組織が制度疲労を起こしていた

加賀屋悟氏:それでは引き続きまして、坪井より具体的な内容についてご説明させていただきます。

坪井裕氏:理事の坪井です。今般、策定作成いたしましたアクションプランについて、ご説明させていただきます。

理化学研究所は今回の一連の問題に際し、「研究不正再発防止のための改革委員会」の提言書を真摯に受け止め、高い規範を再生すべく、組織運営の抜本的な改革に向けてアクションプランを策定いたしました。まず今般、改めて自らを省み、次のような諸課題を認識いたしました。

すなわち、法人経営に外部の視点を反映し、リスク管理を踏まえたトップマネジメントを強化する必要があった。発生再生科学総合研究センターは、発足以来14年間に大きな成果を挙げてきたものの、固定化された運営体制が長年に渡り継続し、制度疲労を起こしていた。研究不正行為の著者の責任と、組織として実施する予防措置に至らぬ点があった、でございます。

本アクションプランが目指すものは、理研のための理研改革ではなく、より建設的な、社会のための理研改革です。本改革は自らの社会的使命を再認識したうえで、真に実行性のある運営改革を計るものであり、我が国の研究機関の範となる組織運営体制を構築することを目指したものでございます。

アクションプランの本文は、以下のような構成になっております。まず、社会のための理研に向けて改革する、という理事長のメッセージがございます。続きまして、理研科学者会議議長、加藤議長の決意表明があり、それに続きまして、研究不正の調査を進める科学的検証を行う、研究論文の取り扱い、再発防止に取り組むというSTAP問題に対する理研の基本方針を示しております。

アクションプランの4つの柱とは?

そして、アクションプランは次の4つの柱から構成されます。第1に、理研ガバナンスの強化。第2に、発生再生科学総合研究センターの解体的出直し。第3に、研究不正を防止するための取り組みの強化。そして第4の柱として、アクションプランの実施の第三者によるモニタリングの実施です。

まず始めに、ガバナンスの強化についてご説明いたします。まず、経営戦略会議を新たに設置いたします。委員の過半数を、産業界や科学界など高い見識お持ちの方にお願いし、外部からの意見を幅広く取り入れ、リスク管理を踏まえたトップマネジメントの強化に活かしていきたいと考えています。

次に、研究コンプライアンス本部を設置します。これは、理事長直轄の組織として、研究不正や不適切行為、研究費不正の防止にかかる業務に加え、内部統制の統括を所掌する組織となります。また、それぞれの研究センターには、倫理教育などを所掌する、研究倫理教育責任者を設置いたします。研究コンプライアンス本部長は、研究倫理教育統括責任者として、これらの活動を統括いたします。

また、役員の補佐体制の強化も行います。研究担当理事を補佐する職として、政策審議役を設置し、所内から登用いたします。また、科学的知見からのボトムアップによる運営の活性化のため、主任研究員のなかから理事長の補佐役を任命いたします。加えて、監事・監査室を設置し、監事機能の強化に対応いたします。

広報体制についても見直します。本部広報室の体制を整備し、特に報道発表の手順において、研究センターと本部広報室との役割分担を明確に致します。以上が、ガバナンスの強化に関する取り組みの主要点です。

発生・再生科学総合研究センター(CDB)は半分程度に縮小される

続きまして、第2の柱でございます、発生・再生科学総合研究センター(CDB)の解体的な出直しです。主要な内容につきましては先ほど理事長から申し上げた通りですので、私の説明に重複する部分があることをご容赦いただければと思います。

まず、研究組織の改革です。本年11月までに実施するものです。多細胞システム形成研究センター(仮称)として、解体的な出直しを行います。また、これまでの固定化された運営体制を廃し、近年の科学的潮流を踏まえた目的志向の研究体制に重点化します。(CDBの)5つのプログラムのうち、シニア研究者を中心とした中核プログラム、及びセンター長直轄のセンター長戦略プログラムは廃止し、先端技術支援開発プログラムは理研全体の支援機能を共通運用し効率化するため、他のセンターへ移管します。

これにより、センターの規模は半分程度に縮小されますが、理研全体として研究者の雇用は確保致します。また若手・中堅中心の創造的研究推進プログラムは、他のプログラムから移行する一部の研究室を含めて、新たな目的志向のプログラムに再編・重点化いたします。

2点目、センター長の選考です。これは本年度中を目標に実施するものです。外国人研究者を含む委員会を設置し、今後の科学的潮流を見据えた研究の方向性を踏まえて、研究・マネジメントの両面において優れた新センター長を選考します。

つぎに、運営体制の改革です。本年9月中に実施いたします。実施主体であったGD会議を廃止し、外部有識者を含む運営会議を設置します。また人事委員会を設置し、外部の者の参加も得て、透明性を確保します。国際広報室を廃止し、本部広報室と研究推進室の連携により広報について実施致します。

また、網膜再生医療での連携強化です。世界をリードする日本の再生医療の確立に貢献するため、京都大学IPS研究所との連携を推進いたします。

不正の再発防止へ、実験データの保存と管理を徹底する

続きまして第3の柱の、研究不正防止策の強化についてご説明いたします。今回、理研の研究者が発表した研究論文に不正が認定されたことから、このような研究不正の再発がないよう、抜本的に防止策を強化します。

具体的な対策の4つの点をご説明いたします。1つ目は、研究倫理教育の徹底です。研究倫理に反する研究不正行為については、著者が全責任を負うべきというのが科学界の共通の認識であり、このことをこの事を研究者に強く認識させることが、研究不正を防止するうえで最も大事なことです。理研では今般、世界標準の研究倫理教育プログラムを導入いたしましたが、このプログラムの受講を徹底致します。

教育研修については、今後は各研究センターに新たに置かれる、研究倫理教育責任者がその実施状況を調査し、必要な場合は所属長やセンター長に改善を求めるなど、徹底を致します。研究者の評価面談や契約更新などの機会を活用して、研究倫理に関する規定順守の意識についても確認致します。

2点目です。若手研究者がその能力を発揮できる環境の整備です。若手研究者の育成は理研の大きなミッションのひとつです。若手研究者が安心して研究活動に専念するための方策として、特に研究室を主催した経験のない若手で、新しく研究室の主催者になった者に、採用後のリスク低減、及び管理能力の開発の観点から、研究の自主性に配慮した上で、所属長等による一定の指導・監督を受ける仕組みを構築し、加えて複数のメンターを配置します。

メンターはその研究者にとってのサポーターとして、研究室のマネジメントや成果の発表において、助言や意見交換を行います。採用においてはその手順の文書化とともに、選考過程の記録、また外部の意見を取り入れるなど、透明性を確保していきます。

3つ目は、論文の信頼性を確保する仕組みについてです。研究成果の発表については、責任著者の責任の下で行うのが科学社会の原則ではありますが、その発表が研究室の使命や社会の利益に反するものではないかと確認するため、発表しようとする際の基本的な確認事項を定めます。さらにそれをチェックシートとして保存致します。

著者の責任を明確にするとともに、論文に使っている実験データがきちんと保存されているか、他の論文からの引用が適切に行われているかなどをチェックし、それを倫理教育責任者が厳しく点検をいたします。また論文において引用が適切に行われているかについては、すでに導入したものですが、論文類似検索ツールというプログラムを用いて確認することにしております。

4点目は、今の論文の信頼性とも関わってまいりますが、実験データの記録と管理に関することです。研究成果に使用した実験データは最低5年間は保存するなど、実験やその管理方法についての共通ルールを明確にしたうえで、それぞれの研究分野の違いなどを踏まえたガイドラインを作成し、実験データの保存と管理を徹底します。

アクションプラン履行を監視する第三者委員会も設置

以上、今後の取り組みとしてガバナンスの強化、発生・再生科学総合研究センターの解体的な出直し、研究不正防止策の強化についてご説明いたしましたが、最後に、これらの取り組みを実施するにあたり、第三者によるモニタリングを行うことについてご説明いたします。

理研ではこれまで事務業務に関する助言をいただく場として、事務アドバイザリー・カウンシルを開催してまいりましたが、その役割も考慮しつつ、本アクションプランでまとめた取り組みの履行状況をモニタリングするため、外部有識者からなる運営改革モニタリング委員会を設置いたします。

常に改善に取り組むという意味でも、委員会におけるモニタリングの結果を踏まえ、本アクションプランも適宜見直し、常により良い取り組みが行えるようにしていく所存でございます。以上が、今般いたしましたアクションプランの概要になります。ありがとうございました。