デバイスや決済の制約がなくなってきている
加藤貞顕氏:ただ有料のWebっていうのは世界中であらゆる人が失敗してきてる部分なんですね。結論から言うと僕はそろそろできるんじゃないかと思ってるんです。何で有料のWebがいまいちだったかと言うと、ちょっと理由を分割して考えてみました。
1個目の理由がデバイスの制約です。やっぱりパソコンでコンテンツを見るのがつらいんです。コンテンツってちょっとセクシーな体験だから、パソコンってセクシーじゃないですよね。だから、やっぱりちょっと違うと思うんですよ。
ただスマートフォンであったりとかタブレットの普及によってこの制約はもはや無くなりつつあるし、むしろアドバンテージすら生む可能性があるのかなと思っています。特にコミックの領域においては非常なアドバンテージを生むだろうなと思っていて、コミックとか研究書とかですね。
要するに、分量が多いものです。なので、デバイスの制約はおそらくなくなるだろうと。次に課金ですね。課金でも少額課金というのはものすごくやりにくかったんですが、最近はクレジットカード会社もだいぶゆるくなって、僕らも今、週150円という課金をやってるんですけれども、結構安い料率で許してくれるようになっていて変わってきています。
あとは携帯のキャリア課金だったりとか、今度Googleも課金を始めますけれども、そういう少額の課金の仕組みというのは非常に普及しつつあるので、これももう無くなるだろうなと。で、これ結構大きかったんですよ。クリエイター側の心理的障壁。これはですね、要するに出版社もクリエイターに入っているんですけれども、ネットにコンテンツとか出したくなかったんですね。なぜなら今まで儲かっていたから。
最後に残っている、消費者の心理的障壁
なんですが、そうも言ってられなくなってきている。ということで、その障壁も無くなりつつあって、1番最後に残っているのが消費者側の心理的障壁で、これは結構大きな壁ですね。まあWebってタダだよねっていう心の部分なんですけれども。これもですね、僕はなんとかなるんじゃないかって思ってるんですよ。
ここにいる皆さんなら知っていると思うんですけど、昔Webで物を買えない時代というのがありました。Webで物を買うなんてとんでもないと。そこでアメリカのジェフ・ベゾスというおじさんが、いやいや普通Webで物を買うでしょ、ということで、何百億円も調達してでっかい流通センターをつくってAmazonという会社をつくったり、あるいは日本だったら三木谷さんという人がやったりして当たり前になったわけですよね。
Webで物を買うとめちゃくちゃ便利なわけですよ。今はうちの親でも買うと。で、コンテンツはWebで買うともっと楽なわけです。流通もいらないし、コンテンツを見る(スマートフォンを持ちながら)こんなに良い端末を皆が持っているわけですし。たぶん良い物がちゃんとした形で売っていれば、そこは解決するんじゃないかなと思っています。
cakes というソリューション
それをやるために僕が始めたサイトが、これですね。
さっきまで出てきたいろんな課題を全部まとめて解決しようと思って作っていて、「cakes」というサイトです。ちっちゃなおいしいコンテンツが沢山集まっているからcakesなんです。週150円で読み放題になっていて定額課金です。月だとそのままほっとくと継続していくんで600円です。売上の6割をクリエイターに還元するモデルとなっています。
ページビューに応じて配分されるというモデルですね。全体のページビューの1割をとれば全体の売上の6割の1割をお渡しすると、そういうモデルで始めてます。さっきいろんな話をしていきましたよね。コンテンツは短くなるだろうと。だから短くなるように1個1個の記事は2000字とか4000字でやるのを推奨していて、だいたい3分から5分で読める長さです。
あと埋もれるっていう問題がありますよね。(スマートフォンを持ちながら)画面が狭いという制約上、仕方のないことなんです。我々はチームに統計学者がいてですね、これは有料課金サイトなのでログインして使うわけです。
なので、個人ごとにパーソナライズして相当、埋もれない工夫をしています。学習して好きなものが上に上がってくるようになります。もちろん普通に新着順に並び変えたり、ランキング順にしたりもできるんですけど、デフォルトの画面がパーソナルソートされた画面になっています。
他にもパーソナライズの話をもうちょっとだけすると、最初は単にこれ便利じゃない? ということで作ったんですけれども、実は結構大きな課題を解決してるなと思ったのが、読者からすれば便利なんですけど、クリエイターにとってもこれは非常に良い機能で、届けるべき人に届けられるんです。
これって大事なことですよね。クリエイターがコンテンツを作る理由って、僕相当いろんな人にヒアリングしたんですけど、結論から言うと2つだなと思っていて、1つは伝えること。あともうひとつはそれをお金にすること。で、伝えることってところでは、特にマッチングがすごく大事だなっていうのがやってみてわかったことです。
クリエーターが自分でマーケティングできる仕組み
あともうひとつマーケティングはですね、さっきから最近クリエーターがマーケティングするしかないようになると言ってましたけど、これもシステムとして実装しています。どういうことかというと、単純な話で自分の記事とかをアフィリエイトリンクとかでツイートとかできるようにしてあるんです。実際、これ経由での加入率っていうのは非常に高いです。
津田大介さんとかも書いてくれてるんですけど、津田大介さんとかが本気でやったらそうとう儲けられるかなっていうくらいの料率にしてあって、要するにこれは経済学の言葉で言うとインセンティブコンパティブルにしてあるんです。やるべきことをやるとちゃんと儲かるという。そういう風に仕組みの設計をしています。
こんなかんじでWebに適合したマーケティング機構です。本人がつぶやいて宣伝するとちゃんと本人の収益になるみたいな。これは著者じゃなくてもいいんですよ。編集者でもライターでもいいです。実際、左端の茂木さんのやつは、茂木さんの記事を書いたライターの子がツイートしてるのを茂木さんがリツイートしてるという感じですね。
プラットフォーム側もメディアになる
ということで、マーケティングのほうは工夫をしています。話を戻しますけど、あと大事なのはこれコンテンツ配信プラットフォームなんですけれど、ここでプラットフォームだから皆コンテンツ出してねって言っても誰も出してこないので、僕ら自身がここでメディアをやっています。
やっぱり最初の段階から一流の人を揃えて皆に来てもらって、人を集めつつ色んなメディアさんにも参加してもらって大きくしていこうと。そういうことを考えて、かなり多くの著者さんと色んな出版社にも協力していただいて出している。
雑誌のコンテンツなんかも1回作って終わりですごくもったいないんで、それをここに出し直してもう1回マーケティングとマネタイズしませんか、とお声がけをしてますし、あとは本も1回出した本をここで連載するってこともしてるんですね。
本って長いじゃないですか? それを2000字とかに切って連載したりとかですね。他にもここで連載したものを本にするってこともしてます。書籍の編集をしていると書き下ろしをしてもらうってすごい大変なんですよ。
なので、どうせだったらここで連載して本にしない? っていうことをいろんな出版社の編集者に話をして実際やってもらっています。もう4つか5つくらいそういうのがあります。
Webでもデザインが重要な理由
これデザインの話なんですけれど。僕、デザインはやっぱりものすごく重要かなと思っていて、今のWebのデザインっていうのはページビューを広告にしてお金に替えるためのデザインなんですね。
そいういう場所しかないから当たり前なんですけれど。僕が最初にやろうと思ったのは、超一流プロのド本気の作品を載せる場所が、Webのどこにもないからつくろうっていうことを思って始めたんです。
例えば、横にランキングとかがワーっとあって、アフェリエイトリンクがワーっとあって、下にページネイションがワーっとあるようなサイトに村上春樹さんの最新作が載るっていう、これ考えにくいですよね。
そういう場所になるためにはどうしたらいいのかなっていうと、(スライドを指して)こういうすごくシンプルなデザインになるし、でもやっぱりさっき言った倍角ダッシュの話はちゃんと繋がるんですよ。
Webでもエディトリアルは手を抜いちゃいけないと思いますし、Webの良さも必要なんで文字の大きさとか簡単に調節できるようにしたりとか、それもちゃんとタブレットでやるようなかたちでグラフィカルに誰でも使えるようにやったりとか、そういうインターフェースの部分、デザインがすごく大事かなということでかなり一流のデザイナーと組んでこれもやっています。
そうやって三坂さんだったりとか村上さんだったりとか、あるいは漫画家の井上雄彦さんだったりとかそういう人たちのコンテンツが載せられるような場所にしようと思ってやっています。
著作権保護をめぐる問題
あとさっきも話が出たんで、漫画のビューワーも作っています。
漫画はやっぱりWebで読むとすごい快適なんですよ。これはブラウザで使うんですけれど、ページごとにツイートしたりもできるし、ファボったりもできますし非常に使い勝手がいいですね。これをやるときの大きな問題はDRMですね。著作権保護の部分です。著作権保護っていうのはやりすぎると消費者が不快になるし、やらないと出版社が嫌がるし、非常に難しい問題なんです。我々はちょっと面白い仕組みをいくつか作ってそこは解決しました。
ちょうど良い感じの部分の空気感を、出版社にも一歩踏み込んでもらって、でも消費者は楽くらいのレベルでできるものを提供したいなと思ってやっています。今後どんなことをやっていこうかと思っているかという話で、締めにまわっていきたいと思っています。
単に雑誌やって面白いよっていう話ではないなと思ってるんですよ。インターネットっていうのは、コンテンツを軸にした課金っていうのが出来ると、インターネット自体が変わるんじゃないかなっていうことを思っていまして。
さっきAmazonの話をしましたけど、昔はネットで物を買えなかったんだよ、って今なってますよね。ネットでコンテンツを買うのが普通になると、その先に広がる世界はこんな感じかなっていうことを考えていて、それをやろうとしているっていうことをお話したいんです。
投げ銭やクラウドファンティングも
最初は左下の売れるコンテンツを軸に少額課金のプラットフォームを始めると。そうするとオプショナルでコンテンツを売るっていうことも簡単に出来るようになるんです。
この著者の話は面白いからちょっと過去のこの本を全巻買おうかとか、もっとクローズドなデータ、10日で5キロ痩せて5万円とかそういう物を買おうかとかですね。こういうことが課金に紐づいていると非常にやりやすいです。
あとは投げ銭みたいな、今までWeb上ですごく失敗してる試みなんです。投げ銭がなぜ失敗したかというとコンテンツと紐づいていなかったからなんですね。投げ銭というシステムだけあっても、やっぱりいまいちで、この著者のこのコンテンツが面白いなってなったら100円とか1000円とか。コンテンツと紐づくと投げ銭が初めてワークするのかなと。もちろんインタラクションもそうですね。著者とクリエイターとかも。
あとはクラウドファンディング。これはですね、コンテンツと紐づくと全然意味が違うなと。本つくるときにファンディングを普通は出版社がやってたんですけれども、この本、面白そうだから300万やるから本1冊作っていいよっていうのが出版社のひとつの役割です。
これをクラウドファンディングでやるようになると、企画の判断は消費者がして先にお金をもらって、芸人が世界1周するんで100万円集めます。それを本にします。帰ってきたら祝賀会をします。見たいものを1万円で100人集めてやる。そういうことが出来るようになるとこれもコンテンツと紐づくとより面白いことが出来る。
ド本命は、物販
あと最後はド本命かなと思うんですけれど。
物販ですね。イベントもそうなんですけど。たぶん一番分りやすい例はファッションの分野だと思うんです。ファッション誌を女性が読んで、この人が着てる一式素敵だわって思って日曜日に表参道に買い物に行くと表参道中を2周くらいして、それでもたぶん全アイテムは揃わないと思うんですね。
サイズがなかったりとかしてすごい大変なんですよ。伊勢丹とかに行くと若干違うんですけれど、それでも無いものはないですし。そういう状況が今のファッションなんです。そして物販は物販で売れなくて困っているんですよね。
なんでこの2つがくっついていないのか本当に分からなくて、たぶんネットだったら簡単にくっつけられる。なんでくっついてなかったかというと、理由は簡単で面倒だったからなんです。
出版社は物販とかやる必要なかったんですよね。最近たまにちっちゃいファッション系の販元が物販を始めてますけど、やっぱりすごく苦労してるし結局アイテムを揃えられないから、アイテム数のためにコンテンツの質を下げたりとかそういう本末転倒的なことも起こったりしているんです。
これはそれこそ伊勢丹と講談社のファッション雑誌をくっつければ可能になる話なので、これはネットの課金空間上で非常に大きな場所になるのかなという気がしています。こういうことが課金とコンテンツが結びつくといろんなビジネスがたくさん生まれるんだろうなということで、こういうことをしようと。
これは国内だけではなく、アジアとか世界に広げられる話かなと思うのでそこをやりたいなと思ってます。特に日本のコンテンツで世界の中で勝負できるコンテンツは2つあるかなと思っていて、コミックとファッションですね。ファッションは特にアジアにおいてなんです。
コミックに関しては完全に世界を狙えるレベルのコンテンツが揃っているなと思っているので、今のところあんまり海外で漫画は売れてないですけど、日本の漫画のクオリティっていうのはハリウッドに負けていないものかなと思うので、この分野は相当面白いのではないかなと思ってます。
出版社の海外展開がうまくいかない理由
出版の海外展開というのは実はすごく難しい分野で、日本の出版社はほとんど上手くいってないんですけど。僕自身も自分のつくった本を中国で売るとかですね、いろんなことをやっているんですが全然ダメで。なんでかっていうと簡単で、国が違うと結局は自分では売れないのでライセンスとして渡すしかないんです。
そうすると向こうの出版社がちゃんとやるかなんてわからないわけですよ。そしてちゃんとやらないことが特に中国とかではそうなんですけど。たぶん自分で翻訳して自分で世界中に売る時代におそらくなるのではないかと思うので、そのためにもこういうプラットフォームって大事なのかなと思っています。
別にこれは僕がやるだけじゃなくて、例えばニコ動、ドワンゴとかでもこんなこと考えてると思いますし、皆考えているかなと思います。こういう流れは進んでいくのかなと思いますね。だいたいちょうど1時間なので最後にまとめます。
3つの作り手
コンテンツビジネスはこんな感じになっていくだろうなという全体的な方向性の話をします。
作り手の話をします。作り手はこの3つに分かれるだろうなと思います。個人が直接つくることも結構増えていくだろうなと。あとは小さなブティック的な組織ですね。たぶん一番つらいのは中途半端な大きさの出版社だと思うんですけれど、だからおそらく出版社はこれから合併したりとかが進んでいくと思います。
あとは超大きな組織ですね。角川書店が完全にここを狙っていると思います。コンテンツの方の話をするとさっきも出ましたけど短い本とリッチな本です。とりあえず僕はしばらく短い本を一生懸命やろうと思うんですけれど、リッチな本もすごくやりたいなと思って、今企画を立てて、もしかしたらちょっと外部でやるかもしれないんです。
特にさっき堀さんともお話したんですけれども、教育の一番面白そうな暗記系のリッチコンテンツというかデジタルコンテンツはすごく面白いのが作れるかなと思っていて。たとえば英単語が10倍覚えられるようなものとかで、ゲームで遊んでいたら英単語をいつのまにか1万語覚えてしまったとかそんなものが作れるんじゃないのかなっていうのは思っています。
メディアビジネスは、面白くなる
あとはソーシャル化、グローバル化、そしてこれもリッチな本のひとつかなと、ちょっと本じゃなくなるんですけど、コンテンツの今あるものの未来形として一番面白いものは何かなということで出してきているのがこれです。
ビジネスとサービスとコンテンツが一体化するんだなというのを確信させてくれたのがこれで、NIKE+(ナイキプラス)って使っている人いますか? NIKE+って楽しいですよね。
これはご存知の方も多いと思うんですけれど、iPodとセンサーを組み合わせて、NIKEの靴だけセンサーが入る穴が靴底にあるんです。実はいざiPhoneをつかうとセンサーもいらないのでNIKEの靴じゃなくてもよくなっちゃったんです。センサーを入れて靴で走ってiPodを同期するとネットに記録が上がって走った距離とかを全部記録してくれて10キロとかいくと黒人の速い選手とかが褒めてくれたりして。
毎月いろんなイベントとかがあって、お前ここまでたどり着いたぞとか、友達と勝負してこんな感じになったぞとか。非常に楽しい仕組みなんですよ。これを使うとすごいのがNIKEのシューズを買うようになるし、ウェアもNIKEになるんですよ。やっぱり揃えたくなるから。
「NIKE着てますか?」
(客がうなずく)
ですよね(笑)。僕もそれまでミズノとかアシックスとか使ってたんですけど、全身NIKEになりました。やっぱり人は揃えたくなる。NIKEのお店に行きますし、単純に揃えたくなるんですね。なので、これは巨大な広告システムでもあって、ものすごい仕組みなんですよ。これつくった人、天才だなと思うんです。こういうことをやりたいもんだなと僕も思って、実際自分も使ってます。ということで最後の1枚ですね。
メディアビジネスは今つらいと言われているんですけれど、むちゃくちゃ楽しくなるんだろうなと思っていて。その根拠を言うと、今情報の流通量はかつてない程に高い、活字離れって嘘ですよね。今、人は一番文字を読んでいて、あと情報の表現力も圧倒的に高まっているし、あともうひとつ、人々の情報処理能力も高まっているんです。
Twitter見て、facebook見て、Tumblr見て、メールを見て。たぶん聖徳太子の時代にいたら聖徳太子と勝負できる情報処理能力が皆さんにあるんだと思うんです。こういう状況の中なので、メディアビジネスっていうのはもちろん、出版も教育も僕は同じメディアビジネスで話していますけど、未来はむちゃくちゃ明るいんじゃないのかなと思っております。といったところでおしまいです。どうもありがとうございました。