ヒットコンテンツには「応援顧客」がいる

中山亮太郎氏(以下、中山):やっていてすごく感じたのが、SNSが世に根付く前は作り手と一般顧客が分断されてたのかな、と。

なぜかというとメディアでは権威がある人しか発信ができなかったというか、強烈にお金があって、広告費とか番組を買う、みたいな感じじゃないと情報を発信できなかったので、作り手サイドと一般顧客サイドが交わる場なんてなかったと思うんです。

しかし、SNS、ブログ、Twitter、Facebookが当たり前化してきてからは、一般顧客と作り手が交わる場がなんとなく出てきて、その中で「応援顧客」という存在が誕生した。

これは先ほどの安彦さんが言ってたことを違う呼び方にしているだけですが、この「応援顧客」というのが、すごく重要なファクトになってきていると感じています。

この応援顧客が入り込める余白みたいなことをあえて作っていく、引き算して作っていくのも重要かもな、とか、甘えちゃうのも重要な時代なんじゃないかな、と思っていまして。

これは秋元(康)さんが著書でも言ってたんですが、AKBの場合は、ファンがアドバイスできる場所。実際に会える劇場を置いたことによって、ファンがアドバイスしたら、次のときに押しの女の子にアドバイスした部分がちょっと直ってたりとかするとか。

自分がコンテンツ自体の完成に向かっていくことによって、関わってる、参加してる感をあえて準備してあげちゃう、みたいなのことにはすごく意味があります。

そうすると熱量を伴って、友達に口コミで「あれいいぜ」って言いますし、SNSでも発信しますし、ブログにPVがあるような方に関してはブログの記事とか、すごいポジティブな意見を書いてくれたりしますので、このへんをどう作ってくか、というのが今の時代のヒットコンテンツの作り方だと思います。

これがないと、マスのゴリ押しみたいな感じでSNS上にいい意見がなかったりとか、「あれ完全にゴリ押しだよね」とかそんな話が充満しちゃって、ネガティブな言葉ばかり出ちゃうとか、そもそも話題にもなってないとか。

こんな感じの距離感のままコンテンツ展開していくと、今の時代、ぜんぜんヒットしないと考えています。

ファンに甘えてもいい時代

この余白を埋めるものとして、お金というのはすごいわかりやすいと思ってますし、制作のサポート、「背景書きます」とか「ガヤの声優として参加します」とか「デザイナーだからWebページくらいは作ってあげますよ」とか、そういうのもあるかもしれないと思います。

ほかには意見出しのサポート。先ほどの投票システムがここに入ってると思うんですよね。そこで参加感が出てきているというのもあったりします。

意見出しのサポートとか、「ここのキャラクターの声優さんは誰々がいい」みたいなものをみんなに投げかけちゃうとか、いろんなかたちで意見を求めることができるかなと思います。

あとは宣伝ですね。「宣伝してください!」と言って、「ぜんぜん誰も来てないです!」みたいな感じで宣伝してもらうとか。よくあるじゃないですか、居酒屋とかに行くとなんか知らないけど「なんでこの映画のポスター貼ってあるの?」みたいな、そういうのもちょっと近いかもしれないなと思っています。

コンテンツに対する「なんとなく足りない」とか「もっとあるといいな」みたいなところを、ファンにあえて甘えにいっちゃうみたいなものはむしろプラスに働く。ダサくないし、かっこ悪いという時代はもう終わった。むしろこれは暖かい熱量を伴う「巻き込み」みたいな感じに変わっています。

実はこれを全部できるのがクラウドファンディングです。今はこれが最大のツールになっていると思ってます。なので、応援顧客による生の感想が拡散していくというところは、プロモーションにお金をかけてもなかなかリーチしない世の中において、すごい重要なところです。

失敗するクラウドファンディングの共通点

一方で、クラウドファンディングには失敗する共通項がありまして。その1つに「応援してくれるターゲットを定められていない」というものがあります。ターゲットに響かないリターン、お礼の品みたいなものもあります。そもそもターゲットを定められていないので、あさっての方向のものを用意してるということがあったりします。

あとはターゲットへの情報をリーチさせる戦略がない。安彦さんのお話を借りると、ソーシャルループでしたっけ。どうやってバズらせるか、みたいなところの戦略がぜんぜんない。

コンテンツ系で多いのが、作り手の熱量が伝わらないことです。プロデューサーが顔を隠して、大人な感じでやっちゃうとか。

例えばアイドルがなにかやるという時に、アイドルがそれをやってること実は知らないとか、たまにあるんですよ。「この声優さん!」とか、「このタレントさん!」みたいな感じでめちゃめちゃ押して展開してるのに、当の本人ぜんぜんTwitterで吐いてないとか。

ソーシャルメディアで、「これを作りたい」みたいな熱量、成功させたい熱量みたいなものがぜんぜん伝わってこないというのはだいたいヤバイ。だいたいコケます。

ファンも、「僕らが応援したところでぜんぜん気づいてくれないし……」みたいな感じになっちゃう。ここの4点ができていないのはきついと思っています。

逆に言うと、できていればうまくいきます。見てる限り、全部できていればうまくいってるという感じです。応援してくれるターゲットをしっかり定められている、というところだったりとか、ターゲットに響くお礼のリターンが用意されているとかですね。

ターゲットへ情報をリーチさせる戦略、アクションプランがしっかりとあると、作り手の熱量もしっかり伝わってきます。

Makuakeが支持される理由

とはいえ、「ターゲットに響くリターンってなにがいいのかな」とか、「成功事例にどういうものがあるのかな」と思ったりもするでしょうし。あとはターゲットへ情報をリーチさせるところ。ここが、すごく難しいところですよね。メディアにもブロガーにもインフルエンサーにも知り合いいないし、みたいなところがあったりすると思います。

こうしたことを全部お手伝いしていることが、Makuakeがうまくいってる1つの要因なのかなと思っています。必ず1人プロの担当が付く。

アニメコンテンツは、僕自身が大好きな領域でもあるのでけっこう口出しを、口出しというか、一緒になって頭をひねって、ファンの気持ちになって考えるというところをやっています。

なのでターゲットの選定とか、ターゲットに響くリターンとか。このへんは決まっているので、アイデアみたいなものあんまりないんですけど。

ターゲットに情報をリーチさせる戦略については、PR担当が別にいますので、PRチームと一緒に「どこかターゲットできるメディアありますか? このへんはうちのターゲットにリーチできるメディアさんなので、一緒にできるとこできないところの役割に関して、この順序で当たっていきましょう」。

「このタイミングではこのメディアさんだけ見ましょう」とか、「まだ情報解禁しないでください」とか、そのへんを一緒に考えながらPR戦略を練っていったりしています。

「作り手の熱量が伝わってくる」というところは僕らにはなかなかお手伝いできない部分なので、「なんとかしてチーム一丸となってソーシャルメディアで吐いてください」というのをお願いしているところです。

『この世界の片隅に』の裏側

では、具体的に『この世界の片隅に』がどういうステップと、どういう感じでやったのかご紹介したいと思います。

総じて、映像制作を小さく生んで、大きく育てる手法として使っていただいた感じでした。

実は全体で数億円の資金が必要だったんですが、最終的に製作委員会から集める必要がありそうだったので、ファンや製作委員会の候補会社に対して魅力が伝わるような「試作品フィルム」を作ろう、というのがクラウドファンディングを使った理由でした。劇場版をいきなり作るため、というより、ここが本来目的としたボトムポイントだったというところです。

普通、動いたところを見たことない作品に、劇場だと1,800円しか払わない人が、平均して1万円払うというのはありえない。「見てもいないし、宣伝も見たことないのに払う」という人たちがボリュームゾーンにいたら、これって絶対にいい作品になる、ユーザーが求める声が集まっているということの証明になるので、市場の潜在ニーズの証明にも活用できたらな、というのも1つの目的でした。

その証明がしっかりできたので、製作委員会の組成と配給会社の決定ができたというところでした。

本当はパイロットフィルムを作って、それを営業資料として回り始める、というステップ論だったのかもしれませんが、クラウドファンディングをはじめたらぶわーっと集まったので、それが大きなきっかけとなり無事に製作委員会の組成と配給会社を決定することにつながりました。

『この世界の片隅に』はちょっと違うんですけれども、一般的にはこういうところが製作委員会として入ってくるんだと思います。

『この世界の片隅に』の場合は玩具メーカーはあんまりなかったと思いますが、一般論としてこういうステップを踏めたらいいんだろうなと思います。

そして制作ステップ。これは、今後増えてほしいですね。

アニメ「ビジネス」には成功方程式の王道があると思います。例えば 声優のライブが開催できそうな内容で、おもちゃ化もしやすく、ゲーム化もしやすく、さらにはパチンコ化してもお客さんが集まる、みたいな。

そうしたマネタイズの複数化に大きくハマらない、作品性のみで勝負する「ビジネスとして儲かるのかな?」みたいなコンテンツを、小さく生んで埋もれさせないようにすることに関しては、クラウドファンディングはすごくいい使い方なんじゃないかと思っています。

ターゲットは深夜アニメファンではない

「ターゲットを誰にしたか」ですが、毛色的に深夜アニメとはまた違うジャンルで、映画とアニメの間くらいにあるものなので、もしかしたら今日来られてる多くの方の想定しているコンテンツとは毛色が違うのかもしれないですが、考え方は同じです。

ターゲットは片渕(須直)監督の作品の『マイマイ新子と千年の魔法』のファンにしました。『BLACK LAGOON』の監督なんですよ。

どちらかというと『BLACK LAGOON』って深夜アニメ好きの方のほうが好きですし、片渕監督って聞くと「あ、『BLACK LAGOON』ね」みたいな感じになる方が多かったんですけれど。

そっちよりは、そのあとに作った『マイマイ新子と千年の魔法』。どちらかというと『この世界の片隅に』に近いようなトーンの作品ですね。このファンというのが1つ。

もう1つが『この世界の片隅に』の原作漫画のファンの方と、舞台の広島に縁がある人。おばあちゃんがいるとか出身者とかですね。なにか縁がある人。

そしてもう1つは、アニメ業界の新しい可能性を応援したいアニメ業界の人。というかたちで、この4つをターゲットに決めました。

実は、クラウドファンディングが成功する予兆はありました。安彦さんの話と近いんですけど、Twitter上に熱量があったんですよ。ただ、そんなにたくさんなかったけれども、まず監督が「これを作りたい」って何年もツイートしてるんです。その様子に対して、ファンの見たいという熱量も存在していたんです。

応援している火種みたいなものがあったので、「これは本当、氷山の一角の一角の一角に過ぎないんじゃないかな」というのを感じた、ということもありました。監督ががんばってTwitterを使って言えば、まずはここにリーチしやすくなるだろうなということはなんとなく見えていたところです。

もう1つが『この世界の片隅に』の原作のファン。これはめちゃめちゃ大変でした。なぜかというとここにはコミュニティとかないんです。

ファンクラブサイトみたいなものはないですし、出版社の双葉社さんもこれに特化してリーチさせられるわけじゃないですし。あとは原作者の漫画家さんのこうの(史代)先生も、ソーシャルメディアでなにか情報を発信している、常にファンと接点がある状態じゃなかったんですよ。

完全に遮断されてたので、ここはけっこう計算しづらかったです。話題になったあと、粗い網に引っかかったらラッキーかな、くらいに考えていたところだったので、正直ここのリーチは、戦略上最初は緻密なものはできませんでした。

もう1つ、広島に縁がある人。これはけっこう明確でした。広島の人が見てるようなところに情報をリーチしたりとか、監督自身もたまに広島に行ってファンコミュニティ、応援してる会みたいなのも持ってたりとかしたので。

そういったところからやったり、うちのPRチームが広島のテレビ局にお願いして、「取材してください」みたいな感じで言ったりとか、中国新聞に掲載してもらうとかですね。こういったかたちで情報をリーチしていきました。

アニメ業界の新しい可能性を応援したい人。これは制作スタッフに「ひたすら知人にお願いしてください」というようなかたちで言ったところですね。

なのでここで一生懸命、制作陣とかがお願いしますみたいなことも言ったので、本気で作りたいという熱量が、ファンにもなんとなくネット上に伝わったみたいなこともあったりしました。

ということをわーっとやって、なんとなく話題になってきたときに、「『この世界の片隅に』の原作のファンだった」、みたいな声が急に上がってきたので、広がったことでリーチしはじめたのは良かったです。

最後は東洋経済さんとか、そういうビジネス系のところが取り上げてくれたりして、更に新しい層へのリーチに成功できました。

リターンは応援だけ

お礼の品は、「エンドロールに名前がのる」というものほぼ1本です。

いくつか「手紙届くよ」とか、「イベントに参加できるよ」というのもあったんですけど、基本これ1本という感じでした。

ただ注意書きしたのは、これが「劇場版ができた暁には」エンドロールにお名前ですよ」、たいなところだったので、やっている最中は確約されていたわけではない、条件付きのリターンでした。

もう物欲とかじゃない「応援」。「本当にこれ見たいから、応援するからなんとか作り上げてくれ」という、極めてピュアなものだったと思っています。

お手紙が届くとか。

イベントの開催など丁寧にファンとのコミュニケーションを実施したりすることで、応援してくれることへの感謝を常に伝え続けていたのは印象的でした。

公開初日に立ち見続出というので、たぶん『君の名は。』を超えるツイート量がこの前後くらいに生まれていたと分析している人もいまして。立ち見続出、満席続出、残り席わずかも、たぶんこの時点で売り切れちゃったと思います。

これが何週間も続いたというような状況だったのは、さっきの顧客ケアをしたことによって応援顧客になった。お金を出してくれたみなさんがとんでもない量のツイートを書いてくれたり、Facebookで書いたりブログもあったり。中にはメディアを書いてらっしゃる方、メディア関係の人もいました。

そして、びっくりするほど全員ポジティブな意見でした。賛否両論じゃなくて全員賛、みたいな、普通じゃちょっとありえない状態が生まれて、『この世界の片隅に』は素晴らしいものだということをネットが広げてくれました。

そして、2度目のクラウドファンディング

そして、2回目をやりました。1回目は2015年の春にやりまして、映画の公開は2016年の11月12日だったので、クラウドファンディング以降、1年半くらい間があいていました。

2回目は公開したのと同じタイミングくらいでやったんですけれども、1回目は「映画を見たい」という思いで集まったお金でした。

一方2回目のクラウドファンディングで集まったお金は、映画を見た人が「これはいろんな人が見るべきだ」と言って、「これが広がるためだったら支援したい!」という思いでお金を出したというかたちです。

結果は3,100万円となってるんですけど、申し込みの数に上限を設けました。なのであの勢いでいくと、たぶん何億円も集まっていたと思います。しかしそこまでお金は必要ないです、ということだったので、上限を決めて打ち止めにしました。

これも広がってくれるためだったらいくらでも出しますよというようなかたちで、お金が集まったものでした。なので宣伝活動のための費用というニュアンスが近いと思います。

お礼の品ですが、この目的が監督を海外に連れていくこと。実はこの時すでに海外に配給自体は決まっていました。ただ館数は確保できたとしても、お客さんが来なかったら意味ないじゃないですか。

お客さんに来てもらうために、監督を現地に連れてって、監督の想いとか生の声を、なるべく多くの国、多くのファンに伝えたいというところがあったので、このための渡航費用ということにしました。

なのでお礼の品は、海外の渡航にいったときのレポートの冊子というようなものだったと。

クラウドファンディング成功の秘訣

クラウドファンディングの成功要因としては、「クラウドファンディングによって資金のみじゃなく、応援顧客をいかに作り、拡散のアンバサダーにしていくか」みたいなところがキーポイントになるかなと思っています。

実はブルーレイとかグッズなどにはあまり使われていません。それは使う価値がないというのではなくて、たまたま使われてない、市場認知がそんなに広がってないだけと考えているので、やってみるといいんじゃないかなと思ってます。

また、蔵入りそうなアニメは、一度試作品的なところでやってみちゃうというのもアリかもな、と思います。

逆に「絶対これいくよね」みたいなプロジェクトは、宣伝費を集めちゃうのもアリかもしれないですね。いろんな活用の方法はまだまだたくさんあると思っています。

僕が今日来たのは、みなさんといろいろお話できたら、「こんな活用の方法があるんじゃないか? 可能性があるんじゃないか?」みたいなところを、Makuakeとしてもいちアニメ好きとしてもできたらと考えていたので、いろいろご意見いただけたらと思っています。

なので、なにかあったらぜひ相談しに来ていただければと思います。以上になります。ありがとうございます。

(会場拍手)