「理想の結婚像」の押し付けはよくない

五百田達成氏(以下、五百田):話は変わりますが、高視聴率を記録した朝ドラの『あさが来た』には、働く妻を支える理解のある夫が描かれてましたね。ああいうのも、ある意味、プレッシャーに感じる人がいそうです。「理想の結婚とはこうあるべきなのか」と。女性も、男性も。

荒川和久氏(以下、荒川):それありますよね。「理想の結婚像」の押し付けはよくないと思ってまして、正直、「イクメンとか言うもんじゃない」とも思ってるんですよ。

ソロ男の立場で言わせてもらうと、「結婚すべきだ」「男が稼ぐべきだ」「男も育児すべきだ」という理想の「べき論」で追い立てられると、むしろどんどん晩婚化・未婚化・嫌婚化が進むような気がしてて。

働き方にしても、育児にしても、理想形が先にあるんじゃなくて、それぞれの夫婦の最適形を夫婦で話し合ってやればいいと僕は思うのに、なんで社会問題にしてるのか、と。

五百田:いっぽうで、社会問題として解決しなければと考えている人もいるわけですよね。

荒川:少子化の話なんてずいぶん前から、何十年も前から言われていて、実際目に見えた成果は出ていないし、何も変わっていない。もっと言ったらベビーブームの時に「人口増えすぎて困る」と言っていたじゃない。

僕は、そもそも1億2000万の人口自体が過多だと思っています。こういうこと言うと怒られますけど。「国力が落ちる」とか「国が滅びる」とか説教されるんですけど、国のために子作りをするわけじゃないじゃないですか。

さっきの独身男の自己肯定感のなさというのと関係するのかもしれませんが、世界的に見た日本人の幸福度のなさというデータがあって。世界幸福度調査でいうと、日本はすごく低いんですね。日本人全体が低いという中で、未婚と既婚で調査すると未婚方の不幸度が圧倒的に高いんです。

五百田:なるほど。

荒川:だからそれでまた結婚推進派は「ほれみろ!」と。

五百田:そう言いますよね。

荒川:「ほれみたことか。結婚すると幸せになるんだぞ」ってなるわけです。

もしも女性からプロポーズされたら……?

五百田:荒川さんは、女性から「結婚しましょう」とプロポーズされたらダメなほうですか?

荒川:え? されたことないんでわかりませんけど……。「結婚しましょう」とアプローチされたらなんか嫌かも。

五百田:どうしてですか?

荒川:だってそれは店員さんに勧められたものを買いたくないのと一緒。

五百田:それは、単にあまのじゃくってことじゃないですか(笑)。

荒川:そうそう(笑)。めんどくさくてすみません。

五百田:荒川さんがおっしゃっていた、自己肯定感が低くて、「結婚なんてどうせ俺には縁がない」と思っている男性たちも、女性たちから「あなたとやっていきたいと思っている」と手を差し伸べられたら、結婚するんじゃないかと思うんですが、どうなんでしょう?

荒川:そこもね。そのあまのじゃく感ってけっこう根強くて、「これは絶対美人局じゃないのか?」「騙されているんじゃないのか?」というような、「俺がそんな女から告白されるはずがない」という自己肯定感の低さ。

五百田:おお……。

荒川:さっきみたいなおせっかいおばさんみたいな第三者。このおせっかいおばさんが、「あなたにはこの人が合うのよ」と言い切ってくれた方がまだ受け入れやすいと思うんですね。

五百田:そういう男性は、せっかくやる気を出してアプローチしようとする女性からすると面倒ですよね。シンプルに「私と結婚してください」と頼んでも、ひねくれてそっぽを向かれるんだったら、とりつくしまがない。男性も素直がいちばん、ということですかね(笑)。

結婚相手はビジネスパートナーだと思え

察しない男 説明しない女 男に通じる話し方 女に伝わる話し方

五百田『察しない男 説明しない女』でも書いたように、家庭は企業、結婚は起業。妻が社長、夫が副社長というのが基本です。

ですから妻が、「私はこういうビジョンで、こういう家庭を築いていきたい」「いつまでには子供が欲しいし、親とはこういう距離でいきたい」ということをきっちりプレゼンするのが理想なんですが、そうプレゼンする相手は、素直に家庭を持ちたいと願っている男性が望ましいということ。年収とか男性的魅力もさることながら。

荒川:それはビジネスパートナーじゃないの?

五百田:ええ、ビジネスパートナーですよ! 女性たちには、「幸せにしてもらう」とか「選ばれる」とか「愛してるなら結婚してよ」ではない、「私はどういう人生を歩みたいか」という経営方針があるべきで、そうでない起業はすぐに破綻する、というわけです(笑)。

荒川:女性に厳しいですね。

五百田:いやいや! 女性への励ましです。

荒川:「女性ががんばらないと」と言うと、女性に「がんばってるよ!」と言われちゃわないですか?

五百田:がんばる方向が違うかもしれません。周囲の目とか、社会の常識とか、モテ幻想とか、そういうものから自由になるためにがんばる。自分なりの結婚観を確立するためにがんばる。そのためにはいろいろな経験をしなくちゃいけない。

「彼がプロポーズしてくれない……」と嘆きながら待つのは、ジェンダーに縛られすぎ。いまどき、ディズニー映画の主人公でも、アクティブで行動的ですからね。そして、荒川さんみたいに「プロポーズされたら嫌だ」というひねくれ者は、この際置いておきます(笑)。

荒川:見捨てないでください(笑)。僕の話はさておき、さっきの話でいうと、女からの「結婚しましょう」というプロポーズがうまくいくかどうかはわかりませんが、「結婚するか別れるかどっちかを選びなさい!」という選択肢を男に提示するというのはすごくいいかもしれないですね。

「あなたが決めなさい」ということを投げかけられると、男って結論を出そうとするから。「どっちか選べ」「期限決めてこれまでに回答せよ」みたいな。そう言われると仕事っぽいじゃない。男って仕事っぽくふられた方が。

結婚のプロジェクトリーダーは女性

五百田:わかります(笑)。言い方や戦略は、人それぞれ、カップルそれぞれでいいと思うんです。古くは、相手の親を巻き込んで外堀を埋める、なんていう作戦がありましたよね。「いついつまでに」と期限を切るのも、交渉術のひとつです。

なんにしても、主体は女性、プロジェクトリーダーは女性ですよ。男性が、主体的に結婚を進めてくれることなんて、絶対にあり得ないんですから(笑)。

荒川:なるほど。それでそういう女性は専業主婦になるの?

五百田:専業主婦かそうでないかは、大きな経営方針。そこはきちんと事前にすりあわせるべきでしょうね。今後増えていくと思うのは、オトナ同士の「友達婚」。茶飲み友達婚、パートナー婚と言ってもいいです。そこに、燃え上がるような恋愛がないのは、当たり前です。

荒川:恋愛条件とか性の問題がなければ別に同性だっていいわけですよね。

五百田:もちろん、同性でもいいです。実際、オトナの独身女性たちは「今さらめんどくさい夫と無理して住むぐらいなら、女友達とシェアハウスするよ」と考え始めてますし、その流れも加速するはずです。修道院のイメージですね。

荒川:居心地がいいんだったら、それは別に同性だろうが歳の差だろうが一緒に住めばいいと思う。

五百田:夫婦の形やパートナーシップの形はどんどん多様化していけばいいと思うけれど、そのための制度改革は、なかなか進みませんね。

荒川:夫婦別姓の問題もそうだけど、日本って明治に作った法律を後生大事にずっと守ろうとしますからね。それでこないだの保育園の話が、国会で取り上げられて、結局今、保育士の給料あげるみたいな話になったり……。

ああいうのってやっぱり政治家の思惑もあるわけじゃないですか。こうしておけば奥様票が取れるみたいな。

こういう結婚しない男たちももっと選挙に行くべきだと思うよね。俺たちを無視するとあなたたち落選するかもよ、みたいな勢い。でも、この人たち行かないんですよね。

五百田:行かないですね。

荒川:政治に関心なさそうですよね。

結局人は誰でも、何かにすがって生きている

荒川:最後、ひとつ聞きたかったのがありまして。結婚しない男たち、いわゆるソロ男は、消費によって幸せを感じている傾向があるんですけど、何せ彼らは自分のためにお金を使いたいから結婚したくないわけですから。

例えば、AKBとかアイドルにハマる男の人っているじゃないですか。40代とか50代の独身のおじさんがハマって大金をつぎこんでたりしています。

五百田:はい。

荒川:先ほど未婚の方が不幸度が高いという話しましたけど、ソロ男は家族も子どももいません。その心の穴というか、自分の満たされない穴を、消費で埋めているとするなら、穴が大きければ大きいほどお金を払わなければいけない。そうしないと自分自身が空洞になってしまうというところがあって、僕はすごく切ないなと思っています。

AKBとかの場合は、それに加えて、「俺が金を張ってる。そのことで順位が上がる。俺が払わないと隣のライバルが応援している方の順位が上がる。女の子を応援するという以前に、そのライバルに負けるのがシャクにさわる」という変な勝ち負け意識もある。

ああいう金の張り方って、もう実はアイドルを見てなくて、ファン同士の男の戦いになってるんですよ。それってちょっとお金の使い方というか、お金を支払って得る幸せの考え方が、何か違う気がしていて。

五百田: 確かに荒川さんがおっしゃったように、心の穴を埋める、で説明できるかもしれません。でもそれって、アップル製品を全部買うだとか、ブランド品を買いあさるだとか、とあまり変わらないんじゃないでしょうか。

趣味であり、嗜好であり、信仰であり、行きすぎると依存になる。人によっては、それが子どもの教育に向く人もいるし、仕事に打ち込みすぎる人もいる。

荒川:なるほど。何者にも依存せず、自由で自立しているように見えるソロ男もそういう形で依存しているものがあるってことなんですね。

五百田:結局人は誰でも、何かにすがって生きているわけで、そこにアイドルとか金が絡んでくると週刊誌的な興味がかき立てられるだけなんじゃないでしょうか。2次元のアイドルも、高級時計も、ネットゲームも、彼氏・彼女も、そんなに変わらない。

荒川:そういう意味では、恋愛に依存してしまう女性や結婚にこだわる女性とソロ男も本質的なところでは同じなのかもしれないですね。

今日の対談はいろいろお話できておもしろかったです。長い間ありがとうございました。

五百田:ありがとうございました。

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