントを置いて、「何ヶ月前だからこれはこれしよう」「あと1週間だからこれしよう」と、全部自分でいろんなことを考えてやってきました。

そういう経緯があったので、いざ競技を引退したあとに、一度組織で朝9時に出社して、みんなでいろんなことをやってお茶を出して、しっかり定時までいて、そのあとは残業、電話はツーコールで出たりしていて。

組織に入ったときに、自分がアスリートとしてやってきたその部分をなかなか活かすことができなかったということで、いろんな馴染めない部分もあり、苦労したという経験がありました。

山口:ファーストペンギンとセカンドペンギン、その違いがあると思いますが、フロントランナーの世界では、潔くやっていくことができますか?

塚田:そうですね。今、私は大学生と一緒にいろんなことをやっていこうと思ってやっています。全部自分が責任を持ってやってる状態なので、非常に楽な部分と大変な部分というのが、明確に分かれています。

今も組織に属していますが、1つのことを全部決められたことを一通りやってみるという場所からは離れてるので、一つひとつの行動にある程度は、自分で責任取っていかなきゃいけないところが出てきます。

あまり周りに気を取られていないことが、私は自分がアスリートとしてやってきたなかで、培った精神とすごく共通してる部分があります。

自分自身でどういうふうにしていくか、それでどういうふうに結果を出していくかというのがすごく合ってるので、それを自分の生き方としてはすごく合ってると思って、今の職に就いてます。

山口:なるほど。ありがとうございます。

研究職はアスリートに近い

3名の方が、どういう生き方かということをうかがってみました。なにか「この生き方でメリットというか、こういうところがいいんだぜ」というアピールポイントはありますか? 落合さんどうでしょうか??

落合:アピールですか。研究者は、みなさんが思っているよりアスリート感のある職業なんです。例えば、僕らは時間が資本です。研究は時間をかけて、かつ、頭が良ければ良いほどいい。

要は、運動選手でフィジカルが強い人が何秒でトラックを走れるように、僕らは「頭の良さ×かけた時間」でしか勝負できないんです。

そうすると、例えば、今日の夕食はないほうがいいとか。体をこのくらい鍛えておくと血糖値がこのくらいになるから、論文を書く前の1週間はこれで過ごさないといけないとか。そういうのをわりと僕は決めてやります。

あとは、うちの学生を育てるのに、1週間に論文を30本は読ませないといけないと、ある程度ノルマをちゃんと作って、それをギリギリでこなしていかないと、脳がぜんぜん成長しなくなっちゃう。

詰め込めるだけ予定を詰め込んでやれるだけやる、みたいな感じです。その障壁になるようなことは、全部体から遠ざけていく。そんなことばっかりしてます。

山口:ストイックですね。

落合:ストイックというよりは、目的に最適化する生活を当てはめていくみたいな。減量しますよね?

日菜太:減量しますね。

落合:別にストイックだから減量してるわけじゃなくて、そういうものだからしますよね。

日菜太:そうですね。仕事だから、体重落とさなきゃいけない。

落合:そうそう。研究者は仕事だから、予定は空けちゃダメなんです。そういう生き方です。

でも、そうじゃない人もいます。ただ、往々にして僕の周りの研究者はだいたいそうで。研究員が結婚すると「クリスマス休暇取るからこいつはクビにしよう」と言って、クビにすることもある。

山口:おもしろいですね。

落合:おもしろいですよね(笑)。

(会場笑)

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