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孫正義氏 基調講演(全3記事)

孫正義氏が描く、日本の競争力復活のカギ 減少一途の日本の労働人口を補う「スマボ」とは

今年で10回目となる「SoftBank World 2021」が、9月15日から17日にオンライン形式で開催され、ゲストを交えた基調講演やパネルディスカッションなど60以上のセッションが行われました。本記事では、孫正義氏による基調講演を3回渡ってお届けします。第1回目の今回は、日本の競争力復活の鍵を握る「スマボ(スマートロボット)」の特性や、スマボによる成長戦略などを語っています。

ロボットが、日本の成長戦略の要になる

孫正義氏:みなさま、こんにちは。ソフトバンクグループの孫でございます。よろしくお願いします。「SoftBank World」は年1回のイベントですが、去年と同様、今年は新型コロナの対策ということで、オンラインで行っております。それでは、さっそく始めましょう。

先日、イーロン・マスク率いるテスラが、人型のロボットを発表しました。ロボット好きの私としても、大変楽しみにしているところです。いよいよ本格的なヒューマノイドの世界がやってくるという予感をさせてくれる発表でした。こういうかっこいいヒューマノイドがどんどん出てくると、人間とロボットのあり方もこれから変わってくると思いますね。

ロボット好きの私としては、「いやいや、ソフトバンクグループも実はやっていましたよ」ということを世界に言いたいですね。「Pepper」であります。もう数年前に我々も華々しくPepperをデビューさせましたが、新しい製品を出すというのは、なかなか難しいものであります。

今日のプレゼンのメインテーマとして、ロボットの話を中心に行いたいと思います。実はこのロボットの世界、私はもしかしたら日本の成長戦略の要になるんではないかなと思っている次第です。

『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(ログミー註:1979年に出版されたエズラ・F・ヴォーゲル氏の著書)や、当時の輝かしい日本を象徴するような出来事として、ソニーの盛田(昭夫)さん、そして石原(慎太郎)さんらによる本(ログミー註:1989年に出版された『「NO(ノー)」と言える日本―新日米関係の方策』)が出版されたりしましたね。

日本は世界一技術力があって、GDPもガンガン成長していて、もうじきアメリカを抜くんじゃないかと。GDPが世界一になるんじゃないかという勢い真っ盛りの頃に出た本でした。多くの日本人がワクワクしたんではないかと思います。

世界の経済を牽引するんだ、ということで、自動車もエレクトロニクスも半導体も、さまざまなテクノロジーが日本から生まれてきました。いろんな競争力ランキングの調査の中でも、日本は世界のトップを誇るという時期でもありました。

『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が出てから10年ぐらい、競争力ランキングで1位を取ったわけですが、その後どうなったかというと、2位になり3位になり4位になりと、あっという間に日本の競争力は低迷してしまう状況になったわけです。

競争力は、労働人口と生産性の掛け算で決まるもの

世界でアメリカに次ぐ2位だった日本のGDPも、ついに中国に抜かれて3位になりました。しかし競争力が低迷しているということは、GDPはこれからもどんどん他の国々に抜かれてしまうのではないかと、私としては非常に日本の危機だと思っているわけです。

GDPも、アメリカはますます大きな1位として伸びて、低迷している日本、その間に中国が一気に抜き去ってしまったという状況です。

そもそも競争力とは、労働人口×1人当たりの生産性ではないかと私は思います。この2つの掛け算以外は何もないと思っております。その労働人口ですが、日本の労働人口は落ちる一方で、かつてナンバーワンの競争力を持っていた頃に比べれば、半分になるのではないかという状況であります。

生産性も低迷しているということですね。労働人口が落ちて、競争力が落ちて、生産性が落ちるという日本の将来を、私は非常に危惧しています。

AIが日本の企業にどのくらい導入されているかと言うと、アメリカの35パーセントに対して日本は24パーセント。感覚的には日本はもっと少ないような気がします。ロボット、IoT、それぞれ最先端の分野で、日本の導入率が非常に遅れていることが問題であります。

競争力は、先ほどから言ってるように労働人口と生産性ですが、労働人口は急には増えない。これはなかなか大きな問題でありまして、生産性も低迷したままだと、日本はこのまま衰退するのかと。

ほとんどの人はもう「衰退するけど、小さくて美しい国」とか「それでいいんじゃないか」なんて。「観光立国日本」も大事なんですが、古きよき都みたいな話ばっかりじゃあ、ちょっとさみしいですよね。住みよい街、美しい街でいてほしいけれども、やっぱり競争力も復活してほしいと、私は心から願うわけです。

日本経済復活のカギを握る、スマートロボットこと「スマボ」

日本の競争力の復活、経済の復活。やっぱりこれがないと、人々の生活は豊かにならないわけですね。この復活の鍵を握ってるのは何か。私は「スマボ」だと思っております。スマボ、新しい言葉ですね。

これは何かというと、「スマートロボット」の略であります。日本の通信の世界、モバイル通信の世界がガラケー一色だったところに、あのスティーブ・ジョブズと組んで日本に「iPhone」を導入した、その最初のパートナーが我々ソフトバンクだったわけです。

iPhoneのデビューの時にですね、多くの日本の通信企業の社長だとか役員、そしてメディアの方々も「iPhoneなんて売れない」と。「どうしてですか?」と言うと、「だっておサイフケータイがついてないじゃないか」「ワンセグがついてないじゃないか」「そんなもの携帯電話の最先端の国の日本では売れない」と。

多くの専門家も含めて、大変非難轟々という状況がありましたが、私は両膝がガクガク震えるぐらいの感動をしたわけです。見る人によっては、「これは日本では流行らない」という人がいたり、ガクブルというぐらい興奮したりと、大きく2つに分かれたんじゃないかと思います。

その後の世界中の人々のライフスタイルが、スティーブのたった一発の作品で、人類の未来が変わったというぐらい欠かせないものになりました。ガラケーからスマホの時代に一瞬で変わってしまった、ということです。

今まで日本は、ロボット大国だと言われました。日本のあらゆる製造現場で、さまざまなロボットが活躍しています。自動車業界だとか、織物だとか、いろんなところで、「日本のロボットは世界一製造現場で普及している」と言われてきましたが、私はこれが「ガラボ」だというふうに思っています。

ガラケーと同じような意味合いで、ガラボだと。それに対して、スマホが一瞬で変えたように、スマボがこれからロボットの世界を一瞬で塗り替えていくと、こういうふうに思っている次第です。

従来のロボットのイメージを覆す「スマボ」

スマートロボット、略してスマボの何が違うのか。

ガラボは、人が一つひとつプログラミングし、決まった動作をします。一部の産業では、重たいものを持ち上げるとか、正確にスクリューを回してネジ止めするとか。今までは、場所や、回すスピードだとか、決まった作業をするプログラミングを一生懸命、人間が取り決めして行っていました。

つまり機械的に、決まりきった動作をするものの代名詞が、ロボットだったと思いますけれども。まさにガラボというのは、そういうカクカクしたものであったということであります。

それに対してスマボはどうかというと、AIで学習していくと。自ら学習する。見て、聞いて、そして学んで、臨機応変に動いていくということです。一つひとつ細かいプログラミングをしなくてよく、応用が効くので、あらゆる産業でこれから使われていくと。

むしろ、人間のほうがより機械的で、柔軟に学習していくスマボのほうがよりフレキシブルで臨機応変で、と。ロボットのような人間と、人間のようなスマボと、むしろ位置が逆転するんではないかと思えるような世界が、これからやってくると私は思っています。

各企業の成長を、資本家の立場で応援するソフトバンクグループ

我々もPepperだけではありません。ソフトバンクグループもいろんな取り組みをしています。例えば、Boston Dynamics。私はヒューマノイドで少なくとも、今最も世界で進んでいる企業が、Boston Dynamicsではないかと思っています。

我々は、Boston Dynamicsの提携パートナーとして、ヒュンダイ・モーターと組みまして。彼らがこれから80パーセントのオーナーになって、我々は20パーセントを持ち続ける。

ソフトバンクグループは、基本的に自分がオペレーションするよりは、各企業の成長を促進する。支援する。そういう資本家としての立場で応援するということになったわけです。とにかくBoston Dynamicsは、私はすばらしい会社だと思ってます。

見ている方、知っている方もいるかもしれませんが、最新のBoston Dynamicsのヒューマノイドの映像をここで振り返って見てみたいと思います。

すごいですよね。どうですか、みなさん。あれ、一つひとつプログラミングしていたら大変ですよ。何センチの高さにどうやって、どういうものがあったらどうしなさい。右足出して左足出してって、なかなか大変だと思うんですね。

AIで、リアルタイムに、斜めのところまでジャンプしながら、そして宙返りしながら、バーを乗り越えて。リアルタイムに、カメラで視覚、距離とか形だとか、着地の場所とかを見ながら、その場でAIで学習しながら判断していっているんですね。

ですから、工事現場だとかいろんなところで、人間の作業員よりもより機敏に、より安全に、より素早く、物を運んだり片付けたりというようなことが、これからできるようになるんではないかと思いますね。

スマボとガラボの決定的な違いとは

Boston Dynamicsは、ヒューマノイドだけではないです。もう1つ、最新の映像を見ていただきたいと思います。

トラックから大きなダンボール箱の荷物をベルトコンベアに移し替える。これは今まで人間がやる大変な重労働の1つでした。しかし、Boston Dynamicsのロボットは、この新しい荷物の仕分け、積み替えをAIで学習しながら、順番に素早く的確に、これ(荷物)を吸い取って持ち上げて、そして移し替えていくと。こういう作業ができる。

箱の高さが違う、大きさが違う、位置が違う。それを視覚で見て、適切に判断して、臨機応変に腕の高さだとか距離、奥行きですね。これをちゃんとコントロール(する)。自分で学習しながら臨機応変に移し替えていくと。

いちいち1個1個の高さだなんだをプログラミングして、決まった動作をやっているのではないんですね。カメラの目で見て、その場で大きさ、形、深さを判断して、吸い取って移し替えていくと。吸い取る時に場所が違うわけですね。箱の高さも違いますね。1個減ったら高さが変わるわけですね。奥行きや距離も変わるわけです。

それを、従来のガラボのように高さや距離をプログラミングしてやっているのではなくて、AIで学習して判断して機敏に動いていくということであります。スマボとガラボの決定的な違いがそういうところに出るということです。

2014年に、このSoftBank Worldの基調講演で、「これからロボットの時代が来るんだ」「ソフトバンクもロボットに取り組むんだ」と発表させていただきました。

これはその時の資料ですけれども、これから人とロボットがともに働く時代になっていくんだ、ロボットが3,000万台導入されれば、製造業の人口として1億人相当の労働人口に匹敵するものを作れるんだ、という話をさせていただきました。

その頃はまだ、AIと言っても、ディープラーニングも技術としてほとんど普及していない時でしたし、AIが今日のようにこんなに実用的に進化している状況ではありませんでした。ですから、まさにガラボからスマボに生まれ変わる、ちょうど入り口のような時期だったのではないかと思います。

時代の流れを読み、ちょっとずつ先手を打つのが孫正義流

ソフトバンクグループ、あるいは孫正義は、「何も作ったことがない」「何も作っていない」とよくご批判されますが、もし、何か私に1つだけ特技があるとするならば、時代の流れを人よりもちょっと早く、ちょっと的確に読むと。時代の流れを読むのが、昔から得意なんですね。

ですから、通信と言えば固定電話の時代からモバイルになるんだ、と。その前で言えば、1台1台のパソコンがインターネットにつながるとか。通信も、固定からモバイルになると。

同じモバイルでも、ただの「もしもし」「はいはい」という通話ではなくて、インターネットマシンとしてモバイルが最も重要な位置づけになるんだ、ということを、時代を読んでちょっとずつ先手を打つことを得意としてきたわけです。

ロボットの時代が来る。そして、AIの時代が来る。これが掛け合わされると、スマボの時代が来るんだ、ということをあらためて、2014年の時に言った内容をさらに進化して、単なるロボットじゃないんだと。スマボだ、と。

スマボは産業人口を置き換えるだけではなくて、あらゆる人口を、労働人口を置き換えていくという意味合いで、「進化版のスマボバージョン」ということで、今日のプレゼンをさせていただきたいと思います。

人間は8時間が1つの労働時間だとされています。でも、スマボは24時間働いても文句を言わないというものですね。しかも、土日まで含めて働きますから、週5日間、1日8時間ではなく、365日、週7日間(スマボは働く)。ですから7/5倍になるし、さらに8時間じゃなくて24時間。ですから、本当は3倍じゃなくて、5倍ぐらいになるんじゃないかと思うんですけれども。

さらに、AIを活用したスマボで生産性が3.5倍になるのではないかと。3倍の労働時間、あるいは5倍の労働時間。そして、生産性が3.5倍ということは、10倍の競争力を持つということになるのではないかと。

1億台のスマボ導入で、日本は労働人口10億人相当の国になる

人間1人に対して、スマボ1台。これは10倍の競争力を持つんじゃないかと、私は思うわけであります。しかも、一つひとつのプログラミングなしで、自ら学習し、臨機応変に(対応できる)。先ほどのBoston Dynamicsのヒューマノイドのように、斜めのところでも走っていくと。

宙返りまでする。バク転、宙返りをあんなに上手にできる人間って、平均的な人はあんな(ことは)できないと思うんですね。つまり、スマボの動作は、最終的には人間の動作の機敏性や正確性を超えていくと私は思うわけです。

このスマボが1億台、もし日本に導入されれば、労働人口になおして10億人に相当する国に生まれ変わるということであります。日本の労働人口が約5000万人だとすると、その20倍になるということです。

1億人の人口が日本に住んでいます。でも、それに対して1億台のスマボが導入されれば、人間1人に対して、1台のスマボが導入されると、労働人口にして5,000万人の日本が、10億人の日本に生まれ変わると。

スマボって1台いくらするんだろう? ということであります。

私は必ずしも、手が2本、足が2本、時速8キロで歩くという1つのモデルのヒューマノイドが、全部の作業を最も効率よくやるとは思いません。もっと安くて、あるいは足が4本でもいいし、タイヤでもいいし、手が8本でもいいということで、姿かたちを変えて、それぞれの業務に最適化されたスマボがたくさんあって良いのではないかと思います。

我々ソフトバンクグループは、新しい21世紀のスマボの時代に、ぜひいろんなかたちで貢献をしていきたいと思います。先ほどもちょっと触れましたけれども、ソフトバンクグループとはなんぞやと。ただの投資家か、と。「事業家の孫さんは好きだけど、投資家の孫さんは嫌い」と時々言われたりしますけれども。

私は単なる投資家だとは思っていないんですね。新しい時代を切り拓いていく資本家になりたい。産業革命の資本家の代表格がロスチャイルドであったのと同じような意味合いで、情報革命の資本家。それがソフトバンクグループだ、孫正義だ、と言われるようになりたいというのが、私の願望、夢であります。

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