明治安田生命を選んだ2つの動機

加藤大策氏(以下、加藤):はじめまして。明治安田生命の加藤と申します。私からお話を進めていきたいと思います。

まず、明治安田生命のご紹介です。どんな会社かといいますと、140年ぐらい前にできた古い会社です。総資産は36兆円で、どこかの国に匹敵するほどの予算があります。

毎年3兆円ほどの保険料をお預かりして、約1兆円お支払し、2兆円ほどを保険金支払いのためにきちんと持っておくということをしています。お客さまは約600万人で、職員は約4万人です。

私自身は、ちゃんと学校には行っていましたが、百科事典を読んで育ったと思っています。今の時代はWikipediaだと思いますが、私が子どもの頃はまだ百科事典しかなかったので、いつも百科事典を読んでいました。

私は、中学校時代にシンガポールにいました。今から35年ぐらい前、まだ中進国と言われていて、ベトナム戦争が終わって少し経った頃です。

高校に入ってからはパンクにはまり、大学ではDJの真似事をやっていました。20年前、30年前にDJをやっていた人はあまりいなくて、たぶんMITメディアラボの伊藤穰一氏は仕事にしていたと思います。

会社に入る時の動機は2つありました。『侍ジャイアンツ』という漫画がありまして、主人公の青年は巨人が大嫌いで、大嫌いな巨人に入って巨人を良くしようとするのです。

私も入社前、会社がすごくつまらなく見えていましたので、25年前に「明治生命をおもしろくすれば、世の中がおもしろくなる」と思いました。それがこの会社に入った1つ目の動機です。

もう1つ目の動機は、明治時代に起業して、明治生命を作った阿部泰蔵と、安田生命を作った安田善次郎という2人の武士の存在があります。「もしこの2人がタイムマシンで今の時代に来たら、どんなサービスを作るのか?」と思ったことが2つ目の動機です。

保険会社のテクノロジーは時代錯誤?

実は保険会社は、ずっと昔はイノベーティブな取組みをやっていました。みなさんもラジオ体操をやったことがあると思いますが、ラジオ体操は約100年前にアメリカの保険会社で始まって、日本に持ち込んだのも保険会社です。

ところが、実は保険会社は、ずっと昔はイノベーティブな取組みをやっていました。みなさんもラジオ体操をやったことがあると思いますが、ラジオ体操は約100年前にアメリカの保険会社で始まって、日本に持ち込んだのも保険会社です。

明治安田生命もいろいろとやっておりまして、みなさんの多くは保険料を「月々いくら」という月掛け保険でお払いいただいていると思いますが、それは明治生命が50〜60年前に始めたものです。

社員にパソコンを配る「モバイルワーキング」はすでに97年にやっています。

今では保険会社はダイレクト手続きでいろいろとやっていると思いますが、この動きをイギリスから持ち込んだのは安田生命が最初ということで、実はイノベーティブだったということが会社に入ってからわかりました。

一方で、悲しい事実もあります。保険会社のシステムは、ほとんどCOBOL(事務処理用に開発されたプログラミング言語)でできています。

ここにいるIT企業のみなさんはCOBOLを見る機会があまりないと思いますが、ほぼ30年前のプログラムです。これで8割ぐらいが動いているというのが、今の保険会社の実態です。

ここでクイズです。犬は1年で7歳年をとるので、人間の10年前は犬にとって70年前になります。10年前に子犬で来た時の思い出というのは、犬にとっては70年前の思い出を語られていることになります。

ムーアの法則をご存知だと思いますが、コンピュータの伸びは18ヵ月で2倍になると言われています。

仮に人間の経済成長を年3パーセントとした場合、コンピュータにとっての30年は人間にとって何年でしょうか?

先ほどお話ししたとおり、人間にとっての10年は犬にとっての70年なので、それと同じように考えていただくと、「どれぐらい昔のテクノロジーなのか?」というのがクイズです。

これは対数で計算しなければいけないので解くのはとても難しくて、今すぐ計算できる人はいないと思います。

答えは、調べてみると469年前になります。COBOLを使っているということは、470年前ぐらいのことをやっていると思ったほうがいいということです。

470年前というと、日本に鉄砲が来たり、フランシスコ・ザビエルが来たりしている頃です。保険会社はそれくらい古いテクノロジーを使っているというのが、悲しいことですがもう1つの事実です。それぐらい古いということですね。

明治安田生命のイノベーション事例

COBOLを全部取り替えていたら相当大変なので、ではどうするかということで、3つ書いてあります。

とにかく新しくしないといけない、オープンイノベーションに取り組むという発想にいたるわけです。

1つ目の事例は、健康支援プログラムを提供している、FiNCというヘルスケアベンチャー企業と共同で新しいプログラムを開発中です。もう間もなく世の中に出せると思っています。

また、東京理科大学と一緒に「デザインシンキング」の研究をやっております。これももう少ししたらみなさまにもお見せできると思います。

そしてもう1つの事例が「明治安田生命ハッカソン」です。昨年12月、IBMさんとサムライインキュベートさん、その他何社かにご協力いただきまして、生命保険会社で初めてハッカソンをやりました。今年も計画中でして、今度は九州でハッカソンをやろうと思っています。

最後に、私が好きなウィリアム・ギブスンというSF作家が、「未来はここにある。まだ、普及していないだけだ」と言っています。

みなさんが気づいていないだけで、未来はもう来始めているんじゃないかというのが、私の考えていることです。それでは続いて、的場さんにお渡ししたいと思います。お願いします。

大企業にもイノベーティブな人は存在する

的場大輔氏(以下、的場):的場大輔と申します。日本アイ・ビー・エムに勤めています。コグニティブの技術を使って、イノベーションを起こそうという仕事をしています。

このセッションのテーマは、「大企業でイノベーション起こりますかね?」ということです。この会場で、大手の企業にお勤めの方はどれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

的場:スタートアップの方はどれぐらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

的場:3分の1ぐらいですね。わかりました。大手の企業でもイノベーティブな人はいるんですけど、まだ少ないということなんです。

ここに来ていらっしゃる大手の企業の方も、「けっこう阻害されているな」とか、「このままでいいのか?」という悩みがあるのかなということで、そこの悩みをちゃんと解くことがこのセッションの目的だということで、お話をしていきたいと思います。

「私は誰?」ということなんですけど、これは「GE Digital Day」というイベントの写真です。「IoTのインダストリアルインターネット」というセッションのパネルディスカッションで、アイ・ビー・エムの代表として登壇したのですが、IoTも私の専門です。

人工知能も専門なのですが、もっと専門は何かといったら、大企業のエグゼクティブに集まっていただいて、イノベーションを一緒に考えることが専門です。

実際にアイ・ビー・エムでそのような仕事をしていますが、自分でも会社をやっているので、スタートアップの社長でもあります。もう1つの役割として、大学院生でもありまして、4月から博士課程に入ります。

身体1つで3つの仕事を楽しんでるという状況です。学生、スタートアップ、大企業と3つの視点があるので、おもしろい話ができるのではないかなと思います。

多くの学生がスタートアップを目指す理由

まず1つ、大学生の視点から見てどうかというと、私は同じ大学院生の人から「NTTから内定もらってるんですけど、このまま行ったほうがいいですかね?」とか、「ソニーから内定もらってるんですけど、やっぱりスタートアップがいいですかね?」とか、あるいは「このままドクターに行ってPh.D取ったほうがいいですかね?」と聞かれるんですけど、みなさんだいたいスタートアップを選びたがります。

仮に国家公務員になったり、大手の企業へ行っても、「とりあえず3年間やります」というかたちで、終身雇用なんて考えている人はほとんどいません。

「それはなぜ?」ということなんですけど、それは私がスタートアップで仕事をしているとよくわかります。

例えば、私は去年イスラエルに1週間行って、スタートアップの人たちと一緒に仕事をしたんですけど、なんといっても違うのはスピード感ですね。もうぜんぜんスピードが違うんですね。非常に早いです。

この写真は、村田製作所のハッカソンがあって、メンターをやらせてもらったんですけど、みんなめちゃめちゃ熱心な顔で話を聞いてくれています。

私のアドバイスが、もう1時間後に行動になっているんです。私はトイレに入っていたんですけど、「こんな感じでいいですか?」と言って呼びにくるんです。「いや、ちょっと待ってください(笑)」という感じで……トイレに行かせてくれないぐらいのスピード感があります。

日本の企業といえば、「まず稟議書を書け」みたいな。稟議書を書いたら、「これは例外申請だから、用紙が違います」という、そんな感じですよね。それぐらいの違いがあります。

だったらもうダメかなということなんですけど、今、日本の大手の企業でもスピード感のある会社がけっこう生まれています。

中間管理職の人のほどんどは自分の仕事を崩されたくなくて、「新しいことは仕事が増えるから嫌だ」と言うんですけど、本当にイノベーティブな人は「新しいことは自分の価値が増える」と言って喜びます。

私は今、大手の企業のトップの方々とお付き合いしているんですけど、みなさんものすごくイノベーティブです。上に行けば行くほど止まっているのかと思いがちですけど、まったくそんなことはないと思います。

「100年時代」を楽しく生きられる人の共通点

我々の人生のことを考えたときに、とても大事な話があります。この本を読んでいない人がいたら、絶対読んだほうがいいです。

「100年時代の人生戦略が必要になっている」ということで、この会場にいらっしゃる人のほどんどは平均寿命100歳までいくはずで、これからは死ぬのが難しい時代になります。

死ねないことがどれだけ幸せかというと、幸せではないんですね。そこには2つの問題があります。

1つは、死ねないということは、健康でいられるということではないんです。例えば、70歳で病気になっても死ねないので、105歳まで35年間病気でい続けるという、とてもきつい話です。

もう1つ、病気の問題よりもっときついのは、仕事をしないと生きていけないということです。60歳で定年になって、105歳まで生きていこうとしたら、生涯収入の70パーセントくらいを貯金にしないと生きていけないんですね。

ということは、やはり70歳か75歳まで仕事を続けざるをえないんです。終身雇用で60歳までというプログラムは成り立ちません。

学ぶ・仕事をする・リタイアするという人生ではなくて、学ぶ、仕事をする、もう1回学ぶ、別の仕事をする、もう1回学ぶ……という人生に変わってくるということです。だから、同じことをずっと繰り返すのはちょっときついかなと思います。

そういう面で、私のような人間はいないのかなと思ったら、この本に「ポートフォリオワーカー」といういろんなことをする人がいてもいいんだと書いてあったので、ちょっとホッとしたという感じです。

大手企業の人でも、イノベーティブな人には共通点があるというのが私見ですけど、3点あげさせてもらいたいと思います。これをやれば105歳だろうが200歳でも人生を楽しく生きられると思います。

まず、「好きなこと」をやっているということですね。「好きなこと」をやっている人は幸せです。

それから、会社の中で自分にどのような価値があるかという話は忘れたほうがいいです。自分の上司に評価されているかどうかではなくて、世の中でどう評価されているか、お客さんにどう評価されてるかということのほうが大事です。

それから、意識と活動がいつも外に向かってるということです。今日みなさんは、休みの日にここに来ていらっしゃいますよね。この活動がすごく大事です。そういう人は、イノベーティブで、ずっといい人生を生きられるのかなと思います。