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ロボットが変える未来(全2記事)

優勝賞金20億円! Google主催の月面探査コンテスト「Lunar X PRIZE」

Grabit創業者のCharlie Duncheon (チャーリー・ダンチョン)氏、ispace・袴田武史、ランサーズ・秋好陽介氏が「ロボットが変える未来」をテーマに議論を交わしたトークセッション。本パートでは、月面探査を手がけるスタートアップinspaceの袴田氏が、月面無人探査を競うコンテスト「Google Lunar XPRIZE」を紹介しました。(新経済サミット2015「ロボットが変える未来」より)

ロボットスタートアップ・Grabit社の紹介

秋好陽介氏(以下、秋好):今日はよろしくお願いします。

袴田武史氏(以下、袴田):よろしくお願いいたします。

秋好:まずチャーリーさん。30年間、ロボットの事業をされていて、今GrabitでCEOをされているということなんですけれど、最初に簡単にイントロダクションをお願いしてもよろしいですか?

チャーリー・ダンチョン氏(以下、チャーリー):皆さんこんにちは。紹介いただきました、チャーリー・ダンチョンと申します。Grabitの共同創設者です。シリコンバレーに会社はありまして、2011年に創業したロボットのスタートアップ企業です。

特に電気接着型のグリッパーを、その専門としております。ロボットを今購入されますと、実は最後の先端のところはないんです。ロボットは今まで、人間の腰、胴体とか、肩とか、肘とか手首とかは非常に上手く再現しているんです。

ところが、手のところはまだまだなんです。そこで、ロボットをこの世界で伸ばしていくためには、様々なグリッパーができて、そしていろいろなものに対応できるようになる必要があります。

私たちGrabit社は、まさにそれをやろうと思います。人間の指を真似ようとするんじゃなくて、柔軟なグリッパーで、人間の手、指ができるようなことを、同じように別の形でやろうとしています。

今までロボットの自動化、特にマテリアルのハンドリングのほう、このグリッパーっていうのは、対象物によって、専門のものが作られてきました。そこで、いくつかの技術を今日紹介します。

Grabitのほうでやっている、ロボットが柔軟な形で、いろいろなものに対応できるようにするための技術です。ロボット自動化の要素技術、また、その成長のための技術ですけれども、何ができたのか。

人間との協調、柔軟なグリッパー、そしてAIの時代へ

チャーリー:1980年に流動化のためのロボットのビジョンがうまれて、これによってロボットがかなり伸びました。最近になって、人間との協調型のロボットというのが出てきました。これによってロボットの導入も、さらに早くなっていっております。

人間と一緒に、ロボットがどういった活動ができるのかっていうことです。その次に重要になるのが、柔軟なグリッパーだと思います。これによって様々な用途にロボットが使える。今まで使えていなかったところで使えるようになると思います。

そして、このグリッパーの次に来るのが、人工知能かなというふうにも思います。これによって、さらにロボット導入が加速化すると考えます。

ここに今流れております映像は、ロボティクスの適応型フィンガーです。いろいろな組み立てをしております。数年前にはできなかったような組み立てをしております。もう1つの技術、これは「Jamming」と呼んでいる技術です。

ビンバッグというふうに言っていますけれども、中に粒状のものが入っていて、それが対象物の周りに行って、そこから空気を抜くことによって、そのものにまとわり付くということで、こうして把持する。

様々なものを対象に使うことができます。これはエンパイア社という、ニューヨークのロボットの関係の会社が出しているものです。そして弊社Grabitは、電気接着といった技術を使っております。最初は2次元的なパーツを対象にしております。グリッパーにカインして、そしてそれから対象物の表面に電荷をかけます。そして、その逆の電荷でくっつけるということです。

この1つのグリッパーで、こういったパケットから、この携帯電話の対応もすると。今ここに、ロボットのグリッパーがあります。弊社のものなんですけれども。こうして携帯電話を持ち上げることができます。

電気接着と言いますけれども、対象物に悪影響を与えることはありません。同じこのグリッパーで、他にも色々持ち上げることができます。これがElectroadhesion、電気接着という技術です。同じグリッパーでリーバイスジーンズのポケットの生地なんかも、今まではどうしても世界中で、手でしかできなかったところ。これをミシンのところに持っていくのに使えるわけです。

生鮮食品も傷つけない、柔軟なグリッパー

チャーリー:弊社Grabitは、最初2次元的な、例えば生地だとか、パンチメタルシートとか、ガラスとかから始めました。例えばポケットとか、ジーンズとかシャツとか、そういったところに、縫い付ける生地片をとっていくことができます。

さらにビジョンも組み合わせております。例えばフレキシブル回路なんですけれども、どういう方向にあるのか、LEDの照明を付けて、パーツがどっちの方向に向いているのかがちゃんとわかると。

カメラから対象物を下から覗き込んで、ロボットにその位置、方向を知らせてやることができます。他にも様々な箱。2つのグリッパーを使えば、いろいろなボックスも対応することができます。

それから非常に大きな用途、アプリケーションになると思いますけれども、数十億ドルのアプリケーションになるのが、eコマースのオーダーピックです。製品のピックをする。今は人間がやっていますけれども、グリッパーが様々なものに対応して、ピッキングをしております。

ビジョンを使って、どういったものを対象としているのかっていうのも確認しながらやっています。同じグリッパーで、トマトとかリンゴとか、そういったような生鮮食品も非常に優しく扱っています。傷を付けたりしません。

私自身は産業界でずっとやってきました。工場で仕事をしてきました。ただ、こういったグリッパーで様々なパーツに対応することが、倉庫や工場でちゃんとできれば、ロボットが家庭に入っていく。

そして在宅医療など、または個人の世話をするといったようなこともできるようになっていくんではないかと考えています。最後に、シリコンバレーの最近のプレゼンテーションではドローンを含めないわけにはいかないような時代になってきました。

これはGrabitのほうで使っております。このようにドローンにフィンガーが付いています。これは私どもの駐車場でやりました。そして、こうしてボックスを持ち上げて、そして駐車場の端から端まで飛ばして。

最初は建物にボーンと衝突させちゃったんですけれども、箱の中に入れて、そしてカインを止めると。そして、バイバイという形で立ち去ると。

こういった場にお招きいただきましてありがとうございます。非常にこれから、このセッションを楽しみにしています。

Googleにも認められた、世界TOP5の宇宙系スタートアップ「ispace」

秋好:楽しかったです。じゃあ袴田さん、ispaceを創業され、まさに人類の生活圏を宇宙に広げるっていうことをテーマにされていると思うんですけれども、自己紹介していただいてよろしいでしょうか。

袴田:改めまして、ispaceの袴田と申します。私は月面探査のプロジェクトを今、手掛けていまして、人類が宇宙で生活圏を築けるような世界を作っていきたいというふうに思っています。

宇宙とロボットの個人的な出会いとしては、小学校の頃にロボットコンテストと「スター・ウォーズ」をテレビで見まして、そういった世界にずっと憧れてきて、今こういったことをやっています。

ただ、いきなり宇宙と言われても皆さんあまりイメージ湧かないと思うので、まず簡単に今、宇宙の開発が変わりつつあるというのを紹介したいと思います。NewSpaceという言葉が、アメリカを中心に出てきています。

これは、今まで国が宇宙開発を担ってきたものが、民間で宇宙開発をやろうという大きな流れになってきています。それが起業家によって成し遂げられつつあって、非常に安いコストで宇宙にアクセスをする方法っていうのが今、多く出始めてきています。

そのきっかけになっていることが、大きく3つあると思っていまして、1つがアメリカを中心に地球周りの宇宙開発を、国から民間にマーケットを開いたというのがあります。2つ目に、ロケットも民間で開発をされ始めてきていまして、コストが大きく下がっています。1ケタ、2ケタさがってきているような世界になってきています。

3番目に、外部から多くの起業家が参加をし始めていると。多様性によって、これから宇宙開発のイノベーションが、大きく起こりつつあるというふうに考えています。その新しい宇宙開発の流れの中で、Google Lunar XPRIZEという、賞金レースが行われています。賞金レースによって産業化を早めようというような試みです。

このGoogle Lunar XPRIZEというのは、月面に民間資本のミディロボットを送り込んで、500メートル以上移動させて、動画を地球に持って帰ってくる、送信してくると。それを一番最初に成し遂げたチームに賞金2,000万ドル、日本円ですと20億円程度になりますけれども、それを出しますというようなレースになっています。

この賞金に関してGoogleがスポンサーになっているので、Google Lunar XPRIZEという名前が付いています。最近、このGoogle Lunar XPRIZEの中で技術開発が進んでいるチームに対して、事前に賞金を出しましょうということで、Milestone Prize、日本語で言うと中間賞金っていうものが発表されました。

今年の1月に5チーム、その中間賞の受賞チームが発表されまして、我々HAKUTOというチームを運営していますが、その5チームの中に入っています。ですので、世界で今トップ5に入っているというところです。

ロボットは人間の能力を拡張するもの

秋好:しかもこのチームの中で、日本だと唯一ということですね。

袴田:はい、そうですね。世界で18チーム参加をしていますが、日本では唯一参加をしています。今日、この中間賞を取る時に開発をしたローバーをお持ちしているので、デモンストレーションしたいと思います。お願いします。

我々、非常に小さなローバーを開発しています。他のチームが数十キロ、または国の宇宙開発ですと数百キロのローバーを開発していますけれど、我々のローバーは10キロ以下です。今日お持ちしてあるのは、実際に8キロぐらいの重さです。

そういった小型なモビリティを、月の上では砂に覆われていて、非常に滑りやすい環境ですので、そういった環境でもちゃんと動くような駆動周りを開発をしています。そしてコンポーネントも、普通、宇宙開発というと、特殊な電子機器を使うようなイメージがあるかと思いますが、我々は民生品をなるべく活用しようということで、非常にローコストで開発をしています。

我々は、こういったローバーを東北大学と一緒に開発をしていますが、こういったロボットの主な機能としては、人間の立ち入らないような環境に対してアクセスをする能力を確保するというようなロボットになっています。

人間が立ち入れないところというと、火災の現場ですとか、宇宙もその最たるものですけれども、あとは水中ですとか、砂漠ですとか、原子力の中ですとか、そういった環境が考えられます。

そういったところに、人間がアクセスする能力を拡張していくというのが、我々が開発をしているロボットです。東北大学を中心に開発をしている事例を、いくつか紹介したいと思いますが、こちらはQuinceというロボットでして、福島原発に、津波のあと日本で初めて入ったロボットを、東北大学の一緒にやっている吉田和哉教授が共同研究で入っています。

それ以外にも、今は地上を走るロボットでしたけれども、これはドローンと組み合わせて、建物の中のマッピングをするというようなことも研究をされています。さらには、これを野外に持って行って、こちらはUAV、ドローンのほうが中心ですけれど、ドローンで火山の火口付近までロボットを持って行って、そこでロボットを切りはなして、火口付近の人間が立ち入れないところを探査していくというような研究開発がなされています。

これは東北大学の事例なんですけれども、我々はそういった技術を活用して、「Expand our planet. Expand our future.」ということで、人間が宇宙に生活圏を作っていくという時代を作っていきたいというふうに考えています。

ロボットは生産性を高めるツールのひとつ

秋好:ありがとうございます。早速セッションのほうに入っていければなと思うんですけれど、プレゼンの中にもあった、宇宙とか火災とか、まさに原子力の中とか、人が行けないところにロボットが行って、いろいろと可能性が広がっていくっていう時に、セッションのテーマでもあるんですが、ロボットがどう社会を変えていくのかっていうところに、まず袴田さんから、よろしいですか?

袴田:まさに我々がトライをしているところかと思うんですが、人間の能力を拡張していくということが、ロボットの使えるところで、それによって人間の生活が変わっていくというふうに思っています。

端的な例ですと、火山の探査とかで、火山の状況がわかることで人類が生存する安全性を高めたり、または宇宙に行くことで、宇宙で活動していく人間の生活の基盤を作ったりというところができてくるというふうに思っています。

秋好:ありがとうございます。袴田さんは、どちらかというと宇宙とかっていうところをやられていると思うんですが、チャーリーさんは産業用のロボットっていうところをされていると思いますが、ロボットが、どう社会を変えていくというふうに思われますか?

チャーリー:ロボット、これも生産性向上のツールの1つだと思います。かなり大きな影響をもたらす生産向上になると思います。ロボットを生産性向上のツールとして導入すると、製品のコストも下がります。生活の質、レベルが上がるということ。そういう意味では非常にプラスの影響が、生活レベルについて出てきます。

そして今、企業が国内に留まれる、または国外から国内にもう一度戻ってくることができるようになってきます。ちなみに、真っ暗な中で、ライツアウトの工場っていうのはありません。ロボットにいろいろなことをやってもらいます。

製造の仕事、サプライチェーンに何枚も増やすことができると思います。したがって、それが日本であれ、米国であれ、ドイツであれ、ロボットを入れることによって、生活の質が高まるというふうに思います。さらにその分、ロボットを入れることによって、新しい仕事をたくさん作ることに繋がると思います。

自動車産業だけでも、ロボットが15万人分の雇用をうみだしている

秋好:生産性が上がるというお話があったと思うんですけど、生活が便利になる一方で、すごくよくある質問だとは思うんですけれども、我々人間側の仕事がなくなっていくんではないのか。ロボットと共生ってできるというふうに思われますか?

チャーリー:今までの歴史を見ても、先ほど言いましたように、ロボットが入ることによって、新しい仕事がたくさん生まれます。シリコンバレー・ロボットという表現があります。2009年から2013年にかけて、ロボットを使っている企業に、いろいろと聞いて回ったんです。

そうしますと、自動車業界だけで見ても、15万人分の新規雇用ができました。これはロボットを入れたからこそできたような業界です。確かに、仕事はロボットに変わる部分もたくさんあります。ただ、そういった仕事というのは、本当につまらない。

しかも危険な仕事であることが多い。今、中国なんかで契約製造をされるところ、場合によっては心理的な、精神的な、衛生面での問題もあります。それをロボットが置き換える。それがミクロ的には確かに置き換えなんですけれども、マクロ的にいくと、非常に健全だというふうに思います。

秋好:ありがとうございます。袴田さんに同じ質問。ロボットと人間っていうのは共生できると思いますか?

袴田:そうですね。最終的には共生していくとは思いますが、ただ導入のところが、1つ大きな壁があるかなというふうに思っています。特に日本ですと、ロボットに対する幻想みたいなのがあるような気がしていまして。

秋好:それはドラえもんっていうことですか?

袴田:そうですね。ドラえもんですとか鉄腕アトムですとか、そういうのに代表される、かなり万能型の。

秋好:なるほど、何でもできる。

ロボット三原則の重要性

袴田:何でもできるロボットというイメージが強いかなというふうに思っています。ただ、ロボットというのは人間の作り出すもので、基本的には人間が作る仮説の中でしか、今は動くことが、メインではできないと思うんです。

特にいろいろな機能を組み合わせていこうとすると、さらに複雑になって、なかなかそういった万能型のロボットっていうのは、開発にすごいコストもかかりますし、時間もかかる。そういったことがありまして、あともう1つは、セーフティーですとかクオリティの問題もあるかなと思っています。万能っていうところにも繋がるかと思うんですが、こういうリスクが、例えば原発で使う時も、何かいろいろなリスクを考えて。

秋好:日本が特にそうだっていうことですか? それとも一般的に。

袴田:そうですね。日本は特にそういった傾向が強いかなとは思っています。

秋好:自動運転とかもありますけれど、本当に身を預けていいのかっていうのは不安ですよね。

袴田:そうですよね。Googleカーに代表されるような、自動走行のロボットカーも、人間が乗った時に、最終的にロボットに任せて事故が起きてしまっては困ると。なので、すごい導入に苦労しているというふうには思います。ただ最近の流れですと、人間の能力をアシストするという方向で、そういった部分的な機能を付加していこうというところがあると思います。

秋好:アシストっていう表現がいいんですかね。

袴田:おそらく最終的にはやはり、人間は人間の判断しか信じないっていうところもあるとは思います。

秋好:チャーリーさん。今ちょっと日本の話になって、日本では特にロボットに対して、安心安全、不安な面があるっていうのがあるんですけれど、アメリカにおいてはその点っていうのはどうですか? 同じように不安はありますか? ロボットに対して。

チャーリー:安全の懸念っていうのはあります。ヨーロッパのほうでは、CEという認定があります。これは製品が安全かどうかっていうことです。このGrabitのグリッパーも、電圧、高圧になってもショックを受けません。こういったようなCE認証を受けています。

安全性という形では、規制がもう既にあります。先ほどのセッションでもありましたように人工知能のソフトウェアが、自動的にソフトウェアを作り出すといったようなことが、繋がります。ロボットが人工知能を持っても安全なのかという、これは重要な質問だというふうに思います。

アイザックアシモフって聞いたことある人、ちょっと手を挙げてください。この人はチェコの劇作家で、1942年に『アイロボット』という作品を書かれました。そして作中で3つのルールをロボットに与えました。

「ロボットは人間に危害を与えてはならない」という1つ目のルール。2つ目は「常に人間に従順である。ただし1つ目が問題の時は、それをオーバーレートしてもいい」と。3つ目は「常にロボットは、ルール1、2に反しない限り、引き続き生存するようにする必要がある」と。この今の時代でも、AIが入ってきても、重要なルールだと思います。

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