妥協のない人生を送っている人は超人か嘘つき
HP社の女性CEOが家庭とキャリアの両立を語る

Stanford Graduate School of Business HP CEO Meg Whitman on Integrity & Courage in Leadership #3/4

元eBay CEOで、現在ヒューレット・パッカード(HP)社のCEOを務めるMeg Whitman(メグ・ホイットマン)氏がスタンフォードビジネススクールの授業に登場。このパートでは、ビジネスパーソンとして、そして女性としての立場から、セルフ・ブランディングや家庭とキャリアの両立、ビジネスと政治の違いなどについて語りました。

社会に出た直後に下した1つの判断

司会:ありがとうございます。少し話を戻しましょう。あなたはご自身のキャリアを反映させた個人ブランドを立ち上げることについてどのようなお考えをお持ちでしたか?

自身への意識が高まってのことなのか、あるいは自分が何者かということを突き詰めていった結果、自然に起こりうることなのか……。その辺りをどの様にお考えでしょうか? また個人ブランドというものはどのように機能するものなのでしょうか?

メグ・ホイットマン氏(以下、メグ):そうですね。個人ブランドについてはあまり突き詰めて考えてみたことがありません。大体、私がビジネススクールを卒業した当時、そのような概念があったどうかも知りませんし(笑)。

私は社会に出て、与えられた仕事をこなしてきただけです。ただ、社会に出てすぐの頃、いくつかの判断をしたことはあります。あれはプロクター&ギャンブルでのことです。

ハーバード大学のMBA生としての私に出された最初の課題のうちのひとつに「シャンプーハットの穴の大きさはどの程度が妥当か?」というものがありました。

私は当時こう考えました。この会社はシャンプー会社なのに、こんなことを社内の誰も把握していないなんてあり得ない。このような疑問は既に出てきているはずだ。

私は危うくブランドマネージャーのところに、こんな形だけの馬鹿げた課題は止めて、もっとためになる課題を出すよう交渉しに行きそうになりました。しかし、私はその夜、家に帰って最良の解答を考えました。

そして私はこれまでにシャンプーハットの穴について行なわれたどの考察よりも優れたものを目指しました。まず私は市場調査のためのフォーカスグループを組織しました。次に定量試験を行ない、この特殊なテーマについてこれまで書かれたどのレポートよりも優れたレポートを書きあげました(笑)。

個人のブランディングで大切なこと

メグ:この一件で私が学んだことは、社会に出てすぐの時期には、例えそれがどんなに馬鹿げているように思えても、与えられた課題に真面目に取り組むことも必要だ、ということでした。

そしてプロクター&ギャンブルで実施されていた課題の真の狙いは、社内で業務がどのように行われているかを私たちに理解させることでした。そうなのです。彼らはもちろん最初から課題の答えは知っていたのです。

しかし、彼らは課題を通してどのようにものごとが処理されるのか、どのようにレポートを作成するか、そしてどのように定量分析がなされるのかを私たちに学ばせようとしていたのです。

個人ブランドに関してですが、私が知る最良の方法は、実直なやり方で、時間をかけてじっくりと作り上げていくという方法です。なぜなら、あなたたちは皆、他でもないあなたたち自身なのですから。

10年、20年経つうちに、あなたたちは変わって行くでしょう。しかし、根本的にはあなたたちはあなたたちのままなのです。そして自分たちの力を信じてください。自身の弱みを明確にすることを指導するコンサルタント会社も多く存在します。

しかし、私はあなたたちに、自身の中で最も自信が持てる部分、能力に注目して欲しいと思います。もっとも、そういう部分は自分がやりたいこと一致する場合が多いのですが。

大切なのは、あなたが何を好きなのか知ることです。そしてあなたは自分が何が得意なのか知ってください。私はこのやり方を私の個人ブランドだとは思っていません。なぜなら私がそうは思ってないからです。しかし、私流のやり方であることは確かです。

家庭と自身のキャリアをどのように両立させたか

司会:もう少し個人的な質問をさせてください。あなたは大変立派な脳外科医と結婚されています。ご主人がマサチューセッツ総合病院のオファーをお受けになった際、あなたはご主人と共にボストンに移られていますね。

そして、あなたがeBayのCEOになられたとき、ご一家はカリフォルニアに引っ越しをされています。どうのようにして1つのご家庭の中で、2つの輝かしいキャリアを両立させておられるのでしょうか?

メグ:そうですね、確かにたくさんの試練がありました(笑)。この話はとても興味深く、そしてちょっぴりユーモラスでもあります。でも確かに、彫刻家と結婚した方がもっと簡単だったかもしれません(笑)。

なぜなら、その方が様々な局面でもっと融通が利いたと思うからです。実際、私と主人はよくこう言って笑い合います。「片方の仕事が落ち着いてきたと思ったら、すぐにもう片方に素晴らしい新たな仕事のアイディアが浮かぶね」と。また「私たちは結婚してから最初の25年間、お互いのキャリアの邪魔ばかりし合ってきたね」と話したこともあります(笑)。

例えば、私がウォルト・ディズニー・カンパニーで勤務していたとき、わたしはディスニーで働くことに心酔していました。ひょっとしたら、今もまだ働いていたかもしれません。

しかしそんな折、夫にマサチューセッツ総合病院の脳腫瘍センターからオファーが舞い込みました。そして彼はそれをずごくやりたそうでした。一方で私はどうしても仕事を辞めたくありませんでした。

しかし、人生には時として、やりたくないことをやらなければならないときもあります。そこで、私たちは荷物をまとめボストンに戻りました。この話はまだ続きます。私は夫を褒めなければなりません。

なぜなら、今度は私がeBayからオファーを受けたとき、私は心底、これこそ私たちがやるべき仕事だ、と感じました。しかし、はっきりとした確証がありませんでした。すると彼がこう言ってくれたのです。「先ずは引き受けてみて、6ヶ月程試しにやってみたらどうだ?」と。もちろん、私は「そんなことできない、あなたの仕事あるかどうかもわからないし……。」と返答しました。

しかし結局彼は、脳外科医のコネクションを使い、スタンフォードで脳外科医をしている友人のゲーリー・ステインバーグ氏とカリフォルニア大学で働いている他の友人に電話をかけてくれました。

そして運命とでもいうのでしょうか、ちょうどゲーリー氏に電話をかけた日に、脳腫瘍プログラムの主任のポジションに空きが出たとのことで、即座に主人の新しい職場が決定してしまったのです。こんなことは、きっともう二度と起こらないと思います(笑)。そう、これも少しの幸運と少しの勇気の賜物です。

妥協のない人生を送っている人はいない

メグ:それと、これは主人のすごいところなのですが、当時私たちには約40万ドルの貯金がありました。そして私はそのお金を投資にまわしました。そうeBay株の購入に充てたのです。

私もさすがに、これはすこし危険かと不安になり夫に意見を求めました。すると彼は「もし、eBayがうまくいかなかったら、もっと危険なことになるだろうね。」と言いました。そうなのです、彼はこの状況を楽しんでいたのです。

それで私たちは引っ越しをし、オーク・クリークアパートに住み始めました。このアパートをご存知ですか? 2つ寝室があるのですが、2番目の寝室がすごく狭いのです。実際、主寝室のクローゼットの方が広いくらいです。

ですので、13歳の息子がそこを自分の部屋として1年間使用していました。だってすごく広いのですから。そして10歳になる息子が2番目の寝室を自身の部屋として使用していました。

それはそれですごく楽しかったですよ。私はかつてないほど医薬品に詳しくなりましたし、夫もビジネスについてずいぶん詳しくなりました。私たちはうまく妥協点を見つけ、バランスを取り合っていました。

過去を振り返って、いろいろと後悔するべきではありません。前進あるのみです。そして覚えておいてください。私たちはいつも「最も起こって欲しくない出来事は何か?」を互いに確認し合っています。

1つの場所で働き続けるのもいいですが、転職することもそんなに悪くはないですよ。ただ、2人の10代の少年を育て上げるのはなかなか野性味溢れる仕事でした。なにしろ男の子がふたりですから。そして脳外科医としてのキャリアとビジネスパーソンとしてのキャリア。

やはり常にある種の妥協は必要になってきます。でも妥協のない人生を送っている人はいません。もし、そのような人がいるのであれば、それは超人か、もしくはただの嘘つきです。

選択を迫られたときに、判断する基準は

司会:妥協をするときは、どうのようにそれを決定するのですか?

メグ:先ほども述べましたが、一番大事なことに集中するのです。私がまだ駆け出しの頃、私はこう考えていました。「完璧な妻であり、完璧な母であり、完璧なCEOであり、完璧なホステスであり、そして完璧な慈善家であることは非常に難しい」と。難しいというより、不可能です。

それで私は遥か昔にこう決めたのです。「私は自分の仕事と家族に集中する。そのかわり、他の大部分は犠牲にする」と。よく言うのですが、私の家は、カリスマライフスタイルコーディネーターのマーサ・スチュワート女史が仕事を終えて立ち去った後の状態とはかなりかけ離れています(笑)。

全ては妥協から成り立っているのです。もしユニフォームを着て毎日仕事ができるのであればそうします。私は起業家のエリザベス・ホルムズさんが好きです。

ホルムズさんをご存じですか? 彼女は毎日同じ服を着て仕事をしています。私は彼女のその姿勢に共感を覚えます。10着の黒のタートルネックと10着の黒のパンツ、そして10着の黒のジャケットを揃え、それを順番に着まわしていく。素晴らしいと思いませんか? 私もそうすれば良かったと思います。

司会:素晴らしいファッションアドバイスをありがとうございました(笑)。

メグ:いいですか。時として選択を迫られるとことがあります。そんなときは、何がもっとも重要に感じられるか、という基準で決定を下してください。

私たちは、月曜日から木曜日の間は、どちらかが家で夕食を食べるようにする、というルールを決めています。そして、金曜日から日曜日にかけての週末は、家族全員が揃うように努めています。

そうなのです、何が大切かを見極め、良い意味で妥協してあなたがベストだと思う選択をしてください。これには完璧なんてありません。私には専業主婦になる道を選んだハーバードビジネススクール、プリンストン大学の同窓生が大勢います。

誰もが選択を迫られる時があります。あなたが正しいと思った方を選ぶのです。そこには教科書もマニュアルもありません。自分で考え、あなた自身が決めなくてはなりません。ええ、確かに大変です。でも同時にとても楽しくも感じられます。

政治の世界は結果が見えにくいのが大変

司会:ではそろそろ質疑応答に移りたいと思います。質問はこの会場とTwitterで受け付けています。会場には両サイドにそれぞれマイクを持ったスタッフを配置しています。質問がある方は挙手をしてください。スタッフがあなたの元に向かいます。

Twitterで質問をしたい方は「#GSBBFTT」というハッシュタグを使ってください。あちらにいるキャロラインがあなたの質問を読み上げます。ではまず、Twitterでの質問から始めたいと思います。

質問者:メグさん、あなたはリーダーシップを遺憾なく発揮している女性の草分け的存在として見なされていますが、女性であることを不利に感じたのは、テクノロジービジネスに携わっているときですか? それとも選挙を戦っているときですか?

メグ:それは選挙を戦っているときです。ものすごく大変でした。その理由ですが、私はご存知の通り共和党員です。しかし、私は民主党のヒラリー・クリントン女史の成し遂げたことに感銘を受けました。なぜならば、ビジネスの世界では幸いなことに全てが結果に表われるからです。

いいですか? 毎四半期ごとに市場のシェアは減少したのかそれとも増加したのか、あなたの資本投下へのリターンはどうなのか、あなたの売り上げは伸びているのか等、それらが全て結果としてはっきり表れるのです。つまり、しっかりとしたより処があるのです。

一方、政治の政界では選挙運動中、もしくは在職中でさえ結果が非常に見えにくいのです。私の考えでは、女性にとっても、マイノリティーの人々にとっても、いや全ての人にとって結果がはっきりとわかるほうがやり易いと思います。

ですので、結果がはっきりしないという点を考えても、政治の世界でがんばっている女性には賛辞を送りたいと思います。また、そういう意味ではジャーナリスズムの世界も、政治の世界と同じようなやりにくさをはらんでいると思います。

ビジネスの世界はと言いますと、私は何の気負いもなしにHPの取締役会議に出席していますし、役員たちも私を結果に基づいて評価してくれます。要は結果なのです。結果さえ出せば、たとえ髪の毛を紫に染めようが、何をしようが問題はありません。

ですので、余計結果の見えない世界で働くことが大変に感じられます。あなた方もそんな政治の世界でがんばって活躍している女性たちに賛辞を送ってください。またカリフォルニア州の議会で活躍しているゾロフ・グランド女史やその他の女性議員たちもお忘れなく。

eBay時代の2つの大きな失敗

司会:そこのあなた、ご質問ですか?

質問者:はい、私はMSXプログラムの学生です。もし、あなたが10年前に戻れたとしたら、中国のアリババに対抗するためにどんな策を講じますか?(笑)

メグ:私は過去、2度ほど手酷い失敗をしたことがあります。1つ目は日本での出来事です。日本ではeBayはヤフーオークションに市場シェアトップの座を譲っています。これは前述しました、1999年6月に起こったあの大規模なシステムダウンのせいです。

当時、私たちは日本での立ち上げの準備をしていました。しかし、そんな中、例のシステムダウンが起こり、アメリカでの復旧作業に追われ、日本市場では完全に出遅れてしまいました。

これはどのビジネスでも同じですが、やはりネットワークビジネスにおいても、多くの買い手がいる市場には多くの売り手が集まってくるのです。そして、言うまでもなく先手を取った方が有利になります。

日本市場では、技術問題のせいでヤフーオークションに打ちのめされる結果になってしましました。ですので、もしもう一度やり直すことができるのであれば、もっと素早く技術的問題に対応し、市場への出遅れを防ぎたいと思います。

2つ目は中国です。私たちは中国でイーチネットという名前の会社を買収しました。ところでeBayのこれまでの快進撃を知った人は皆、その多くはスタンフォードビジネススクールやハーバードビジネススクールの生徒なのですが、自国に戻った後、eBayもどきをスタートさせます。

そしてこれは余談ですが、ラテンアメリカにおいて、ハーバードビジネス大学の卒業生のグループとスタンフォード大学の卒業生のグループが対立していました。

当時、ちょうど該当地域でのビジネスパートナーを探していた私たちは現地に赴き両グループとそれぞれ接触を図りました。ハーバート大卒業生たちは、「自分たちだけでうまくやれる!」と、私たちの申し出を断りました。

その一方でスタンフォード大学の卒業生たちは何と言ったと思いますか? 彼らは「どこにサインすれば良いのですか?」と言いながら、快く私たちの提携の申し出を受けてくれました。そして今日、現地の市場はオックスフォード大卒業生たちの独り勝ち状態です。実際、彼らはとても良くやってくれています。

もし中国進出をやり直せるのなら

メグ:さて、私たちが買収したイーチネットに話を戻しますが、私たちは大きな間違いを犯しました。私たちは中国の彼らのプラットフォーム上にイーチネットを置くべきだったのです。それなのに私たちは、世界のどこでも稼働するという理由で、イーチネットをeBayのグローバルプラットフォーム上に配置しました。そうすることで、他にもコスト、市場へのスピードの面等で利点が見込めたからです。

しかし中国に限って言うとそれは間違いでした。ちょうど同じころ、SARSという問題にぶつかっていたアリババは、独自の中国語のプラットホームを用いて私たちの追い出しにかかりました。

彼らはeBayを市場から締め出すために、何年もの間、無料でサービスを提供し続けたのです。もしやり直せるのであれば、私はイーチネットの創業者であるボウ・ショウ氏をそのまま責任のある立場に残し、株式の保有も30パーセントにとどめ、彼がやりたいようにやらせたでしょう。

また私たちは中国でPayPalを介したビジネスも展開していましたが、市場規模が伴いませんでした。結果的に、日本市場・中国市場に関して言いますと、私たちが戦略的に正しい選択ができたとは思えません。

これらを考えると、ジャック・モール氏がフランチャイズを中国で展開できたのはつくづく素晴らしいことだと思います。

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