本の表紙が全部“帯”! 天才編集者 柿内芳文氏が仕掛けた仰天企画

第21回『絶望に効く薬LIVE!~天才、柿内芳文登場!出来る編集者とはコイツの事だ!!』 #1/5

漫画家・山田玲司氏が多様な経験と知識を元に、恋愛、社会問題、映画、人生とは何かについて語るニコニコチャンネル『山田玲司のヤングサンデー』。21回目の放送を迎える今回は山田氏が30年間の漫画家人生で出会ってきた編集者で一番すごいと豪語する天才編集者・柿内芳文氏をゲストに迎え、過去に起きた伝説のエピソードを振り返ります。

乙女をねじ伏せろ!!

おっくん氏(以下、おっくん):今日は記念すべき第21回ということで、おかげさまで無事、第20回の3時間を乗り越えて、ここまでやって参りました! 新しい主題歌、どうでしょうか。

山田玲司氏(以下、山田):前回はあの後、朝の4時、5時までいきましたね。上野のすしざんまいでずっとアッコショー続いてたからね。(放送は)第1部って感じだったよね。あのまま放送続けてれば良かったのかなって。

そして出ましたよ名言、「乙女をねじ伏せろ!!」。そういう生き方もあるんだって俺初めてわかった。だから俺らも少年の心をねじ伏せないと大人になれないのかもね。おまえの乙女もめんどくさいもんな。クソめんどくさい(笑)。「オタクをねじ伏せる!」っていうのも良いんじゃない?

今回は、天才編集者の柿内(芳文)くんがいよいよここにやって来るわけですけど。カゴでお馴染みの。さっきから「カゴの人」「カゴの人」って(笑)。そうだね、カゴの話もちょっとした方がいいかもね。まず柿内くん伝説からいっていい?

おっくん:そうですね、今までも(放送のなかで)何回か柿内くんのことを、まあネタにしてというか、いろいろイジってきましたけども。実際本人が登場なんでね。どういう人かっていうのを軽く。

山田:あのね、これ言わせて。今日来るのは編集者なんですわ。俺は漫画家。彼は編集者。編集者が仕事を回してる。俺は漫画家やって、かれこれ30年近いですわ。もう29年目ですわ、プロになって。だから編集者っていう人たちとの付き合いももう30年やってるの。

おっくん:ほー。TUBEも30周年なんですよ。

柿内氏は歴代編集者の中で一番すごい

山田:それで、歴代のいろんな編集者見てきたわけだよ。それこそ「手塚番」(注:手塚治虫氏の編集担当者)からいるからね。編集長クラスの人だけど。でも「俺、手塚先生のネーム見たときさー」って話するわけよ。

おっくん:おー。それは言われちゃうとなんか……。

山田:「俺、タッチ作った時さあ」っていう人とか、レジェンドみたいな人もいるわけ。でも、いろんな編集者がいて、そりゃ合わない人もいっぱいいるわ。

おっくん:ああ、やっぱりいるんですね。相性が。

山田:で、だいたいがこっちの問題なんだよ。若気の至り的な。「テメーコノヤロー! スーツ野郎! テメエら定期的にお金貰ってんだろ、コノヤロー!」って。そういうことが言いたい思春期の頃はやっぱぶつかりますよ、皆さん。

おっくん:はいはい。「このリア充が」と。

山田:「このクソリア充スーツ野郎が」「大企業が」みたいな。「みんな高学歴か? え、高学歴か!?」みたいなさ(笑)。「お前も東大か!?」みたいな奴いっぱいいますから。

おっくん:ひねくれてますねー(笑)。

山田:ほんと、みなさんこじらせてますよ。まあまあそれはともかく、だんだん1人の人間として付き合えるようになってくるわけだよ。売れたりして息が整ってくると。酸素が脳みそに入ってくるみたいな。

「あれ? 相手も人間なんだぁ」みたいな感じで、いろんな編集者がいっぱいいるんだなーってあって。歴代編集者で何人も好きな人いるんだよ。でもね、やっぱね、振り返ってみて、コイツやっぱ一番すげえなって思う編集者が今日のゲスト。

おっくん:ほー。ほぼ30年のキャリアの中で。

山田:うん。こいつが一番すげえ。もうスーツ野郎じゃねえって。これもうスーツ野郎超えてるぞっていう。

おっくん:スーツ野郎を超えたスーツ野郎が。

音羽組と一橋組

山田:それでね、最初すごかった。(彼は)光文社にいたの。俺は『絶望に効くクスリ』を小学館でやってたの。出版社って一橋組と音羽組にわかれてんの。一橋組っていうのが、集英社、小学館。

絶望に効くクスリ―ONE ON ONE (Vol.1) (YOUNG SUNDAY COMICS SPECIAL)

小学館の子会社・集英社、みたいのがあって。もう1つは講談社を中心とした、講談社ブロックっていうのがあって。光文社とかキングレコードがグループになってやってる。

おっくん:キングレコード?

山田:そう、同じ一派。それでいろいろあるんだけど、角川別組みたいなのもあるんだよ。だから、俺は音羽っていう講談社から蹴られて、一橋の小学館に拾われたの。音羽にフラれて一橋に拾われた男なの。

おっくん:はいはい。

山田:彼(柿内氏)は音羽の人なの。俺は一橋の小学館で『絶望に効くクスリ』やってたの。で、俺はさとひゅ(注:『絶望に効くクスリ』に登場するライター)と一緒に「次だれいく? オノ・ヨーコさんいく?」みたいな話をしてたわけよ。

で、オノ・ヨーコの並びで彼が選んだのが柿内くんで、「ウチの編集部で、柿内くんってヤバい奴いるんだけど、『絶望に効くクスリ』に出そうよ」って。

おっくん:え! オノ・ヨーコさん……と柿内くん!?

山田:オノ・ヨーコさんの並びで。あの人に厳しいさとひゅが、オノヨーコと柿内くんを並べたからね! それで「オファー出して良いかなー」つって。これ一橋的には気に入らないわけですわ。

一橋のスーツ野郎を差し置いて、なんで音羽のスーツ野郎、しかも新入社員風情に、まだ当時入って数年だったから、「何なのそれは?」っつって止められまして。

おっくん:あ、止められたんですね(笑)。

山田:それの企画叶わずでコノヤロウと思いますわな。で、俺が「非属の才能」って言葉を思いついて、迫害されてる人ほど才能あるよねっていう。いじめられっ子ほど、上手くいってるよね、成功してるよね。

それではみ出し者の本を出そうと思って。「非属」って言葉を思いついて、これ誰とやろうかなあって思った時に、「柿内くんしかいねえ、これ柿内くんと会うしかねえ」と。それで俺と会うわけ。

おっくん:そこで最初の出会いなんですね。

本屋大賞で中2賞を受賞

山田:10年位前。そんで、話作るわけよ。一発かましましょうよって話になって。それが本屋大賞とるんですよ。

おっくん:ほうほう。

山田:本屋大賞だけどコレ、本屋大賞だけど!中2賞を受賞っていうねww

おっくん:中2部門。

ハミ出す自分を信じよう (星海社文庫)

山田:中2部門。これ文庫になるときに星海社でタイトル変えて出して。『ハミ出す自分を信じよう』ってこれ、ハミ出してる本なんですけど。

これも柿内くんが星海社に移った時にこれ作ったの。これのもともとの新書っていうのが『非属の才能』っつって光文社から出してるんだけど、これが中2大賞、本屋大賞とりました。大騒ぎですよ。

おっくん:さすが中2魔王だと。

山田:中2魔王の晴れ舞台ですわ! まさかの、スタッフが俺に連絡ミスで。

おっくん:え?

山田:俺知らなかったの(笑)。

おっくん:え、どゆこと?

山田:俺何も知らないで、あるそば屋でネーム考えてたら電話がかかってきて。「山田さん、ほんとすいません。今日授賞式でした」。

おっくん:(笑)。

山田:「パードゥーン? ホワッツウロング?」。

おっくん:ははは。

山田:それすごくね?

おっくん:それめっちゃおもしろいじゃないですか。

山田:そんでね、この光文社の担当者大騒ぎですわ。上にもうコテンパテンですわ。

おっくん:そりゃそうでしょうね。

山田:土下座してこいですわ。

おっくん:魔王にひざまずけと。

表紙を全部帯にした

山田:そしたら、天才柿内くんが「山田さん、この機に乗じて再販ですよ。一発かましましょう」と。

おっくん:はいはい。

山田:帯変えましょうと。普通の帯やめましょうよと。

おっくん:普通の帯やめて。

山田:帯がどんどんでかくなってた時代だったの。帯が表紙にどんとん近づいていった時だったの。

おっくん:はい。

山田:それで、柿内くんが言いました。「山田さん、全部帯にしちゃいましょう」。

おっくん:え?

山田:これです、これ。これが、歴史的初めての全部帯! これ、見えます? これ外すと、帯ですから。

おっくん:え!? 表紙じゃないのこれ!

山田:帯です! 帯on帯(笑)。もうね、帯の上に帯を重ねて売りますからねこれ。

おっくん:帯びてますねぇ~。だいぶ帯びてるそれ。

山田:これが! 柿内クオリティ。こんなん普通通んないよ、やったことないんだもん誰も。

おっくん:うん。

山田:そしたら、「山田さん、大丈夫です。僕、土下座する気持ちでいますから、通します」。

おっくん:あー。

天才編集者・柿内芳文氏が登場!

山田:このタイミングで、「交渉しますから」って言った張本人の柿内芳文にご登場願いましょう!

おっくん:すごいフリですね(笑)。

柿内芳文氏(以下、柿内):懐かしいですね。

山田:見て、この盛り上がり。ニコ生出んの初めてなんだよね。

おっくん:そう、カバーだと思ったよねー。

柿内:そう、中2賞とったときには、僕は光文社を離れて、星海社行ってたから。僕も、神楽坂のそば屋でメシ食ってたんですよ。

山田:え、まじで!? あんときそば食ってたの!

柿内:僕が作家さんと飯を食ってたんですね、そしたら山田さんから電話がかかってきたんですよ。「あ、久々に山田さんだ。なんだろー?」って電話とったら「なんか俺賞とったらしいけど」って言って「はい?」みたいな感じで。

「どうやら俺、賞とったらしいんだけど詳しいこと知ってる?」ってなって、「いや、賞とるはずないすけどねー」って感じで。本屋大賞とか言ってるから、小説書いてないし、何を言ってるんだろう、山田さん?(って思いながらも)「じゃあ念のため聞いてみますね」って言って電話をしたら、授賞式だったんですよね。

山田:そうなの、その夜なの。

柿内:僕も、担当編集も知らない、作家も知らない、どうなってんじゃこりゃー!? ってなって。

山田:そうそう。

おっくん:これは普通、怒りますよね。

柿内:怒るというか、何が起きてるかよくわかんないから、前の会社の編集長に聞いてみたんですね。そしたら「あれ、言ってなかったっけ?」って言ってたつもりだったみたいなんですね。

山田:そういうこと起こるんだよ、たまに。

本物の中2が選んでくれた

柿内:だから会場に用意されてたんですよね。

おっくん:来ると思って。

山田:本物の中2の人が選んでくれたんだよ、俺のこと。

おっくん:え!?

山田:大事なことじゃんそれって。

柿内:中2が感動した中2の賞なんですよ。

おっくん:逆に行かないっていうのが中2って感じ……。

柿内:いや、行きたかった。行きたかった!

山田:もうちょっと悩ませてよ。あえて行かないとか言わせてよ。知らないでそば食ってんだぜ。

柿内:だから会場もびっくりですよ。「あれ、来ない?」みたいな感じになって。……といういきさつがありまして、「どうしよっかなー」みたいになってたんだけど僕は心の中で「良いチャンスだな」と。

とにかく、終わったことはしょうがないんで、これからのことを考えるってときに、賞をとったら普通、こういったときに本屋大賞の権威を使わない手はないんで、(帯に)本屋大賞受賞ってやったらばーんとまた売れるかもしれないじゃないですか。やっぱこれね、1人でも多くの人に読んでもらいたいわけですから。

おっくん:そうですね。

柿内:そもそもね、(もともとの帯が)「行列なんかに並びたくないあなた、おめでとうございます」。ってこれが非属感。

山田:もうねーキレキレっすよ。

おっくん:この文章作ったんすか?

山田:そうに決まってんじゃん。

おっくん:へー! すげーすげー。

柿内:最初からこんな感じなんですけど。最初、僕も無邪気に「中2賞受賞!」ってやろうかなーと思ってたんすよ。……非属じゃないなと。

山田:そうそう、俺ら普通じゃん。

柿内:これなんか、BLANKEY JET CITYがミュージックステーション出たみたいな。赤いタンバリン歌った時すごい残念だったんですね、僕。

おっくん:あー、何かが壊れるみたいな。

柿内:僕ブランキー大好きなんで。まあなんか嫌な気持ち思い出して。あこれダメだと。何やってんだという話をして、「じゃあどうしましょうか」っていう話を恵比寿のアトレの喫茶店で。

おっくん:めっちゃ細かいな。

帯をキャンバスに見立てた

柿内:いっそのこと非属なことやんないとダメだってなって、さっき言ってたみたいに帯でいろんなことしてたんですよね。ちょっと上げたり、下げたりみたいなのもあって。

みんな本の下のほうの宣伝スペースでやってるけど、もう上まで上げちゃえば良いんじゃないのって、その時思いついたんですよね。思いついて、もうやっちゃおうってなって。上の許可とってないけどやっちゃえと。事後報告でいいやと。絶対、負い目があるから通るだろうと。

おっくん:多少の無理は通るだろうと。

柿内:このスペースはキャンバスだと。このときオーダーしたのは、これをキャンバスだと見立てて、好きなもん描いてくれと。だからこれ一枚絵なんですね。

おっくん:はー!なるほど。開いて見たことなかった。

柿内:だから、これをキャンバスだと見立てて山田さんに「非属な感覚をぶつけてくれ」っていうふうな感じで言ったんすよ。それで出てきたのがこれで。これ山田さんに言ってないんですけど、出てきた時正直、困ったんすよ。

おっくん:俺も今、それちょっと思いましたよ(笑)。

柿内:思ったより非属できたなと思って。

山田:(笑)。だって非属合戦でしょ。

柿内:そうそう、そうなんですよ。何が一番困ったかって、ここにタイトル入れなきゃいけないんすよ。要するにこういうデザインなんで。ここにタイトル入れたら、一番メインの日本列島のところが隠れちゃうんですね。だからこれ逆にするしかなくて。ここまで非属なんですね、実は。

おっくん:あー、なるほどね。

柿内:僕一切オーダー出さなかったんですよ。ここにタイトルが入るからここを避けて描いてくださいとか、ここにバーコードが入るからここ避けてくださいとか。そうじゃなくてこれがキャンバスだからって。

で、ここにちっちゃく、本屋大賞中2賞受賞って。

山田:あえて見えない(笑)。

おっくん:非属すぎるでしょ。

柿内:でしょ。こんな権威に媚びることないですから。

おっくん:でも一応書くことは書くんだ。

柿内:使えるとこは使って、みたいな。書店さんにわかれば良いかなみたいな。っていうふうにやったんですね。さっき「全帯は初めて」って話だったんですけど、実は文庫では当たり前だったんです。新書では無かったんですね。帯って、どうやらここ2ミリ残せば帯びらしいんですね。

山田:そいういうルールあったんだ。

柿内:そう、だから2ミリ残ってる。

柿内:これ2ミリ残さないとカバーになっちゃうらしくて。カバーが2枚になっちゃうから、管理上は一応2ミリは空けてくれーって。

山田:ギリまで攻めたんだ。

柿内:そうですね、だから2ミリ分が非属になりきれなかったところですね。

おっくん:どこまで入れれば童貞卒業かみたいな……。

みんなやり出すと非属じゃなくなる

山田:これで出版界が変わったんだよ、全帯が流行るんだよね。今、書店行ったらみんなこれのパクリすわ。

おっくん:みんなこれ表紙としか思ってないです。

柿内:これ取ったら、普通のレーベルなんで、統一のデザインがあるわけですよ。だからこれを無くすわけにはいかない。新書ってレーベル単位で売ってるんで。でもこれで一線越えちゃったから、他社も真似しだしたんですね。今はけっこう全帯多いんですよ。で、一時期コラムニストか評論家が、「いかがなものか」みたいな評論を書いてたりして(笑)。

おっくん:紙の無駄遣いだろみたいな。

柿内:いや、新書の歴史があるのを破壊して単行本化、軽くなってるって言われて。

山田:やったぜ! 破壊してやったぜえ~!

おっくん:出版の歴史を変えたわけですね。

柿内:でもみんなやり出すと、逆にこれやるの非属じゃなくなるんですね。

山田:そうなんだよ。

柿内:だからむしろ今は明朝体の方が新しい。

山田:思いっきりここに本屋大賞って書くからね!

柿内:こん時にはもう悪びれず書いてるんですね。

おっくん:属してますねー。

柿内:こんときは、はみ出してここまではみ出るっていう。

おっくん:ちょっとだけね。

柿内:もうはみ出しまくりみたいなね。

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