2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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司会者:お待たせいたしました。酒井さま、よろしくお願いいたします。
酒井穣氏(以下、酒井):はい、よろしくお願いします。そんなに長い講演ではないんですけれども、『リーダーシップ進化論』の話をさせてください。
この『リーダーシップ進化論』は、昨年の11月に出版した400ページもある非常に分厚い本です。書いた原稿の量はこの1.6倍ありまして、本当は600ページを超えるような本だったんですけれども、編集者に怒られまして、泣く泣く短くしました。そうは言っても400ページもある、けっこうな本になります。
『リーダーシップ進化論―人類誕生以前からAI時代まで』(中央経済社)
今日はご参加いただいてる方の中には、少なからず読んでくれている方もいるのかなと思いつつ。まだ読んでいない方に対してもわからない話にならないように、一応工夫はしてます。ちょっとの時間なのでお付き合いください。
私は株式会社リクシスという会社を2016年に創業しました。仕事と介護の両立支援ですとか、シニア領域において新しいビジネスを立ち上げたいという会社さんに対して、コンサルティングやリサーチをご提供しているような会社になります。
今回はグロービスのセミナーということで、ちょっと「志」っぽいことをお話しさせていただきます。2026年には上場して資金調達をし、そこから世界に出ていきたいと考えている、そんな会社の経営者でもあります。
他にも、NPOカタリバの理事をしています。もう10年以上、まだカタリバの職員が5名ぐらいしかいない時に入りました。今現在は職員も150人を超えています。これも自分なりのスタートアップの経験になっています。
酒井:それから、プロ野球選手会の顧問もやってます。皆さんにご理解いただきたいのは、プロ野球をはじめとするプロスポーツというのは、華々しく活躍する選手がいる陰で、多くの選手が活躍できずに、または活躍を終えて、次の人生を歩まなければなら無いということです。
プロ野球選手では、だいたい年間100人ぐらいの方が実質解雇になるんです。私はずっとそうした方々が次の人生を歩むために、ビジネスの基本や、場合によっては中学時代からの勉強のやり直しもお付き合いさせていただいてきて、昨年から正式に選手会の顧問というポストをいただきました。
僕が株式会社リクシスを立ち上げる前は、フリービット株式会社という東証1部上場企業で取締役をさせていただいていました。しかし、まさにグロービスで学ばれている皆さんと同じで、自分のたった1回の人生でどういうことをしていくべきか、いろいろモジモジと考えた結果、このリクシスという会社を立ち上げました。
僕自身は、実は母子家庭の一人っ子で育っています。母1人、子1人で暮らしていたんですけど、17歳の時から母親の介護が必要になりまして。現在まで32年、母親の介護をしながら、自分のキャリアを築いてきました。
僕には、この32年の知見があります(笑)。これから多くの先進国は、たくさんの方が介護を必要とする未来になっていきます。グロービス的に言うと、世界の先進国における最も大きな成長が期待できる領域が、この「高齢者市場」になります。そこに対していろんなペインがありますので、それを解決していきたいという思いで、今、日々がんばっております。
教員としての背景も過去にはありまして、ビジネススクールで、スタートアップとか新事業開発のゼミを持っていた時代もあります。
ユニークなところでいうと、オランダに9年住んでました。ASMLという会社のオランダ本社で、エンジニアとして、当時は1本8億円ぐらいする工業用レンズを設計したり、その問題・課題解決をしていた時代もあります。
酒井:もともと文章を書くのが好きなので、本もたくさん書いています。今日の僕の話に少し興味を持っていただいたら、僕の名前で検索していただけるといろんな本が出てきます。
一応、同じテーマで2冊は書かないということを自分で決めています。そうした中で一番売れてないのが料理の本なんです。『料理のマネジメント』って本を書いてるんですけれども(笑)。あとは三国志の曹操孟徳に関する本(『曹操―乱世をいかに生きるか』)ですとか。まあいろんな本を書いてますので、よろしかったらそれを読んで楽しんでいただけたらなと思います。
では今日の本題に入っていきます。今日は、この『リーダーシップ進化論』という本についての講演になります。この本で想定した読者像は3つです。
1つ目は、まず「次は○○だ!」「次は何だ!」「次は何だ!」って流行のように、いろんなナレッジがこの世界で氾濫してるのかなと。そうした「次は○○だ!」のような(情報が出てくる)速度がめちゃくちゃ速くなっている。
その中で、それをキャッチアップしようとがんばってる自分自身にちょっと虚しさを感じる。大きな書店に行って、ベストセラーとして積み上げられてる本を次々と買う中で、後ろのほうで「アンモナイトの歴史」とか、まったく役に立たないんだけどおもしろそうだなって心惹かれるような本がたくさんある。
このような中で、「自分は何を勉強していくべきか」と、モジモジしている人。
酒井:2つ目は、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉をみなさんもご存知だと思います。「歴史に学ぶ」ってどういうことだっけ? という。
例えば、司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読めばビジネスに強くなるんだっけ? というように、ちょっとよくわからなくなっちゃっている。結局、日々の経験の中からしか学べていないということについて、「ちょっとどうなのかな」って思っている人。
3つ目はつらい話なんですが、社会がすごく厳しくなってますよね。(富裕と貧困の)二極化という話があります。多くの人が、特にグロービスで学んでる方々であれば、「二極化するのであれば、できれば富裕層のほうに行けたらいいな」って思っていると思います(笑)。
ただ、例えば金融資産1億円以上になれる人は、国内でいうと全体で3パーセントを切るぐらいしかいないですよね。よく考えてみると、たった1回の自分の人生を、出現確率3パーセントの「当たらないくじ」に賭けていいんだっけ、という。
逃げ切るには富裕層になるしかないんだけど、本当に安全が確保できるぐらいの富裕層になる確率は、非常に低いわけですね。その確率が非常に低いことに対して、人生のリソースをぜんぶ突っ込んじゃうのは、本当に自分のたった1回の人生の正しい戦略なんだっけ? いろいろ考えるところがあると思います。僕自身もすごく悩んでます。
結局これらは、僕が重要だと思っているテーマです。それについて書こうとしたら、まあこんな人類史っぽい本になってしまったという背景です。
酒井:次に進みます。本書の中の重要な概念として背骨になっているのが、「自己組織化」という、ちょっと難しい言葉なんですけれども。本来は物理とか化学の世界で使う言葉です。どういう意味かというと、簡単に言えば「誰の意思にもよらず、特定の秩序構造が自発的に、勝手に生まれちゃう」ということです。
「誰かの意思でそうなってるわけではありません」ということは、まあ当たり前なことかもしれないんですけれども、サイエンスのフィールドからはそう見えますと。
例えば、宇宙は138億年前に誕生しました。地球ができたのが46億年前。地球で生命が生まれたのが38億年前ですね。これも別に誰かが「生命よ生まれろ!」って生まれたわけじゃないわけです。
人類が誕生するのが700万年前、我々の直接の祖先であるホモ・サピエンスが生まれたのが20万年前。それから、インターネットが登場したのが最近です。インターネットが登場した結果として、これから我々は「シンギュラリティ」と言われるような、かなり厳しい世界に入っていくところです。
シンギュラリティ、もちろんご存知の方もいれば、そうじゃない方もいると思うので簡単に説明をすると、みなさんの目の前におそらくパソコンがあると思います。このたった1個のパソコンの力が、人類の知恵をぜんぶ足した処理能力よりも上回る時のことです。もちろん人間しかできないことを一生懸命見つけるのもいいんですが、どんどん人間ができることを機械が代替していく未来が、はっきり見えているわけですね。
そうした中で、多くの失業が起こることがはっきりと見えています。もちろんそれに対して、ベーシックインカムとか、何か準備しなくちゃいけない社会がもうすぐ目の前に迫っているという事実もあります。でも、どうしてこんなことになっちゃったんだろうか。
酒井:宇宙のストーリーからシンギュラリティまで簡単に書いたんですが、これは自分の人生もそうですよね。自分の人生をじっくりリフレクション、つまり振り返りをしてみた時に、「なんで自分はこういう状態になってるんだっけ」と。
(自分が今の状態になっているのは、)ぜんぶ自分の意思ですか? 自分の意思ってどれぐらいそこにあるのでしょう? もちろん多少はあるんだけど、なんかそうなっちゃったよねって、不思議に思うんじゃないかなと。
それも実は、背景には「自己組織化」があります。まあ環境論ですね。
例えば私が今、仕事と介護の両立支援とか、シニアビジネスという領域でがんばっている理由は、私が17歳の時から介護をしているからですよね。それがなかったら、介護とか高齢者に興味を持たなかったかもしれない。
結局、環境によって我々は相当シェイプされている、作られている。その点はご理解いただけるんじゃないかなと思います。
本当に偶然なんですけど、私はこの本の中で第3次世界大戦を予言しています。それで、今はこんな環境にあるわけですけど。予言できている理由は、別に私が預言者だからではなくて、ピーター・ターチンの「サイクル」をたまたま知っているからです。
ピーター・ターチンはもともと生物学者なんですけれども、彼は「社会問題は歴史上、何度も繰り返されている」ということをはっきり述べています。
これが自己組織化によって「勝手に」生まれてるんだということです。誰かが「こうしたい」と思って生まれているのではなく、むしろそうしたくないのにそうなっちゃうという、運命ですね。
酒井:それを運命と言って片付けるのではなくて、裏側にどういうメカニズムが働いているのかを明らかにしているのが、ピーター・ターチンです。すごくおもしろいんです。
人口が増加する。特に農耕の誕生によって人口が大きく増えると、人口密度が上がります。それに対して、土地とか限られた資源は簡単には増やせない。生きていくために必要なんだけど、簡単には増やせない資源というものを、所有している人と所有していない人の間で、大きな格差が生まれます。
人口はどんどん増えていくので、労働者1人当たりの賃金が、例えば土地に対して相対的に下がります。そうなると、土地とか水源とか、なんでもいいんです。最近だと教育とかもそうかもしれませんね。そういう資源を持っている富裕層と、持ってない人たちの格差は確実に広がっていくわけです。
じゃあ富裕層が楽なのかというと、そんなことはなくて。富裕層は富裕層で、限られた社会的ポストの争いを激化させます。安価な労働力を背景として、富裕層の間での争いもどんどん大きくなっていきます。
国家が富裕層を制御できなくなり、格差が極限に近づき、人々の不満が高まる。社会不安が増すことで、暴動や戦争が起こる。
かつては暴動や戦争が富裕層の富を破壊して、格差が縮まりました。格差が縮まった結果、また子どもが増えるということを繰り返しているんだというのが、ピーター・ターチンの言う「サイクル」だったりします。
我々が今目の前にしているのは、「格差が極限に近づき、人々の不満が高まる」というところの前後にいるわけですね。その先で暴動や戦争が起こる。これは避けがたいことだと、はっきりとわかるわけです。
酒井:ただし、避けられないから、自己組織化だから、我々は諦めるのかというとそうじゃない。だから、リーダーシップが必要なんです。自己組織化が生み出す悲惨と戦う存在が、リーダーだと思っています。
成り行きで、このまま誰も手を加えないと出現してしまう未来の問題というのを、歴史のトレンドからきちんと把握して、その解決に対してどのように挑むかというのが、リーダーに求められている態度だし、そんなリーダーが増えていくといいと思っています。グロービスが言うところの「志」は、こういうことなのかなと僕は理解しています。
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