電子書籍を作ってみてわかった、デジタルコンテンツの特徴

加藤貞顕氏:電子書籍を作ってみてやっぱりわかったことがいくつかありまして、僕ら、どれぐらいやったかというと、50タイトルぐらいの紙の本をデジタルに置き換えるっていうことをしました。あとはリーダーのソフトウェアの評判が良かったこともあって、いろんな出版社に外販して売ってるんですね。

その際にいろんな出版社が何を求めてるのかとか、何がいやなのかわかりました。たとえばですが、出版社同士で特定の出版社に世話になりたくない、みたいな力学も働いたりします。

やってみてわかったことですけど、やっぱ作り方がこれはめちゃくちゃ変わるだろうな、と。その時はまだ過渡期なんで、紙からデジタルに置き換えているんですけれども、たぶんもっと短いものが主流にならざるを得ないだろうな、と。電子書籍を、特に(スマホを取り出して)これで見ると、ページ数が単純にめちゃくちゃ増える訳ですよ。画面が狭いので。

本でいうと1章分くらいがちょうどいいだろうな、という感じがすごくあって、あともう一個はやはり、デジタルだと人は短いものが欲しくなるな、と。YouTubeなんかがまさにわかりやすい例ですけれども、YouTubeの前はみんなテレビとかで30分とか1時間とか2時間の動画をぼんやり見てたと思うんですけれども、YouTubeで見ると10分ですら長すぎる、3分くらいにして欲しい、みたいな感じですよね。

だから、長さが短くなるのが一つトレンドとしてあるだろうな、と。あともう一個は全然逆ラインですけど、すごくリッチなコンテンツですね、動画が入ったりとか、これはこれでまた、紙で出来なかったことが出来るようになるだろうな、と。

あと、やっぱ売り方なんですね。売り方が全然変わるな、と。本は、単純な話、たくさん刷って、バーンと広告打って、ガンガン営業かける、っていうのが本の売り方の基本なんですけども、これが全く出来ない訳ですよ。

iPhoneアプリの新聞広告は全く効かなかった(笑)

僕らは実験と割り切って、あらゆるマーケティングを試してみたんですけれども、新聞広告を打つということもしてみました。iPhoneアプリの新聞広告を打ったのは、多分我々が日本で初めてだと思うんですが、全く効かなかったですね(笑)。他にもいろいろやっていて、Yahooのバナーだけやっていないです。ちょっと高かったんで。

ツイッターの横のバナーだったりとか、iPhoneの無料アプリのバナーだったりとか、かなりいろんなことをやったんですけども、やっぱり一番効くのが、当時の、2010年の話ですけど、ツイッターだったんですね。しかも著者がツイートする、あるいは編集者でもいいんですけど、クリエイターがツイートする。これより効くものはないっていうのが、その時の状況です。売り方全然変わるな、と。このころから僕もツイッターをまじめにやるようになりました(笑)。

あともう一個、これも売り方の話なんですけど、「ネットはコンテンツが非常に埋もれやすいんだな」と。売り場が広いとよく言われるんですけど、逆だな、ということもわかってですね、何でかっていうと単純に画面が狭いからなんですけど。ここ(スマホ画面)に出てる分しか売れないんですよ。

ランキングなら、上位の5個しか売れない。まぁ、パソコンのiTunesで見るともう少しランキングが広がるんで、それより下でも多少は売れるんですけども、ともかく、ランキングないものはないのと一緒なんですね。これは実はAppleのiTunesが持つ欠点でもあると僕は思うんですけど、ちゃんとマーケティングする機能を彼らは作ってないんですよね。だから、現状は少なくとも埋もれやすい。

電子書籍で出版社は幸せになれるのか?

あともう一個、電子書籍って本当に本命なのかなと。当時の我々はかなり上手くやっていたんですけど、一方でこういうふうになるだろうな、っていうのが見えてきて。まず、作り方が変わることが一番大きいですよね。短い本になったら単価も下がります。確実に。

紙の本でも、文庫版みたいな小さなものは、単価を下げないと消費者は納得しませんよね。電子書籍ではさらにその傾向が進むだろうなと。だから、出版社という組織で、電子書籍を本気でやっても、みんなが幸せになれるのかな、っていうのが、その時に出てきた疑問です。だから僕はいま、新しく会社を始めることにしたんですね。これから、こんなことが起こるんじゃないのかな、と思っていることを更に見ていきたいと思います。

これからおおきなことが起こるのは、もうこれ、こいつ(タブレット)のおかげかなと思うんですけども。Kindleですね、これ。この前koboが日本でも出ましたけど、Kindleもそろそろ出ると言われて、もうすぐ出るんじゃないかと思うんですけど。

こういうものがいずれ出そろう訳ですよ。あとはiPad miniももうすぐ出ますね。Google のNexus 7ももう出て、機種は別に正直言って、どうでもいいかな、って思っていて、これから起こるマクロ的な話をすると、多分5年くらいでこういうものはほぼ無料になって、全員が持っているようになるだろうな、っていうのが、ドラッカー的な言葉を言うと「すでに起こった未来」ではないか、と思うんですね。

全員が持っているようになるだろうと。(もうひとつ、スマホを手にして)これとiPhoneみたいなものと二つ持ちにするのはたぶん、すごく本とかが好きな人で、普通の人はたぶんスマホが一個だったり、あるいは、ちょっと画面が大きくなったスマホをひとつ持つ。そういう感じで落ち着いていくんじゃないかなと思うんです。

その時に、果たして電子書籍でいいのか、というのが、さっきの問いなんですけれども、ちょっと出版の市場っていうものをここでさっと外観できれば、と思います。

出版不況は音楽市場と同じ道をたどるのか?

出版の市場っていうのは、このグラフの左端よりもうちょっと左の1996年がピークで、2.6兆円の市場だったんですね。そこからこのようにウナギ下がりに下がってまして、今1.8兆円なんですよ。その緑の線っていうのは、そこから先は予測値ですけれども、大体同じような線で下がっていくと仮定するならば、大体2016年に1.5兆円になると、要するにピーク時から1兆円減るというのが、起こるであろう未来で、赤いのが電子書籍のグラフなんですけれども、これインプレスが出している予測値で、2016年の段階で、2千億円なんですね。

明らかに下がった分に見合ってないんですね。当たり前なんですけども。デバイスをみんなが持ってなくちゃいけないし、単価も下がるし、こうなるだろうと。やっぱり直感的に思った、電子書籍をやっても幸せになれないだろうな、っていうのはこういうことですね。こういうところの中で頑張るのはあんまりハッピーじゃないと思いました。あと音楽市場っていう、実はすごくいいお手本があるんですね。

10年前に似たような事態に見舞われています。2001年っていうのがどういう年か、っていうと、iPodが出た年です。iPodが出た後、こんなことになりました。これは、日本のCDの市場ですけど、青いのは、5千億円から2億円までダーッと一気に下がっていて、赤いのがデジタルデータ販売の市場ですね。実は日本の音楽のデジタルデータ販売は、かなりの部分をガラケーの着メロが占めているんですね。レコチョクとか。

なので、2009年かな? 2008年かな? そのへんがピークで、そこからちょっと下がっているのは、ガラケーからスマホに転換してる過程にキャッチアップできてないので、ちょっと下がっているんですよ。もちろんこの中でiTunesは伸びているんですけども。こんな感じです。5千億円が2千億円になって、電子は800億ぐらいですか、だから2,200億円ぐらいがどこかにいっちゃってると。

コンテンツに対するニーズは、むしろ伸びている

ただ、これがちょっと一個またおもしろいポイントなんですけれども、JASRACっていうのは主に著作権を管理している団体で、音楽にお金が動いたら全部ここを経由して、著作権者にお金が分配される、っていうそういう団体なんですけども、ここの売上変わっていないんですね。

何でこのCDの減った分を持ち直しているのかっていうと、まずやっぱり一つはWebなんですよ。ニコ動とかYouTubeとか、そういうエリアですね。あとはYouTubeで皆さん音楽聴くと、ちゃんとJASRACにお金が行くんですよ。あとはカラオケとか、CATVとか、ライブですね。このへんが伸びているんです。

というわけで、CD屋さんは辛くなっているんですけども、消費者の音楽の消費っていうのは、変わってないだろうな。いや、もしかしたら、僕、増えているんじゃないかと思うんです。これ一概に言えないのは、JASRACの料率っていうのはメディアによって違うので、増えてるって簡単に言い切れないんですけど。少なく見積もっても、人の音楽に対するニーズは一定であると、それはまぁ、皆さん生きている実感としてもそうですよね。

なので、僕は同じように、人間のコンテンツに対するニーズっていうのは、少なくとも一定はあって、むしろ伸びる方向のほうが確率高いだろうな、ってことを思っていて、それで、じゃあ電子じゃなかったら、(グラフを指して)このさっきの減った分、どこに行くんだといったら、これはもうWebじゃないかな、と今思ってやってるとこなんですね。

Webコンテンツは無料でいいのか?

加藤:コンテンツのビジネスの市場っていうのをですね、ここでちょっとまとめてみたいなと思います。

今、縦軸が価格で横軸がコンテンツの濃さとか強さとかデンシティです。書籍雑誌というのが真ん中にあるんですね。だいたい500円から3000円、ページ数でいうと150ページから400ページくらいの、そのエリアがあそこです。そこに今1.8兆円の市場があるわけなんです。実は僕、大学とか大学院もコンテンツビジネスとして捉えることができるんじゃないかと思ってるんです。

これは1年間100万円みたいなビジネスですね。こういう市場があってWebっていうのはあそこの一番下です。無料にはり付いてるんですね。濃いものから薄いものまで。これはもしかしてちょっと不健全な状態なんじゃないかと。経済学でいうところの供給曲線っていうのは、右上がりになるわけです。さらにそれを確信するに至ったのが有料メルマガっていうものですね。

最近ちょっと出てきてます。有料メルマガってこの間を埋めるようなとこに、ほいほいと出てきますね。100円のものも1万円のものもある。書籍雑誌の右側にあるやつは、僕が思い浮かべてポイントしたもので、月1万円みたいなメルマガで必ず上がる株とかが書いてあるんですけど、もちろんいんちきなんです(笑)。そういう需要があるわけですね。

月1万円でも100人いたら月100万円になりますから、なかなかのビジネスだと思います。そういうふうに、あっそうかやっぱり有料メルマガという仕組みができればきちんと市場は生まれるんだなということがわかって、僕らが具体的にどこやろうかと思っているかというと、ここですね。

加藤:この雑誌書籍の左下、さっきちっちゃなコンテンツがすごく主流、短くなるんじゃないかっていう話をしましたけども、この部分を市場としてカバーできるエリアをWeb上に創ることはできないのかなってことをやろうとしています。あともう1個これからデジタルで盛り上がるだろうなっていうのがこの領域ですね。

コンテンツが売れるようになるとデバイスや司法の制約から自由になる

加藤:動画とかテキストを組み合わせたようなリッチコンテンツの領域で、ここはおそらくこれから右上のあそこ(大学大学院)と競合とか連携しながら流行っていくんじゃないかと思います。だからデジタルにコンテンツがちゃんと売れるようになると何が起こるのかというと、コンテンツがデバイスとか司法の制約から自由になるっていうのがこれから起こることの本質なんじゃないかと思ってるんですね。

コンテンツが自由になっていろんな形を取りうるようになる。これ僕はすごくコンテンツの作り方としていいことかなと思っています。じゃあ無料のWebっていまたくさんあるけど、あれどうなのって話があるんです。無料のWebはもちろんそうとうビジネスとして完成されていて、今までもちゃんとワークしてきてるんであれはあれでいいんです。

単純にサービス系のものとかはこれからもいけると思うんです。(スライドを指して)広告やサービスと結びついたものは可能というのは、これはfacbookとかそういうのを意味してるんです。ちゃんと儲かるようにできると思うんですが、もちろんこれは規模が超でかくなきゃだめで、ただド本気のコンテンツ系をWebでマネタイズするのは無理だろうなっていうのが今僕が思っているところです。

たどり着いた結論、本命はWeb

僕自身、ダイヤモンド社でビジネスサイトの立ち上げをちょっと手伝ったことがあるんですが、広告だけで出版社の人件費を出していこうというのは、どう考えても無理だなと思いました。そこを目指すのがまちがいなのかもしれないのですが、おもしろいものを作り続けるには、他の方法が必要なんじゃないかなと。

じゃあ有料メルマガでいいんじゃないのって声ももちろんあるんですね。

有料メルマガっていうのはもちろんすごく有力で、ファンクラブとしての役割っていうのはすごくいいことだと思うし、おもしろいと思うんですが、ただこれが可能な人っていうのは何人くらいいるのかなと。日本でたぶん100人くらいしかいないんじゃないかなって思うんですね。これをちゃんとビジネスとして続けていける人、やっぱり津田さんにしても堀江さんにしても皆編集者を雇ってやってるんで、たぶん最低5000人くらいいないと回らないんですよ。

一番つらいのが、そこそこ有名な人が始めたら500人くらいしか来なくて、500人だと月数万円とかそういう世界で毎週書き続けるっていう、これは地獄の始まりみたいになっちゃうんです。だから出来る人ってそうとう限られてるなと。だから市場規模でいうとMaxで数10億円程度で、さっきの出版がダーってくだっていったあのグラフのあそこを埋めるものにはたぶんならないだろうなと。

単純に見た目としても、これが本に置き換わる感じはないよねっていうのが、僕もいっぱい取ってるんですけどあってですね。じゃあそうなると何が本命か、電子書籍もダメで、有料メルマガはいいんだけど規模感としてマズイっていうことであればWebだろうなというのが今思っていることです。

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