集団的自衛権の根拠となる砂川判決

小林史明氏(以下、小林):続いて、またいきたいと思います。いけちゃんさんから。「なぜ安倍首相は集団的自衛権が合憲であるとの根拠に、砂川判決をあげ続けるのですか?」という質問です。

佐藤正久氏(以下、佐藤):小林さん、合憲か違憲か。憲法に合っているか、違反か違反じゃないかというのはどこか判断すると思いますか?

小林:最高裁判所。

佐藤:最高裁判所なんです。それが正しいか正しくないかどうかの判断は、最終的には最高裁判所なんです。

まさにそう、砂川判決というのは最高裁判所が「自衛のための措置というのは、憲法9条の範囲内だ」というのに一番最初に出した判決が、この砂川判決なんです。

最高裁で、「自衛のための措置。これは憲法9条の認める範囲内」というふうに出したんです。これを受けて、日本政府は47年の政府見解で、「自衛のための必要最小限の武力の行使は、これは憲法の範囲内です」というふうに、この砂川判決を受けて、政府の見解を出したんです。

でも当時、今から43年前に周辺環境を考えた場合、必要最小限度の武力の行使というのは、環境を考えたら上限が個別的自衛権ですよね、というふうにそこあてはめたんです。

小林:あえて「ここまで」と切ったわけですよね。ここまでに。

日本を取り巻く国際環境の変化

佐藤:だけど、それから43年間の間に日本を取り巻く環境は変わった。弾道ミサイルも日本を射程に入れるものはいっぱいありますし、実際日本の頭の上を飛び越してミサイルが北朝鮮から太平洋に落ちたのです。あるいは戦闘機や爆撃機の能力が上がっている。

環境が変わったときに、「じゃあ日本国民を守るための必要最小限度の上限はどこですか?」と議論したときに、やはり個別的自衛権だけでは守れない場合があると。限定的に集団的自衛権を認めないといけない場合があるということで、「集団的自衛権の一部は必要最小限の中ですね」というふうに今回政府が解釈したわけです。

よって、一番もともとの政府の見解の出発点。まさに、それが合憲か違憲か、これを決める最高裁判所の判決が、この砂川判決なんです。だから、安倍総理は根拠のひとつとして砂川判決というものを用いて説明し、砂川判決と我々政府の見解というのは、考え方は同じなんですよということを説明しています。

小林:法律の世界は、やっぱり判例をもとに基本的には理論を構築していきますので、私たちも勝手に「これは合憲だ、違憲だ」と言ってるわけではなくて、こういう過去の判例をもとに議論をつみあげて、そして外的な環境が変わったので、この必要最小限の範囲も考え直さないといけないということですね。ということで、砂川事件判決というのを取り上げているということで、ご理解をいただきたいと思います。

国民の大多数が反対する安保法案の正当性

この憲法に対してもう1問です。反安倍あざらし隊の方からですね。「圧倒的多数の憲法学者も国民の大多数も“憲法違反”として反対している戦争法案に、自民党はなぜ執着しているんですか?」という質問です。

佐藤:まず、これは戦争法案ではありませんから。まさに国家国民の命と暮らしを守る為の平和安全法案です。

今、こういう質問をいただきました。今回の政府の出した平和安全法案。これは憲法に合致しています。合憲ですという憲法学者もいるんです。でも一方で、これは違憲だという憲法学者も両方います。

憲法違反だと言っている憲法学者のなかには「自衛隊も憲法違反だ」と言っている人も結構いるんです。自衛隊も憲法違反と言われたら、個別的自衛権も違反になってしまう。

小林:そもそもそこを認めないと言われてしまうということですね。

佐藤:それでは、我々は国民の命や暮らしを守ることができない。先ほどあった砂川判決で、自衛のための措置は、憲法の許容範囲内で我々はやってますから。まさに憲法学者においても、いろんな方がおられる。

我々は、国家国民の生命を守るために、憲法学者が最終的にこれを判断するのではなくて、最高裁判所が判断をする。砂川判決にもとづいて我々は解釈をしたということだと思います。

小林:ということです。ぜひ皆さんご理解いただきたいのは、いろいろなテレビの議論や国会の議論を見るなかで、そもそも自衛隊すら認めていない立場の方々。そして認めてはいるけれども、外的環境はそんなに変わってないんじゃないかという方々。

そしてそれを受けて、冷静にどうやったらこの国が、憲法の範囲内で守れるかということを議論している方々。しっかり、ちょっと分けながら見ていただけると、より理解いただけるのではないかと思いますので、そのあたりを留意をしていただきたいと思います。

海外から見た日本の自衛隊のレベル

次の質問に移らせていただきます。これは葉月二十八さんですかね。一番多いのは「そもそも集団的自衛権って何?」「今、やらなきゃいけない理由は?」「自衛隊員死ぬの?」この辺りですかね? あと「憲法に本当に抵触しないのか?」「戦争になるって本当ですか?」最近多いのは「こういうのができる人たちなんですか?」っていうのが出てきた。

佐藤:自衛隊もスーパーマンではありません。やっぱり同じ人間ですから。だけど、自衛隊の方々に頑張ってもらわないと、日本国民の生命が守れない場合もあるんです。だから、自衛隊の方は訓練をしないと強い自衛隊になれない。国を守れるために、厳しい訓練をやるからこそ強い自衛隊ができ上がります。

でもそのためには、自衛隊の人はこういう訓練をやってもいいよという法律がなければ訓練できないんです。まさに今回の法律は、今まで自衛隊ができなかった。でも周辺環境が変わって、国民の生命を守るためには、ここまでやってくださいっていう部分を、今度は法律でつくります。

法律ができたから自衛隊はすぐできるかと言ったら無理だと。法律が通って、それにもとづいて訓練をやるということによって、我々の命を守るための、そういうレベルに達するというふうになる。

自衛隊のレベルというのは、決して低くはないと思います。私も海外でいろんな国の軍隊と一緒に任務をともにしました。みんな言うのは「自衛隊の規律の正しさ」「仕事の正確さ」というのはみんなびっくりします。私たちがイラクに行ったときの1つの合言葉。直線直角3センチ以内。

小林:直線直角3センチ以内?

佐藤:わかります? 直線直角3センチ以内。活動します。現場に入ります。車で行きますよね。自衛隊の車は駐車場でピーッとバンパーが一直線なんです。それもズレは3センチ以内。

いろいろな資材を置きます。すべて直線直角にきれいに。あれを見たイラクの人たちはびっくりしました。他の国の軍隊と規律の正しさが全然違う。当然、警戒してる人間はまた別ですよ。警戒してる人間以外の車とか、そういう資材の車は直線直角3センチで。

そういう一つひとつの規律の正しさ、正確さっていうのは1つの正当性。何かあったときに強さにいくわけです。しかも向こうで作業訓練をやっても、私も協議会とか出たことありますけれども、やっぱり日本の隊員は優秀です。

持ってる装備も、やっぱり日本ですから。日本の装備は他の国よりもレベルが高いものがいっぱいあります。ゆえにしっかり訓練をやって、自衛隊に対する武器使用が国際標準になれば、自衛隊は他の国と比べてもひけを取らないというふうに私は思います。

小林:それだけの訓練と努力をされてるってことを我々誇りに思いたいですし、感謝を持たないといけないなと改めて思いました。

佐藤:自衛隊というのは日本人ですから。やっぱり日本の企業戦士も非常に力がある。海外で日本の企業戦士の方々が、ものすごいいい仕事をしましたよね。あれが日本の信用を高め、日本の経済を発展させ、世界第2位の経済大国になった。我々はそういうDNAを受け継いでいると思います。

日本企業がイラクで築き上げた基盤

私が驚いたのは、イラクに行ったときに、いろいろ写真を見せられました。「佐藤、こういう日本人知っているか?友達なんだ。良くしてくれたんだ」。あるときはバスラという200km離れた町から、わざわざ昔のお礼を言うためだけに来た人がいます。

なぜかというと、日本の企業と一緒に働いた。そういうときに、ものすごいいろいろなことを教えてもらったし、良くしてもらったという話を言うんです。ありがとう、ありがとうと。でも、それは1980年代の話なんです。

イラン・イラク戦争の関係で、80年代半ばに全部の日本企業はイラクから撤退したんです。20数年ぶりに来た日本人が、我々自衛官だった。20年以上前に日本の企業戦士の方々が、現地のほうで築き上げた基盤。これはすごいなと思いましたね。

だから、彼らが我々を守ってくれました。いろんな情報を教えてくれました。ここは危ない。ここは危なくないよ。あの部族は日本に好意的だ、そうじゃない。我々はみんな同じ顔に見えちゃう。

そういう日本の企業戦士のDNA、伝統あるいは価値観というのは、我々は受け継いでいるなというふうに思いましたし、そうでなければいけない。武士道の国から来た自衛隊として、こういうものは先端企業戦士に負けないように頑張ろう、そういう部分ありますから。

決して他の国と比べても、我々は日本人の誇り、これをしっかりと持ってますから。我々日本人はみんな同じ日本人。そういう面では非常に自信をもっていいと私は思います。

法律による自衛隊活動の制限

小林:この場を借りて、先輩方に厚く御礼を申し上げたいというふうに思います。私も熱い思いがこみ上げてまいりましたが、そういう意味では、何かがあったときに本当はやらなきゃいけないんだけれども、今の法整備がないがゆえに訓練ができてないことがあったっていうことですね。

佐藤:そうですね。前回も言いましたけれど、例えば、日本では認められるけれども、海外では認められない。私が最初にゴラン高原に隊長で行きました。そのときは、正当防衛緊急避難でしか武器の使用は認められない。

しかも射撃の命令を上官が出せないんです。変じゃありません? 上官が部下に「撃て」って命令できないのです。非常に抑制的に、憲法9条を解釈をして、海外で武力を行使しないというために縛りをものすごくかけています。

個人の判断でしか、正当防衛で撃ってはダメですよ。個人が勝手にみんな撃ったら危なくて仕方がないでしょ? 日本では、上官が部隊の後方で打てというのが当たり前なのが、個人の判断でしかできないというのは、みんなものすごく精神的なストレスです。危なくて仕方がない。他の国からすると「えー!?」いう感じになってしまった。

だから苦肉の策として、当時は2人以上いたら、上官が先に撃ちなさいと。それが射撃号令だという訓練にしたり、あるいは最初にゴラン高原、シリアに行ったときに、宿営地はカナダの兵站部隊と一緒でした。数はカナダの兵站部隊のほうが多かったです。一緒の宿営地にいたんです。

本当は一緒に警備をしたいんです。でもそれは正当防衛で自分しか守れませんから。カナダと一緒に守るという武器使用は認められなかった。共同警備ができない。でも向こうは兵站部隊ですよ。「大丈夫かな……」。

誰がみても自衛隊のほうがレベルが高いというふうに見える。一緒に警備したほうがいいでしょう。カナダの兵站部隊がやられてしまったら、我々もやられてしまう。それができなかった。これが今度は共同できるようになります。

今、南スーダン。ジュバにPKOで行ってます。今のジュバのPKOは、かなりうちの普通科歩兵部隊を持っております。だけど共同警備ができない。そばで、どこが守っているか。バングラデシュとルワンダの部隊と自衛隊です。

ルワンダとバングラデシュの部隊がそばにいますよ。彼らがやられたら自衛隊もやられちゃうんです。可能性が高いと。それならば早く前に出て一緒に警備したほうが、情報も入るし、やっぱりいろんな対応ができます。いろいろな訓練もできます。

小林:そのほうが安全性は高まりますよね。

佐藤:それは今度できるようにしますけど、現時点でまだ法律が通ってませんからできない。そういうものをいろいろ現場としては、挙げたらきりがありませんけれども、あるんです。

小林:ですから、こういう隙間が本当に多い現場であるということを埋めていく法整備だということをご理解いただけたのではないでしょうか。

党首討論を妨害するやじについて

続いての質問に移りたいと思います。もふきんぐさんから。ちょっとここからテイストが変わりましたけれども「国会中継を見ていたときに、安倍総理が『静かにしてください!!』と強い感じで言っていました。そんなにうるさいんですかね?」。

佐藤:これ特に党首討論のときはものすごかった。小林さんおられました?

小林:ちょっともう聞こえないぐらいでしたね。

佐藤:特に安倍総理が発言したときに、野党の方々のやじとか、あるいは大きな声を出される方が結構おられて。

小林:聞こえない。「討論するためにいるんじゃないんだっけ?」って思うぐらいで。

佐藤:安倍総理もそれを無視すればいいんですけど、やっぱり聞こえちゃうんですね。聞こえちゃうと、なかなか自分の発言がうまくできない。せっかくの党首討論ですから、そこはしっかりと静かな環境でやるべきなんだ。

自分の党首が喋るときに「そうだー!」と言うのはいいと思います。相手の党首が喋ってるときに、それをやじで発言を妨害するというのはあまり良くない。

だから安倍総理もそれを気にせずに喋ればいいんでしょうけども、やっぱりどうしても気になってしまう。

小林:これ難しいですね。多分皆さんもそうだと思いますが、自分がしゃべってるときに横でずっと大きな声で言われるっていうのは、これはなかなか厳しいですよね。

佐藤:やじというのは議場の花と言われますけれども、お互いにそこは節度をもって、非常に大事な党首討論ですから。そういうときは、安倍総理が静かにしてくださいということを言わないような環境じゃないと、大事な議論は深まらないという感じがします。

小林:というような状況だということです。

国民の関心は、安全保障より厚生労働分野

では次の質問に移りたいと思います。まるともさんからです。「直近の集団的自衛権を中心とする議論のなかで、議論が進まない。また円滑な討論が行えないのは、まず国民自体が日本の防衛体制また安全保障について理解していない、理解する機会がないためだと感じたのですが、佐藤議員さんはじめ自民党の方々はどう感じられましたでしょうか?」。

佐藤:これは非常に大事で難しい問題なんです。日本は島国ですよ。陸続きではないから、これまで日米安全保障体制、あるいは自衛隊の方の努力によって平和が保たれてきた。どちらかっていうと経済最優先でここまでこれた。

海ということが大きくて、陸続きだといろいろなことがおきますけども、そういうなかで、どちらかというと、そういう安全保障とか安全とか、空気というようなものはタダという話がありましたよね。あまり考えなくて良かった。安全保障というのは生活から遠い存在。

私もよく選挙応援に呼ばれます。そういうときに頼まれるのは、「雇用、医療、年金、介護、子育て、この5つをお願いします。時間があったら安全保障をお願いします」。私を呼んでおいてですよ? ヒゲで呼んだだけであって、安全保障の話を聞きたいのではないんですよ。客寄せパンダじゃないんですけれども(笑)。

まさに国民の意識に近いのは、そういう厚生労働分野なんです。だから民主党が政権を取ったときのキャッチフレーズを覚えています? 「国民の生活が第1」。だから極めてわかりやすい。安全保障が大事じゃないんです。

そういう面で、意思がいろんな環境もあって、遠い。だけど非常に大事な分野なんです。だから安全保障は国政の先端分野ですから、まさに我々が真剣になって国民に説明をしきらないといけない。

よく言われる言葉に、「国民の防衛意識を超える防衛力は作れない」という話があります。つまり、国民の代表が政治。政治が国防や安全保障を決めます。政治が安全保障に詳しくなければ、あるいは関心がなければ、いい政策できませんよね。みんな国民の代表なんだ。

だから国民にそういう関心がなければ、安全保障に興味もない、関心がない国会議員が多く出る可能性すらある。でも、我々国会議員が「国防は不十分だ」ということを国民のせいには絶対してはいけない。

だから我々はしっかり勉強して関心を持ち、国民に説明し説明し説明しきるということが大事。我々も、自民党議員いっぱいいますから。県会議員、あるいは地方議員の方含めてみんなでやっぱり自分の有権者、支援者に車座トークでも何でもいいですから、そこをどんどん説明しきる。説明しきるという態度が非常に大事だと私は思います。

小林:我々も随時、みんなが地元に帰って国政報告なりでどんどん説明しきるっていうことで頑張っていきたいと思いますので、ぜひ機会があれば、地元の議員の方にお声かけをいただければと思います。

自衛隊が他国を守るのは自国防衛のため

最後に1問、今リアルタイムでいただいたご質問です。これは、宅浪さんでよろしいでしょうか。「集団的自衛権ってつまりは自国防衛の見直しであって他国防衛ではないのですよね?」という質問。

佐藤:今回、我々が国会に提出をしている集団的自衛権は、フルサイズの集団的自衛権ではなくて、まさにそのまま放置をしていたら、日本国民の命が守れないというときに限定をした集団的自衛権。つまり、目的が自衛なんです。

自分の国のためだけ。他を守る他衛じゃない。今回は自衛のための集団的自衛権。まさにこの目的が他国防衛ではなく、目的は自国防衛。その手段として、一部他国を守る。

他国を守るのは、それは手段であって目的ではない。そういう限定的な集団的自衛権というふうに理解してもらえばいいと思います。

小林:目的は私たちの国、そして皆さんである日本国民の方々を守るためのものだということをご理解いただきたいと思います。

佐藤:1時間お付き合いいただきました皆さん、ありがとうございました。