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尾原和啓×吉田浩一郎(全1記事)

アウトソーシング時代の鍵は課題設定能力 クラウドワークス吉田氏が考える、人工知能にはできないこと

マッキンゼー、Google、楽天などを経て、現在12職目のFringe81執行役員・尾原和啓氏が2015年6月9日に新著『ザ・プラットフォーム―IT企業はなぜ世界を変えるのか?』(NHK出版新書)を発売し、その刊行を記念して、クラウドワークスCEOの吉田浩一郎氏と対談。クラウドソーシングやロボット、人工知能などの発達でアウトソーシングが進んだ世界で人間に求められるスキルについて語りました。キーワードは「課題設定能力」。尾原氏と吉田氏は、「何をしたらワクワクするのか?」を考えだす課題設定能力を持った人やサービスの価値が高まっていくと予測しています。そのような時代に、人はプラットフォームとどのように付き合っていくことになるのでしょうか?

自分がやらなくてもいいことをアウトソースする力が必要

尾原和啓氏(以下、尾原):こんにちは、吉田さん。ご無沙汰しております。

吉田浩一郎氏(以下、吉田):はーい、こんにちは。ご無沙汰しております。

尾原『ザ・プラットフォーム』いかがでしたか?

吉田:私が自分の仕事に絡めて一番響いたのが「カーンアカデミー」のくだりで、「学習の中心は課題設定能力に替わる」というところです。これを本当にひしひしと感じていて、この本に出てくる「GoogleやAppleが人間を幸せにする」というのは非常に納得ではあるんですが、一方でGoogleやAppleの理念を理解したうえで、「じゃあ人間にしかできないことってなんだろう?」と考える力が必要だと思うんですね。

今クラウドワークスでクラウドソーシングをやってますけど、まったく同じで、従来の仕事のやり方から抜け出せない人もいるわけですよ。時間や場所にとらわれない新しい働き方という評価をいただく一方で、「クラウドソーシングは結構危険なツールだ」とか、「クラウドソーシングでやったって稼げないじゃないですか」という方もいらっしゃるわけです。

でも、そもそも世の中をロボットや人工知能が支配していくような未来の中で、クラウドソーシングでもGoogleでもAppleでもなんでも活用して、あらゆる自分がやらなくてもいいことをアウトソースしていく力が求められている。それはすごく感じてるんですよね。

尾原:そうなんですよね。やっぱり、インターネットによって、Googleによって、Appleによって、Facebookによって、世界のルールって書き換わっちゃったじゃないですか。世界中が全部つながっちゃって、フラットに戦い合える。

逆にいうと、ものすごく賃金の安い国の人たちが、才能があれば、ないしは努力する時間をつぎ込めば、いくらでも先進国の人と戦えちゃう。我々からしたら、日本戦で戦っていたつもりが世界戦でした、みたいなことですよね。

人間にしかできないこととは何だろうか?

吉田:本当にそうで、それを活用して自分のマインドフルネスを保っている人と、GoogleやAppleがやればいいことを自分で頑張っちゃう人。すごく身近な例で言えば、洗濯機とか、食洗機とか、掃除機とかも全部同じだと思うんですよね。

もともと皿洗っていたものが、食洗機を使えば時間短縮できるわけじゃないですか。それを「いやいや、皿っていうのは自分の手で丁寧に洗うものだよ」と言い続ける人と、食洗機を買って時間を確保してマインドフルネスへもっていく人とでは、なんというか、生活の豊かさがどんどん変わってくると思うんですよね。

尾原:まさにその通りで、自動運転カーの議論で「車の運転の楽しみを奪うのか」とかいう話があるじゃないですか。それってさっきの皿洗いと同じで、食洗機も「皿を洗っている中で、きれいにしていくことの教育効果があるんだ」みたいな話で否定する方がいる。

でも、別に自動運転カーになったからといって手動モードを全部廃止するって誰も決めてないし、食洗機だって、教育としての皿洗いはやってもいいわけだし。

吉田:そうですよ。だから世の中はある意味効率化の一途に向かっていって、クラウドソーシングで個人の仕事は増えてるんですけど、仕事全体の量は減っているわけですよね。

この前、Pepperの技術者の方とお会いしたら、「今、Pepperがソフトバンクのショップの店員やっているけれど、Pepperのいいところは教育コストがかからないことです」と言うんです。

例えばアルバイトの人に、2週間かけて携帯電話の料金プランを教えたとします。でも、そのアルバイトさんは、常にやめてしまう可能性もあるわけです。一方、Pepperはデータをアップロードするだけで教育ができるわけですよね。

尾原:全世界にいる何万台かのPepperすべての教育レベルがバーンって上がるわけですもんね。

吉田:もう、そういった基礎レベルを覚えるのはPepperのほうが優れているわけです。だから、「じゃあ人間にしかできないことはなんだろう?」というところに特化していかないといけないんですね。むしろPepperを積極活用しながら、Pepperにできない接客を自分がするという手段を編み出していかないと、人間としての店員はもういらなくなると思うんです。

これからは課題設定能力が求められる

尾原:結局、インターネットでフラットになって世界戦が始まって、次は人工知能やロボットやオートメーションとの戦いという中で、仕事自体が人間から奪われていってしまいますよ。そうすると何が人間に残るのでしょうね?

吉田:まさにそれが人間における課題設定能力なんですよね。結局、Pepperを通して思うのは、ショップの店員ですらも課題設定能力が求められていて、店員として知識もしっかり覚えたうえで接客をブラッシュアップするのか、あるいは知識はPepperができるから初動のヒアリングに集中していくのかとか、「Pepperにはできない接客ってなんだろう?」ということを考えることが求められちゃっていますよね。

従来の接客とは求められる能力が違うわけです。全自動運転カーにしてもそうで、全自動運転が実現したあとに求められるスキルは何かを考えられないといけない。

それと同じことは、たとえばビジネスマンにとってのクラウドソーシングとかロボット、あるいは経営者にとってのアウトソーシング、クラウドソーシング、ロボット、人工知能でもあって、「なにが経営者にしかできないのか?」を考える能力が求められるんだと思います。

教育について考えることが増えてきた

尾原:そういう状況の中で、吉田さんのクラウドワークスはクラウドソーシングの変化の波の最前線にいますよね。そこで経営をされてきて、クラウドソーシングを使ってらっしゃる方々の中で課題設定能力が育っていっているのか、それとも「単純作業で生きれるからいいや」という小さい方向に行こうとしているのか、その辺の実感をお聞きしたいんですよね。

吉田:今の話でひとつ抜け落ちてる事象があって、それは「インターネットやGoogleやAppleのサービスを使う教育を受けてなかったり、知識がない人たちはどうなっちゃうのか」という議論が抜け落ちています。クラウドワークスのユーザーには、そういった方たちも含まれているんですよね。

今、日々感じているところでいくと、GoogleやAppleを善ととらえている人って、どんどんどんどん変化していくんです。これは世界の人口でいくと、本当に数パーセントとかそれくらいの話だと思うんですね。だからクラウドワークスが支援したいと考えているのは、それ以外の9割8割の、いわゆる普通の人々です。

今、地方創生ということで地域の方々と手を組んで、東京の仕事を出していくということもやっていますけど、地方には、「メールを開くのは数日に一回です」という方も少なくないわけです。

尾原:なるほど。「メールをすぐにやりとりするのは当たり前だ」というところから入らないといけないんだ。

吉田:そうそう。東京にいると、「仕事の商取引ではFacebookやメールですぐにやりとりして、すぐに進めましょう」というのが共通言語になっているけど、田舎にいたら「一日一回メールチェックするかな」みたいな感覚になっているわけです。この差はすごく大きくて、その人たちに向き合っていかないと、本当の意味で世界は変わっていかない。

尾原:裾野が広がらないわけですよね。

吉田:だから、カーンアカデミーじゃないんですけど、そこに対する教育のあり方から変えていくことが求められているなと。今、クラウドワークスをやって4年目になりますけど、事業が進めば進むほど、教育について考えることが増えていますね。

「なぜ?」を考えるから「ふむふむ」「ワクワク」が生まれる

尾原:今までのクラウドワークスの「まずは先陣を切る」というフェーズから、「いかに裾野を広くしていくか」というフェーズに入っていて、きちんと言語化して彼らにどう伝えていくかという教育の要素が必要だということですね。

吉田:そこに対して「じゃあ、その場ですぐにメールを返すとどんないいことがあるのか」を見せていかないといけない。これってまさに教育なんですよね。「なぜそれをやらないといけないのか」ということ。

『ザ・プラットフォーム』の巻末のくだりになるんですけど、「なぜ?」を考えるから、「ふむふむ」「ワクワク」が生まれる。これこそがおそらくロボットにできないことなんですよね。もしかしたらディープラーニングとかあれば、できちゃうのかもしれないですけど。

尾原:(笑)。少なくとも、その「なぜ?」と思う課題設定能力は、まだまだ時間がかかる話なので、そこを育むための基礎をどう作っていくかですね。

吉田:決められたことをいかに効率的にやるなど、テクニックでカバーできるものはもうほとんどロボットのほうが優れてしまう。やっぱりその入口のところの「なにをすべきか?」「私はなにをしたらワクワクするのか?」というのは、『ザ・プラットフォーム』を読んで、クラウドワークスとすごく通ずるところを感じましたね。

共感経済がプラットフォームとして動きつつある

尾原:ほんとは『ザ・プラットフォーム』の中に書きたくて紙面の関係で書けなかったんですけど、吉田さんから教えてもらった仮面ライダーのデザインとかをやっている人が、福岡で仕事をしていて、それは福岡にいることで自分の好きなキャラクターデザインとか、自分が本当に好きなものに向き合っている話とか、そういう自分の中の「なぜ?」をちゃんと突き詰めると、環境が変わっても暮らしていけるというプラスの面が、クラウドワークスにはいっぱいあるじゃないですか。

吉田:おそらく10年後か20年後、その「ワクワク」のところにお金が極端に集まる時代が来ると思ってるんですよね。

WIREDで、イギリスで電子決済が50パーセントを超えて一般のお金の流通が50パーセント以下になったという記事が出ていました(It's official: cash is dying)。そうなってくると、Facebookの「いいね!」を押す行為も、決済を電子決済でする行為と、信号としてはもう変わらない。ボタンを押して信号が送られて、結果が変わっているだけです。

アメリカのFacebookメッセンジャーに送金機能が付き始めたという報道(Facebook、メッセンジャーに友達間送金機能を追加へ)がありましたけど、本当に気持ちが動いたときにお金が流れる、「それ面白いね」と言うと10円送るとか、友達に渋谷でおいしいラーメン屋を教えてもらったらGoogle+で10円送るとか、そういう世の中になっていくとしたら、やっぱりなおさらワクワクというものに人は集中していかないと、お金は集まらない。そんな風に思ってますね。

尾原:前にイベントさせていただいたときの共感経済っていうものが、ほんとうにプラットフォームとして動き始めてるってことですよね(日本的インターネットは勝てるのか?─『ITビジネスの原理』をめぐるトークショーレポート)。

本の代金は「ワクワク」へ参加するために支払うようになる?

尾原:実際僕の方も、今回の出版にあたって、電子書籍ってまだ世の中的にはマイノリティなんですけど、あえてプロモーションを電子書籍のほうに絞ったんですよ。

なぜかというと、今言った「ワクワク」が広がるんですよね。僕の本は2時間くらいで読める設計にしているから、SNSのポストを見て、500円くらいでダウンロードしてすぐに読んで、ワクワクの祭りに参加できるというと結構ダウンロードしてくれて、読み終わると「やっぱり面白かった」みたいにシェアしてくれて、ワクワクの広がりがリアルタイムに近づいている。

僕の本は、もちろん「ふむふむ」のほうにお金を払ってくれる人もいるんだけど、ある意味「ワクワクへの参加チケット」だと考えられんじゃないのかなと思っていて。そういうのが進むんでしょうね。

吉田:本の値段というのも、今の売り方はクラウドファンデングに近いじゃないですか。だんだん個人の共感に紐づいたお金の流れになってきている。

それがどんなベースの上にあるかというと、シェアリングエコノミーなんですよね。シェアリングエコノミーの本質というのは、その人に対して、そのシェアリングエコノミーのサービスの信用情報が付加されていく。

インターネットオークションだったら「この人のものだったら98パーセント信用できる」とか、「Airbnbだったらこの人の部屋なら安心できる」とか。これが車になったり、あるいはスキルになったのがクラウドソーシングなんですけど、21世紀にかけて個人というものに対してどんどん信用情報が付加されていくんですよね。

企業に情報管理されなくても、個人として、ある人が「なにか新しいことをやりたい」と言ったり「新しい本出しました」というときに、「あなたの言うことだったら100円出すよ」「200円出すよ」という流れになってきている。

プラットフォームが生き方の選択肢になる時代

尾原:そういう時代の信用の蓄積場所のひとつがクラウドワークスということですよね。Googleとかも直接は否定しているけれども、今までのページランクという、一つひとつの記事に信用が付く仕組みから、オーソリティーランクとかパーソンランクという、その人がどういう分野に詳しいのか、何に強いのか、何にワクワクさせてくれるのかという情報を、人に蓄積をする仕組みに寄っていっている

じゃあ、そこをどう研ぎ澄ませるかを考える課題設定能力が大事だということですよね。

吉田:おっしゃるとおりです。オーサーランクって検索の評価を著者に対して行うものですけど、Googleの中でも今はテキストが膨大にあふれかえっているので、その中でわかりやすい例でいうと、学生の起業家が言うことよりは小沢隆生さんの言うことのほうが重みがある。なんというか、これまでの実績や経験を考慮すると、正解である可能性が高いわけです。

そういうことが起業だけじゃなくて、日々日常のこと、スポーツだとかビジネスだとか、そういったことに対してシェアリングエコノミーによって信用情報が付加されて、人中心の価値づけが再度行われていく。だから個人×インターネットによって社会が再構築されるということを強く思っていますね。

尾原:グローバルでフラット化する中で、機械では置き換えられない課題を設定する能力が、自分だけの強みにつながっていくということですよね。

吉田:20世紀の個人は「国」と「企業」の2つの階層に向き合えば自分の生き方を定義できたんですけど、今回『ザ・プラットフォーム』を読んでみて、FacebookやApple、あるいはAirbnb、クラウドワークス、いろんなものが山ほどあって、そのプラットフォームの全部が生き方の選択肢になっていくわけです。

尾原:プラットフォームというものをどう使っていくかが、新しい自由な生き方だということですね。すごくいい話、ありがとうございました。

吉田:はーい、ありがとうございます。

吉田浩一郎(よしだ・こういちろう)「クラウドワークス」代表取締役社長兼CEO。「"働く"を通して人々に笑顔を」をミッションにエンジニアやデザイナー、ライターのためのクラウドソーシングサービスを展開。

尾原和啓(おばら・かずひろ)Fringe81執行役員、PLANETS取締役。マッキンゼー、Google、楽天執行役員リクルート(2回)等を経て、現在12職目。バリ島から各役員を兼務し人を紡いでいる。TED日本オーディションなど私事で従事。前著『ITビジネスの原理』はKindle総合1位、ビジネス書年間7位。詳細プロフィール

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