Makuakeの幕開け

中山亮太郎氏(以下、中山):みなさんこんにちは。

僕がやっているMakuakeというサイトなんですが、作って3年半経ちました。最近、どういう感じで使われているのかというところをご紹介しながら、せっかくなのでビジネスとして成功した『この世界の片隅に』が、どのように使ったのか、因数分解してお伝えできればと思っています。

簡単に自己紹介すると、私、中山と申して、Makuake作った人です。作ったときはぜんぜんアニオタじゃなかったんですけど、僕はもともとベトナムでベンチャーキャピタルをやっていて。お金を投資していたんですけど、すごくできなかったことがありました。

「この経営者なんかすごく伸びそうだな」とか、「このビジネスモデルが伸びそうだな」みたいな、そういう判断はベンチャーキャピタルはすごい上手なんです。一方銀行は、「この会社にお金貸したら絶対返ってくるな」という、財務諸表を見るのが上手なんですよね。

その当時、すごくできなかったのは、当時ソーシャルゲームが勃興していた時期で、「こんなゲーム作ろう」と企業側がプレゼンしてくるじゃないですか? それが1ミリもわからなかったんです。ゲームがおもしろいかどうかじゃなくて、「このゲームがコンシューマーに受け入れられるかどうか」の判断は、ベンチャーキャピタルにはなかなか判断しづらいと。

既存のVCだったり銀行のような金融機関みたいなところが、コンシューマープロダクトだったり、コンテンツだったり、お店だったり。最後の最後のラストワンマイルのところで、消費者がお金を出すかどうかの判断がすごく難しい中で、既存のVCや銀行が後押しづらい領域でのアイデアを後押しする仕組みが必要だな、と感じはじめていました。

そう考えていた時にちょうど、「クラウドファンディングが日本で時流になりそうなタイミングだ」と見込んでサイバーエージェントグループとして、この事業に参入するという決議がありました。

ベトナムで突然電話がかかってきて「お前社長やらない?」と言われたので、「それだ! それなら思い切ったコンテンツやプロダクトを生み出しやすくなる!」と思って、「来週帰ります」って言いました。2013年の春だったんですけど、すぐに帰ってMakuakeの立ち上げ準備に入りました。

新しいアイデアの誕生にわくわくできる場所

僕はMakuakeを「新しくておもしろいアイデアの誕生にわくわくできる場所」だと考えています。世の中に出る前の新しいアイデアだったりとか、おもしろいコンセプトやアイデアがまずここに出てくる、当たり前の場になって欲しいと思っています。その場が盛り上がることによって、誰もがもっと思い切ったアイデアに踏み込みやすくなるようにしたいなと。

さっき、「SONYはテレビでクラウドファンディングはやらない」とおっしゃっていましたが、僕にとってはプレイステーションVRが自分のサイトを使わなかったのは、負けだと思ってます。

Amazonとかビックカメラに出てしまったのが、「あー、これは我々が1つ負けだな」みたいな感じだったんですけど、日本アカデミー賞を獲った『この世界の片隅に』がMakuakeから出てきたのは1勝、みたいな。

そういう感覚でやってるので、すべてのおもしろいアイデアがお披露目される場所。お披露目というか、「まずコンシューマーがファーストタッチできる場所」みたいに位置付けています。

今日来てらっしゃる方は、仕組みはご存じだと思うので、割愛させてください。

Makuakeが手がけるプロジェクト

ジャンルとしては今日はアニメなんですが、Makuakeには本当にいろんなジャンルがあって、全体的に「コンシューマーに届くもの」と考えていただければと思います。

逆にB to Bとかだとけっこうきついです。「このネジを……」みたいなものはけっこうきついのと、あと『下町ロケット』的に言うと、バルブシステムのロケットを帝国重工に売る、みたいなものもちょっと難しいです。

一方で「その技術を使ってこんなコンシューマープロダクトを作りますよ」というときはだいたいうまくいきます。ということで、こんな感じでいろんなものがあります。

ただ、ジャンルとしては、できあがったあとにどこかで売られていく「モノ」みたいなプロダクトと、ライブイベントなどの芸能人・アイドル・タレントさんがやる系のところ。そして今日のテーマになるアニメの制作、コンテンツ系の制作はまったく使い方が違うので、ここはクラウドファンディングといえど、一緒くたにするとけっこうコケます。なので、使い方としてぜんぜん違うものだと思ったほうがよかったりします。

なので、それぞれの使い方のノウハウがあるので1回相談しに来てもらえると、いろいろアドバイスできると思っています。その中で生まれたのが『この世界の片隅に』で、これはいったん割愛して、あとでゆっくり説明します。

(イベントが開催された2017年4月22日当時)25億円の興行収入超えて、観客数は190万人を超えました。たぶん全世界入れると、 とんでもなく多くの劇場で上映されているのではないでしょうか。

メキシコだけで300スクリーンと聞いたので、とんでもないなと(笑)。僕もこんなにヒットするとは思っていなかったので、ビジネスとしても成功して、すごく喜ばしいことでした。

サイトとしては、おかげさまですごく順調に伸びてきていて、とくにこの1年とんでもない伸びをしています。おかげさまで業界ではナンバー1の決済金額になっております。とくにプロダクトの分野だと6割くらいの市場シェア、2位が10パーセントくらいなので、相当差をつけています。

また、飲食店の新規店舗作る、みたいなものも6割くらいで、アニメに関しては85パーセントくらい。この間数えたらそんな感じでした。

コンシューマーにとっておもしろいもの、みたいなアイデアをクラウドファンディングで、というところでは大きく先行できてるかな、という感じです。

アニメ制作でのクラウドファンディング事例

今日の主な話題はアニメの制作と宣伝と、あとはIPの活用や育成がこのように事例として使われているということをご紹介できればと思います。

アニメの制作に関してはけっこういくつもあります。例えば地域コンテンツでは、それこそ安彦さんが地域でいろいろやってると思いますが、「萌えキャラをアニメ化させよう!」みたいなかたちの、本当に数分くらいのアニメですね。

宣伝アニメを作って、これを無料でYouTubeにアップしてバズらせて、「地元の地域活性に寄与したい」といったようなアイデアです。

ほかに使い方としておもしろかったのが、京都市営地下鉄。電車に乗った方は見たことがあるかもしれませんが、もともと京都市営地下鉄でキャラクターとして使われていて、これが動くアニメを、より大きな展開を目指したいという思いなんですけれども、いきなり長編制作に必要なお金は集まらないので、まずは「100万円集まったら1分作ります」というものから始まって、結果1,000万円集まったので、たぶん10分くらいのアニメになるのかなと。

10分のものを作って、これを話題化させて、ゆくゆくは製作委員会をしっかりと組成する。僕は、製作委員会というしくみには意外に賛成派です。なぜかというとビジネスを広げてくれるパートナーだから。

口出しするめんどくさい人じゃなくって、ビジネスを広げてくれるパートナーになるのが製作委員会だと思うので、そういった人たちを条件のいいかたちで組成していくということには、すごく意味あると思います。

有象無象のよくわからない企画をもっていくよりは、しっかり見えるものと話題を作ってから製作委員会へ持ってく、というステップはすごく合理的だし、今後もこういうやり方は増えてほしいですね。これによって、お蔵入りするような作品がなくなってほしいと思っています。

リターンとしては、お金を出した人はエンドロールの中にお名前とか、声優さんのサイン付き台本がもらえるとか、「試写会で声優さんに花束渡せますよ」とか、試写会にご招待するみたいな、そんなところが鉄板かなというところです。

これは『少年ハリウッド』というアニメです。

いわゆる女性向けのアイドルアニメで、最終話はライブシーンだったんですけど。

地上波の尺の関係でライブシーンは思いきりはしょられてしまうということがあって。ファンはフラストレーションがたまった段階で最終回を迎えてしまったので、「最終回を完成させたい」ということで、お金を集めました。

「1,500万集まったら1曲分のアニメーションを作ります」「5,000万円集まったら全曲やります」と言ったところ、5,900万円集まりました。

これも初日に応援上映(注:ライブのように歓声を上げることが許可された劇場上映)をやって、そこで「クラウドファンディングスタートします」という発表をして、(支援金額が)いきなりグワーッと伸びていった、という感じでした。

『この世界の片隅に』のアニメ制作においても使われたという感じです。これはまたあとでお話しします。

アニメの宣伝で使われた事例も

アニメの宣伝ですね。制作じゃなくて宣伝という感じで使われることがあって、『この世界の片隅に』では、実は制作と宣伝で使ってるという側面があり、合計で7,000万くらい集めたんですが、これもあとでご説明します。

これは『学園ハンサム』という作品です。

東北の制作会社さんで、東北地方での地上波配信の話がなんとなく決まり始めていたところなんですけど、やっぱり全国放送したいということあって。

全国放送するためには宣伝費用など、やっぱりいろいろやらなきゃいけないので、その宣伝に使えるようなものを集めたい、というかたちでやったところ、TOKYO MXでの放送が決まったと。これ、異常なアクセス数でした。

(会場笑)

中山:「どこから来てるの?」という感じでしたが、Twitterで非常にバズっていたということでした。

あとは『おなら吾郎』という知る人ぞ知るアニメーションも、同じような使われ方でやりました。

大手系では『迷家(まよいが)』という作品。

ご存じの方も多いかもしれませんが、こっちだと6ch、TBS系列のところでやっていまして、地上波が始まる前から(プロジェクトは)一応スタートしていたんですが、地上波が始まってからもずっと掲載することにしました。

放映が終わったあともいろいろと展開していくための費用が、プロジェクトチームとしてはあったほうがいいので、それらを捻出する目的もあったクラウドファンディングでした。そのために後援会を作るといったプロジェクトを実施。「〇〇円出すとブロンズ村民です」と。

これは舞台が納鳴村(ななきむら)といって、「幻の村」みたいなところをテーマにした作品だったので、ブロンズ村民とか、もうちょっとお金出すとシルバー村民になれますよとか。さらにお金出すとゴールド村民になれますよ、みたいな。

そんなかたちで少しヒエラルキー作って、エンターテイメント性をもってやっていったという感じでした。

やっぱり地上波が流れたその日にはすごく支援が伸びるという現象があり、また新たなノウハウになりました。

クラウドファンディングでゼロからIPを生み出す

もう1つのジャンルがIPの展開やIPの創出。最近こういった相談が増えまして、仕込んでるものや準備中のものが多いです。

人気コンテンツに関してはすごくやりやすいですし、ファンもすでにいっぱいいたりするんですが、「ゼロからIPを作りたい」というニーズがすごく増えてきてるなというところでした。

これはアニメ制作じゃなくてシチュエーションボイスです。

音声で「おはよう」とか「おやすみ」「元気出して」みたいな、そういうセリフを『ラブライブ!』にも出演している高森奈津美さんが声というかたちですすめています。

あと、人気の絵師さんが絵を描いて、キャラクターの世界観を作って、シチュエーションボイスを作っていくための費用を集めるというものもやっていって、「キャラクターが育ってったらいいね」というところですすめていました。

今やっているプロジェクトでは、『温泉むすめ』というものがあります。

去年の年末くらいに初めて「このプロジェクト自体をやりますよ」というのをリリースをして。

それぞれのキャラクターは、人気な絵師さんがそれぞれのキャラクターをデザインして、声優さんも、これからというようなポテンシャルのある声優さんをそれぞれアサインして。

それぞれ下呂温泉とか草津温泉みたいな感じで、「下呂美月ちゃん」「草津結衣奈ちゃん」みたいな感じで、それぞれの温泉をレペゼンしていく、『艦これ』の温泉版みたいな、そんなコンセプトでやっていました。

IPの創出に関しては、先ほど安彦さんが言ってたことにアグリーという感じですね。事前の盛り上げみたいなところがいかにできるか。とくにゼロIPのところは、いきなりやってもなかなか伸びていかないので。

事前にどう盛り上げて、小っちゃくてもいいからファンコミュニティを作る。火種をどれだけ作るか、その火をどう延焼させていくか、というところがクラウドファンディングでできればな、と思います。

いかに火を作るか、というところに思いっきり集中していただければ、僕らが一緒に火を広げるお手伝いができると考えています。アニメ制作というより、応援コミュニティを作っていくという感じで、実際今回は、音楽・CD・ライブとか、音楽展開にお金使います、というかたちでお金を集めたというものでした。

あとは有名どころでいうとエヴァンゲリオンレーシングの活動費用ですね。

これはもう3回か4回くらいやってますね。もう鉄板という感じで、毎回これでお金を集めて、活動費用にプラスしていただいてるという感じです。