個別的自衛権、自衛隊だけでは日本を守れない

小林史明氏(以下、小林):続いて質問に移りたいと思います。ハンドルネームですね。ししおさんのご質問。「個別的自衛権と自衛隊だけで、日本全土をくまなく回ることができるでしょうか?」というご質問です。

佐藤正久氏(以下、佐藤):個別的自衛権と自衛隊だけで日本を全部守れるか、という話ですよね。自衛隊だけで日本を全部守れるかというのは、これは無理です。自衛隊、全部で24万人。24万人で全国を守るのは無理です。

ケースにもよりますけれども、一般的にはなかなか厳しい。あの東日本大震災時も、自衛隊が10万人出たと。そのときも警察や消防や海上保安庁や自治体、いろんな方々の協力を得てみんなで守る。国というのはみんなで守る気概がなければ守れません。

やっぱり自分の国ですから。自分の愛する家族を守るといったときは、みんなで手分けして守らないと。自衛隊だけでお願いしますというのは無理です。

例えば、この東京周辺1つとっても、警視庁ってありますよね。警視庁は東京都の警察ですよね。小林さん定員ってどれぐらいいると思いますか。

小林:何人警視庁の方がいらっしゃるのか。考えたこともありませんね。

佐藤:約4万5000人いるんですよ。東京都、あるいはその周辺の静岡、神奈川、そして千葉、埼玉、茨城、山梨県、1都6県。これを陸上自衛隊の第1師団という。どれぐらいいると思いますか?

小林:陸上自衛隊第1師団。

佐藤:1都6県を警備をしている。

小林:どれくらいなんでしょう。

佐藤:7000人弱です。1都6県で7000人弱です。東京都だけで警視庁4万5,000ですから。それはみんなでやっぱり協力して、東京の治安の維持だけでも、今4万5000人の警察官の方が一生懸命やっている。それでもなかなか大変でしょ。

であれば、やはりそういうふうに、全部守るためには、戦争を起こさないための外交努力と同時に、いざっていうときは、日米同盟含め多くの国が連帯をしてそういう脅威に対応する。同時に、やはり自衛隊、警察、消防、あるいは多くの公共機関を含めてみんなでこの国を守るという体制をとる、ということが大事だと思います。

小林:ということですね。国内だけでもそれだけ連携をしなければならない状況だと。

集団的自衛権を限定的に使わないといけない場合

佐藤:さらに個別的自衛権だけだというと、前回のCafeStaでも言いましたけれども、やはり個別的自衛権というのは自分が攻撃をされたら自分で跳ね返す。この1つの弱点は自分だけなんですね。

集団的自衛権は、小林さんと私が密接な関係にあればお互いに守りあう。お互い守りあったほうが力が強いに決まってますよね。

そういうなかで、ただ個別的自衛権は今、日本は使えるという今までの体制できました。でも集団的自衛権、アメリカは日本を守ってくるけれども、日本はアメリカを守りませんよという状況です。

となると、一番の弱点は、日本が個別的自衛権を発動する前に、近くにいるアメリカが結果として日本を守っての対戦のときに、日本が(アメリカを)守らないと、次は(敵国が)日本に来るというときに、これ(アメリカが日本を助けること)はできないんです。

自衛隊がアメリカの本土まで行って、アメリカを守るための集団的自衛権ではなくて、まさにアメリカが近くにいて、アメリカを守らなければ、そのまま放置をしたら日本国民の命が守れない、という場合に限っての集団自衛権の隙間を埋めておかないと守れない場合がある。弾道ミサイルとかいろんなケースがあります。

小林:例えば、イージス艦が弾道ミサイルを察知している状況。

佐藤:いろんなケースがありますけど、日本にいきなりドーンと来られても困ります。日本が個別的自衛権を発動する直前の、その隙間。これを埋めるためには、場合によっては限定的に集団的自衛権を使わないといけない場合がある。

よく例えられる火事ですけれども、適切かどうかわかりませんけども、極端な例として隣の家で火事があったと。火事があったときに火の粉が自分の家にくる。そういうのであれば、日米連携で隣の家の火事の火を消す、というのは当たり前です。

小林:消化をお手伝いに行くんですね。うちまで燃えちゃうから早く消そうと。

佐藤:今回はそういうのに限っての集団的自衛権。そういうことがないと、守れない場合がありますね。自分のほうに火の粉がきてからでは遅いでしょう。

というケースをやっておりますから、そういう隙間を埋める意味では、やっぱり個別的自衛権だけではなかなか対応できないという話だと思います。

自衛隊の活動に歯止めをかける新3要件

小林:この隙間を埋めるというのがポイントだと思ってまして、一方でよくあるご質問が、「アメリカを助けるために日本はどこまでも行くんじゃないか。そういうリスクもあるんじゃないか」。こういうことをおっしゃる方もいらっしゃいますが、ここはどういうふうに考えますか。

佐藤:ここはまさに、3要件と。新3要件という条件があるんです。

つまり、先ほど火事の例で言えば、自分の家のほうに火の粉がくる、そういう火事は消せるんです。でも隣の火事でも、自分のほうに火の粉がこない、そういう場合の火事は消してはいけないんです。

これは憲法9条の制約のなかでまさに「自分のとこに関係がある場合に限って火を消しに行ける」。非常に身勝手な集団的自衛権に見えるかもしれませんけれども、今はそういう枠組みなんです。

なので、どこまでも行けるわけではなくて、極めて普通の国からすれば「集団的自衛権フルスペック」ですよね。お互いに守り合う。そうではなくて、「そのまま放置をしたら自分がやばい」というときに限って相手を守るという。

どちらかというと、ちょっと身勝手な集団的自衛権を今議論している。これは憲法9条の制約のなかでぎりぎりのところかもしれませんけども、そこを議論しているということで、歯止めはかかっている。

小林:せっかくなので、もう少し掘り下げて。具体的に、じゃあこれ、火の粉が家にくるのかこないのかというのは判断する手続き。これも、もちろん国会で行うわけですよね。

佐藤:もちろんいざというときは事後承認ということもあるかもしれませんけども、普通、個別的自衛権にせよ、集団的自衛権にせよ、そういう自衛隊が動くときは当然いろんな手続きがある。

内閣の手続きも必要ですし、国会の手続きも必要。しっかりとそのような形でシビリアンコントロールをかけると。ただし、手続きにあまり時間がかかってしまって、それが守れないというのは本末転倒ですから。

そこのことは今回議論の中で、しっかりシビリアンコントロールの話と国民の命を守る手続きの迅速さ、そういうのを折衷しながら今法案を出しているという状況です。

小林:ということですので、何でもかんでも行けるというわけではないのですね。きっちり制限がかかって、しかもそれを発動するときには手続きもしっかりあると、こういうことですので、ぜひご理解いただきたいと思います。

ホルムズ海峡の機雷掃海について

小林:では次の質問。「ホルムズ海峡が機雷で封鎖され、日本人の生命に危機がおよぶ事態になった場合でも、実質停戦が行われるまで機雷掃海はしない(実際できない)のですよね? であれば停戦まで日本人の生命はどう守るのですか? 論理が矛盾していませか?」という質問です。

佐藤:これちょっと間違ってるのは、今回、国会で議論されてるのは、停戦が行われるまで機雷掃海はしないというのではなくて、今回まさに新3要件に合致をして、これが集団的自衛権を行使しないといけないという状況であれば、その場所が、安全が確保できれば、実質停戦の前でもできるんです。

要は、掃海部隊というのは非常に弱い。火力に弱い部隊ですから。

小林:これ多分イメージが湧いてないと思いますが、掃海部隊というのはどんな状況なんでしょうか。

佐藤:意外と小型の。

小林:小さい船なんですよね。

佐藤:プラスチックのFRP(掃海艇)とか、あるいは昔は木で作っていた。そういうもので掃海しますから、機雷を掃海する現場に弾が飛んでくる状況であったら、それはどこの国も掃海はできないんです。

よって、現場の安全が確保できれば、掃海は技術的にはできるんです。だから実質停戦前でも、そこの場所に弾が飛んでこなければできるんです。

例えば日本の場合、北海道とか、あるいは東北のほうで、仮にまだ紛争が続いていたとしても、九州の関門海峡に戦艦が届かなければ機雷掃海できるでしょ?

というふうに、実質停戦ではなくて、その現場の安全を確保できれば、これは存立危機事態であれば掃海はできるんです。

さらに、存立危機事態の前であっても、重要影響事態というのがある。日本に影響が出る事態。ホルムズ海峡の事案が重要影響事態という状況であれば、ほかの多国籍の、あるいはアメリカと日本に関係する国が掃海をやる。あるいはいろんな行動をとるのであれば、それに対する後方支援はできるんです。

だから、停戦まで何にもやらないのではなくて、他の国が動いてる。それが重要影響事態に認定できれば、それに対する後方支援、給油とか、あるいは整備、給水ということはできますから。いろんな形で、日本が特に一番影響を受けるホルムズ海峡なんで、実際何もやらないってわけにはいかない。

ホルムズ海峡と日本の経済活動の関係

小林:ホルムズ海峡がどんな場所か、ちょっと地図をご用意しました。

佐藤:これは、日本の油の道。オイルシーレーンと言われておりまして、これがペルシャ湾。このところがホルムズ海峡。一番狭いところが32〜33kmと言われております。自衛隊が持っている大砲FH70でも対岸に届くくらい一番狭いところ。

そういうところ、ペルシャ湾からずーっと赤い線を通って、日本に油が来ているのです。赤い線上には衛星で写真を撮ると、この赤い線上に約90隻の大型タンカー。これ日本用です。

小林:数珠つなぎでずっと動き続けているんですよね。

佐藤:じゃないと日本の経済活動、あるいは生活が維持できないんです。そこで一番狭い場所のひとつがホルムズ海峡です。

日本関係の船舶が、年間3600〜4000隻停まってる。一番使っているが日本なんです。同じように台湾もあるいは韓国も同じように、このペルシャ湾に頼っているんです。韓国も台湾も日本と同じように、油の道が1本なんです。

そういうところでホルムズ海峡が機雷で閉鎖された場合、ものすごいいろんな影響が出ます。まさにそれが、日本で死活的な影響というふうに認定し、これは3要件に合致しますねというのであれば、ここに対しての機雷掃海は、停戦前であっても、安全が確保できれば、それは対応できると。日本というのは非常に高い掃海能力を持っています。

小林:これはかなり世界からも期待されている。

佐藤:実は湾岸戦争が終わった後に、機雷掃海に自衛隊の掃海部隊が出ます。後から行ったんです、自衛隊は。残っていたのは、他の国が処理できないような機雷ばっかりだった。

小林:難易度が高い機雷ばっかり残ってた。

佐藤:それを全部自衛隊が片付けた。ものすごく世界でかなり高い掃海能力を評価されました。

ホルムズ海峡を一番使ってるのが日本です。他の国が同じように機雷掃海するときに、やはり日本の責務として、国家国民の生命を守るためにも、これは一緒に掃海するということも私は選択肢のひとつだと思います。やっぱりそういう危機をいかに共有するかというのが、ひとつの同盟とか信頼関係の基礎だと思います。

小林:そういうことであります。続いて、次の質問に移らせていただきたいと思います。

グレーゾーン事態の対応策

小林:「小笠原諸島に大挙して押しかけてきた中国船団みたいなグレーゾーン事態に、安保法制で対処できるようになるのですか?」ということなんですが、これは小笠原諸島ですから。珊瑚の……。

佐藤:珊瑚の泥棒漁船でしょ。泥棒ですから。そうでしょ? 人のところに勝手に入ってきて、赤珊瑚を取っていくのは泥棒です。

ただ、あれは武装漁民ではありませんから、これはグレーゾーンにあたらない。単なる泥棒。犯罪ですから、これはグレーゾーンにはあたらない。

だから泥棒なので、警察は海上保安庁が対応する。ただし、あのときの問題点は、非常にインフラ整備、基盤が弱いんです。警察、海保がそこに集中しようと思っても基盤がないために行けなかった。具体的に何かというと。

小林:港ですか?

佐藤:港と空港。要は空港ね。小笠原には空港がないんですよ。だから警察が派遣しようと思っても、船で2日間かかった。

小林:それじゃあ全く間に合わないですよね。

佐藤:海上保安庁の場合は、向こうで活動しようと思ったら制約が2つあって、1つは小笠原だけではなくて尖閣のほうでも警備してますよね。やはり2正面対処。小笠原と、尖閣。当時は充分な船がなかった。

今年度末までに尖閣に専従体制、14隻体制を組みますけど、やっぱり両方に2正面対処では数が少なかったという部分があります。

同時に海上保安庁の巡視船というのは、洋上での給油能力がないんです。これはどうするかっていうと、なくなったら1000キロ離れた小笠原か横浜まで帰ってこないといけない。

小林:2日間かけて最初まで戻らないといけない。

佐藤:途中にそういう給油ポイントがないんです。小笠原には給油施設がありませんから、戻ってこないといけない。非常に制約がありました。

これはグレーゾーンじゃないんですけども、しっかり基盤というもの、燃料施設とか、あるいは空港を含めたいろんな基盤を整備していくということも法律だけではなくて大事なのです。

小林:予算としてしっかりやらないといけないということですね。

佐藤:完全にグレーゾーン。グレーゾーンがきた場合は、最初は警察や海上保安庁で対応する。でも今言ったとおり、警察や海上保安庁の能力を高めるということがやっぱり大事なのです。

警察で対応するか、自衛隊を派遣するかの判断基準

それと同時に、彼らの能力を超えるというときは、いかに早く自衛隊を、治安出動なり、あるいは海上警備行動なりで、早くそこに行くのかというのが大事。

我々は、早く自衛隊を投入するために、閣議決定を電話等でしっかりやる。日頃から海上保安庁と自衛隊の訓練をさらに強化する。そういう運用の改善で高めようとしています。

これはなぜかというと、グレーゾーンという事態はまだ警察で対応するのが本来の筋です。そこに、先に自衛隊を出すとどうなるかっていうと、相手から見ると「先に軍を動かしたのは日本だ!」と。

小林:理由を与えちゃうんですね。

佐藤:全世界にこう言うわけです。それは先に軍を出したから、我々も軍を出そうという、事態をさらにエスカレートしてしまう。今まで警察対警察だったものが、軍対軍になってしまう。

その部分は非常に抑制的に、だけどしっかり権益を守るためにどうするか。これは非常に難しい問題、微妙な問題だけど、ここを一歩間違えてしまうと、初めに警察ができるところまで自衛隊がやってしまったら、それは相手に付け入る隙を与える。

もう尖閣のほうでも、海上保安庁とかが警備してる段階で、そういうのが対応できる段階で、あらかじめ自衛隊を置いてしまったら、向こうも正々堂々と、今もう「海警」という警察が来ています。「軍が来ても文句は言えないよね」となりますから。

そうすると、軍艦対軍艦という絵になってしまいます。これは日本にとっては良くない。今は日本がしっかり持ってる状況ですから。ここは現実の世界のなかで、本当にリアリスティックに考えないと失敗してしまう。

尖閣諸島国有化における問題点

一番良い例が、尖閣の国有化。覚えてますかね? 国有化は目的じゃないんです。手段なんです。大事なことは「しっかり日本の権益を守る」でしょ。でも国有化したときに、どういうことが起きるかということを充分考えずにやってしまったら、どんどん今度は尖閣に公船が押し寄せてくる。すごかったでしょ?

同時に中国本土のほうでは、日本関係のレストランとか、あるいはデパートも焼き討ちにあったりとか、ああいうことが起きてしまう。

だから、我々政治家は本当に、こういうふうに手を打ったら向こうがどうなるかということを、現実の世界のなかで本当に真剣にリアリスティックに考えないと、かえって国益を失ってしまうことになりますから。

このグレーゾーン事態というのは、まさに非常に個別のケースごとに実際上、現場にいろんなものをのっけて考えないと失敗すると思ってます。

小林:相当難しいですよね。それこそ偽装船団なんて言われる人たちが来たときに、警察が対応しきれるのか、そして自衛隊が出なきゃいけないのかっていう、そういう判断も。

佐藤:やっぱり警察と海上保安庁の能力を高めるというのが、やっぱり我々にとっては大事なことなんです。例えば、竹島に韓国の部隊いますよね。あれは軍じゃないんです。警察なんです。国境警察です。警察が対空機関砲を持っているんです。

小林:かなり能力が高いですよね。

佐藤:普通、日本には武装警察はありませんけれども、他の国の国境とか、あるいは島というのは軍じゃないんです。武装警察なんです。じゃないと、軍を先に出したら、そこが特に揉めてるとこであれば、先に軍を出した。それは外交交渉上も実際上も、つけいる口実を与えますから。

小林:エスカレートする理由を作ってしまいますからね。

佐藤:それは最終の手段だというふうに思います。

小林:ということで、ご理解いただけたんじゃないでしょうか。