菜食でも筋肉は増える

森睦美氏(以下、森):はい。ケトン体の話が出ましたけども、私たちも前々からケトン体については非常に注目をしております。私たちの場合は、そのケトン体を肉から取るわけではなくて。実はたんぱく質も、アミノ酸がとてもいい状態で野菜のなかに多く含まれています。

特にグリーンの葉っぱ。渡辺(信幸)先生の本にも「グリーンを取り入れなさい」って書いていたと思うんです。海藻、キノコ、あと先ほど言った、ヘンプシードのような麻の実とか、そういったものにも非常にたくさん入っています。

日本も戦前は麻を栽培して、麻を活用したというふうに言われていますが、戦後、アメリカの指導によって、それが禁止されています。非常に栄養価が高かったということと、エネルギーがガソリン以上に作れるっていうことがありまして。今、日本でも麻の栽培がまたじわじわと行われているんですけれども。

あと、豆類ですね。そういったものにも非常に含まれていますので。実際に、私もこのローフード、菜食を中心にしても、筋肉は落ちておりません。スポーツやっている方にも、この食べ方を勧めています。筋肉が落ちるということは一切ないですし、かえって筋肉が増えています。

あるピラティスの先生にやってもらったんですけれども、3日間、ローフードだけで過ごして、まったく運動をしなくても筋肉が落ちることなく、「ちょっと増えた」ということです。

菜食+発酵を活かした食事法

野菜のなかにもたんぱく質が入っておりますし。そしてさらに、たんぱく質の吸収については、「発酵させることによって、また発酵のものと一緒に取ることによって、その吸収が非常によくなる」ということも、私たちの体感でわかっております。

今、医学博士の白川太郎先生と一緒に、「どのくらい吸収が高いのか」「発酵と組み合わせたときの菜食が、どのくらいいいのか」っていう研究を始めているところです。まだ発表できる段階ではないですが、非常にいいデータが出始めております。

決して、菜食だけで皮膚がボロボロになったりとか、シワシワになったりとか、筋肉が落ちたりとかはございませんので、菜食の食べ方にもよると思います。

今日はまったく触れてないんですけれども、「酵素を活かした食事」というのが、私たちのローフードなんです。酵素を活かすと、事前消化というのが非常に進んでおりますので、消化、吸収が非常によいかたちで(行われて)、消化そのものにあまりエネルギーを使わないんですね。

そのために、自分の代謝……食物を分解する以外のさまざまな、息を吸ってエネルギーに変えるといったものも含めて、傷んだ細胞を修復するといった代謝の働きを、すごく高めることができるということがありまして。結果的には、短期間でものすごく体調が変わったり、ダイエットできたりという事実があることも確かです。

ナブラチロワとジョコビッチ、対照的な2人の食

松島倫明氏(以下、松島):ありがとうございます。あの、かなり時間が押してきているんですけれども、もう1つトピックスがありました。今日、来られているなかでも、アスリートと言いますか、スポーツをされる方も多いと思いますけども、そこについてもうかがえればと思います。

先ほどもご紹介しましたように、『BORN TO RUN』のなかでは「ヴィーガンで100マイルの世界チャンピオンであった」、「エンデュランス系のスポーツに非常に秀でている人たちがいる」ということで。スポーツとダイエットについてのメリット、「どういう点ですばらしいか」ですとか、教えていただけますか?

:そうですね。今、申し上げたように、基本的に発酵とローフードを中心にした場合、食べたものを消化するのにあまりエネルギーがかかりませんので、「疲れにくい」とか、「そのあとの回復が非常に早い」ということで、アスリートの方、実際に指導をされたときに話が出ています。

そして、ここに書いているマルチナ・ナブラチロワ。この方は7年間、菜食をされているんですけれども。今現在もいろんなかたちで、菜食のみでもきっちり筋肉をつけて、世界的な代表になるような選手たちが、たくさんいらっしゃることも事実です。

松島:そのメリットとしては、確かにスコット・ジュレクも「回復力が早い」というのと、「疲労しない」っていう(ことを挙げている)。

:そうですね、やっぱり疲れにくいというのと、あと筋肉がすごく柔らかくなるので、すごく運動しやすいというふうに、やってる方はおっしゃっていますね。

長尾周格氏(以下、長尾):そういうベジタリアンの方もいるかもしれないですけど、例えば、男子のテニスで今、世界ランク1位はノバク・ジョゴビッチだと思います。彼、最近本出してますけれども、彼はどちらかというと肉食の食生活をしていますよね。

だから、ナブラチロワさんは、確かにすばらしいプレイヤーだったかもしれません。それで、菜食だったかもしれません。でも今、男子の世界ランキング1位は菜食じゃないですよね。

松島:彼はグルテンフリーですよね。いわゆるグルテンを取らないということで。

長尾:そうですね、グルテンフリーと、あとケトジェニックも入ってますよね。

:まあ、グルテンについては私たちもよくないというふうに(考えています)。グルテンによって腸内環境もよくないですし、私たち自身も取ってないですし。それは指導しておりますので。

自然に摂りやすいものを食べる

長尾:あとですね、僕がぜひおうかがいしたいのは、このマルチナ・ナブラチロワさん、ビリー・ジーン・キングさん、カール・ルイスさん。ここに書いてある人たちは、生まれてから今までずっとヴィーガンでやって来たんですか、っていう話です。

アスリートっていうとちょっと違うかもしれないですけれども、アフリカで最も優れた肉体を持つ民族、マサイ族。彼らは生まれてからずっと牛乳を中心とした動物性食品、遊牧民族で生活していて、驚異のマサイジャンプでおなじみの跳躍力、長距離走の能力を持っています。

それから、自給狩猟で有名なクン・サン族ですね。彼らは植物性食品をほとんど取らないんですけども、何十キロにわたって獲物を追いかけ続ける持久力を持っていますよね。

彼らはぽっと出の新人でも、世界チャンピオンでもなんでもない、地味な生活を続けていますけど、それこそ何百年、何千年、そういう生活をずっと続けて、民族の健康を維持し続けてきているわけです。

そういった意味では、ヴィーガンで何百年、何千年と1つの民族が、健康でいられていたという事例は存在するんですか?

:そこはわからないんですけど、先住民族の方々が食べていた獣の状態と、今の畜産の状態では大きく違うんじゃないかなっていうことを、私は危惧をしています。ホルモンも投与されていますし、抗生物質も投与されていますし。

長尾:もちろんそうです。あと1つ、すごく気になるところが。「人間は雑食」っていうのは僕も同意するところで、植物性でも動物性でも食べて健康でいられるんでしょう、きっと。

ただ、なぜ先住民の人たちが菜食で暮らさないのか。なぜそういう生活を、何百年、何千年と続けている民族がいないのか。そこについては、どうお考えでしょうか?

:先住民がすべてかどうかわからないですけれども、そのさまざまな歴史のなかで、変異、遷移をしているわけでしょうから。ただ、普通に、自然に考えて、私たちが多く取れるものって、やっぱり果実だったりとか、実物だったりとか、草が非常に手に入りやすいんだと思うんですね。

日常的に動物を捕獲をすることよりも、そちらのほうが。先生たちが調べられた記載のなかには、そういう(肉食の)事実が非常に多かったんだろうと思いますけれども。私は自然に考えたときに、摂りやすいものを私たちは食べていく。

そこの目の前にあるものを食べていく。そしてやっぱり、私たちは植物と共存しているんじゃないか、と考えております。

鳥浜貝塚からわかること「日本人は狩猟民族」

宗田哲男氏(以下、宗田):ちょっとスライドを1つ、出してもらえますかね。私、実はこの本(『ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか (光文社新書)』)を書きながら調べていて、とってもおもしろかったことがありまして。鳥浜貝塚っていうのが若狭湾に面したところにあるんですね。福井県ですね。

ちょうど縄文時代の遺跡なんですけど、50年くらい前に発掘が始まったんです。ここで見つかった層にわたって、それこそ1万年も、5千年くらいあるんですけど、この間の食べたものがちゃんと蓄積されて、水のなかに封入されて、完全にタイムカプセルのような状態で見つかったんです。

これを分析したのが、これ(スライド)です。貝類13パーセント、魚類30パーセント、獣15、クルミ19、ヒシ、クリ、ドングリ。当時の縄文人が食べていたものを、正確に調べ上げたんです、カロリー別に。

で、これを足していったら、私ね、「あ、縄文人は肉食だっていうけど、炭水化物もずいぶん取ってるんじゃないかな?」って。こうやって数えてくるわけですね。15と4と4で23パーセントか。

19パーセントがクルミ。みなさん、クルミって炭水化物だと思いますか? 実はこれ脂肪なんです、ほとんど。私の病院にいた1型糖尿病の方は、ずっとクルミ食べてましたからね。血糖値を上げないんです、これ。

(会場笑)

で、こっちから数えてみたらわかりますけど、ほぼ80パーセントが脂肪とたんぱく質です。縄文人の食事の8割が、脂肪とたんぱく質なんです。なんとなんと、ちゃんと魚介類、獣、しっかり取ってるんですね。

こんな豊かな食生活をしてた人たちが、われわれの先祖なんです。よく「日本人は農耕民族で、外国、西洋人は狩猟民族だ」って、糖尿病学会の偉い方がいつも言うんですけども、日本人は狩猟民族です。

そして、縄文時代、弥生時代と、こうやっていくわけですけども。こういう縄文人の、漆で作った櫛までが発見されているんですよ。これ、世界最古の人間の作っている縄文期のものですね。だから文化も進んでたし、おしゃれだったんですよね。それで、こういうものを食べてた。

三内丸山遺跡でも、大変な数の獣の骨が見つかっています。人間は移動するのに、みんな大きな肉食獣を追っかけてるんですね、哺乳類とか。それで人類は移動してきたってのもわかってきています。

炭水化物も脂肪も糖質もエネルギー源、でも……

だから、さっき言った「胎児が肉食である」、そして「縄文人も肉食であった」、そして「それまでの人類も、肉食に分かれた人たちが生き残った」、こういうルーツをちゃんと考えて。

今ね、ヴィーガンの人っていてもいいの。でも、生まれるとき、お母さんのお腹のなかでもらっていたのは、やっぱり脂肪とたんぱく質なんですよ。そして、生まれてから(摂取する)母乳も、40パーセントは脂肪です。あのなかには植物性のものはありません。ですから、それで育ってきて、あとで途中で……。

:先生! あの、野菜や果物のなかにも、脂肪もたんぱく質も入っていますよ。

宗田:違うんです、質が。そうなんですけど、残念ながら動物性の脂肪なんですよね、すべて。母親からもらえるものはね。

:それは母親は動物ですから、動物の脂肪になりますけれども。

宗田:そうです。

:ただ、それをどう取るかっていうのは、植物であったとしても……。

宗田:でもね、人間の体、炭水化物は1パーセントもないんです。赤ちゃんも肉の塊なんです。

:それは炭水化物は全部、エネルギー源になるからですよね?

宗田:いや、脂肪もエネルギー源になります。脂肪が20パーセントくらい、占めてます。

:もちろん、脂肪もたんぱく質もエネルギー源になりますけども、炭水化物のほうが……。炭水化物って言っても、どんな炭水化物かにもよりますけども、ちゃんとそれをエネルギーに変えるのが、素早いとも言われてますよね。

宗田:糖質は早くエネルギーとして変えるだけで、維持する力はありません。1日糖質を取らなければ、もう糖質はゼロになります。ケトン体が出てきます。そのときは、体はケトンで動いているんです。脂肪で動いているんです。

:だから糖質を解糖系とかに送っていくのが、ちゃんとできればいいんじゃないかなと思います。

宗田:解糖できる1分子からのATPというエネルギーは2個です。ところが、脂肪は129個になります。

:ただ、それをですね。解糖系のものを使ってピルビン酸ができて、それから36ATPですかね、できるのって、発酵のものをうまく使うと、同じ甘いもの、糖質であっても、それができるんじゃないかというふうに、今、私たちは調べているところです。

宗田:まあ、調べてもらうのはいいんですけど、糖質なしでも完全に生きられるということは間違いないんです。逆に、糖質だけでは生きられません。これだけははっきりしています。

:糖質だけに着目をしているんではなくて。私たちは植物全体ですけれども、植物だけで生きている人が、健康で生きている人がいることも事実です。

発酵食品が必要なかった民族

松島:はい! あの、すいません。盛り上がってまいりましたけども。

(会場笑)

長尾:「植物性のものだけでずっと生きていっているのか」っていうことと、「なんで民族としてそういうふうに生きてないのか」、「なぜ何百年、何千年という歴史を持つ、そういった食生活を持つ民族が存在しないのか」(が、やはり疑問です)。

あと発酵食品に関しましては、僕は否定しません。体にいい部分もあると思うし、日本人が伝統的に食べてきた味噌や醤油なんかは、やはり日本が誇る伝統食だと思います。

ただね、発酵食品をまったく取らない先住民ってけっこう多いんですね。これ、なんでかって言うと、理由はすごい簡単な話ですよ。発酵食品というのは、食品を保存するための技術です。

人類は昔から、食品を保存するのに主に3つの方法を使ってました。1つが発酵です。で、もう1つが塩蔵、すなわち塩漬けです。もう1つが乾燥です。

これらによって食品を保存するということは、食べ物を蓄えるということですね。蓄えるってことは、どっかに置いておくってことです。どっかに置いておくということ、人間がこういった保存食品を利用するというようになるっていうことは、定住生活を送るようになるっていうことなんですね。

ところが、狩猟民族の多くは移動しながら生活しています。草食動物、それを追っかけて獲物を狩る肉食動物、ライオンとかね。そういったものは常に移動してますよね。ですから、狩猟民族もまた移動生活なんですね。

移動生活を送っている狩猟民族というのは、アフリカのクン・サンもそうですし、オーストラリアのアボリジニーもそうですし、アメリカ大陸の大平原部に住んでいたネイティブ・アメリカン、インディアンの人たちも移動生活を送ってました。

彼らは必要最小限度の荷物だけを持って、動物の群れとともに移動して生活しているわけです。ですから、発酵食品を保存しておく保存庫を持たない。ということはですね、何百年、何千年にもわたって民族の文化を維持していく、その文化のなかに発酵食品が存在していない。こういう民族はたくさんいます。

ですから、否定はしませんが、発酵食品が人間の生活を維持するうえで必須のものであるとは、歴史的に見ると考えにくいわけですね。

松島:すいません、ありがとうございます。えっとですね、ほんとに時間がなくなってきていまして。このままほっとくと、たぶん、このままずっと続いてしまうので。

(会場笑)