本当の顧客が誰かわからない時代

スティーブ・ジョブズ氏:私の名前を知らない人たちもいると思うので、自己紹介させていただきます。スティーブ・ジョブズです。

これからやるのは、今年一緒にやろうと思っている数ある講義のうちの、1番最初のものになる。テーマはとても重要な内容で、誰が私たちの顧客なのか? なぜ顧客たちは競合他社ではなく私たちの商品を選ぶのか? 顧客に届くまでにどの流通経路を私たちは使うのか? ということについてこれから話させてもらいます。

私たちの商品を顧客がどのように使っているのか。幸運なことに、あなたたちのような同僚と一緒に多くの顧客に会って、私たちの企業のマネージメントに対して直接、情報を得ることができた。そのおかげで、この90日間でアイディアがいくつか浮かんでいる。

考慮を重ね、データを見ることで、ある瞬間に非常に重要なことが浮かび上がってきた。それを今日はみんなにシェアしようと思っている。私たちは歴史的に見ても、本当の顧客が誰かを理解するのが難しい時代にいる。これがなぜなのかを私は示したい。

ワークステーション市場の企業が見落としているもの

手始めに、ワークステーション(業務用の高性能コンピュータ)市場について考えてみよう。こういう風に。

ご存知の通り、ワークステーション市場で1番大きなプレイヤーはSUNだった。2番目がHP Apolloで、3番目がDEC。そして、IBMのRS6000も市場に今は参加してきている。また、ワークステーション市場の外部には、PCとMacintoshという古くから存在する、とても大きなパーソナルコンピュータ市場というものがある。

現在のワークステーション市場を見てみると、私たちNeXTはマルチタスクを可能にして、ワークステーションのような強力なネットワーク機能を持ち、UNIXを使用しており、かなり優れた開発環境を提供することに成功している。要するに、私たちの商品はこちら側のものと似ている。

ただし、こちら側の企業は、ユーザーインターフェースに対して、無頓着だ。少なくともSUNなどは、こちらの企業のワークステーションでは実行できないことばかりだ。なぜかといえば、優れたサードパーティのアプリケーションがない。ワークステーションは一般向けではないということだ。

つまり私たちの商品は、既存のワークステーションのものとも全く違うというわけだ。

NeXTが目指すポジショニング

ワークステーション市場からパーソナルコンピュータの市場に目を移してみよう。私たちはアプリケーションが他のパーソナルコンピュータ市場のものと同様の品質になるように努めている。

使いやすさを追求しているおかげで、現在のMacintoshよりも使いやすいくらいだ。つまり、既存のパーソナルコンピュータ市場の商品と私たちの商品は似ているのだが、マルチタスクが可能で、ネットワーク機能もある。そのおかげで、既存のパーソナルコンピュータができることを遥かに上回っている。

昨年、私たちはパーソナルコンピュータとワークステーション市場の間を行ったり来たりしながら、考えを重ねてきた。どちらに私たちの競合他社がいるのか? どうなるのが理想なのか? どこにポジショニングするのが正しいのだろうか? ワークステーションよりも私たちの商品は使いやすいのか? 他のパーソナルコンピュータよりもパワーがあるのか? 

もし、啓示のような閃きが無ければ、5、6か月前のように今も、これからのNeXTの方向性について決めかねていたと思う。

誰かが市場を観察できるように顕微鏡のパワーを少しだけあげてくれたようだ。これは非常に重要な閃きだ。実はワークステーションの市場は、1つではなくて、2つあるのだ。1つ目は、昔からある私たちが認識しているワークステーションの市場。科学とエンジニアリングを愛する市場だ。

もう1つは、最初のものと似てはいるが、ワークステーション市場の半分側に新しく現れた市場。これを「プロ市場」と仮に呼ぼう。この「プロ」というのは、科学者やエンジニアではなくて、ワークステーションを必要としている別の人たちだ。

この「プロ市場」は、実はいくつかのサブマーケットに分割することができる。技術好きな人たちが集うハイエンドの出版業界、医療、データベースを使うアプリケーション、高等教育機関、などだ。法律に関する人たちもこの辺りにいるだろう。

とにかく、かなり、たくさんの人たちがサブマーケットの中に存在しているわけだ。

これからの「プロ市場」の成長予測

面白いのは、この市場に注目している唯一の企業はSUNだということだ。ここを足がかりに何とか事業を回している。私たちのデータによると、1990年にSUNは約40,000台のコンピュータを、このプロ市場で販売しており、シェアは約80パーセントだった。

1990年におけるプロ市場を見ると、シェアは、約50,000台であり、SUNがシェアの多数派となった。だから、この小さくて一時的な現象を見過ごしてしまっていた。既存のワークステーション市場や、パーソナルコンピュータ市場と比較すると規模が小さすぎる。

この時は、私たちの視界には入らなかったが、今ははっきりとこの市場を見ることが出来る。これは良いことだ。このプロ市場を私たちNeXTが占めることは可能であり、とてつもなく大きな市場に成長することが市場調査のデータから読み取れるからだ。

この業界で長年働く私の直感では、1991年、つまり今年、プロ市場のシェアが5万台から10万台へと倍に成長すると予想できる。

そして、来年の1992年には30万台へと3倍にもなると考えている。これは十分大きな市場だ。

プロ市場のシェアが拡大する2つの要因

ワクワクするのは、ここのプロ市場は、私たちNeXTの商品が一番力を発揮できるところだということだ。さらに、半分の5万台のコンピュータをこのプロ市場に出荷できたとすれば、シェアの半分を勝ち取ることができる。

しかも、このプロ市場は、コンピュータ業界全体を考えると、最も速いスピードで成長する市場なのだ。では、なぜこの市場が大きくなるかを説明しよう。

プロの市場が、5万から10万になり、10万から30万になるという成長を予想するのは、ワークステーション市場にいる顧客がエンジニアであることを辞めてビジネススクールにいき、プロ市場を盛り上げようとするからだ、と予測しているのではない。

そうではなくて、成長の理由は2つの要因からなっている。

1つめは、パーソナルコンピュータ市場にいた人たちが、新しくできるプロの市場に流れてくることだ。パーソナルコンピュータとMacintoshのユーザーは、洗練されたネットワーク環境と開発環境が必要だと感じて、ワークステーションにアップグレードしようと考えている。

2つめの要因は、3270ターミナルと、3270エミュレーターを使っている多数のユーザーが存在していることだ。

今は端末からメインフレームのデータベースを使うアプリケーションに接続しているが、多くのユーザーが端末よりもパワフルなデスクトップのワークステーションに移行したいと考えている。

もっと速い開発環境と快適なユーザーインターフェースと優れた経済性を得るため、メインフレームのアプリケーションをデスクトップで動かそうというのだ。2つの要因がこのプロ市場の24ヶ月に渡る成長を予測している。そして、私たちは市場の半分を獲得できるだろう。

興味深いのは、SUNは今、このプロ市場で80パーセントのシェア占有率を誇っている。個人的な感想を言えば、他の競合他社は、2、3年以内に参入できるとは思えない。SUNが、主要な競合相手として残るままだろう。

パーソナルコンピュータやMacintoshを使っているユーザーや、3270ターミナルを使うユーザーの両者が、共に、このプロ市場へと移動しようとしているということだ。SUNがこの移動を促すために宣伝広告費を使ってくれるなら私たちの味方になる。

もし、SUNがこのプロ市場の開拓に力をいれるのに本気になるなら、ユーザーを獲得できるのは、私たちになるか、SUNになるか分からない。競争相手として敵になる。

ただ、良いニュースがある。私たちは新しい商品でSUNに対抗できるということだ。ここ90日間で、15回の新商品リリースがありSUNに対して15勝している。

顧客をプロ市場に誘導する3つの方法

最初に、顧客をこのプロ市場に誘導させるにはどうすればいいか、について話をしたい。そして次に、顧客がプロ市場に移動した際に、なぜ私たちNeXTがSUNに勝つことが出来るかについて話をする。

主な理由は3つある。1つ目は、ここで話をしている顧客全員が、ミッションクリティカルアプリケーションを作る必要に迫られているということ。だから、開発環境が重要になる。

2つめの理由は、これらのアプリケーションはネットワークが集中しているので、非常に洗練されたネットワーク機能が必要になってくる。これらは、パーソナルコンピュータやMacintoshにはないものだ。

3つめの理由だが、さらに、これらのアプリケーションが私たちのデータベースを起動できるということ。デスクトップ上で、動作するアプリケーションを書きたいのだが、高度なネットワークを通してSQLデータベースを介し、アクセスする必要がある。IBMのメインフレームやOracleやSybaseなどが動くコンピュータだ。

洗練されたネットワーク機能と、絶え間ない大規模データベースと通信できる開発環境が必要だ。これらすべてを兼ね備えたことは、既存のパーソナルコンピュータ市場の商品ですることは出来ない。 つまり、私たちが最初に見るべきポイントはカスタムアプリケーション(Custom App)である。

カスタムアプリケーションが、パーソナルコンピュータやワークステーションからアップグレードさせる為の鍵となる。そして、この下の人たちも同じことが言える。

ミッションクリティカルアプリケーションを作る必要がある人たちは、メインフレームでアプリケーションを書いたり、ターミナルを経由したりしたくないと考えるだろう。もっとずっとマシな開発環境で作業したいと考えている。

アプリケーションをずっと高速に、しかもより良いユーザーインターフェースで。コスト効率もよくて、洗練されたネットワークを通して、既存のメインフレームのデータベースにもアクセスしたいとも考えている。だから、カスタムアプリケーションが、ここの人たちをプロ市場へと移動させる1番有力な理由だ。

2番目の理由は、最初の販売のタイミングで、副次的な要因としてすぐに生じてくるかもしれないし、2回目の販売のタイミングから、3か月か半年程度が経過すれば自然に生じてくるかもしれないが、誰もが持つだろう欲求に関することだ。

それは、優れた生産性を持っているアプリケーションを使いたいという顧客の欲求だ。これが2番目の理由。優れた生産性を持っているアプリケーション。

例えば、最初に商品を出荷した際に、企業は社員に対して、時間の9割はカスタムアプリケーションを使ってくれることを望んでいるが、残りの1割の時間で、優れた生産性を持っているアプリケーションもあわせて使って欲しいと考えている。

ユーザーは単にカスタムアプリケーションを使うだけならば、デスクに幅をとるワークステーションを置く必要がないと気づき始めている。これまで以上に管理部門やマーケティング部門の社員が同じネットワークで仕事をしたいと考えているのだ。

システムが提供する情報を内部のパーソナルコンピュータで共有できればと考えている。私たちが誇るパーソナルコンピュータで利用できる生産性を持つアプリケーションはこの変化のきっかけの1つになるだろう。

ネットワークを使う生産性を持つアプリケーションが、使うユーザーたちを結びつけることができれば、私たちは市場で勝利することが出来るだろう。好例の1つは、Lotus Improvだ。他には、WYSIWYGモードを備えたWordPerfectもそうだ。

そして3つ目の例としては、もちろん60日以内にこれから出荷予定のAdobe Illustratorだ。出荷直後での売上獲得には優れた生産性を持っているアプリケーションがあるかどうかが重要だ。

銀行のFirst Bostonの例を見てみるのが良いだろう。おっと、金融業界をここに書くのを忘れていた。