ライブストリーミングサービス「SHOWROOM」とは?

西野亮廣氏(以下、西野):なにをされてる方なんですか? 初めての方もいらっしゃると思うので。

前田裕二氏(以下、前田):「SHOWROOM」っていうライブストリーミングのサービスがあるんですけども。

こんな感じのサービスです。

西野:これ今、生ですか?

前田:全部生です。特徴としては生ということと、参加している視聴者の方がアバターというかたちで表現されてるということです。

そこからみんな飛び上がって。僕らは「ギフティング」って呼んでるんですけど。わかりやすくいうと、投げ銭みたいな感じで演者さんに渡せて。

前田:その投げ銭の売上が、一定の率で演者さんに分配される仕組みになってますね。

西野:そのギフティングは、自分のタイミングでできるわけですか?

前田:そうです。例えば、今ここに僕がいるんですけど、こうすると飛び上がって(演者に)投げることができるんです。

西野:今、アバターがやったじゃないですか? ほかの人がやってるのは見えるんですか? 「あいつが今(投げ銭)入れたな」みたいな。

前田:見えます。

西野:見えるんですね。「あいつよく入れるな」みたいなのがほかの人にもちゃんと見えると。

前田:そうすると、周りから一目置かれると。

西野:なるほど、お客さんの中でも。おもしろいですね。

前田:「あいつすごいできるな」みたいな感じで。

西野:「あいつ太っ腹やなー」みたいな感じで。おもしろい。

前田:見てる側の行動とか、どこに今存在しているかみたいなことを可視化することによって、「もっともっと参加したい」っていう前のめりな参加を促していると。

西野:ここでストリートライブをやっちゃってるみたいなことですね。ギターケースにあれ(投げ銭)入れてるのを、ここでやっちゃうみたいな。

前田:おっしゃる通りです。(路上の)ギターケースだと目の前の数人にしか見てもらえないわけですけど、これだと理論上、世界中の人に見てもらえるので。

西野:なるほどね。

前田:というものです。

壁となった法律・文化の問題

西野:これまでこういうものはなかったんですか? 例えば「ツイキャス」だとか、「ニコ生」だとか。

実際に「ニコ生」なんかは、月額ではあるじゃないですか? お金を払うというのは。こういう、いわゆる投げ銭システムの生配信みたいなやつは今までなかったんですか?

前田:そうなんです、そのあたりがなくて。けっこう法的な問題をクリアしなければいけない部分があったんですね。

西野:どこが引っかかるんですか? 投げ銭はよくないんですか?

前田:投げ銭がよくなくて、例えば、1万円のアイテムがあるんですけど。1万円のアイテムを投げて、「そのうちの20パーセントが演者さんに戻りますよ」ってはっきり言ってしまった場合、それは銀行と同じというか、送金業務みたいになっちゃうんですね。80パーセントの手数料を取る送金業務。

西野:なるほど、そういうことになるんだ。そこをクリアしなきゃいけなかったんですね。

前田:あとは、けっこうモラル的な問題もあったりして。アメリカとか海外だと、投げ銭のモデルというか、文化がたぶんあると思うんですけど。日本だとあんまり古くからは……。

もともと演歌とか歌舞伎とかには存在する部分ですけど、あんまり現代にはないというのがあって。

西野:あまり開けた場ではないですよね。劇場の演歌で、それこそ1万円を(束にして首に)かける、みたいなのはありましたけれども。あまり大っぴらげな場ではこういうのはなかったですよね。

ミュージシャン時代の原体験

前田:日本で新しい文化を作ったらもう一度……それこそお笑いもそうですし。もともと私、ミュージシャンやってたんですけど。

西野:そうなんですね!

前田:音楽もぜんぜん儲からなくなってしまっているというか、食べれなくなってしまっているなかで、もう1回活性化できるんじゃないかというのが発想としては1個ありましたね。

西野:ミュージシャン時代のそれが活きてるんですか?

前田:そうですね。それこそ、もともとストリートでライブパフォーマンスをずっとやっていて、それで投げ銭をもらって日々生活するみたいなことをやっていたので、そのときの原体験が今になって。

西野:あれを、世界中の人にやるっていう。

前田:そうなんですよね。「今、存在しないビジネスモデルだな」と思ってたんですね。

CDとか、いわゆるパッケージを買ってもらうのではなく、興業とかライブでマネタイズするのではなくて、なんとなく人間関係を作って、その人間関係をベースにして「頑張ってね」って応援してもらうモデルというのが、今あんまり存在しないと思っていたので。

新しく柱を作ることによって、もう1回エンタメが盛り上がったらいいなという発想ですね。

能の舞台で表現される視覚効果

西野:最近、能に行ったんですよ。

前田:世阿弥の。

西野:能楽堂というところに行って、能の建物の形が「超おもしろいな」と思っていて。

能って舞台があって、演者さんの出口があって、舞台まで斜めに伸びてるんですよ。能の歴史ってむっちゃ古いんですけど、「なんでこんなに斜めに伸ばしてんの?」といろいろ聞いていったら、舞台まで斜めに伸ばしてる渡り廊下みたいなのがあるんですよ。

(舞台に)行くまでに一の松、ニの松、三の松みたいな松の木が3つあって、お客さんから見たら一番手前の松が、まずデカイんですよ。2番目の松が中くらいで、3番目の松が一番ちっちゃくなっているんですね。

これはなにをやってるかっていったら、奥行きを出してるんですよ。能は当時から、3Dみたいな「出てきたぞ」という飛び出す感を出そうとしてたんですって。

能の歴史って何100年とか、だいぶ古いと思うんですけど。その当時から「飛び出す」というのがあって、人がそういうのを求めてたんだなぁと思って。

この能の舞台のことがすごい気になっていろいろ調べてたら、この能の舞台をモデルにして、次に歌舞伎が生まれた。

歌舞伎が生まれて、歌舞伎はこの能の舞台があったとしたら、この渡り廊下みたいなものを横にした。直角にしたんですって。

演者さんが横から出てくるようになって、この渡り廊下部分がどんどん伸びていって太くなって、舞台のへりまでいっちゃって、今よく我々が見るような舞台の形あるじゃないですか? 学校の体育館のステージの上みたいな「額縁舞台」っていうんですけど、あれができたんですって。

こうしたときに、演者さんが横の動きになるじゃないですか? 会話も横同士で動くじゃないですか。これに飽きたらなくて、結局、歌舞伎っていうのは花道みたいなのを作って、客席の後ろから出てくるようにして、こういう縦の動きを(するように)したんですって。

つまりずっと演芸みたいなのができたときから、3D(映画)の『アバター』だって、今の今までずっと、我々は「やたら縦の動きを求めてるな」と思ったんですよ。

「なんでこの縦の動きをすげえ求めてんのかな」って考えたときに、横の動きって、Aっていう演者さんがいて、Bっていう演者さんがいて、横のこの会話やってたら、結局他人ごとじゃないですか。

これ、縦に動かれると「ぶつかるかもしれない」みたいな。要は当事者になる。

前田:おもしろい。自分ごとになる。

西野:「なるほどな、だからみんなすごい求めるんだな」「そこにドキドキするんだな」と。

でも一方で、縦の動きが過ぎると……お客さんは演者さんに横にきてほしい、すぐ近くにきてほしいって思ってるけど、それの弊害はなにかといったら、ストリートライブとかもそれに近いと思うんですけど、相手する人数が減っちゃう。

その究極ってホストとかキャバクラ嬢だと思うんですけど、確かに本当にすごい使い距離でおしゃべりができるけども、ホストの場合、一気に何万人とかいう人とおしゃべりできないじゃないですか?

これが縦の動きをしたとき、お客さんとすごい近い距離を求めたときの一番の弱点だなと僕は思ってたんですけど。

これ(SHOWROOM)がすげーいいのは、それをしつつ、ちゃんと世界の人にリーチできてるというのが、すげーおもしろいですね。

SHOWROOMで夢を叶える40代の女性

前田:テレビとの比較でよく思うことなんですけど、テレビってあくまで横の動きというか、最大公約数を取るしかないので。

例えば、SHOWROOM上で人気の方で、このちづるさんという女性がいて、この人は40後半くらいの年齢なんですけど、SHOWROOM上ですごい人気です。

西野:夢あるなぁそれ。

前田:ものすごい濃いファンがもう200人くらいついていて、彼女の夢を応援してる人たちがたくさんいるんですけど、それもなかなか、マスの文脈からだけだと取り上げにくいというか。

たぶん、いきなりテレビでちづるさんを取り上げても「誰この人?」ってなるだけと思うんですけど、SHOWROOMでは彼女の夢に共感して「この人の夢を叶えてあげたい」という人がたくさんいます。

その小宇宙の中での爆発みたいなものが、たくさん存在するんですよね。なので、けっこう個人的な強い意見として、供給側というか、僕らコンテンツを提供している側が、必ずしも視聴者とかユーザーがおもしろいと思うものを知ってはいないと思っていて。というのは、これは僕らが作り出せなかったので。

彼女は30年前に、おニャン子クラブに入りたかったんですって。その「おニャン子クラブに入りたかった」という夢を30年間あきらめて蓋をしてたんだけれども、「まだあきらめられない」って言って、30年越しに今、夢を叶えてるんですけれども。

西野:ここで勝手に発生しちゃったんですね。ちづるさんはずーっと芸能活動してたわけではないんですか?

前田:じゃないんです。10代後半のときに「おニャン子クラブに入りたい」って言ってたんだけれども、そこからずっとあきらめてて。でも40代後半になってきたときに、SHOWROOMというサービスと出会って。

西野:うわー、ええなぁ!

前田:おもしろいのは、彼女がほかの、いわゆる若くてアイドルっぽい子たちに対して、勝ってしまう場面もけっこう多くなって。

西野:ちづるさんの場合、なにがよかったんですか?

生き残るコンテンツのヒントは「スナック」にあり

前田:やっぱり「共感できること」っていうのがキーワードだと思うんですけど、たぶん誰しも夢をあきらめたとか、「歌手になりたかったんだけれども、才能がなくて今コンビニで深夜のアルバイトをしてます」というユーザーの方とか。

そういうユーザーの方、ヒアリングとかインタビューをするとたくさんいるんですけど、自分の夢の一端を彼女に授けているというか。そういう感じで応援してる方もすごいいるみたいですね。

コンテンツに対してお金を払うといったときの、コンテンツの質の定義が変わってきているという感じというか。

例えば歌がうまいとか、芸人でいうとネタがおもしろいとか、わかりやすく伝統的に「おもしろさ」といわれてることが、もっと広義にというか、変わってきてる感じですね。

単なるコンテンツ消費から、ストーリー消費というところに移ってきているのかなというのが、すごい感じるところですね。これは「スナック化」と呼んでるんですけど。

商店街でも、つぶれていく商店街で最後までつぶれないのがスナックなんですね。それはなぜかというと、肉屋さんに行くじゃないですか。そのときにみんな買うのはポーク何10gとか。

花屋さんに行って買うのは花であって、魚屋さんに行ったら魚を買うわけであって、そこで求めてるのはコンテンツなんですね。

なんですけど、スナックに行ってハイボールを頼んだときに、それはハイボールを求めているわけじゃなくて、ママとの近接性というか、関係性がそこに存在しているから、どんなに経済的に商店街が立ちいかなくなっていっても、最後に残るのはそのスナックなんですよ。だから、スナックを世界中に無数に作っている感じですね

西野:スナックの乾きものなんかろくなものないですからね(笑)。でも別にいいんですよね。

僕が行ってるスナックですけど、だいたいそのへんのスーパーで買ってきた、さきイカとか柿ピーとかを開けて、開けるのもこっちでやらなあかんみたいな。

でもいいんですよね、なるほどね。でも、このなかでそういうスターが生まれているのっていいですね。

前田:実際にここから出てきている子たちで、それこそ2年前、フジテレビさんと一緒に深夜で生放送やらせていただいてたんですけど、そこから生まれた「DEEP GIRL」っていう子たちも、先月CDを出して1万(枚)後半ぐらい売れたので。だんだんスターが出てきてるんですよね。

西野:大変なことですよ、今の1万後半って。

前田:そうですよね。なので、小宇宙からどんどん中宇宙っていうか、広がってきている感じですね。