けんすう氏が好きだった「超能力ラボ」

古川健介氏(以下、古川):カヤックだと、「超能力ラボ」がすごく好きでしたね。

柳澤大輔氏(以下、柳澤):そうなんですよ! そんな古いやつをよくご存じですね。

古川:Webカメラの前で、図形を書いて封筒に入れて、みんながそれを当てるというもので、結論……当たるんです。「超能力はありました」というね。

柳澤:これはすごい話なんですよ。ちょっと、聞いてもらいたいです。紙に絵を描くじゃないですか。その紙を封筒に入れて見えないようにしておいて、Webカメラで見せて「この中に、何が描いてありますか?」というのを全国に募集したら、当たるんですよ。だから実際、世の中に透視能力がある人がいるんですよ。

古川:当たっていましたよね。

柳澤:「誰かが漏らしているのか!?」と、社内が騒然としました。この能力はどうやら存在するということで、プレスリリースで「超能力は存在した」という『MMR』(注:『MMR マガジンミステリー調査班』。1990年代に『週刊少年マガジン』に不定期連載された漫画)みたいなものを出したんですけど、1つも媒体に取り上げられなくて……。

古川:(笑)。

樹林伸氏(以下、樹林):『MMR』でもいろいろ確認しましたけれども、超能力はあるという結論にはならなかったですよ。

柳澤:『MMR』って、相当いろいろな影響がありましたからね。

古川:(笑)。

柳澤:でも、その後いろいろ調べたら、確かにいろんな超能力者がネット上にも存在していて「やっぱり、いるんだな」といまだに僕は信じています。ちょっと僕の話になってしまってすみません。

一番かっこよくてためになる、失敗を無駄にしない方法

柳澤:どうでしょうか? 何か、ありますかね?

樹林:失敗って、すごく大事なんじゃないかなと思っています。できればその失敗の結論が時間と手間を無駄にしないように、早い時期にわかってほしいなと僕はいつも思っているんですね。

僕は新人の顔で連載をするのが好きなんです。そうすると、おもしろくないものは最初から相手にされないじゃないですか。だから早期撤退ができるんですよね。時間も手間も無駄にならないことを考えると、失敗するならすぐもう真っ白けになる失敗が一番かっこいいし、ためになるし、無駄にもならないと思います。

柳澤:早いほうがいいってことですよね?

樹林:早いほうがいいということです。

柳澤:ちなみにちょっと視点を変えて、今みなさんは一応、組織を率いられていたりします。樹林さんは今はフリーなのかもしれないですけれども、組織に入っていました。その組織ぐるみで(誰にも)思いつかないアイディアを生み出す工夫として「これはやったほうがいいよ」ということはあります?

樹林:僕は長いこと講談社にいたんですけれども、長くやっていると、最初のアイディアは……。(組織において)最初に思いついた「これがよかったんだろうな」というアイディアが1個、あったとしますよね? でもそれは、そのアイディアがよかったものだから、ずっと続いているんですよね。

誰もひっくり返そうとしないんですけれども、誰かが新たに組織の長になった時に、大きい雑誌だったら編集長とか、あるいは社長でもいいんですけれども。思い切ってバサッと変えてみることで、新しい動きが出るかもしれないなと思うんですよね。

うまくいったかどうかは別として、三木谷(浩史)さんが「我が社は全部、英語でやるんだ」ということをやりましたが、ああいうことは意外と誰もやらない。思い切ったことでうまくいったかどうか、よかったかどうかはまったくの別問題なんですけどね。そういう思い切ったことがやれるのはボスだけなので、ボスがそういうアクションをすることは、ある意味で組織を活性化すると思いますね。

社長公認で“丸損前提の仕事”を続ける狙い

川口典孝氏(以下、川口):うちは新海誠以外に小さいラインがあって、それが丸損ラインなんです。予算上、丸損すると僕が決めて、何千万円かで短いアニメーションを作らせることは今もやっています。常に丸損するラインを、裏で1~2本動かしています。

あとは、一応僕に対して(担当プロデュサーが)「これだけ利益を出します」というものは出してくるんだけど、僕は心の中ではもう0円。丸損するというものです。

柳澤:すごいな。

川口:財務経理部ともそれは共有してやっています。そういうものが常に流れていないと、バランスを失いそうな気がしています。

柳澤:それはやっぱり丸損する代わりに、おもしろいことをやるとか、何か逆の狙いがあるんですね?

川口:だいたいデビュー作の監督だったり、プロデューサーも超若い。

柳澤:あ、そういうことか。

川口:だから失敗をどんどん吸収してほしいのと、今はうちの大きい作品は配給を東宝に預けちゃっているので、小さい作品は自分たちで配給したり、自分たちで直接Netflixに持って行ったりという経験をするためですね。

新海誠作品ですら昔は全部自分たちでやっていたんだけれども、だんだん所帯が大きくなってきて、楽をするようになっちゃった。だから、そういう若い子のために、自分たちで作品のポスターを作って、自分たちで貼りに行くようなラインは今でも残していますね。基本を新入社員にも共有したいと思って、やっています。

柳澤:なるほど。

若手が上に指摘できる組織だと、変革は生まれやすい

樹林:組織におけるアイディアって「新しいことが出ない」と言っているんだけれども、そうじゃないんです。長くやっていることを信じちゃっているからアイディアが出ないだけの話で「これは違うんじゃないの?」と考えると、実はいろいろな違うことが隠されているんです。長い組織になればなるほど、すごくいっぱいある。

やっぱり、若い子たちがちょっとでも「変だな」と思ったら、どんどん上の人に言えるような組織であれば、誰も思いつかなかったような変革ができるんじゃないかな。僕はそう思いますけれどもね。

僕自身もけっこう『週刊少年マガジン』の時代にそういうことを経験しています。

柳澤:おもしろいな。最初からルールもなくてゼロからだったら、新しいことを思いつかざるを得ないということなんですね。

樹林:そう。長くある組織のほうが難しいですよね。漫画の雑誌はアンケートがあって、そのアンケートはずっと「おもしろいものを3つ」とか「(おもしろいものを)1つ」と決められていたんですけれども、これだと「すごくおもしろいもの」と「まあまあおもしろいもの」が……。

僕は、例えば雑誌ってどんなにおもしろい『ONE PIECE』みたいなものが1個だけあったって、買わない気がしていたんですよね。実際そうだと僕は思っているんですけれどもね。ところが「まあまあ読むもの」が7~8個あれば、買うんですよ。1個じゃどんなにおもしろくても買わないです。だけど「まあまあおもしろい漫画」が7~8個あれば買うんですよね。

そういうものだと考えたときに、1個だけ突出したものだけを聞いていると、ずっとそいつがトップになっていっちゃうんですけれども、まあまあの7~8個を聞いていると「本当は今この雑誌を支えているものは何なのか」がわかるんじゃないかと考えたんですね。

それで、僕は5つと1つにした。(従来は)3つだったんですけど、5つと1つに分けてアンケートを取ったほうがいいんじゃないかと言ったんです。それが採用されて、それによって随分いいことが出てきたんですよね。

樹林:(手振りをまじえながら)あとは、特定のターゲット層を狙って作っている雑誌なのに、送られてくるアンケートの幅が広すぎたんです。それを縮めて、例えば22歳の大学生ぐらいまでに切ってみたほうがいいんじゃないかとか、そういうことを社員時代にいろいろ言ったんです。

他には、例えば「編成」というものもあって、よく漫画の雑誌を読んでいると「おもしろいものが前に載っていて、つまらないものが後ろに載っている」というかたちになっているケースが多いんですけれども、それって「(この漫画が)おもしろい」ということを雑誌が言い続けているだけの話なんですね。

「それはもしかして、アンケートで下がってきた漫画を前の方に持ってきたら、(読者は)『おもしろいらしいから、これはもう1回読んでみよう』と思うようになって、読む本数が増えるんじゃないですか?」という提案して、一応そういうふうにしてもらったりしました。

編成は担当者が変わることによって変わっていっちゃうんですけれども、そういうことって、わりと若い人間が言わないんです。言っていいんじゃないかなと思うんですけど、今の若い子たちはおとなしくて、あまり言わない。でも、もっとどんどん言ったほうがいいと思います。でかい組織で長く続いているものほど、若い人の意見は、すごく重要だと僕は思っています。

柳澤:おもしろいですね。確かに「思いつかないアイディア」と言うと、すごく独創的な必要がありそうですよね。今の話を聞くと、若い人たちは大企業に入って「すでにやっていることを変える」というだけで、「思いつかないアイディア」になる。けっこうシンプルなことなんですね。

樹林:そうです。意外と誰も思いついてないんだから、それが新しいアイディアなんじゃないんですか。

柳澤:それならできそう。そっちは、できそうな気がします。

樹林:そういう意味では、いっぱい出てくるとすごく活性化してくれると思います。

柳澤:今のはおもしろかったですね。あともう4分ぐらいになっちゃった。

「大胆な失敗」の方が、会社にとってプラスになる?

古川:僕の会社でやっていることを軽く紹介すると、さっきの「アル開発室」というところでコラム的に会社の流れも共有しているんですけれど。明らかに失敗したほうが盛り上がって、アル開発室に入る人が増えるんですね。

そういうことを社員がだんだん学習していて「バットに当てにいって、ちょっとヒットを打つ」というのが一番会社の利益が減って。「大胆に失敗する」のほうが「アル開発室」で1,000円払う人が増えるので、売り上げが上がるということなんです。

そういうふうになっていくと、自然と「これは失敗したほうが儲かるな」と……儲かると言うか、会社にとってプラスだなと思うので、大胆にやってくれる仕組みを作ってやっていますね。

柳澤:「みんながホームラン狙いになる」というようなことですか?

古川:そうですね。ちょっと当たって「このプロジェクトは、まあまあよかったね」というのが一番盛り上がらない。

柳澤:(笑)。

古川:漫画と似ているかもしれないですけど「次はどうなるんだろう?」ぐらいのほうが……。

柳澤:なんか「コツコツやる人」が否定されている感じがするけど、大丈夫なんですか?

古川:コツコツやる人が否定されるわけではないんです。コツコツやるのは、会社の中では当然に評価されるんですけれども。大きいプロジェクトを動かして大胆にチャレンジして失敗しても、それはそれでめちゃくちゃウケてコンテンツになる仕組みにしておくと、そこが怖くなくなるということです。「だって、これで会社の売り上げが伸びましたよね」と言えますからね。そういう感じにしていますね。

柳澤:なるほど。1つの伝説・エピソードをちゃんと共有して、失敗を恐れない文化を作っているという話ですね。

古川:そうですね。

登壇者から、最後に一言

柳澤:ありがとうございます。いよいよあと2分になっちゃたので、何か最後にこのテーマに沿ってなくてもいいですから、言いたいことがあれば(笑)。

(一同笑)

古川:めちゃくちゃおもしろかった。

柳澤:みなさんから言っていただきたいです。

上野直彦氏(以下、上野):途中で言おうかなと思ったんですけれども、転がっていくのが好きなのもあって、さっき言いましたけれども、おかげさまでまた新作が始まります。ちょっと楽しみにしていてもらえたらなというのが1つです。

TwitterやFacebookを見られている方はわかるかもしれないですけれども、自分が出したプロットで「アメリカで映画になるかも」というものがあるんです。これはスポーツ映画です。なので、その制作過程をこれからもツイートしていこうかなと思います。うまくいくか失敗するかはわからないんですけどね。

柳澤:新作というのは、丸々の新作ですか?

上野:丸々、オリジナルということです。

柳澤:『アオアシ』とかは関係なくということですか?

上野:まったく関係ないです。

柳澤:はい。これは要チェックですね。

上野:どうなるかわからないですけれども、楽しみながらやっています。よろしくお願いします。

柳澤:なるほど。では上野さんのTwitterをみなさんフォローしていただきましょう。ありがとうございます。他に、何かありますか?

川口:僕から、ちょっとだけいいですか? すみません。うちは、作家のマネジメントもやっています。うちの所属に「つのだじろう」というおじいさんの漫画家がおってですね。『恐怖新聞』というのを昭和40年代に……。

柳澤:おー、あの方ですね。つのださん。

川口:(2020年)8月29日からフジテレビ系でドラマ化されます。深夜ドラマです。

上野:へー、すごい。

柳澤:えっ!? 『恐怖新聞』がドラマ化されるんですか?

川口:はい。

柳澤:わー! すごいな。

樹林:あー、見たーい! めちゃくちゃ見たい。

柳澤:僕が小さい頃は、もう怖くて見られなかったな。

樹林:あれは大好きだった。「新聞がもう届かないように」って閉めていても、窓ガラスとかをバリーンって破って入ってくるんですよね(笑)。

(一同笑)

あれ、すごく怖いですよね。

柳澤:絵がそもそも怖いからね。

樹林:どれだけ避けようとしても入ってくるんですよ。読むと命が縮んじゃうのにね。

川口:何十年も経ってこうやってドラマ化をしてもらって、ありがたいです。

樹林:あれは、笑ったなぁ。怖いけど笑えるんですよ。笑いと恐怖って、すごく近いんですよね。

古川:あぁー、なるほど。

樹林:だから楳図(かずお)さんの笑いもおもしろいじゃないですか。やっぱり意外性があるんですよね。

古川:なるほど。

柳澤:他は大丈夫ですか? もうちょうど14時になりました。本当に、個人的にも聞きたい話が聞けて楽しいセッションでした。

樹林:お疲れさまでした。すごく楽しかったです。

上野:リアルでお会いしてみたいですね。

樹林:そうですよね。そういうものもあったほうがいいですよね。反省会なんかと称してね。

古川:反省会したい!

柳澤:たぶんみんな、きっと反省しないから(笑)。

(一同笑)

はい、ありがとうございましたー。