リクルートで働くのは10時から19時までと決めている

栗林和生氏(以下、栗林):今ダブルワークの話があったと思うんですけど、結構今ご自身のビジネスをやっている学生もいるかと思うんですけど、兼業というか2つのことを働きながらやるって、なかなかイメージがつかめないと思っているんですけど。

まあ先ほど「マインド的には半々だ」という言葉もありましたけど、仕事って具体的にはどういうふうな働き方というか、平日どのくらいに帰ってこっから働いているとか。具体的に兼業ってどういうふうにやられているのかな? って聞きたいんですけど。ちょっと教えてもらって良いですか?

鹿毛雄一郎氏(以下、鹿毛):僕は平日は特に"蝉 semi"のことをやっているわけではないので、週末土日だけパターンを決めています。

その中で何をしているかと言うと、お店に出て店番をやりつつ、店番がベースであり店番やりながらパソコンを開き、ちょっとそろそろサイトをリニューアルしようかとか、サイトに商品のっけないといけないから、写真を撮ろうかとか色々やりつつ、じゃあ次の新しいプロダクトを作りたいねとか、一緒にスケッチしながら考えたり。

あとは割とイベントに出させてもらうこともあったりするので、そこの什器の色はどうするかとか、ディスプレイはどういうものを使ってどう見せようかとか。次のイベントはこういう場所だから、こういうお客さんがいるんじゃないかとか話しつつ、じゃあこういうプロダクトが良いねとか。

セミオーダーとかやっていたりとかもするので、どうやったらWebを使えるとか、どう作れるとか、試行錯誤しながら作っています。

栗林:兼業っていかがですか? どんな形で普段働かれているのか。

内山賢一氏(以下、内山):僕、10時から19時って決めてるんですね、リクルートで働くのは。それ以外、平日の夜家に帰ってから2時間、3時間。あとは土日やったりっていうので、時間で区切ってますね。

10時から19時ってもちろんベースは決めているんですけど、どうしても朝が8時、9時って時がなくはないんで、そういう時はその分だけ強制的に早く帰るってことをやるんです。なので、できる時は8時間の時間でロックして、そこでダブルワークをしています。あんまりそういう人はいないんですけどね。

19時以降は会社から「脱出」

鹿毛:内山さんのスケジューラーには「脱出」って(笑)。7時以降「脱出」。

(会場笑)

内山:7時以降「脱出」って書いて、強制的にロックしてですね、一応もうそういう雰囲気を作り、まわりもそれ以降には入れなくなっていますね、打合せを。

栗林:僕らもいる時にやっぱり、「自由」とか「作業」とかだと「ちょっと良いですか」となるんですが、「脱出」と書かれたら。

鹿毛:内山さんのを見て、僕も帰るのを8時にしています。

1、2年目から任される仕事の規模が大きかった

栗林:入社してからこんなサービスしてました、というところを簡単にお話頂きたいんですけど。どういう仕事をやってきたというところをもう少し詳細に。

入社のときはだいたいこういうことやってとか、今こんなサービスの立ち上げをやっててとかっていうのを、少し詳細にお話しいただければと思っていて。入社した最初は何をやっててとか。

鹿毛:入社してから最初は、Web新人と呼ばれる人たちは最初3、4カ月くらい研修があって。まあこの話は別におもしろくないので。

その後7月くらいから配属されるんですね。最初に配属されたのがポンパレっていう、共同購入のチケットサービスで、それの1番最初の最初は、Javaの研修があるんです。

こうやってWebサービスを作るっていうのと、企画の仕方から実際に自分でコーディングをして使ってみて社内だけでリリースして、先輩方に使ってもらう、というのを最初にして。

Javaの研修しかしてなくてですけど、初めて配属された時にイラレとフォトショを渡されて、イラレとフォトショの使い方なんてこれっぽっちも聞いてないぞと思いました。まあ、大学院のころからちょっと触っていたので。

普通、メンターとかって社員さんがついてくれるんですけど、僕の時だけなぜか、社外のゼロベースという会社のデザイナーの人がメンターでついてくださっていて。

1番初めはポンパレのご利用ガイドという、どうやって使いますか、っていうのを既に提示はあったんですけど、それをリニューアルするっていうのを、もうゼロから自分で考えて、考えさせられて、デザインも自分で出して。

そこからコーディング、プロテクトして本番にリリースして、ドキドキしながらリリースして、っていうのが1番最初の仕事でした。

というところから、私はポンパレの機能改善とかをもう色々と1年目で、2年目からは最初の自己紹介とかでも話したポンパレモールというサービスの立ち上げに携わらさせていただいて。

主に、ポンパレモールってECモールですけど、ものを送る側と、物を買う側と2つのサービスを作らないといけない。両方のフロントエンドのデザインとコーディングが必要で。

特にお客さん、買う方のについては、こういうコンセプトでこういうお客さんが来るから、こうした仕様にしましょうといった方針とか、デザインコンセプトとかを一緒に考えて作る、みたいなことを2年目はしていました。

結構社内の中でも重要視されていたプロジェクトだったのに、2年目の若造にそんな400画面も任せちゃっていいの? みたいなところなんですけど、まあやらせてもらった。と言うのが2年目です。

ダブルワークから得た実体験がリクルートの仕事にも活きている

鹿毛:そっからはポンパレモールの運用を2、3年やって。あとは並行して色んなサービスのUIデザイン周りのサポートをしていたりして、去年の8月からAirレジのサポートをして。

そこで何をやっているかというと、結構多いのは週に2、3回くらい実際に使ったお店とかに行って、今僕らが考えていることをぶつけてみて、先方からのフィードバックをもらって改善するということもやっています。

今あまり手を出すことをやらないで、基本的に頭を使って他の人に手を貸してもらうようにして物を作るって感じで。

結構、"蝉 semi"で実際自分でお店を持ったり、一方リクルートではそれを支えるサービスを作っていたっていうのが、自分の中で結構循環してて。多分小売店だと既にありますよとか、こういうことやらないとちゃんと使ってもらえませんよとか、自分の中で実体験とかしているので、そこにものすごく強くリンクしています。

ポンパレモールの時もECサイトなので、"蝉 semi"でもECサイトを自分で作ってたりして、そこのでっかい店、ちっちゃい小売店みたいなことを、自分の中で役割を行ったり来たりして考えるっていうのがすごく良かったなあというのはありますね。

花嫁やOL、いろんな人格になって設計するのが楽しい

栗林:内山さんは50個と結構色んなサービスを立ち上げて来たかと思うんですけど、どんなことをやってきたかというのをちょっとお話しいただきたいなと。

内山:メジャーなところでいうと、スーモをゼロから作ったこと。あとは、リクナビのコンセプトを考えたりとか。リクナビってずっと昔からずっとあるサービスなので、ちょっとした変化をしなければいけないから、1回コンセプトを考え直そうと、コンセプト設計をしたりとか。

あとはゼクシィで花嫁の気持ちになってこう(笑)。

(会場笑)

ゼクシィのアプリケーションをリニューアルしたりとか、幅広く本当にやってるんですね。あとは人材派遣の登録サイトで若い女性の気持ちを追及したりとかですね(笑)。結構いろんな人格になって設計するのが楽しくて好きでやっているんですけど。

その中の設計っていうことろが、本当にコンセプト設計から画面設計までやるんですね。

コンセプト設計はWeb以外のモノづくりでも変わらない

内山:たとえばスーモだったら、スーモって元々5つのサイトを統合しているんですよ。あれ実はまだ6年ぐらいしか経ってないんですよ、スーモってサイトは。

その前は住宅情報ナビとか、フォレントとか、それぞれその頃は超メジャーでしたよね。なんですけど、それを一気につぶして5つのサイトを1個の住宅総合サイトに統合するという、結構すごいプロジェクトだったんですけど。

じゃあ何のためにその5つのサイトを統合するのかとか、統合するとどんなうれしいことがあるのかというのを、家を探す人の気持ちの変化とかを全部調査をして。

例えば最初に家を買おうと思った人は、実は「同じお金払うのなら、賃貸よりもいいとこに住めるから」だとか、賃貸を探していた人が「どうせだったら両親も一緒に田舎に家を建てよう」とか結構あるんですよ。

っていう人の心理を調査するっていうのもやりましたし、じゃあその調査した結果の人が使いやすい画面にするために画面の設計図も書きましたし、もっと細かいとこいくとボタンの色を何色にしようとか、ボタンのピクセル数でどんだけの枠付けようとか、どういうのが1番押されるかみたいな。

そんな風にSUUMOでは上流工程のコンセプト設計から、下流工程の画面設計をするところまでやりました。もちろんプロジェクトによってはコンセプト設計だけやってくださいとか、画面設計だけやってくださいとかあるんですけど、ひと通りやってます。

上流のところはさっき言ったように、Web以外のモノづくりでも変わらないのでそこはすごく活かせたところかなと。

理想だけ伝えられて、後は任されるケースが多い

栗林:今、鹿毛さんも内山さんのところも2年目で任せてもらったりとか、立ち上げをやらせてもらったってあるんですけど、よくうちの会社って本当にポーンと任せておくと思うんですけど、どんなふうに言われて任されたんですか?

「もうこれやっといて」くらいの感じなのか。今学生の時だと指示があったり、「これをこういうふうにやっておいてね」とか言われたりとかすると思うんですけど。うちの会社の場合って、任されたとか立ち上げとかの時って、どういうことを伝えられて、何を求められてやったことが多いのかなと思って。

2人から、どういうふうに仕事を任されたのかをちょっと教えてもらえればと思うんですけど。

鹿毛:僕が2年目の時に任されたのは、ポンパレやっていた時の一緒に働いていた開発の統括の人なんですけど、彼がポンパレをやっていて。

その彼に「鹿毛、全部できるでしょ。全部やっておいてね」って。彼、別にフロントエンド設計だとか、UXデザイン部分は特にこだわりがあるわけではないし、得意なわけでもないので、もう任せると。でも、一応こういう構造で考えているから、そこだけ伝えて、あとはよろしく。

内山:丸投げ多いよね。

鹿毛:丸投げ多い。

(会場笑)

栗林:結構私の時もありましたよ。こんな感じでしたよ。

内山:僕、住宅部門に配属されたんですけど、当時は新卒Web採用がなかったんですよ。僕2007年入社なんですけど、下手したら営業やっていたんですよ。もしくは法務部で契約書のチェックして。総合採用だったんで(笑)。

営業と一緒に住宅の研修をうけていたんですけど、途中で切り上げて、なんかリニューアルをする要員がいないのでやってくれって言われて。「僕もWebわかんないんですけど」と思いながら、デザインすらできる人がいなかったんで、とりあえず1番近しいやつが新人にいるからって連れてこられて。

当時「ほしいリゾート」っていうブランドがあって、そのサイトのリニューアルを研修を切り上げて部門に連れていかれて、Webわかんないのにやりましたね。

そんな感じですよね、リクルートって。わかんないってこっちも言ってるんだけど、そっちもわかんないからやってくれって言われる。

栗林:あるあるですよね。

内山:あるあるってやつですね。

栗林:理想を伝えられて、後は任せる。

内山:後は任す。信じらんないっすよね。

栗林:若い時から裁量権があるところは良いですし。本当にあります。でも不安なぐらいありますよね(笑)。任せるのひと言で片付くというところで。

19時に帰っても仕事がまわると気づいた

栗林:働いてからのお話を広く聞かせてもらいましたが、今まで働かれた中で印象的だった出来事ってありますか? この5年間とか10年間くらいやられた中で、この仕事って印象的だなと。良いも悪いも、そういうところの話ってあれば頂きたいなと思っているんですけど。

鹿毛:僕の中で大きいのは2年目の時の仕事で。丸っと任せてもらえて、その中で自分で考えながら作らないといけないし。任せられたとはいえ、任せている側をきちんと説得しながら、こう考えているんですよっていうのを事細かに話しながら、自分の中で論理立てて話すとか、重要だったので。

あの経験があってこその今があるのかなと。社内である程度コーディングしたりとか、デザインまでやっている人はいなかったんで。

栗林:内山さんはどうでしょうか? いろいろあると思うんですけど、強いて言えば。

内山:あんまり感情の起伏がなくて、「このプロジェクトは楽しかったー」とか、「あれは嫌だった」とかあんまりないんですけど、普段は。働き方を変えたのにきちんとまわせた瞬間は印象に残ってますね。

僕、震災を機に働き方を変えたんですよ。震災の前日までは、結構遅くまで働くことも多かったんですよ。本当にそこでパタンと変えたんですけど。

やっぱりうちの会社、言うても大企業なので、ちゃんと仕事を早く効率化していい仕事をしようというのは、みんな言っているんですよね。

ずっとそういうのをインストールされていたのを震災後に実践して、上手くできて、毎日19時に帰っても何とか仕事がまわるなって状態に気付いたときは「ああ、今まで訓練してきたのが効いてたな。実践すればできるんだ」ってのが印象に残ってますね。

震災の直後って早く帰らされたんですよ。みんなはまだ高校生かな? 僕はもうガッツリ働いてたんですけど(笑)。

鹿毛:僕もまだ働いてないんです(笑)。ちょうどその日、卒業して、卒業旅行に行こうとシンガポールにいこうとしたときに、ちょうど横浜駅で震災があり、家に帰れなかったのでランドマークタワーでその夜泊まって。

内山:みんな若いんですね(笑)。それを境に仕事のやり方が変わった。物を作るだけじゃなくて働き方とか人生とかいろいろ、仕事をしていると考えるので、俺こういう生き方が良いなとか、こういう将来になりたいなとかっていうのをやっぱり考えるんですよ。

その時に、自分でやっているダブルワークの仕事のほうを随分とさぼってたなって思って、せっかくやるなら両立させようと思ったのが印象に残っていますね。

チームプレーが大嫌いだった

栗林:みなさんの聞きたい質問のなかに、学生と社会人の違いというものがありました。物を作っているところは、学生の時も今も変わっていないと思うんですけど、違いってありましたか?

鹿毛:学生の頃はあまり時間を気にせず、自分の時間を使うと。それこそ大学院にいた時は、終電まで研究室にこもって、時にはだらだらして、別に朝が決まっているわけではないから結構遅くまで寝ちゃって、気づいたら11時くらいになっていて。

そのへんが週5日リクルートで、週末2日"蝉 semi"の時もあれば、1日のだけの時もあって、時間の使い方とかを自分の中でちょっとかわっているのかなと。

栗林:今、時間というところで鹿毛さんは話しましたけど内山さんは?

内山:人と作るっていうのは全然違いますよね。研究室の時は1人で設計していて、僕それが好きなんですけど。チームプレーとか大っ嫌いで(笑)。

(会場笑)

内山:それも含めてリクルートで訓練しようと思って、あえて苦手なところで。特に僕デザイナーとか技術者とか粛々と、ロジカルに話しを進めてデザインするのは大好きなんですけど。リクルートとかもう当時は営業マンとか声でかいし、理屈だけでは通らないシーンがたくさんあったんです。

そういう人たちと物を作るってことをやろうと思って。だからデザインのプロセスは全く違いますよね。とにかく売ってくる、売れるものって視点でモノづくりを言ってきたりとか。あとは開発者だったら絶対バグを出さないような作り方を、って言ってくるじゃないですか。

っていうのを調整しながら物を作るプロセスは、もちろんおもしろいんですけどね。それは全然違います。1人で画面でやってたのと。

ユーザーに寄り過ぎるとサービスにブレが生じる

栗林:時間的にも最後の質問として、今サービスを作られている中で自分の中で気を付けているというか、自分がサービスを作られている上で大事にしているポイントがあれば教えていただきたいなと。

鹿毛:なかなか難しい質問ですね。哲学的なところに来ましたけど。自分が何を大事にしていたかと言うと、結構作っていると周りが見えなくなりがちになるので、ちゃんと他の人の意見を聞くとか、ユーザーがどう感じているかというのを考えながら作るというのはもちろんなんですけど。

一方でそこに流されすぎちゃうと、どっちつかずにもなっちゃうんです。その時に自分の中で「こうあるべきだ」というものは軸を持って、そこにあってるか合っていないかぐらいの判断、軸で他の人の意見を聞いたり、ユーザーの意見を聞いたりしている。

ユーザー中心ではあるんだけど、寄り沿い過ぎてしまうと、ユーザーのことをそのまま聞きすぎてしまうと、サービスとしてのブレが出てくる。サービスとしてこうありたいというのを大事にしていくと。

学生とプロのデザイナーの違いは?

内山:僕は目的を達成するデザインを絶対作ろうと思っていて。リクルートはビジネスでサービスを作っているので、ユーザーのことを見るUXデザイングループなんです。とはいえ儲からないと意味ないので。

儲けようというプロジェクトならば儲からないと意味ないですし、社会貢献と世の中を変えたいならば、変わるようなサービスではないとダメだし、目的は絶対に達成するように心がけていますね。

わざとかっこ悪くデザインをしたりとか、どうしてもここの部分が使われたくないから、使いづらく作ったりもするんですよ。学生の時のデザインの考えだと絶対にそんなことはしないんですけれども、よりかっこ良く、より使いやすく作りたいって。

それで目的が達成されないと、リクルートの会社に皆で集まって1個のサービスを作っている意味がないんで、その組織で達成するということは絶対やろうと思って、意図的にカッコ悪くとか、意図的にダサくとか、意図的に使いづらくとか、もしくはものすごく使いやすくとかいうふうに意識をしております。

自分の思いをもちろん盛り込みつつ目的を達成すべくデザインをしています。

栗林:まだまだ聞き足りないですが、以上でパネルディスカッションを終了とさせていただきます、ありがとうございます。

制作協力:VoXT