三井住友FGの谷崎氏より挨拶

谷崎勝教氏(以下、谷崎):こんばんは。三井住友フィナンシャルグループでCDIO兼CIOをやっております谷崎でございます。本日は、このような暑い中ご参集いただきまして、誠にありがとうございます。

昨今のテクノロジーの進化に基づいて、これだけ沢山のベンチャー企業や、スタートアップ企業がどんどん出てきている中で、われわれ三井住友フィナンシャルグループとしても、そういう企業をしっかり後押したいという思いと、また、われわれ自身も新しいビジネスを生み出したいという思いで、この「経営者道場」をスタートさせていただいたわけでございます。

この経営者道場は、この後ご挨拶いただくGMOペイメントゲートウェイの相浦社長に、第1回開催時にご登壇いただきました。その後、現在この世界で活躍されている、さまざまな経営者の方にご登壇いただいております。

本日は株式会社LIFULLの井上社長にお越しいただきまして、本当にお忙しい中ありがとうございます。株式会社LIFULLさんはみなさんご存知の通り、日本一働きたい会社NO.1に選ばれた会社でございます。また、日本最大級の不動産住宅情報サイトを運営されています。

われわれが井上社長から、学ばなければならないと思っていることは沢山あると思っていますので、私自身も今日のお話を楽しみにしておりますし、みなさんにもぜひ楽しみにしていただければと思います。

この「hoops link tokyo」は、みなさんのネットワークの場にしていただきたいと思っております。

これから羽ばたこうという企業の方たち、その人たちが上手くいって、登壇する側で出ていただきたいと心の底から思っておりますので、ぜひこの後の懇親会、ネットワーキングを含めて、みなさんと交流していきたいと思います。

それでは私の挨拶はこの程度にしまして、次に相浦社長にバトンタッチしたいと思います。

(会場拍手)

GMO相浦氏とLIFULL井上氏のつながり

相浦一成氏(以下、相浦):ご紹介にあずかりました、GMOペイメントゲートウェイ相浦でございます。どうも今日は多数ご参加いただきましてありがとうございます。今日、ご登壇いただく井上さんとは、もう古い付き合いでございまして、例えば海外IRにご一緒させていただいたり、僕よりも歳はまだ、井上さん50歳になった?

井上高志氏(以下、井上):49歳です。

相浦:49歳。今日僕は誕生日で、56歳になりました。

(会場拍手)

相浦:お互い上場して、マーケットにデビューして10年以上経つわけでございますけど。あまり井上さんもメディアに出られないわけですけども、レベル的には三木谷さんと同等ぐらいの経営者です。だから知る人ぞ知る素晴らしい方なんですね。でも、あまり本人はメディアに出たがらない。しかしながら、アフリカで恵まれない子どもたちに学校をつくられてる。

そういうユニバーサルな事業で、大きな世界を描いていらっしゃいます。あと、プライベートな側面では、自分のできることを、誰にも言わず人知れず素晴らしいことをされているわけですよ。僕より年下なんですけども、起業家としてファウンダーとして、僕はものすごくリスペクトしてます。だから、たまに時間があって飲みに行きたいなと思ったら、井上さんに電話して「今日何してる?」みたいなですね、そういう仲でございます。

(井上氏は)不動産業をITで変えようとしてるんです。僕はECの世界でITをやるんです。フィールドは違うんですけども、非常に素晴らしい経営者でございますので、今日の講演を楽しみにしていただければと思います。それではバトンタッチさせていただきます。ありがとうございます。

(会場拍手)

人間を成約から解き放つ社会をつくりたい

井上:みなさんこんばんは。今、相浦さんに過分なご紹介をいただきましたけども、単なる飲み友だちでございます(笑)。

(会場笑)

相浦社長に依頼されたことを、僕は絶対に断れないという師弟関係なので、今日は「ちょっと喋ってよ」と言われたので「よろこんで!」ということで、ここに参りました。今日は40分ぐらいしかお話しする時間がないので、けっこうスライドが沢山あるんですけど、情報量が多くなり過ぎて、たぶん消化不良になると思うので、「こういうふうに考えてます」という軸を共有したいと思います。

僕が人生のビジョンとして成し遂げたいことというのは、究極的には世界平和と人類の幸福なんですね。ここでサッと引いていただいて構わないんですけども(笑)。僕は勝手にですね、15、6年前から、僕の寿命は150歳まであるというふうに設定していて。「100歳までにこれを実現しよう」と、だからもうすぐ50歳ですから、ようやく折り返し地点がきて、最後の50年間は好き勝手なことをやるというふうに決めているんです。

世界平和とか人類の幸福に、僕がやっている活動はぜんぶ矢印が向かっていて。その中の1個で、事業活動として株式会社LIFULLがいろんな事業をやってます。それ以外にも財団とか社団とか、さきほどご紹介の中にもあった発展途上国の貧困国の支援だとか、そういうところに矢印が向いているんですね。その途中にあるものとして、なにをやろうとしているかというと、「人間を制約から解き放つ」社会をつくりたいなと思っています。

あと15年で会社という存在は無くなる

「世界平和」と「人類の幸福」という定義が一応ありまして、100歳の時には戦争もテロも紛争も全部そういうのをなくすと。争いごとがない社会にする。75歳まで、今から25年以内には、Base of the Pyramidというんですか? 貧困層をなくす。SDGsとかもそういうことを目指してます。これを25年以内にやって、水も食料も教育も、そしてちゃんと自分が能動的にやりたいと思って働ける場所とかも家も。

そういったことがきちんと与えられていて、医療とかもですね。分け隔てなく、貧富の差に関係なく必要最低限以上はみんなが手に入れられると。その先に自立ということを選べる、こういう社会にしていきたいなというふうに思ってます。今、孫泰蔵さんと「Living Anywhere」というプロジェクトをやっているんですけど、「Living Anywhere」なので、どこででも生きていくことができるっていうものです。

これは電気、ガス、水道とか、いわゆる、水道光熱費系はとりあえず限界費用ゼロにしちゃうと。今、僕の自宅に空気中から飲料水をつくる機械もあるんですよ。これを太陽光とか小型の風力発電とかでやれば、全部再生可能エネルギーなのでタダ。限界費用ゼロ。ずっと飲水をつくれます。この飲水の一部をWOTA「ウォータ」というシャワーがあるんですけど、これに流し込むと本来は1ヶ月に1600リッター使うシャワー。これが100リッターで、ずっとろ過されながら使い続けられます。

これでサハラ砂漠のど真ん中でも生活できる。東京に住んでいる必要はなくて、医療も遠隔医療が受けられる、教育も遠隔で受けることができる。しかもタダ。働くのもテレワークがだんだん増えていくと。こういうふうになっていくと あと15年ぐらいで、会社という存在がなくなるのだろうなと僕は勝手にイメージをしていて、そっちに向かっていく社会をつくろうとしています。

2ヶ月間、満開の桜に囲まれながら生活したい

人は自分の能力を活かして、働きたい場所で、働きたい人と一緒になってで、プロジェクトベースであったり、緩やかに繋がったり離れたり、いろんなコミュニティに属していく。もしそれができたら、僕がやりたいことは、日本の沖縄の方から始まって、桜前線をずっと追いかけながら、仕事をしながら生活をして、北海道の稚内で終わるみたいな。2ヶ月間ずっと桜満開の状態に囲まれて、そんなのいいじゃないですか。

こういうふうにテクノロジーを上手く使いながら、人々が幸福になっていく社会デザインをどうやってつくっていくんだっけっていうことをずっとやってます。なので社名がLIFULLになっています。もともとはネクスト。「次世代をつくるぜ」という意味だったんですけど、今は「あらゆるライフをフルにする」という意味で、世界中の人々の人生とか暮らしが良くなるような、さまざまなサービスをつくろうとしてます。

さあ、ここからちょっとスピードを上げていきます。今は東証1部に上がって1,200人ぐらいの会社で、三木谷さんにも20パーセントほど楽天から出資をいただいています。社是としては「利他主義」。

最近これは当たり前のように言われるようになりましたけども、20年以上前からすると、「利他主義って何ですか?」って言われていた時代から、みんなが「ああ、もうそんなのわかっているよ。今そうあるべきだよね」って変わってきていて。社会がすごく良いほうに向かってきたと思います。LIFULLの経営理念もイノベーションして世界中の人がハッピーになる。そんな社会をつくるぜという宣言になっています。

志とパソコン一式で会社をスタート

リクルートコスモス勤務時代、不動産業に従事した時に、すごく簡単に言うと、こんなにやりがいがある仕事があるんだと感じて。つまり、(家を買うことは)衣食住の中でも1番高い買い物で、本当に生活の基盤になるのに、不動産業の人たちって、当時はですよ、今もちょっと残ってますけど、自分の都合の良いように情報をコントロールして、自分の利益を獲得するみたいな。

不透明な感じがあったりとかしたので、これって業界の裏側から見たときに、ちょっと嫌だなというふうに思ったので、これをじゃあ変えようということを1つ目の人生のミッションにしました。なので業界変革というところからスタートしてます。それで、今はあらゆるライフをフルにというふうに広がってきたという感じですね。最初6、7年ぐらいは本当にかすみを食いながら、すごい低空飛行です。

(スライドを指して)これは売上のグラフなんですが、途中からどんどんと上がっていって、今期だと400億ぐらいを目指している会社で、15パーセントから20パーセントぐらい利益を出している会社ですね。最初に始めた時は、5万円の現金でスタートしました。前職はリクルートで、稼ぎは悪くはないので「お前もうちょっと稼いでおけよ。貯めておけよ」という感じで、貯めたんですよ。100万円。

「よし。これを握りしめて会社興すぞ!」って言って、当時パソコンも高いものですから、マッキントッシュとスキャナーとプリンター買ったら、これでもう75万円吹っ飛ぶわけですよ(笑)。

(会場笑)

井上:「やばい。あと25万しかない」って言ってたら、後日、地方税払えっていう圧着の葉書がきて、ペリペリって剥がしたら「20万円払え」って書いてあるんですね。「もう5万円しか残らねぇーよ」って、ここからスタートしたという感じです。だから、お金はなくて、こころざしとパソコン一式だけでスタートしたという会社です。

日本の空き家問題は、どうすれば解決できるか

不動産業界の革新に関しては、ざっといろんなモデルとか技術革新とか、常に何か業界初っていうこととか日本初というのが好きなので、そういうことをやってきて成長しました。 LIFULL HOME'S の説明はもうたぶん必要ないかと思います。国内最大級の不動産ポータルサイトです。今、日本の問題としては「空き家が増え続けている」というのが社会問題化しつつあります。

これから生まれてくる所有者不明の土地、家屋というのが、だいたい九州の大きさと同じぐらいになると言われているんですね。もうちょっと経つと北海道ぐらいのサイズになると予測されてます。国土の20パーセントぐらいが誰のものかわからない。こんなような状態がくるので、まずデータベースをつくって見える化をしましょうと。

それを上手くプロデュースする人たち、「地域おこし協力隊」というスキームがありますが、これは総務省さんが太っ腹で1人当たり年間400万円、3年間最大1,200万円を拠出してくれる制度があるんですね。これを上手く使いながら人を育てて、クラウドファンディングで空き家を上手く民泊に転用しようよというのでリノベーションなんかをして、それを楽天さんと一緒にジョイントベンチャーでつくった民泊のサイトで、お客さんを付けていこうと。

こんな感じで人・物・金がぐるぐる地方に回っていくようなかたちにして、人口は20パーセントぐらい減るかもしれませんけど、むしろ地方に有り余ってくる資産を上手く有効活用して収益上げちゃえばいいじゃんということで、人・物・金がぐるぐるまわるようにということをやり始めています。これがその「LIFULL HOME'S 空き家バンク」というやつですね。

今、1,700ぐらい自治体がありますけど、500ぐらいが登録をしてくれています。ただ、まだまだ焼け石に水で、だいたい用途不明で誰も住んでいないという家は、既に300万軒以上あると言われているんですよ。国土交通省さんが何年も掛けて、自治体につくってねといってやってきた空き家バンクが5年ぐらいで全部合わせて6,000件ぐらいの掲載件数でて。

それが全国統一のフォーマットになってないので、じゃあ、僕らが全部無償でやりますから、LIFULL HOME'Sのシステムを複製、デュプリケートしてタダで使ってもらっていいですから一緒にやりましょう。社会問題になりますので。というのでやり始めて、今3,000件ぐらいは載っているかなと。でも、300万件中の3,000件で、本当に砂漠の砂粒でしかないので、どうやってこれをもっと一気にデータベース化するかというのを、今いろいろ考えて知恵を絞っています。

「民泊の新ルールをつくれ」という難題

それから不動産投融資型のクラウドファンディングですね。これは古民家のリフォーム、リノベーションの費用を投資家さんに出してもらって、その収益、リターンを投資家さんにまた返していく。(投資家が)何だかよくわからないものに出すよりは、実際に不動産として実物があって、リノベーションして人が泊まれるようにしてという担保があるので、もし最悪収益が上がらなかったら、その担保分はみんなで分ければ、多少リターンというか原資が戻ってくるでしょと。

このほうが安心でしょって思います。(スライドを指して)そしてこれが「Vacation STAY」という楽天さんとやってる民泊サイトで。少し手前味噌的に言うと、僕が新経済連盟の理事もやっているので、シェアリングエコノミーの座長を「井上君、君がやれ」って日立さんに言われて。二つ返事で「はい、じゃあやります」って言って、やることが重たいんですよ。民泊の新法をつくれ、新しいルールつくれと。

もう1つはまったく議論が進んでないライドシェア、Uberみたいなやつ。あれをやってくれと。ルールチェンジをして、新しいルールメーカーになってくれと。これ1個だけでも本当にライフワークになるぐらい重たいんですけど、1個目の民泊新法のほうは、だいぶ積極的にやってつくれました。ただし今メディアで言われているようにスタートは低調です。

(部屋を貸しだせる日数が)180日という上限が決められてしまったし、各自治体では上乗せ条例とかが出てくるので、「土日しか営業しちゃだめよ」とか。Airbnbとか、楽天LIFULL STAYとかというプラットフォーマーといわれるところが、免許制にしているので、僕らはガチッとレギュレーションを厳しいようにしているんです。敢えてそういうふうにしました。

その代わり、ホストは届け出さえすれば、すぐできるようにしましょうと。なるべく軽くしましょうとやったんですけど、今起こっていることは消防署の方が、「現地調査を3回はしないと届け出を受けられません」とか、新宿歌舞伎町とかはものすごい全国でも厳しい条例を追加でやっているので、「何百件も来たけど、まだ1件しか通してないぜ」ってなったり。か勝手な現場での裁量で厳しくなっちゃってるんですね。

ですから、これをまた掘り返して変えなきゃなということで。でも、その中では2,000件ぐらい登録されているので、がんばっているかなとは思います。

7年後に目指す、3つの「100」

足元の課題、人口が減少して空き家がどんどん増えていく、でもそれを有効活用しましょうということをやっています。2025年までに100社のグループ会社をつくって、100人の真の経営者をつくって100ヶ国展開する。これが今から7年後に設定しているターゲットです。

海外事業に関しては、2014年にTrovit(トロビット)という会社、(スライドの)左上に書いてありますが、この会社をおよそ130億円で買収をしました。今、足元で進んでいるのは、もう1つMitula(ミチュラ)という会社、これも買収が進んでいる。もうまさに作業の最中です。こちらが150、160億円ぐらいでの買収になります。

これがどういうことかというとですね、下に書いてありますように不動産情報のアグリゲーションサイトとして、世界の1位、2位、3位が全部一緒になるということなんです。

Mitulaという名の3位を買収の交渉をしています。そして4位以下はもう存在してません。なので、世界中の不動産情報のアグリゲーターとしては完全なるトップになるんです。もう後はまったく追いついてこられません。それ以外に車、仕事、ファッションというのもやってます。仕事だと有名なのがIndeedですね。Indeedはリクルートさんが買収して爆発的に伸びています。

あれと同じビジネスモデルで、アグリゲーションというのは、自動的にクローラーで世界中の情報を集めてきて、不動産なら不動産だけの情報、車なら車だけの情報が検索結果に、バァーっと出てきます。Googleだといろんなノイズが混ざった検索結果になるじゃないですか。これは不動産の物件なら物件だけが出てくるという、こういうスタイルです。

世界的なネットワークをつくりたい

サイトの利用者数が月間で1億7000万人以上。世界的な求人サービスのIndeedさんが、だいたい月間で2億人ぐらいなので、それに匹敵するぐらいのサイズになります。展開国は63ヶ国で、掲載されている情報も4億件を超えてきます。

このネットワークを使いながら、先程挙がりましたクラウドファンディング、これの世界ネットワークをつくろうとしています。みなさんが何か投資をするときに、株式とか債券とかに投資をしますよね。

あれの不動産版でグローバルに投資できる。これをつくろうとしています。友だちがやっているところだと、お金のデザインのTHEO(テオ)というのがありますけど、あれは「ロボアドバイザー」というAIが自分好みにスライドバーを3つぐらい強弱ちょっと付けるだけで、あとは全部自動で売買をし続けてくれるんです。

世界中の6,500銘柄のETFから、その人の好み、値上がりとかを見ながらバァーっと売り買いしてくれるんですね。それの不動産版をつくろうとしています。AIのロボアドバイザーがあなたに変わって、パリ、ニューヨーク、ロンドン、アムステルダム、南アフリカ、ジャカルタ。そういったところの物件を、それこそ100ドル単位から、いくらでも(投資できる)。

だから世界中に分散してポートフォリオがつくれるみたいなことを、こっちのクラウドファンディングをまず国内でやりつつ、こっちの海外のプラットフォームを使ってやっていこうと。そうすると、たぶん手数料ビジネスとして、数百兆円から数千兆円ぐらいのマーケットが出てくると思います。この事業をやっている会社は、まだ世界中にありません。それをやろうとしています。

経営者を育てるのは無理

そして新規事業。結論として、経営者を育てることは無理という前提に立ち、経営者をやらせるしかないと。なので、バッターボックスの数を異様に多くしようという戦略です。今、3年間でいろんな会社が出てきて、売上も収益も2倍ぐらいになってきています。今14社から15社ぐらい。

毎月のように増えたり減ったりするので、正確な数字はちょっとわかりづらいですけど、確か14か15です。新しいので言うと、「LIFULL FLOWER」。これは市場直送でお花が毎月決まった日に届くみたいなことだから、お花のロスがない。新鮮、安い。

そそれから「おうちで歯科」。これは高齢者がなかなか歯医者さんにも通いづらい。口腔外科もちゃんとやらないと、そこから嚥下という、飲み下しが上手にできなくて肺炎になってしまったりとか。それでお亡くなりになったりするので、「訪問して歯科サービスをやりますよ」みたいなこととか。

他にも、高齢者が亡くなったときに必要な遺品整理に関するサービスも始めています。家族にとっては故人の遺品というのはやっぱり宝と思い出なので、それを丁寧にちゃんと説明してくれる会社さんだけを集めた検索サービスですとか。

すべてに共通するのは、ライフをフルにする領域をどんどんやっていくという感じです。僕らもちょっと似たような感じで「LIFULL HUB」という、もともとコーワーキングスオフィスで、本社の中にあるんですけど、みなさん15,000円から使っていただけます。新しくつくったのがデジタルファブリケーションスペースで、Fab Caféなみたいなものですね。

レーザーカッターとか3Dプリンターとか。あと木工用CNGルーターで、設計図をコンピューターでピッって動かすと、あとは自動でバァーっと切り出してくれるとか。それでテーブルとか椅子がその場で作れるみたいなことで、3Dプリンター革命ってあるじゃないですか。金属も加工できるようになってきました。木工もたぶん同じように、どこででも誰でも、データをピッと購入して、そのまま流すとガァーっと切り出してくれる。

その場ですぐ作れるという。だから工場で作ったものを、わざわざガソリンを使って運ぶ必要がない。データだけ買えば、その場で作れる。こんなメーカーの民主化。誰でもができるというようなことも、やっていきたいと思ってます。

公の益になるような「志本主義」を掲げる

先程の働きがいのある会社として1位になりましたというのもあるのですけど、みんながハッピーになるには、やっぱり従業員もハッピーであることが大事なので、利他主義の「他」の対象は従業員ももちろん含まれます。

どういう人たちに配慮していくかというと、コンシューマー、一般の消費者ですね。それからクライアント、顧客、それから従業員。それから取引先、パートナー、株主、地球環境で全部引っくるめて社会だけど、真ん中に利他主義があって。それを実現するための経営理念があり、スローガンやガイドラインがあり、そして事業活動に落とし込まれていって、そして各種プロジェクトが走っていくと。そういう公の益になるような志本主義というのを掲げてやっています。

大事なのはこれは同心円であって、これが株主ばかりに寄ってるとか、従業員にばかり寄ってるというのはなくて、すべて同距離でバランスをとって調和させてますということで。具体的な一例としては、われわれの利益の四分法ルールとしては、必ず分配しなければいけないのは、従業員。ボーナスですね。賞与。それから株主。それと国に対して、行政に対して税金を払います。

それから会社。これは内部留保して、未来にさらに投資をするためです。この4つの人たちで分配するというので、賞与を配布する前のバーチャルな営業利益プラス賞与金額というものを、まず原資として定めて、国に税金31パーセント。これはもう確定して取って。取られていきますって言っちゃいけないですね。貢献してます(笑)。

残ったものを23パーセントずつわけていくと、ちょうどみんなが、営業利益がバァーンと上がれば、山分けという感じにもなりますし、届かなければ傷みわけ。だからフェアーでしょというような経営をしています。だから、あまりこれには裁量が働かないようにしてます。

取締役を対象としたスコアリング制度「LVAS」

あと、公益志本主義制度の達成度「LVAS」というLIFUL GROUP VISIONACHIVEMENT SCOREというのを独自に作りました。これから100社作っていくとなるとですね。モニタリングとかコントロール、マネージメントとかがやっぱり大事になってくるので、その子会社の代表取締役とか取締役を対象としたスコアリング制度で、これによって役員の給料の上限が決まるというふうになっています。

だから、自分のお給料とか報酬を増やしたければ、この(LVASの)30項目を良くしていって、本当の意味での良い会社にしないと、自分の報酬はあげられませんって、こういう仕掛けになってます。

当然、財務指標のようなものも見るんですけども、非財務指標としては、例えば、従業員がどのぐらい会社に満足しているか。顧客がどれだけ自社のサービスに満足しているかというのも、スコアリングの対象になります。先程見ていただいた、このマルチステークホルダーの人たちが、「いいよね」って言っているかどうかを全部測定していくというのをやります。

これで公益志本主義として達成度が高まっているよねとなった場合には、結果として報酬が増えていく。だいたい80から90ぐらいランキングがあって、そのどこに位置するかというのが勝手に数字でパーンと決まってきます。そうすると子会社の社長の給与もスパッと決まる。「良い会社にしてください」ということがモニタリングできるようになっています。

財務指標と非財務指標の両方をスコアリングしていって、例えば上場企業も全部これでスコアリングするだとか、やっていったほうがいいと思っているので、その実験としてまず自分たちでやっているという感じです。

従業員の内発的動機を邪魔しない

経営者だとわかると思うんですけど、従業員の働きがいがあって、イノベーティブで沢山の顧客から喜ばれて、社会を創造しているんだという自負がある従業員たちって、結果的に企業価値をどんどん高めていってるじゃないですか。

一方で「お前はこれだけやれ」って外発的動機でずっとコントロールしているような会社だと、なかなか業績とか企業価値って上がりづらいというのが体感的にわかるようになるんですよね。ところが投資の尺度の中では、その非財務指標というのは、なかなか見える化されづらいのでそれを見える化すると、投資対象として思わぬ会社が浮上してきたり、人気企業ランキングもガラッと顔ぶれが変わったり、そういうことが起こってくるので、見える化したほうがリーダーは良い会社にしよう、良い方向に持っていこうという力が働くようになるんじゃないかなと思ってます。

それから、社員の年間総労働時間の1パーセントと税後利益の1パーセントは、社会貢献活動にどうぞ自由に使ってくださいというようなこともやってます。あと日本一働きたい会社、従業員の働きがいがあるところにするために、いろんなことをやってて、全部の説明はできないですけど、ものすごく大事にしたのはこれですね。

内発的動機。これを邪魔しない。支援し続けるということにすごくこだわって制度設計をやってます。外発的動機は俺の言う通りやって成果を出したら給料上げてやる、ポストに付けてやる、好きな仕事を任せてやる。こういうやつですよね。一方で内発的動機は、あなた何したいの? この会社というフィルターを通じて社会をどういうふうに変えたいの? という内発のほうです。

こっちを重点的に徹底的に伸ばすという制度設計をした結果、まあ、やりたいことをやっていれば、みんなモチベーション高いですよね。そういう会社になっていきました。

四半期に一度の「白熱教室」

われわれの規模、1,000人ぐらいの会社だと、コーポレートユニバーシティは珍しいほうじゃないかなと思いますけど、50から60のゼミが運営されていて、ゼミ長というのは、だいたい社員です。社員が専門家として、そうじゃない人たちとかジュニアの子たちに教えていく。

それで5点満点のだいたい4.5点ぐらいの満足度がずっとキープされています。それから新規事業の提案制度も年間100件。以前は150件ぐらい出ている時もありました。レベルが低過ぎるのもあったので、ちょっとハードルを上げて100件ぐらいですかね。この中から次々に新規事業を作っていこうとしています。それからGoogleみたいに、エンジニアは業務時間の10パーセントを自由な研究開発に使っていいよ。好きなことやりなということもやったりもしてます。

あとはビジョンですね。ビジョンとか理念の共有会というのは、毎月の全社総会のほかにも、四半期に一度くらいのペースで全社員が集まってマイケル・サンデルの『白熱教室』のような感じのイベントをしています。僕がマイケル・サンデルの役で「なぜビジョンが必要なのか。君たちわかるか?」みたいにやるわけですよ。

パネルディスカッションで前にいる幹部たちが「こうだと思います。ああだと思います」って言った後に、今度、ピザとかお寿司を摘んでビール飲みながら、みんなでグループディスカッションするんですね。最後にみんながうわーっと発表していって、ベストスピーカー賞みたいなのを決めるというのを定期的に行ったり、他にもたくさんの施策を行っている。その結果、いろんな賞をいただくようになって、ベストモチベーションカンパニーアワードだとか健康経営銘柄とか女性の働きがいがある会社だとか、そういうふうになってきました。