「生涯、物語をともにできるJリーグに」 IT×戦略PRで変える、国内サッカーのマーケティング戦略

IT×戦略PRで変える! “Jリーグのマーケティング戦略” #4/4

2016年2月16日、マーケティング・テクノロジーフェア2016にて「IT×戦略PRで変える! “Jリーグのマーケティング戦略”」をテーマに、Jリーグ 常務理事の中西大介氏とブルーカレント・ジャパン 代表取締役社長の本田哲也氏が基調講演を行いました。このパートでは「物語」すなわち、マーケティングにおけるストーリーテリングの重要性について語られました。Jリーグの今後の物語はどのように紡がれていくのでしょうか?

サッカー教室を通じた地域貢献

中西大介氏(以下、中西):セレッソ大阪と、スポンサーであるヤンマーさんの事例ですけれども、ヤンマーが、タイの農協と協力関係を結んで、農協主催のサッカー教室をタイの国中で展開しています。

サッカー教室を通じて地域貢献を行うことで、ヤンマーさんのブランド向上につながり、本業となる農耕機具ビジネスにつなげていただく、という事例です。

セレッソ大阪は、このサッカー教室に対して指導者を派遣することで、ある種の技術供与をしています。セレッソ側のメリットは、サッカー教室を通じて、あるいはそこでできたネットワークを使ってタイの有力選手が見つかったら、スカウトしてセレッソ大阪のユースチームに入れて育て、Jリーグで活躍の場を作る。そういう狙いもあります。成功すればWin-Win-Winですよね。

本田哲也氏(以下、本田):美しいパートナーシップですよね。

中西:こういうことがサッカーをプラットフォームに可能になっているということですね。少し本音の話をしますと、我々もアジアの、東南アジアの大きなマーケットが欲しいと思います。

チーム名に地名が入ることのメリット

中西:今はイングリッシュプレミアリーグ一辺倒です。ですけれども、たとえばこれ、ベトナムの一番のスター選手、レ・コン・ビン選手というんですけれども、彼はベトナムのCMの中で、家電や車のCMに出るくらいのスター選手です。日本で言う、中田英寿さんのような。

奥さんはとってもキレイな女優さんで。彼も「ベトナムのベッカム」といわれてですね(笑)。

その選手をコンサドーレ札幌が獲得し、ベトナムに対してJリーグの放送権を売りました。それによってベトナム現地でのJリーグの露出が多くなりました。

今ベトナムで「札幌」というブランドが浸透しています。それは彼がコンサドーレ札幌に行ったから、といっても大げさではありません。これはJリーグが企業名ではなく、全てのクラブに街の名前が入っていることにも起因します。これはまさにシティセールスなんです。

インバウンドを呼び込むためのシティセールスとして、選手の移籍が一役買っているということですね。

ちなみに、この選手はTwitterのフォロワー数も非常に多いです。彼が試合のあとつぶやくだけで、たくさんの人が「札幌」という名前を耳にするということですね。

中西:この写真はレコンビン選手がデビューした試合のゴールですね。ベトナム人がたくさんスタジアムに見に来ています。

本田:これ札幌の応援席ですね?

中西:はい。札幌のホームスタジアムです。サッポロビールさんとマークが似てますけど違いますね。国旗ですね(笑)。

中西:レコンビン選手は移籍しましたが、東南アジアのスター選手は、今年も続々Jリーグに入ります。今イルファン(・バフディム)という選手が活躍していますけれども、彼はインドネシアのスターですね。なおインドネシアはアメリカに次いで、Facebookのフォロワー数が世界で2番目です。

本田:ソーシャル大国ですよね。

中西:彼が最初の移籍先チームであるヴァンフォーレ甲府の練習に来たとき、山梨県というのは今、静岡県とどっちから富士山を見てもらうかとインバウンドで競争しています(笑)。

一番のスター選手を連れてくることによって、彼がSNSを通じて、インドネシアでシティセールスを代わりにしてくれると、いう、そういう状態ですよね。

本田:おもしろいですよね。

中西:これはマーケティングの話からずれますけれども、日本は極東で、国際試合の経験の数が代表になるまで圧倒的に少ないんです。

育成の段階で異質な相手とたくさん試合することが必要なんですが、やっぱりなかなかヨーロッパや南米の強豪国と試合をしようとすると、地理的なハンデがあるので相当予算も時間もかかる。

そういう中で、Jリーグとしては中長期で大きく予算を取り、国際経験の場を圧倒的に増やそうとしています。

中西:これは、スウェーデンのイエテボリでおこなわれている、ゴシアカップという世界最大のユーストーナメントで、東京ヴェルディの育成チームが優勝したときの写真ですね。

表彰式をやってくれるだけではなく、街宣カーまで仕立ててくれて、優勝パレードまでやってくれるんですよ。

彼らは、ブロンドの女の子たちからおめでとうと言われて、とても自信をつけて帰ってきたと思いますね。

中西:これはそのときの1枚なんですけれども、この大会中、学校の教室を丸ごと開放して、教室に簡易マットを持ち込んで、皆でここに寝泊まりするんです。川の字です。隣の部屋はカメルーンでした。

本田:これ学校ですか?

中西:学校です。教室です。

本田:おしゃれな学校ですね、さすがに(笑)。

中西:スウェーデンらしいですね。こういった国際経験というと……敢えてホテルではなく、こういうところでたくさんの国際交流をして。選手は本当にたくましくなり帰ってきますね。

ごめんなさい、マーケティングの話とは別ですけれども紹介しました。

増えるインバウンド需要

中西:Jリーグも近年、東南アジアで放送をすることによって、少しずつインバウンドのお客さんが増えてます。写真は浦和レッズの応援にタイからたくさん来てくれた。

こちらはシンガポールのカップルなんですが、男性がベガルタ仙台のファンで女性がセレッソ大阪のファンだそうです。

こういうファンのインバウンドも増えてきていますね。これはJリーグの情報が現地で放送されたり、さっき出たスター選手がSNSで拡散している効果が少しずつ出てきていていますね。

まだ去年がこういった取り組みの元年だと思いますけれども、もう少し工夫の余地があるかなと思います。

中西:我々はこの国際戦略については、まず様々な団体、国のお役に立てるところをやりましょうということで、観光庁、経済産業省、外務省をはじめ、いろんな団体と協力し、彼らの目的にかなうような活動も数多く今、手がけ始めています。

本田:なるほど。最後、時間もあまりなくなってきたんですけれども、最後に今日、(話を)戻すとマーケティングのトピックなわけですけど。

マーケティング的にJリーグ、今日本当に話し足りないくらいですけれども、ベンチマーク。

本田:どういうところをベンチマークしていくかというの、2ポイントくらいありますね。そこを中西さんから最後に。

中西:冒頭お話したドイツの2つのカンファレンスで、スポーツとデジタルの融合ということが、とても大きいテーマになっていると申し上げました。

ここを制す国が次の世界を制す、と言っていいほど、大きなポイントの1つになっています。で、ヨーロッパの国々がどこをベンチマークしているかというと、先進事例としてはやっぱりアメリカのプロスポーツになるんですね。

NFL(ナショナルフットボールリーグ)、MLB(メジャーリーグベースボール)をはじめとし、彼らがここの取り組みをいち早く始めたことによって、今非常に多くのマーケットを獲得していますよね。

今日は時間がなくて話せないんですけど、「MLBアドバンストメディア」という会社があります。

MLBAMと僕ら略称で呼んでますけれども、この会社は「スポーツ界の」インターネット事業でもっとも成功した会社ではなくて「アメリカの」マーケティング界の中でもっとも成功した企業の1つと言われるくらい、新しいファンの獲得、新しい収入の獲得に成功したモデルですね。

それらのベースになったのが、全チームのWebの共通基盤を作ることでした。さまざまなサービスをファンがワンストップで楽しめる仕組みを作ったのです。個々のチームが手をかけられない部分をリーグが担いました。リーグがプラットフォーマーたる、1つの象徴的な事例です。

本田:Jリーグも今、進めてますよね。

中西:はい。Jリーグも今、このかたちで進めています。ここに関しては話したいこといっぱいあるんですけど、時間が足りないようなので割愛しますが、まさに今、進めてるところです。

ワンストップで皆さんが楽しめるように、初めて訪れた方も楽しめるように。

本田:今、皆さんも各クラブのメディアとかホームページとかご覧になっているかもしれませんけれど、実はけっこうバラバラというところなんですよね。

見比べてみるとおもしろいかもしれませんけど、力の入れようもさまざまですし。

中西:ご参考までに、メジャーリーグベースボールや、メジャーリーグサッカーのWebサイト、ぜひ皆さんご覧になってください。ユーザーインターフェースなどすごくファン目線だなという感じがしますね。

本田:あとは、このカンファレンス的に、データマーケティングに通ずるところがあるわけですよね。このプラットフォームの考え方でいうと。

人工知能のサッカー選手が登場する?

中西:ここにいらっしゃる皆さんはよくご存じかもしれませんが、ドイツがワールドカップで圧倒的な強さで優勝しました。

この背景には、よくいわれますけど、SAPのビッグデータの活用があったといわれています。

中西:もともとSAPさんはERP(Enterprise Resource Planning、統合基幹業務システム)の会社ですから。スポーツのビジネスに大きく注力して、直接儲けようというつもりは……どうでしょう、あんまりないのかもしれません。

しかし「彼らの技術はここまで高い」ということを、一番アナログで一番複雑なスポーツといわれるサッカーで、世界チャンピオンを後押しすることで、彼らの技術を証明した。

本田:これは本当に……日本でも、ドイツ代表とSAPの話、けっこうテレビとかで取り上げてご覧になったと思うんですけど、これは見方を変えると、SAPのすさまじくよくできた戦略PRだと思いますよ。

中西:今、人工知能がどんどん進んでいますよね。ディープラーニングがかなり進むことによって、チェス勝って……、今度囲碁も勝ったんですよね。

2050年までに、「サッカーのワールドカップの優勝チームに人工知能を備えたロボットが勝つ」というのが、彼らの目標だそうです。

サッカーが一番複雑ですよね。だからサッカーが彼らにとって最後の目標なんだと思います。

すでにそうした取り組みが始まっていますが、サッカーも戦術も向上しフィジカルも鍛えていくと、じょじょにコモディティ化してくると言われています。ここまでのレベルはみんな一緒。

そこでサッカーもディテールの部分が勝負を決めるようになる。ディテールで勝敗が決するようになればなるほど、人工知能などのテクノロジーやデータ分析が勝負を決める時代も、近いのかもしれませんね。

本田:そういう意味じゃ逸れちゃいますけど、このスポーツ、サッカーに限らず、スポンサーシップとしていわゆる認知獲得という目的において、企業の皆さん、スポンサーシップとかですね。

ただ今、認知の時代ではなくて、「おたくの商品、サービス、あるいは企業、何ができるんですか?」と。

あるいは「競合と何が違うんですか?」という勝負になってきたときに、こういうその本質的なパートナーシップというか。

結果として、エンターテインメントのコンテンツを見ながら「すごいな」というところ、すごみがわかるわけですから、こういう企業とエンタメというかスポーツとのパートナーシップというのはもっと増えるといいですね。

中西:そうですね。サッカーやベースボールのような、ポピュラリティを獲得するスポーツでもって異なる使い方をすると、それは技術の証明になる。

本田さんがおっしゃるような、それがその企業のサービスの空気を作り出す。そのためにサッカーのようなスポーツを活用する流れというのは、今後ありですよね。多くなると思います。

本田:可能性あると思います。これ、テレビでよく出てましたね。

中西:Jリーグでも遅まきながら様々なデータが取れるように今、始めています。世界は選手の育成のところにまでSAPのシステムは及んでいます。

たとえばこの選手がこういう走り方をするので、この部位を怪我しやすい。だから事前にそこの部位を怪我しないように、こういうトレーニングを併せてやっておくと、この選手は生涯、ここの部位を怪我する確率がぐっと低くなるとか。

そうしたことがそこかしこで定量的にやられています。そこまで今、来てますね。

世の中に受け入れられるストーリーを作る

本田:なるほどですね。話してたらもう、あっという間に時間に。たぶん3時間分ぐらいのやつを、今日凝縮して1時間で話してるんですけど(笑)。

Jリーグ、いろんなことに取り組んでますが、案外と皆様が抱えているようなマーケティング課題と同じような。

本質的には、根っこの部分は同じことに取り組んでいるというのは、今日エッセンスだけでもわかっていただけたかと思います。

今日とくに、中西さんの口からキーワードで「物語」というのが出てましたが、ほんとにわたくしも同意で「ストーリーテリングの重要性」は、今マーケティングの世界ではすごく言われていることです。

戦略PRというのも実は、「世の中に受け入れられるストーリーを作る」ということにほかならないわけですね。

なので、どれだけのITのバックアップ、それからデータマーケティング、あるいはデジタル、マルチデバイスの活用という戦術論はありますけども、そもそもそれを通じて出していくというところには、これ物語性ですね。ストーリーテリング。これが必要であって。

Jリーグの場合は、それが単なる「試合の視聴」ということから「物語消費」に、大きく舵を切ろうとしていると。

そのためのデータ、デジタルデバイスの活用だというようなまとめ方ができるかと思いますが、どうですか、中西さん?

中西:物語性とICTは、ものすごく相性がいいと思います。それから放送とインターネットの融合というこれからのメディアの流れも、物語性とものすごく相性がいいと思いますね。

ここをキーワードとしながら、皆さんにより楽しんでいただける、「生涯、物語をともにしていただけるようなJリーグになるといいな」と本当に心から思っています。

本田:宣伝が最後、あるみたいですけどいいですか? 宣伝というかPRですね。

中西:今週(2016年2月20日)、富士ゼロックススーパーカップをもって、Jリーグの新しいシーズンが開幕いたします。

2月27日がそれぞれ明治安田生命J1リーグ、J2リーグの開幕。明治安田生命J3リーグはもう少しあと、3月13日の開幕になります。

今日皆さんに、富士ゼロックススーパーカップの招待券を抽選でご用意してますので、のちほどご案内があると思います。

開幕をぜひ楽しみにきて、スタジアムに1回でも多く足を運んでいただけたらうれしいです。これからも、Jリーグに対してあたたかく、そして厳しく見ていただければ幸いです。

今日、皆さんに「PUBレポート」というJリーグのビジネスサイドを振り返る総括レポートをお手元の資料を用意させていただいています。これはいち早くファン・サポーター、ステークホルダーにシーズン総括をお届けする目的で、リーグ戦の最終日、チャンピオンシップの2戦目が終わってから5日後に入稿しました。

ですから皆様から見ますと、中身はツッコミどころ満載かもしれません。ご容赦ください。

今、僕らはとにかくスピード感をもって、PDCAを回すことを目標にしています。このレポートはPDCAのCの一環です。

なるべく早く世の中に……シーズンを総括するのにデータをまとめて何ヶ月かかかって出してからでは、皆さんから生の声は聞けないと思い、5日で出しました。

粗々ですが、そういったこういうデータを早く出すことによって、皆さんの意見をフィードバックして、よりいいリーグを作っていきたいという、そういう我々の姿勢の現れだとお考えいただければ幸いです。

内容また見て、いろいろご意見ください。ありがとうございます。

本田:ありがとうございます。そういうわけで、今年もJリーグに期待いただいて、皆さんもぜひ、物語の中にどんどん入ってきていただいてということかと思いますが、今日は本当に朝からご清聴ありがとうございました。

中西:ありがとうございました。

(会場拍手)

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