仕事以外の人脈の重要性

丸山裕貴氏(以下、丸山):このあたりで、お客さんから質問を受け付けたいと思います。

竹下隆一郎氏(以下、竹下):ぜひ。疑問点とかあれば。

丸山:なにか、お聞きしたいこととかありますか?

竹下:あと時間はどれくらいあるんですか?

丸山:30分くらいあります。

質問者1:お話ありがとうございます。質問なんですけれど、今までは仕事で得られるものはお金だったと思うんですが、これから寿命が長くなっていくなかで、知識とか、人脈とか社外での評判が重要になっていくと思うんです。そのあたりが今後どう変わっていくのかというのをお聞きしたくて。

というのは、コピーできないですよね。お金はまた稼げばいいんですけど、人脈を明日100万円で買いますとかってすぐにはできないので、こういったものの価値やポジションが、今後どうなっていくのかをお聞きしたいです。

竹下:今、おいくつでいらっしゃいますか?

質問者1:38歳です。

竹下:私は今36歳なんですけれど、老いぼれるじゃないですか、ぼくらって。老人になって仕事もできなくなったときに、助けてもらわなきゃいけないんですね。

お金をいくら出しても助けてもらえないと思うんですけど、そのときに信用できる人が何人いるか。そのときはお金という概念もだんだんなくなってくると思うんですが、信用ベースでこの仕事を誰かに頼むとか、これは誰かにやってもらうとか。みんなで家を作るとか、シェアハウスを作るとかってやっていかなければいけないので、そういうフェーズになってくるんじゃないかな。

とくに今は人間の寿命が伸びてきて、今の人は100年生きるという議論もあります。仕事ができなくなったときに、誰に支えてもらうかということが大事だと思います。そういうことは最近、考えます。

丸山:信用というところも大事になってくるという話も聞くんですけれど、人脈も信用の価値として1つあると思うんですね。それについてはどう思いますか。

竹下:信用はとくに、仕事以外の人脈で必要なんじゃないかなと思います。例えば私、すごく仲よくしているお医者さんファミリーがいるんですけど、別になにかをしてほしいというわけではなくて、仲がよくて。

人を紹介したり、本とか漫画を勧めたりしています。結果的には大丈夫だったんですけれど、あるとき、家族に重い病気の疑いがあって軽く相談したら、アドバイスをくれて。ネットにもない情報をお医者さんが直接くれて、すごく役立って安心しました。

そこはお金でも買えないし、Googleにもない、Facebookにもない、LINEにもない、人工知能にもない知識を、信用で得られたんじゃないかと思います。

いい記事は「会話が生まれる記事」

丸山:ほかに質問ありますか?

質問者2:ざっくりで申し訳ないんですが、いい記事ってなんだと思いますか?

竹下:会話が生まれる記事ですね。ハフィントンポストではあえて断定しないことに気を付けていまして、それを元にしてTwitterとかFacebookで、「私はこう思う」「ぼくはこう思う」と会話が生まれる記事がいい記事だと思います。それは真面目な記事から、くだらない記事まで、全部一緒ですね。

数字でいうと、今の記事って50秒くらいしか読まれない記事が多いんですけど、ハフィントンポストでは、だんだん3分とか読まれる記事が増えてきているんです。1クリックという意味では同じ数字なんですけど、その価値がぜんぜん違うと思っているんですよね。

1クリックで50秒読まれるのと3分読まれるのでは、私は後者のほうがいい記事だと思っていて、最近は読まれている時間を気にしています。

丸山:PVじゃないんですね。

竹下:PVじゃないと思います。まだ日本では、そこをスポンサーさんにわかってもらってないところがあって、PV至上主義がありますが、そこも変えていきたいなと思います。ちょっとテーマがずれますけど。

丸山:それって、単純に記事を長くしたらいいという話じゃないんですか?

竹下:記事を長くしても、50秒で離脱しちゃうんですよね。50秒で読み終わっちゃう人がいるので、単純に長ければよいというものじゃないんですよね。

丸山:どうやったら、3分読まれる記事になると思いますか?

竹下:小見出しをたくさん付けたり、語り口調をていねいにしたり。あとは、話の転換を工夫したり、途中に写真を入れたりすると読まれますね。

丸山:そのあたりの仕組みは世界で共有したりするんですか? こうやったらいい記事ができるとか。

竹下:ここには言語の壁があって、ぜんぜん違いますね。よく議論はするんですけれど、共通の話はしにくいです。

丸山:日本の編集部のなかでは、こうしたらいいという話はするんですか?

竹下:文字数の話はよくします。少しずつどんどん増やしているんですけど、みんな付いてきてくれているので。最初は2,000字がよいとされていたんですけど、その後は5,000字がいいと。先日は9,000字をやってみたんですが、読まれました。じゃあ、次は2万字にして、みたいな(笑)。

丸山:少しずつ伸ばしていくんですね(笑)。ほかに質問は。

場所を変えてパッと思い浮かぶ人が大事

質問者3:人脈について、場所を変えてみたり、違う人をみつけてみたりという話があるんですけど、とはいえ、全員と長く付き合っていくというわけではないと思うんです。言い方悪いですけれど、目利きじゃないんですが、どういう人だったら長く付き合っていけるのかというところがあれば。

竹下:海外旅行はしますか?

質問者3:あまりしないです。

竹下:最近行ったのは、いつでどれくらいですか?

質問者3:アメリカのカリフォルニアのあたりに行ったのが、たぶん、5~6年くらい前。

竹下:では、Facebookとかもあった時代ですね。そのとき連絡したくなる人というのが大事だと思います。ぜんぜん違う環境に行って、「この人にこの感動を伝えたいな」とか。「この人に久しぶりに連絡とってみたいな」と思う人。

場所を変えると、人間の脳みそってすごく変わるんですが、場所を変えてパッと思い浮かぶ人というのは、なにか自分のなかにひっかかりがある人じゃないかと自分では思っています。だから、海外出張に行ったときに、誰にLINEをしてるんだろうということは自分で見たりしています。

観客:印象に残った人をやはり大事にしている。

竹下:印象に残った人とか、環境が変わったときにパッと思い浮かぶ人というのは、自分の中でなにかひっかかりがある人なんじゃないかなと思います。

質問者3:ありがとうございます。

丸山:久しぶりに連絡する人というのは、けっこういるんですか?

竹下:いますね。海外に行くと、不思議とこの人に話したいなという人が出てくるんですよね。その人は定期的に同じ人だったりするので。

丸山:しばらく会っていないから、会ったときの価値が高まると感じるときもあるんですけれど。

竹下:それもありますね。さっきの記事の時間の話じゃないですけど、毎日会って50秒ずつ話すよりは、5年に1回会って3~4時間話すほうが。

丸山:いいですか?

竹下:はい。

新聞業界の未来

丸山:ほかにありますか。

質問者4:よろしくお願いします。先ほどインドとかでハフィントンポストさんの支局が立ち上がっているとのことでしたが、朝日新聞とかだとロンドンとか海外でも自社で固めているじゃないですか。これは独立していて、連携するみたいなかたちなんでしょうか?

竹下:独立していますね。日本のメディアには海外支局があるじゃないですか。朝日新聞でも30数箇所あると思うんですけど、結局日本人がそっちに行っているだけなんですよね。

ハフィントンポストは、現地で立ち上げているんです。例えば、ハフィントンポストはアメリカのメディアですけど、ニューヨーク・タイムズが東京で支局を作る場合だと、ニューヨークから人が来ているじゃないですか。ハフィントンポストだと私みたいな、ローカルの人が立ち上げているんです。そこは大きな違いです。

だから、インドにいる共同通信とか朝日新聞の特派員というのは日本人中心だけど、ハフィントンポストはインド人がやっているという違いがあります。

質問者4:作るときは、自社媒体じゃなくて、現地法人として立ち上げて連携するというかたちでしょうか?

竹下:そうですね。パターンはいろいろあるんですけど、現地法人として作ったり、ジョイントベンチャーとして作ったり。ただ、現地の人が中心になっているということは、どこの国も一緒です。

質問者4:先ほどのお話の池上さんのコメントを記事に使うとかって、考え方から言うと、いろんなところで話題になっているものも拾ってきて、それで連携できるものは連携している、基本的な考え方はそういうところなんですか?

竹下:ほかの国ということですか? そうですね。韓国版が日本のニュースに興味を持ってくれていて、けっこう日本版の記事が韓国で訳されてます。

丸山:韓国はなぜ、日本にそんなに注目しているんですか?

竹下:やはり課題が似ているんですよね。文化も。高齢化や上下関係が大事な社会で、なかなか社会が変わらないみたいな。ネトウヨの人もあまり叩かないで、もっと連携してお互いに課題を解決したらいいと思うんですけどね(笑)。

丸山:ほかにありますか?

質問者5:よろしくお願いします。先ほどメディアの話が出たので、端的に言うと、日本の新聞業界は今後どうなるのかということと、世界的に新聞の未来はどうなっていくのかということをお聞きしたいです。

今、電車に乗っても、朝、新聞を読んでいる人はほぼ見なくて、みんなスマホしか見てない。会社に行っても社員が新聞を見ているわけじゃなくて、スマホを見ています。今後の新聞の動向は、どうなっていくんでしょうか? ご意見をお聞かせください。

竹下:新聞紙は衰退していますが、これほど活字をみんなが読んでいる時代というのはないと思っています。そこにおそらく大きなチャンスがある。新聞社が、紙へのこだわりを捨てたら、生き残ると思います。

先ほど少し朝日新聞をディスったりしたんですけど、日本の新聞社って相当レベルが高いと思うんですよね。本当にきちっと教育をされているし、コンテンツ集団なので。もしその集団が紙じゃなくてLINE専用の記者をおいてLINE用に記事を配信したり、例えば、EightのアプリとかSansanさんのサイトに配信をし始めたら、めちゃくちゃ強力だと思います。

さらに翻訳部署を作って、先ほど言った韓国に配信してみるとか。そういうことをやってみるといいんじゃないでしょうか。

例えば、韓国でも高齢化が問題になっていたり、地方の衰退って問題があったり。韓国のソウル以外の都市ってどうしてるかをレポートしたり。

日本はすごいですからね。大分のちいさな村が一品ものを作ってバズったり、売れたりしている。そういう記事にけっこう興味があると思うので、そういったものを配信し始めると、日本の新聞社も生き残るんじゃないかなと思います。

世界的には、おっしゃるように衰退しているのですが、紙の部数だけじゃなくて、ネットで読まれている人数を含めた数字を指標にしようという動きが出ています。そうすると媒体価値が一気に高まって、紙の部数が100万減っても、1記事で200万PV取ってしまえば一気に逆転できるのと一緒で、数字自体をどんどん紙以外に広げていけば、生き残るんじゃないかなと思います。

業界人にならないようにする

丸山:ほかには。どうぞ。

質問者6:会話を作るメディアがいいメディアだという話があったんですけど、そういうネタをどうやって見つけてくるかということをおうかがいしたいのと。

当然、FacebookやTwitterで話題になっているネタを拾ってくるということはあると思うんですけど、それ以外に潜在的にあるものを刺激するとか、Twitterとかそのほかの見つけ方がなにかあれば、おうかがいできればと思います。

竹下:ここはアナログなところでして、人が個人として持っている疑問点を大事にするということです。私、朝日新聞という古いメディアにいたからわかるんですが、日々新しいニュース、新しいニュースって追いかけていってしまうんですね。

例えば、東京都知事選がありましたが、そのあとすぐメディアはオリンピックの話題に移って、その後、どんどん話題を変えていったんですが、ハフィントンポストが、あえて8月に都知事選に出馬した鳥越俊太郎さんのインタビューを載せたら、めちゃくちゃ読まれたんです。

なぜかと言うと、みんなあの都知事選についてはどこかでもやもやと引きずっていたのに、メディアは先走りすぎて、次の話題、次の話題といった。

そこで大事なのは、個人が考える時間は意外とゆっくりしていたり、1つひっかかりがあると、それをずっと持っているものなんだなということ。自分が生活者として、どんな疑問を持っているのかというのを、すごく大事にしています。業界人にならないようにする。

先ほどの子供の友達のお父さん・お母さんと話すということも同じなんですけれど、子供のお父さんお母さんと話すと、けっこう古いニュースの話をしている。

私がメディアで働いているという話をすると、「こういうことが話題ですね」と、2ヵ月、3ヵ月前の話題を出してくるんですね。そういうことが、生活者として大事なんだなと意識しています。

ちょっとアナログな答えになりますが、会話というものは長引くし、人が咀嚼するまでに時間がかかるものなんだなということは、相当意識しています。