Googleでは候補者全員に同じ質問をするようにしている

ブライアン・ウェル氏:ここ数年で、Googleは採用にあたって構造化面接という方法を取り入れています。Googleに面接へ来る人たちは、引っかけ問題のようなつまらない質問は聞かれません。そういう質問は我々にもメリットがありませんでした。

そのポジションを理解し、必要な素質を見出し、それを元に面接の質問を行うようにしています。そのポジションに5人面接をするのであれば、その人たち全員が同じ質問に答えているよう徹底しています。

機械的な方法じゃないかと批判を聞くこともありますが、非構造的面接は採用の判断を行う方法としては良くないという研究が出ています。構造化面接を行うことによって、ポジションに対して最適な人を採用できる確率が遥かに高いのです。

さて、皆さんはまだ若い会社で働いていたり、立ち上げているのでなかなか面白い立場にいます。シリコンバレーの心臓部とも言える、Palo AltoのSand Hill Roadには多くのベンチャーキャピタリストがいます。

彼らは未来に対する賭けをしているのです。まだ存在しないものに可能性を見出し、大金を投資しています。その判断はどうやっておこなっているのでしょう? ヒューリスティックスやアルゴリズムが曖昧さと組み合わさると、バイアスが生まれる状況になってしまいますよね。

数ヶ月前に行われた研究ですが、3年間にわたってPC会社に投資を持ちかけている人たちの特徴を見ていきました。そこでわかったのは、男性がピッチしたほうがベンチャーキャピタルから資金調達する確率が女性に比べて60%高かったのです。

「リーダー=男性」という偏見

男性のみなさん、もちろん見た目も大事だということはおわかりですよね。女性は見た目に関わらず、ピッチが成功する確率が低かったのです。この研究自体がフィールド実験だったために、男性のほうが女性よりピッチがうまかったのかも、という意見もありました、もちろんその可能性もあります。

そこで研究者たちは、ピッチを作り、男性か女性のどちらかにピッチをさせて、一番いいアイディアを被験者に選ばせるという実験を行いました。ピッチをした男女には同じようなプレゼンになるように練習してもらい、被験者たちにプレゼンをさせてみました。

結果としては、男性が行ったピッチのほうが68%の確率で選ばれる確率が高かったのです。できるだけ隔たりが起きないように管理された状況でも、バイアスが生まれていることがわかりました。

我々はこの偏見を崩すのが困難な状態にあると考えています。男性にかたよってしまうような偏見はどこで生まれてしまうのでしょう? 理由の1つは、人はリーダーを求めているからです。研究でもわかっていることですが、多くの人の中で「リーダー」=「男性」という認識があるのです。

世界中で行われた実験で、男性と女性、そして管理者の特徴を書き出してもらいまいした。男性を表す言葉の71%が、管理者を表す言葉とかぶっていたのです。女性の場合は10%でした。女性がリーダーとして務まらないというわけではもちろんありませんが、男性が持つ特徴は自然にリーダーの特徴と同じであったというものです。何も相手や内容を知らずにピッチを聞くときは、自然と男性のピッチを選びがちになってしまうのです。

では、女性は男性が持っている特徴を徹底すればいいのでは、決断力を高く、早く、主張的になればいいのでは、と思うかもしれません。実はそれをやると、女性らしさが失われてしまい、不利なのです。

シェリル・サンドバーグ著の『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』という本のテーマにもなっています。バイアスを理解すれば、このように立ちはだかる壁を乗り越えられるようになります。

女性のほうが仕事が評価されにくい

次の話に進みます、データ収集の話です。我々はデータと証拠がない限り、何か問題が起きても直そうとする可能性が低いです。パフォーマンスの話ではデータを取ることは難しいかもしれませんが、1つ例を出したいと思います。年度末の勤務評定が好きな人はどれくらいいらっしゃいますか?

嫌ですよね、あれ。ほとんどの人が好きではないと思います。実は今、多くの会社がそのような評定は古くて関係性が高いデータが取れないと言って、行うのを止めているのです。ですが、データを採らないことから問題が起きることがあります。

その例としてこのような研究があります。男性と女性がいて、同じ仕事をしていました。そこで、1人ずつを評定させるという実験です。方法は2通りで、2人が総合的に何をやったかを聞くか、別々に1人ずつ、貢献した内容を聞く、というものです。

9段階で評価を出すと、個人で評価を聞いたほうがお互いとても高いスコアが出ました。しかし、2人の評価を総合的に聞いた場合、女性の仕事に対する貢献度が低くなりやすいことがわかりました。

元のデータが曖昧になるほど、バイアスが生まれやすいことがわかり、結果として昇格しにくくなったり、組織として良いことにはなりません。パフォーマンスの測り方はとても難しいですが、やって損することはありません。データを上手に収集して、先ほど話した成功の構造を取り入れてください。

「Google Doodles」の男女比が10:1になっていた

以前当社でちょっと世間的に恥ずかしいことがあったのですが、みなさんトップページに出てくる「Google Doodles」をご存知ですよね。数学者、科学者や工学者の誕生日を祝って、イラストだったり、インタラクティブなロゴに変わります。僕もとても好きです。誰もGoogle Doodlesの性別に対して何も考慮していなかったのですが、男女の比率が10:1だったことが分かりました。

女性に対してとても強いメッセージを知らずと送ってしまっていました。これがどこかに掲載されて、会社としてとても恥ずかしい思いをしてしまいました。今では企業としてダイバーシティを大きな目標として掲げて、「Google Doodles」もバランスよくなっています。

このデータがなければ誰も気づかなかったし、何も変わりませんでした。データについて最後に、ご自身のデータ収集もとても大事です。ご自身が問題視されない限り解決されないままになってしまうので、最初に実験したIATもぜひ個人でもやってみてください。

さて次は、潜在的な思考の見出し方についてです。「潜在的差別」という言葉があるのですが、自身が気づかないうちに行動に出てしまう、とても小さな差別です。ライス大学がテキサス州ヒューストンで行った実験です。

我々は自分と違う人と、自分と似ている人では関わり方が変わるという実験で、被験者にショッピングモールへ行ってもらい、仕事を探すという実験でした。

ただし、彼らには研究室を出る時に「テキサス出身!」と書いてある帽子か、「ゲイだぜ!」と書いてある帽子を渡しました。実験は被験者がモールに行って仕事を探した時のインタラクションを見るためでした。結果として、被った帽子によって周りの反応は異なりました。

お店に行って採用しているか聞いて申し込むだけなので会話はそもそも少ないですが、「テキサス出身!」帽子を被っているほうが言葉数が多く、会話も50%ほど長く、消極性は「ゲイだぜ!」と書いてある帽子のほうが高かったのです。

これは全て潜在的差別として捉えられることで、多分皆、毎日気づかずにやってしまっていることでしょう。Googleでもその傾向が見え、我々のソーシャルネットワーク上で実験をしてみました。

Googleでは人事評価にPageRankアルゴリズムを使用している

Googleでは、ソーシャルネットワークとは職場でのコネクションのことを言います。あなたはこの図の赤い点だとして、他の点は同僚です。

あなたと青い点を結ぶ線は直接的な関係を示しています。仕事の評価を360度からしてもらうとして、直接的に仕事の評価をしてくれた人が直接的なコネクションになります。Aさんがあなたを評価してくれたとします。

Aさんも他の人に評価されたとすると、Aさんを評価した人たちはあなたの間接的コネクションになりますよね。このソーシャルネットワークで大事なのは、あなたがどれくらいの人と繋がっていて、その人たちがどれくらいの人と繋がっているかです。

実はPageRankアルゴリズムの一種を使っているんです。2012年の従業員調査で、Googleのソーシャルネットワークをビジュアライズしてみる試みがありました。その調査で、仕事関係のアドバイスを聞く人5名の名前を書いてもらいました。90%ほどが記入してくれたので、とても飽和されたデータから、こういうグラフが生まれました。

ソーシャルネットワーク業界では「毛玉」と呼ばれています。ズームすると、何千もの点と線でできていて、コネクションが多いほど点が大きくなります。さて、あなたがこのネットワークにいるとしたら、どの辺に居たいですか?

ど真ん中にいたいですよね。コネクションが多いということになり、多くの情報に手が届くようになります。端にいる人より、影響力も高く昇格の確率とスピードも高くなるというデータもあります。

青がエンジニアで、緑が人事部です。人事部の他に経理や他の総合職も含まれています。ところどころ被ってはいますが、大体はエンジニアとはコネクションは少ないです。さらに営業部を追加してみましょう。赤はみなセールスの人々です。ここで何が見えるかというと、営業は営業同士、エンジニアはエンジニア同士で、身内で固まりがちなのです。

エンジニアとコネクションがある営業はとても少ないですよね。企業としてこれでいいのかというと、そうでもないです。営業の人たちはテクノロジーを売り、エンジニアはそのテクノロジーを顧客のために作っているわけで、営業とエンジニアがコミュニケーションを取ることはかなり重要になるのです。これが職場でのバイアスなのです。お互い似ている人と会話したいのです、そのほうが安心します。

空間のもつ雰囲気やメッセージに人は影響されやすい

難しいのは、バイアスを乗り越えることです。普段話さない人たちとコミュニケーションをとるのは慣れていないことで、とても高いハードルを越えなければいけないのです。できそうな人は、普段隣に座らないような人のところへ移動してみるのもいいでしょう。

知らない人たちに「なんだこいつ」と言われてでも、何かしらのコミュニケーションが生まれると思います。皆さんの会社は小規模なのでこれが割と可能だと思います。Googleが昔からやっていることは、マイクロキッチンと呼ばれる共有のスペースを設けていて、他の人と交流できるようにしています。

我々が発する微細な「目配せ」はとても強力なものです。あなた方がご自身に知らずともうけている立ち位置も、周りの人たちへの外向性や内向性を示しています。スタンフォード大学で行われたある研究では、他の人の専攻に対する興味を図っています。

歴史、心理学、ロシア語、コンピュータサイエンスなど様々な教科に対する興味を聞きました。被験者の半分は、パソコンや機材、ソーダ缶、ゲーム機などが置いてある典型的な理系の研究室に招かれました。もう半分は、同じような部屋ですが置いてあるものは比較的に無性的なものが置いてあります。

この研究によって、前者の部屋に入った女性は、後者の部屋に入った女性より、コンピュータサイエンスへの興味がとても低くなることがわかりました。男性はその逆でした。この研究によって、我々が存在する空間とその空間がもたらす雰囲気やメッセージに興味が湧きました。

1つの例として調べたのが、会議室の名前です。会議室だらけのフロアがあり、全て科学者の名前が付けられています。15〜20部屋ある中で、女性科学者の名前が付けられた会議室は1つしかありませんでした。このように周りの空間を見直して、そのうちの多くを女性科学者の名前に変えました。

別に全てを無難で、クリエイティビティのない部屋にする必要があるわけではなく、空間としては多様性を持たせる必要があるのです。もしビデオゲームだらけの部屋があるのであれば、もう1つ植物や花が置いてある部屋があってもいいんじゃないでしょうか。会社の雰囲気が、誰でも気持ち良く居られるようにしてあげる事がとても大事だと思います。

第一印象に疑問を持つことからはじめる

さて、最後は責任感の話です。1番最初の話と同じぐらい大事で、2と3より具体性があるので、これをいつも最後に話しています。まず自分に対する責任です。無意識を意識的なものに変えることは可能だという研究結果があるように、一番最初に出す判断に頼り切らないことが大切です。

特に、評定をする時、雇う時、昇格させる時。誰とお昼ご飯を食べるか決める時や、誰の隣に座るかを決める時もそうです。まず、第一印象に疑問を持つこと、決断を根拠付けることです。誰も聞かなくても、誰がBさんではなくAさんを雇うのか言ってあげてください。自分の行動に責任が生まれると、バイアスは少なくなります。聞く人がいないのであれば書くだけでもいいでしょう。

なぜこの判断を下したか、紙に書いておくだけでもいいでしょう。また、フィードバックをもらいましょう。例えば評定が終わった後に、話された内容を繰り返して、確認してみましょう。上司であれば、聞いたことを確認してみましょう。相手に自分のバイアスを見出してもらうと、自身に対する責任も生まれてきます。

次に大切なのは、みんなでバイアスを探り出すことです。前に、なぜGoogleではこの潜在的バイアスのトレーニングは成功しているのに、他の会社ではうまくいかないかと聞かれたことがあります。

違いは、参加しなければいけない研修みたいに扱われてしまうからです。コンプライアンス教育みたいな扱いにされてしまうのです。お互い指摘しあえる環境があると、言い合うようになることにみなさんびっくりすると思います。

例えば今、我々は不偏的な業績管理方法を徹底しようとしているのですが、みんな1000人も参加しているようなメールのスレッドに、「この判断は偏っていると思います」「変えたほうがいいと思う」など、意見をどんどん出してくれます。このように平等性を用いることによって、このようなコンセプトが根付くのです。

さて、責任感を与える方法にもいくつかあります。まず先程言ったように、偏見を指摘できる環境を作る。次に、他の人も自身の判断を根拠付けること。1つの方法として、全体的判断をみんなで行うことです。Googleの創業者たちはこれを上手にやっています。

彼らは、採用にあたって1人の管理者に判断をさせず、複数の管理者が委員会として機能し、全ての志望者のレジュメ、インタビューのフィードバックなどを総合的に話し合って採用を決める手段を用いました。

もちろん意見が対立することもあるので、他の会社より採用の判断が出るまでは時間がかかってしまうことが多いです。でも、バイアスは確実に少ないはずです。業績評定や昇格判断も同じプロセスを使っています。

1人だけの人が何かしらの判断をすることはありません。多くの人を関わらせることによって、自分の意見を根拠付ける必要が生まれます。

「成功の構造」の話、データの重要性、潜在的な思考の見出し方、責任感の話をしました。この中で1つだけでも、ご自身の会社を良くするための何かを持ち帰っていただければいいなと思います。

どうもありがとうございます。ここからは質問を受け付けます。