乙女をねじ伏せろ!!

おっくん氏(以下、おっくん):今日は記念すべき第21回ということで、おかげさまで無事、第20回の3時間を乗り越えて、ここまでやって参りました! 新しい主題歌、どうでしょうか。

山田玲司氏(以下、山田):前回はあの後、朝の4時、5時までいきましたね。上野のすしざんまいでずっとアッコショー続いてたからね。(放送は)第1部って感じだったよね。あのまま放送続けてれば良かったのかなって。

そして出ましたよ名言、「乙女をねじ伏せろ!!」。そういう生き方もあるんだって俺初めてわかった。だから俺らも少年の心をねじ伏せないと大人になれないのかもね。おまえの乙女もめんどくさいもんな。クソめんどくさい(笑)。「オタクをねじ伏せる!」っていうのも良いんじゃない?

今回は、天才編集者の柿内(芳文)くんがいよいよここにやって来るわけですけど。カゴでお馴染みの。さっきから「カゴの人」「カゴの人」って(笑)。そうだね、カゴの話もちょっとした方がいいかもね。まず柿内くん伝説からいっていい?

おっくん:そうですね、今までも(放送のなかで)何回か柿内くんのことを、まあネタにしてというか、いろいろイジってきましたけども。実際本人が登場なんでね。どういう人かっていうのを軽く。

山田:あのね、これ言わせて。今日来るのは編集者なんですわ。俺は漫画家。彼は編集者。編集者が仕事を回してる。俺は漫画家やって、かれこれ30年近いですわ。もう29年目ですわ、プロになって。だから編集者っていう人たちとの付き合いももう30年やってるの。

おっくん:ほー。TUBEも30周年なんですよ。

柿内氏は歴代編集者の中で一番すごい

山田:それで、歴代のいろんな編集者見てきたわけだよ。それこそ「手塚番」(注:手塚治虫氏の編集担当者)からいるからね。編集長クラスの人だけど。でも「俺、手塚先生のネーム見たときさー」って話するわけよ。

おっくん:おー。それは言われちゃうとなんか……。

山田:「俺、タッチ作った時さあ」っていう人とか、レジェンドみたいな人もいるわけ。でも、いろんな編集者がいて、そりゃ合わない人もいっぱいいるわ。

おっくん:ああ、やっぱりいるんですね。相性が。

山田:で、だいたいがこっちの問題なんだよ。若気の至り的な。「テメーコノヤロー! スーツ野郎! テメエら定期的にお金貰ってんだろ、コノヤロー!」って。そういうことが言いたい思春期の頃はやっぱぶつかりますよ、皆さん。

おっくん:はいはい。「このリア充が」と。

山田:「このクソリア充スーツ野郎が」「大企業が」みたいな。「みんな高学歴か? え、高学歴か!?」みたいなさ(笑)。「お前も東大か!?」みたいな奴いっぱいいますから。

おっくん:ひねくれてますねー(笑)。

山田:ほんと、みなさんこじらせてますよ。まあまあそれはともかく、だんだん1人の人間として付き合えるようになってくるわけだよ。売れたりして息が整ってくると。酸素が脳みそに入ってくるみたいな。

「あれ? 相手も人間なんだぁ」みたいな感じで、いろんな編集者がいっぱいいるんだなーってあって。歴代編集者で何人も好きな人いるんだよ。でもね、やっぱね、振り返ってみて、コイツやっぱ一番すげえなって思う編集者が今日のゲスト。

おっくん:ほー。ほぼ30年のキャリアの中で。

山田:うん。こいつが一番すげえ。もうスーツ野郎じゃねえって。これもうスーツ野郎超えてるぞっていう。

おっくん:スーツ野郎を超えたスーツ野郎が。

音羽組と一橋組

山田:それでね、最初すごかった。(彼は)光文社にいたの。俺は『絶望に効くクスリ』を小学館でやってたの。出版社って一橋組と音羽組にわかれてんの。一橋組っていうのが、集英社、小学館。

絶望に効くクスリ―ONE ON ONE (Vol.1) (YOUNG SUNDAY COMICS SPECIAL)

小学館の子会社・集英社、みたいのがあって。もう1つは講談社を中心とした、講談社ブロックっていうのがあって。光文社とかキングレコードがグループになってやってる。

おっくん:キングレコード?

山田:そう、同じ一派。それでいろいろあるんだけど、角川別組みたいなのもあるんだよ。だから、俺は音羽っていう講談社から蹴られて、一橋の小学館に拾われたの。音羽にフラれて一橋に拾われた男なの。

おっくん:はいはい。

山田:彼(柿内氏)は音羽の人なの。俺は一橋の小学館で『絶望に効くクスリ』やってたの。で、俺はさとひゅ(注:『絶望に効くクスリ』に登場するライター)と一緒に「次だれいく? オノ・ヨーコさんいく?」みたいな話をしてたわけよ。

で、オノ・ヨーコの並びで彼が選んだのが柿内くんで、「ウチの編集部で、柿内くんってヤバい奴いるんだけど、『絶望に効くクスリ』に出そうよ」って。

おっくん:え! オノ・ヨーコさん……と柿内くん!?

山田:オノ・ヨーコさんの並びで。あの人に厳しいさとひゅが、オノヨーコと柿内くんを並べたからね! それで「オファー出して良いかなー」つって。これ一橋的には気に入らないわけですわ。

一橋のスーツ野郎を差し置いて、なんで音羽のスーツ野郎、しかも新入社員風情に、まだ当時入って数年だったから、「何なのそれは?」っつって止められまして。

おっくん:あ、止められたんですね(笑)。

山田:それの企画叶わずでコノヤロウと思いますわな。で、俺が「非属の才能」って言葉を思いついて、迫害されてる人ほど才能あるよねっていう。いじめられっ子ほど、上手くいってるよね、成功してるよね。

それではみ出し者の本を出そうと思って。「非属」って言葉を思いついて、これ誰とやろうかなあって思った時に、「柿内くんしかいねえ、これ柿内くんと会うしかねえ」と。それで俺と会うわけ。

おっくん:そこで最初の出会いなんですね。

本屋大賞で中2賞を受賞

山田:10年位前。そんで、話作るわけよ。一発かましましょうよって話になって。それが本屋大賞とるんですよ。

おっくん:ほうほう。

山田:本屋大賞だけどコレ、本屋大賞だけど!中2賞を受賞っていうねww

おっくん:中2部門。

ハミ出す自分を信じよう (星海社文庫)

山田:中2部門。これ文庫になるときに星海社でタイトル変えて出して。『ハミ出す自分を信じよう』ってこれ、ハミ出してる本なんですけど。

これも柿内くんが星海社に移った時にこれ作ったの。これのもともとの新書っていうのが『非属の才能』っつって光文社から出してるんだけど、これが中2大賞、本屋大賞とりました。大騒ぎですよ。

おっくん:さすが中2魔王だと。

山田:中2魔王の晴れ舞台ですわ! まさかの、スタッフが俺に連絡ミスで。

おっくん:え?

山田:俺知らなかったの(笑)。

おっくん:え、どゆこと?

山田:俺何も知らないで、あるそば屋でネーム考えてたら電話がかかってきて。「山田さん、ほんとすいません。今日授賞式でした」。

おっくん:(笑)。

山田:「パードゥーン? ホワッツウロング?」。

おっくん:ははは。

山田:それすごくね?

おっくん:それめっちゃおもしろいじゃないですか。

山田:そんでね、この光文社の担当者大騒ぎですわ。上にもうコテンパテンですわ。

おっくん:そりゃそうでしょうね。

山田:土下座してこいですわ。

おっくん:魔王にひざまずけと。

表紙を全部帯にした

山田:そしたら、天才柿内くんが「山田さん、この機に乗じて再販ですよ。一発かましましょう」と。

おっくん:はいはい。

山田:帯変えましょうと。普通の帯やめましょうよと。

おっくん:普通の帯やめて。

山田:帯がどんどんでかくなってた時代だったの。帯が表紙にどんとん近づいていった時だったの。

おっくん:はい。

山田:それで、柿内くんが言いました。「山田さん、全部帯にしちゃいましょう」。

おっくん:え?

山田:これです、これ。これが、歴史的初めての全部帯! これ、見えます? これ外すと、帯ですから。

おっくん:え!? 表紙じゃないのこれ!

山田:帯です! 帯on帯(笑)。もうね、帯の上に帯を重ねて売りますからねこれ。

おっくん:帯びてますねぇ~。だいぶ帯びてるそれ。

山田:これが! 柿内クオリティ。こんなん普通通んないよ、やったことないんだもん誰も。

おっくん:うん。

山田:そしたら、「山田さん、大丈夫です。僕、土下座する気持ちでいますから、通します」。

おっくん:あー。

天才編集者・柿内芳文氏が登場!

山田:このタイミングで、「交渉しますから」って言った張本人の柿内芳文にご登場願いましょう!

おっくん:すごいフリですね(笑)。

柿内芳文氏(以下、柿内):懐かしいですね。

山田:見て、この盛り上がり。ニコ生出んの初めてなんだよね。

おっくん:そう、カバーだと思ったよねー。

柿内:そう、中2賞とったときには、僕は光文社を離れて、星海社行ってたから。僕も、神楽坂のそば屋でメシ食ってたんですよ。

山田:え、まじで!? あんときそば食ってたの!

柿内:僕が作家さんと飯を食ってたんですね、そしたら山田さんから電話がかかってきたんですよ。「あ、久々に山田さんだ。なんだろー?」って電話とったら「なんか俺賞とったらしいけど」って言って「はい?」みたいな感じで。

「どうやら俺、賞とったらしいんだけど詳しいこと知ってる?」ってなって、「いや、賞とるはずないすけどねー」って感じで。本屋大賞とか言ってるから、小説書いてないし、何を言ってるんだろう、山田さん?(って思いながらも)「じゃあ念のため聞いてみますね」って言って電話をしたら、授賞式だったんですよね。

山田:そうなの、その夜なの。

柿内:僕も、担当編集も知らない、作家も知らない、どうなってんじゃこりゃー!? ってなって。

山田:そうそう。

おっくん:これは普通、怒りますよね。

柿内:怒るというか、何が起きてるかよくわかんないから、前の会社の編集長に聞いてみたんですね。そしたら「あれ、言ってなかったっけ?」って言ってたつもりだったみたいなんですね。

山田:そういうこと起こるんだよ、たまに。

本物の中2が選んでくれた

柿内:だから会場に用意されてたんですよね。

おっくん:来ると思って。

山田:本物の中2の人が選んでくれたんだよ、俺のこと。

おっくん:え!?

山田:大事なことじゃんそれって。

柿内:中2が感動した中2の賞なんですよ。

おっくん:逆に行かないっていうのが中2って感じ……。

柿内:いや、行きたかった。行きたかった!

山田:もうちょっと悩ませてよ。あえて行かないとか言わせてよ。知らないでそば食ってんだぜ。

柿内:だから会場もびっくりですよ。「あれ、来ない?」みたいな感じになって。……といういきさつがありまして、「どうしよっかなー」みたいになってたんだけど僕は心の中で「良いチャンスだな」と。

とにかく、終わったことはしょうがないんで、これからのことを考えるってときに、賞をとったら普通、こういったときに本屋大賞の権威を使わない手はないんで、(帯に)本屋大賞受賞ってやったらばーんとまた売れるかもしれないじゃないですか。やっぱこれね、1人でも多くの人に読んでもらいたいわけですから。

おっくん:そうですね。

柿内:そもそもね、(もともとの帯が)「行列なんかに並びたくないあなた、おめでとうございます」。ってこれが非属感。

山田:もうねーキレキレっすよ。

おっくん:この文章作ったんすか?

山田:そうに決まってんじゃん。

おっくん:へー! すげーすげー。

柿内:最初からこんな感じなんですけど。最初、僕も無邪気に「中2賞受賞!」ってやろうかなーと思ってたんすよ。……非属じゃないなと。

山田:そうそう、俺ら普通じゃん。

柿内:これなんか、BLANKEY JET CITYがミュージックステーション出たみたいな。赤いタンバリン歌った時すごい残念だったんですね、僕。

おっくん:あー、何かが壊れるみたいな。

柿内:僕ブランキー大好きなんで。まあなんか嫌な気持ち思い出して。あこれダメだと。何やってんだという話をして、「じゃあどうしましょうか」っていう話を恵比寿のアトレの喫茶店で。

おっくん:めっちゃ細かいな。

帯をキャンバスに見立てた

柿内:いっそのこと非属なことやんないとダメだってなって、さっき言ってたみたいに帯でいろんなことしてたんですよね。ちょっと上げたり、下げたりみたいなのもあって。

みんな本の下のほうの宣伝スペースでやってるけど、もう上まで上げちゃえば良いんじゃないのって、その時思いついたんですよね。思いついて、もうやっちゃおうってなって。上の許可とってないけどやっちゃえと。事後報告でいいやと。絶対、負い目があるから通るだろうと。

おっくん:多少の無理は通るだろうと。

柿内:このスペースはキャンバスだと。このときオーダーしたのは、これをキャンバスだと見立てて、好きなもん描いてくれと。だからこれ一枚絵なんですね。

おっくん:はー!なるほど。開いて見たことなかった。

柿内:だから、これをキャンバスだと見立てて山田さんに「非属な感覚をぶつけてくれ」っていうふうな感じで言ったんすよ。それで出てきたのがこれで。これ山田さんに言ってないんですけど、出てきた時正直、困ったんすよ。

おっくん:俺も今、それちょっと思いましたよ(笑)。

柿内:思ったより非属できたなと思って。

山田:(笑)。だって非属合戦でしょ。

柿内:そうそう、そうなんですよ。何が一番困ったかって、ここにタイトル入れなきゃいけないんすよ。要するにこういうデザインなんで。ここにタイトル入れたら、一番メインの日本列島のところが隠れちゃうんですね。だからこれ逆にするしかなくて。ここまで非属なんですね、実は。

おっくん:あー、なるほどね。

柿内:僕一切オーダー出さなかったんですよ。ここにタイトルが入るからここを避けて描いてくださいとか、ここにバーコードが入るからここ避けてくださいとか。そうじゃなくてこれがキャンバスだからって。

で、ここにちっちゃく、本屋大賞中2賞受賞って。

山田:あえて見えない(笑)。

おっくん:非属すぎるでしょ。

柿内:でしょ。こんな権威に媚びることないですから。

おっくん:でも一応書くことは書くんだ。

柿内:使えるとこは使って、みたいな。書店さんにわかれば良いかなみたいな。っていうふうにやったんですね。さっき「全帯は初めて」って話だったんですけど、実は文庫では当たり前だったんです。新書では無かったんですね。帯って、どうやらここ2ミリ残せば帯びらしいんですね。

山田:そいういうルールあったんだ。

柿内:そう、だから2ミリ残ってる。

柿内:これ2ミリ残さないとカバーになっちゃうらしくて。カバーが2枚になっちゃうから、管理上は一応2ミリは空けてくれーって。

山田:ギリまで攻めたんだ。

柿内:そうですね、だから2ミリ分が非属になりきれなかったところですね。

おっくん:どこまで入れれば童貞卒業かみたいな……。

みんなやり出すと非属じゃなくなる

山田:これで出版界が変わったんだよ、全帯が流行るんだよね。今、書店行ったらみんなこれのパクリすわ。

おっくん:みんなこれ表紙としか思ってないです。

柿内:これ取ったら、普通のレーベルなんで、統一のデザインがあるわけですよ。だからこれを無くすわけにはいかない。新書ってレーベル単位で売ってるんで。でもこれで一線越えちゃったから、他社も真似しだしたんですね。今はけっこう全帯多いんですよ。で、一時期コラムニストか評論家が、「いかがなものか」みたいな評論を書いてたりして(笑)。

おっくん:紙の無駄遣いだろみたいな。

柿内:いや、新書の歴史があるのを破壊して単行本化、軽くなってるって言われて。

山田:やったぜ! 破壊してやったぜえ~!

おっくん:出版の歴史を変えたわけですね。

柿内:でもみんなやり出すと、逆にこれやるの非属じゃなくなるんですね。

山田:そうなんだよ。

柿内:だからむしろ今は明朝体の方が新しい。

山田:思いっきりここに本屋大賞って書くからね!

柿内:こん時にはもう悪びれず書いてるんですね。

おっくん:属してますねー。

柿内:こんときは、はみ出してここまではみ出るっていう。

おっくん:ちょっとだけね。

柿内:もうはみ出しまくりみたいなね。