第3次ロボットブームの到来?

小野裕史氏(以下、小野):今日は落合さんと一緒に登壇していただく予定の吉崎さんと、落合さんが来れないかもしれないということで、急遽僕のほうでお二人の方にお願いをしております。

先ほどのLaunch Padで2位、IoT部門では1位というセーフィーの佐渡島さんと、着メロとゲームだけじゃなくて、今絶賛ドローンをビジネス含め仕込んでいらっしゃるORSOの坂本さんに加わっていただきます。

後ほどお二人にお話しいただく前に、本来登壇予定の落合さんと吉崎さんに、ロボティクスの権威としてまたいろいろとぶっ飛んだお話をしていただければと思いますが、よろしいでしょうか?

吉崎航氏(以下、吉崎):はい、吉崎です。本日はよろしくお願いいたします。「V-Sido(ブシドー)」という、人型ロボットを含めた複雑な構造のロボットを動かすためのソフトウェアを開発しております。私もギリギリ20代の29歳です。

ロボット関係はいろんなことをやっておりましたが、基本的に私が最終的にやりたいことは、「ロボットのいる社会を作る」ことです。あくまで、ロボットを作ることではありません。そして、ありがたいことにこの社会と呼ばれているもの。ロボット、流行り始めていますよね?

例えば、先日終わりましたが「DARPA Robotics Challenge」。世界的にロボットの未来、あるいは現状を見せてくれた大変すばらしい大会でした。

また日本でたくさん売れたと評判の「週刊Robi」。これはもう海外展開までしているそうで、国内でも第3版、このサイズのロボットがこんなに売れるとは、ほとんどのロボット関係者も想像していなかったことでしょう。

そして、弊社の親会社にもなりますけれどもSoftBank RoboticsからPepperが販売開始されたり、あるいは政府のロボット新戦略も最近発表されました。実はこのロボット新戦略の取りまとめについて、私も関わっているんですが、、その辺をひっくるめて最近は「第3次ロボットブーム」と呼ばれることがあります。

ロボットを作らないロボット企業・アスラテック

そうしますと、ロボットが発展すれば、災害救助も介護も救急も、「人がやらなきゃいけないけれども、できれば人なしでやりたいよね」ということが、全部ロボットに置き換わるんじゃないのか。そう期待しちゃいますよね? とはいえ、開発中の「何にでも使える人型ロボット」をある日突然「介護に使ってよ」と言われても、高級すぎたり、すぐには役に立たないかもしれません。

それぞれの分野には、もともとその道のプロがいますから、開発をされているプロフェッショナルの人たちが、例えば「うちの介護機器にロボティクスをちょっとだけプラスしたら、どんないいことがあるの?」というのをすぐに試せる状況をしっかり用意すること。これが一番重要なのではないかと考えております。

そこでロボットを世の中に出すために、私が真っ先に考えたのが、「ロボットを作らないロボット企業を作ろう」「ロボットを動かす仕事、これで仕事になるんじゃないのか?」ということです。こういうことを考えて、アスラテックができました。

ロボットを動かすソフトウェア「V-Sido」の採用例

ロボットの周辺技術の中でも、特にPCで言うところのOS的な立ち位置を目指しています。といっても、別にWindowsの代わりを作ってるわけではないんですが、ロボットにおいてOSになるような存在を提案できたらなという思いから、「V-Sido OS」という名前にしました。

これがいろんなメーカーさんのロボットとつながることによって、直感的に動かすことができたり、あるいは開発期間を非常に短縮することができます。ちょっと具体的な採用例を見ていただきましょう。

ロボットが女性のようになめらかに歩いたり、倒れないように制御されていたりだとか、人間の手のひらに引っ張られてそれに合わせて立ち上がったり。

既存の発話システムとの組み合わせも非常に簡単です。発話認識は好きなものを使っていいですし、操作もiPhoneを使ってもいいし、ゲーム用のコントローラーを使ってもいい。人間の目をそのままロボットの目にリンクさせたり、そのまま動きをコピーすることだって可能です。

ロボットは弊社が開発したものでなくてもよいです。むしろいろんなメーカーさんの製品に対応させるという形をとっております。たとえば、重機の中にロボットを乗せて遠隔で仕事をさせることにも成功しています。

こちらはタカラトミーさんと一緒にさせていただいている、人型ロボットを本当に車に変形させて、実体のトランスフォーマーを作ってやろうという取り組みですね。これが今1.3メートルと非常に大きいです。さらに大きいものにも関わっています。

こちらのV-Sido、この大型ロボットにも入っています。これは油圧で動く4メートルのロボットなんですが、中に入って操縦することができます。このソフトウェアは私の開発したV-Sidoそのものですので、これまで出てきた動きのすべてに対応しております。つまり、遠隔操縦でも動かせるけれども、あえて中に入って動かすということをしております。

非常に直感的な操作が可能で、そうすると何ができるかというと、例えば映画に出演しています。その場で演技をしているわけですね。最近ですと『パトレイバー』実写版の第1弾とかに出てたりしたんですが、「人質をつまみ上げてください」「はい、わかりました。つまみ上げます」とやってたのが私です。

(会場笑)

吉崎:何か使いたいところがあれば、Amazonで1億円で売っているので……。

小野:Amazonでも売ってるんですか?(笑) ぜひお金持ちの方はポチッとお願いします。

吉崎:この場においては比較的安いんじゃないかと……。

(会場笑)

女性型ロボットから変形型ロボットまで

吉崎:先ほどのロボットも、水道橋重工という別のロボットメーカーで作っているものに対してソフトを採用していただいている例になります。他にも例えば、こちらのココロさんが開発されている女性型のロボットは、最近ホテルで受付に使われるという話があったりですとか、他にも案内ロボットとか恐竜ロボット、こういうものに対応しています。

他にもいくつか流れるように紹介していきたいんですが、変形ロボットの実体化プロジェクト。これは1.3メートルですね。子どもぐらいのサイズです。これはブレイブロボティクスさんというところで作られているんですが、これもソフトウェアはすべて我々で行っております。用途は完全にアミューズメントですね。

この、みんなの夢を叶えるようなプロジェクトなんですが、昨日ちょうど最新情報がもう1つ公開されまして、なんと……実車サイズプロジェクト、始動しました。1.3メートルから、次はもう3メートル超えになります。

中に人が乗れて、本物の車として動くようなものがロボットに変形する。法的なところはちょっと置いておいてまず作ってみるというところで、2017年を目指してプロジェクト始動です。

小野:先ほど「空飛ぶ車」の話がありましたけれども、今度は変形するロボットの車が生まれるわけですね?

吉崎:しかも、飛ばないとは言ってないです。……というのは冗談ですが(笑)。さらに現状発表されているものの続きとして、6月18日の東京トイショーでタカラトミーの新製品発表会があり、おもしろいものをご紹介できる予定です。

実用的な案件も結構あるんですが、一方でなかなか表に出るまでに時間がかかるものもあります。例えばこれは、国交省でインフラの自動化というところに使われている検証案件としてやっているものなんですが、重機の操縦を人型ロボットにやらせようという取り組みです。

小野:これは、操作してる人は何で操作してるんですか?

吉崎:ゲーム用のジョイスティックですね。それで遠隔操縦のシステムを使って動かせるようになっています。

中に乗っているロボットは実際にレバーを掴んでいます。わざわざこうすることによって、特定の重機にしか使えないなんていうようなものじゃなくて、かなり汎用的に、今必要なものを無線化することができるというシステムになっています。操縦システムも非常にかっこいいですね。これは雲仙普賢岳の本当に人が入っちゃいけないところなんですが、こういうところで活躍したりということもやっております。

市販のロボットを使ってできること

こういったかなり大きいところから、逆に小さい、IoTと呼ばれているところについてもご紹介します。IoTは非常に意味が広いので、説明はしませんが、IoT機器を実現する上でかなり重要なところと言われているIntel EdisonやRaspberry Piを始めとしたワンボードマイコン、こういうものを市販のロボットにつけるとどんなことができるだろうと考えます。

例えばこれまでの市販ロボット同士の格闘ゲームはボタンを押して覚えた動きを再生するだけだったので、なかなかいい戦いにならない。倒れたら起き上がるの繰り返し。

それを何とかしてやりたいと思った時に、まず考えたのが、「必殺技」と「ヒットポイント」があればロボットゲームは成り立つんじゃないかと。殴って倒すだけじゃない、飛び道具が必要なんだというところで、弊社のメンバーが確か2~3日で開発したのがこのシステムです。

このように、iPhone上にエフェクトが出てきます。飛び道具を撃ったら当たったかどうかの判定もしてくれますし、マーカーを見て勝ち負けの判定もしてくれます。なので、画面を見ている上ではただただロボットをやっているようにしか見えない。

開発言語はJavaScriptのみで大丈夫です。なのでWebゲームを開発されている方であればロボットゲームが開発できる、このようなプラットフォームができたということになります。

小野:ちなみに、ヘルメットをかぶる必要はあったんですかね?

吉崎:あれは危険かなぁと思って……。飛び道具ありますので。

小野:飛び道具ありますもんね、そうですよね(笑)。

吉崎:いつも安全のことを考えておりますV-Sidoなんですが(笑)。というところで、このロボット対戦システム、操縦画面の見栄えひどいなあと思った方。「ぜひうちで見栄え作ってやる」という方があれば募集しております。

そしてもう1つ、「Webサービスの連携でロボットを踊らせる」。こちらもクラウド関係であり、ロボットをネットワークにつなぐという意味ではIoTだと思っているんですが、こういうこともやっております。

例えばこれは、産業技術総合研究所の後藤先生という方の開発された「Songle(ソングル)」という、音楽をWeb上で解析する技術なんですが、「これでロボットを踊らせられる?」と聞かれた時に、実際にまる2日ほどかけて行ったのが、このシステム。

簡単に言うと、YouTubeの再生中に、ロボットがそのタイミングを受け取って踊り始める。これは踊りをあらかじめ全部覚えさせたというのじゃなくて、Web上からタイミングをもらって生成しているので、上半身踊りながら歩かせることができるんですね。これでロボットのライブができる。ただ覚えた動き(だけ)じゃなく、ライブができる。

なんですが、研究でやると「市販のこういうロボットでしかできない」みたいなこともありうるのかなと。なかなかライブとしての華やかさが足りない。

というところで、弊社の強みであるいろんなメーカーさんと組むというところで、この佐川電子さんの作った新たなロボット。これにV-Sidoを対応させると、自動的に先ほどのシステムで踊らせることができるようになります。ここで3社連合ということになるんですが、女性型ロボットがこのように簡単に踊るようになります。

そして、「これで踊れるってことは3台同時もいけるよね?」と研究者の方に言われて、その場で試したのがこちらです。全部メーカーさんは違うんですが、確かに3台同時に動いています。「そもそも関節の数も違うじゃん」みたいなところは勝手に吸収しています。なので、ロボットのライブができる。

そして、さらに曲と曲の合間には、このような感じで人間の動きをコピーすることでアドリブもできる。今後ロボットアイドルみたいなものが出てきたとしても、後ろにおじさんがいるかも、みたいなことは……これは見なかったことにしてあげてください。

(会場笑)

ロボットのいる社会を実現するためには

吉崎:さまざまな要素がやっと揃ってきた状況ですので、「ロボットアイドルプロジェクト、そろそろ始められるんじゃないの?」という状況になりつつあります。ご興味のある方、量産したい方、プロジェクトとして始めたい方、いろいろご興味あればいつでもお話ください。

「ちょっといろいろやりすぎじゃないか? 吉崎は一体何をやるつもりなのか?」と思われている方もたくさんおられるかもしれませんが、私もともとはずっとロボットが作りたかったんですね。小さい頃からずっとロボットが作りたかった。けれどもロボットって、今1台だけ作ってもなかなか世間は優しくないんですよ。

ロボットってもっと車と同じぐらい流行るはずだと思ってたんですよ。ただよくよく考えると、車のない世界に自動車が1台だけあっても使い物にならないんですよね。ガソリンスタンドがない、道もない、誰も使い方を知らない、教習所がない。そんな状態じゃ、確かに車1台だけ作っても意味がなかった。

ロボットも「今1台だけいいのを作っても、もしかして居場所ないんじゃないの?」って考えました。なので、私はロボットを作るんじゃなくて、ロボットの居場所、これを「ロボットのいる社会」と呼ぶんですが、これを作らなきゃいけないと。

これを作るために私がまず考えたのは……「全部作る」ということになっちゃいました。ですが、それはなかなか手間のかかる分野でもあるので、私はロボットに対して「だいたい何でも動かすよ」という部分に注力することをやりました。

大企業以外がロボットに参入しない理由って結構あると思うんですけれども、私はアイデアを人型ロボットに落とし込むための時間をいかに短くすることができるか、ここを実現することによって、まずはあと5年はロボット開発の方向性を制限しない、何でもいいから作ってみようということをしようと思いました。

そして各分野で「これじゃロボット流行んないよ」と言われるような要因を全力で排除できれば、ロボットに社会的な居場所ができるんじゃないかと。なので、向こう5年間はロボットは増え続けます。不正解も含めて、進化爆発を含めて。

たぶん99パーセントは使いものにならないので、その淘汰が終わった後に「そうか、ロボットってここに役に立つのか」というところまで持っていくのがV-Sidoの目的です。というところで、以上です。

(会場拍手)

小野:ありがとうございます。