厚生労働省のデータ問題

木原誠二氏(以下、木原):もう一点、伺っておきたいのは、パッケージとして本来はやるべきことだったのですが、ひとつパッケージから落ちました。これについては?

田村憲久氏(以下、田村):裁量労働の範囲が若干広がるというのは、企画業務型がもうちょっと広がって。これは例えば、課題を解決して開発を提案するような働き方というか、そういうものを売り込んで、実際に解決する職種まで広げようという話だったんです。

その職種の方々はそんなにいないので、何万人も増えるという話ではないんですが。ただ、例のデータ問題があります。もうちょっと厚生労働省はたるんでいるというか、どうなっちゃったんだろうなという。もう1回、気合を入れてもらわなきゃ困るなというようなミスですね。

一般とそもそも裁量労働の方々を比べてどうなんだっていう、これは間違っています。裁量労働というのは、基本的には、経営の中枢で企画をやるような方ですから、責任が重くて、どちらかというと、長時間労働になりがちな方々。それを裁量労働で、要は効率的に働いて収めてくださいという働き方なんですよね。だから、本来は、同じ業務ごと、同種ごとで、裁量労働の方とそうじゃない方を比べるとか。

木原:そうですね。

田村:同じ集団で、裁量労働になる前となった後を比べる調査をしないと。まず、こんなものは比べようがないというものを比べた。それで、一般の方々は定時で帰る方もいっぱいいますからね。そちらが長いなんて普通ありえない。

だから結果的には、比べていたものさしも、こっちは月で一番長い日を出していて、こっちは平均だったんですから。それは、月のうちで一番長い時間を出した一般労働の方が、長くなっちゃうなんて当たり前なので。

こんなあたりまえの単純なミスを、資料を作った人もミスなんだけれども、正直言って、それを世に出す前に、ちゃんとチェックしなくちゃいけないんです。それができていないというところ。ミスは人間、誰しも起こりますから。それは組織やシステムの中でちゃんと見つけて、表には出さないよう、事前に止めるということ。

木原:どこかでちゃんとチェックは効くと。

田村:それができていない。私が大臣の時もいくつかそんなことがあって、厚生労働省のみなさんには、何度も何度も口を酸っぱくして、お伝えしてきたんですが。本当にしつこいなと思われたかもわかりませんが。まずは、それができていないところは残念ですが。

やはり、国民のみなさんの信用を失ったわけですから、これに関しては外すと。ただ裁量労働も規制を許可するところもあったんだよね。本当はそういうところは……。

木原:やったほうがよかったと。

長時間労働を是正し、効率化を図って固定給を上げる

田村:見ていただきたかったなと。例えば、裁量労働ですから、始業と終業を自分で決めないと裁量労働にならないじゃないですか。そういうのを、いざ会社の始業、終業……。

木原:勝手に決められて。

田村:そういうところもあるので、中には直していこうというのもあったんですけどね。しっかりとしたデータを取ってみて、もう1回チャレンジしようということで。

木原:はい。視聴者の方から、ご質問いただいてます。2つとも「ああ、なるほどな」という質問なんですが、反対の質問なんですね。お一方は、「なかなか忙しくて家族との時間が作れない」と、「もっと家族と過ごしてもらえるように改善してほしい」ということですね。だから、ワークライフバランスをしっかりやってほしい。他方で、「残業代がないと暮らしていけません」と。「むしろ今のままでいいんじゃないですか」。

田村:なるほど(笑)。

木原:という意見。これは、もちろん両方の見方があると思うんですが、どういうふうに?

田村:まず初めの方は、まさにそういう意味で、長時間労働是正をしていこうと。家族と共に生活して、日常生活の中で家族の団欒を持てるような働き方にしましょうと。言うなれば、今回の法律の肝の部分だと思いますから。

木原:それは長時間労働の是正のね。

田村:同一労働、同一賃金もそうかもわかりません。そういう意味で、その方向を目指して、我々はこの法律を提案しているということです。その2番目の方ですが、そうおっしゃられる方たくさんいます。でも、本当を言うと、固定給を上げなきゃいけないんです。

木原:残業代ではなくて、ベースのところをね。

田村:残業をしないと生活ができないということ自体が。

木原:おかしいと。

田村:おかしいというか、残業しなくても問題があるんで。ただ、同じ成果を出してもらわないといけないですよね。要するに、残業が減って、その部分の産出量が減ったという話になると困るので。

それは企業側も努力をしていただいて、生産性が上がるようなシステムを導入するとか。何の職種かわからないので、なんとも言えませんが、要は、そうやって残業をやらなくても、その分、固定給にオンしてもらうような構造に変えていかなきゃいけないので。

残業をしなくても生活できる社会へ

木原:そうすると、私自身も、もともと役人で考えてみたら、けっこう残業してました。この残業代があったからよかったなあ、今月もけっこう、なんとかやっていけるなあ、という感じだったけれども、これからは時間を有効に使いながら、給料は前と同じようにもらえるようにすると。

そのためには、我々給料、賃金アップに取り組んでいるし、最低賃金も上げてきているけれども、あと何をしなくちゃいけないですか? やっぱり心配だと思うんですよね。もう働くなと言われていると。

田村:あの、ちょっと誤解があるのは、残業しちゃいけないとは言ってないんです!例えば、年間最大720時間。720時間だから、月12で割ると60時間でしょ。週休2日だったとして、60時間を20で割ると3時間。1日3時間の残業をすることは禁止しているわけではない。

木原:平均ね。

田村:それがいいかどうかは別ですよ。本当はもっと残業がない方がいいかもしれないけど。だから、残業手当がなくなる場合に、毎月60時間、単月で言うと80時間とか100時間を超えてまで働くのはちょっとやりすぎじゃないの?と。

残業するな、とはいいませんし、もちろん忙しい時と暇な時がありますから、残業というものを完全に否定しているわけではないですが、80時間とか100時間って労災の死亡の認定の基準ですから、なんとかそこまでは働かないような残業にしていただきたい。

木原:逆にいうと、そこまで働かなくてもちゃんと給料がもらえる……。

田村:社会。 

木原:そういう取り組みを、我々も。

田村:我々もしていかなくてはならない。

木原:各企業にも労働分配率を上げてもらって、しっかりやってもらわなければいけない。

中小零細企業の経営環境の改善も重要

田村:そうです。最低賃金も、ここ5年間ですごい勢いで上がりましたから。そういう意味では、今、最低賃金1,000円を目指していますが。もちろん、中小企業の経営者のみなさんからは、もうちょっとちゃんと発注単価を上げてもらわないと、我々、中小零細は賃金が上がるわ、発注単価は上がらないわでは、やっていけないよという話がありますから。

今度はそういう、発注側の企業にもちゃんとした単価で下請けに発注してください、ということも、我々やっていかなければならない。これは一つは独占禁止法ね。優越的地位の乱用とかありますから、そういうもので見て行ったり、中小企業庁の方から、そういう指導、アドバイスをやっていただいたり。

いろんなことをやる中において、決定的にそこの金額も上げて、中小零細企業が給料を上げても十分に利益を出せるよという環境も実は大事。

木原:やらなくてはいけないと。もう1点だけ、僕から質問ですけど、今日の田村さんの話を聞くと、1つは長時間労働を是正していきます。みなさん、家に帰っても、子どもと過ごす時間をとれるようにしましょう。一方で給料は、最低賃金を上げたり、労働生産性を上げたりして、上げていきましょうと。非正規のみなさんも同一労働、同一賃金で同じようにできるようにしましょう。

いい話ずくめの気がするし、本来なら野党のみなさん、政権を取った時にやっていれば良かったんじゃないかと思うけれども、なんとなくずっと反対をされていますが、なんで反対されているんでしょうか。

田村:それは、いろんな野党には野党の立場があると思います。我々も野党の時に立場がありましたから。だから、それ自体を我々は否定するつもりもありません。ただ、心配がある点は、野党の方々がわかってて言っているか、言っていないかは別として、国民の皆様方に、われわれは説明する義務があります。

そういう意味からすると、例えば、中小零細の方々にとって、同一労働、同一賃金は、そうはいってもちゃんと説明が付けられるのか心配だというのは、ちゃんと相談窓口を作って、こういう説明の仕方をすれば、従業員の方々に理解いただけますよと言わなければいけない。

長時間労働を是正したら、我々はこれで本当に企業としてやっていけるのか、と思われている中小零細の方々に対しても、「こうやってやれば回るんですよ」と説明していかなければならない。

働き方改革は「社会構造の改革」

田村:一方で、裁量労働だとか、今度、裁量労働が抜けましたが、高度プロフェッショナルで働かされすぎちゃうんじゃないかと心配する方々には、そもそも、高度プロフェッショナルはそうした方々を対象にはしていませんよ、と。自分のペースで働く(ことができる方を対象にしています)。ただ、ワーカーホリックになる可能性はありますから、もう働き虫になっちゃう。そこはちゃんと会社側が歯止めをかけないと。

一番怖いのはフリーランスみたいな形で、実際問題、同じような形で契約すれば、同じようなことができるんです。労働契約ではなくて、下請けや元請け契約みたいな形でやればできるんです。

ところが、そうなると、労働時間はなにも無視ですから。それから比べると、こちらの方が企業側も健康確保する義務がありますから、そういうのでワーカーホリックになるのも防いでいく。というような、いろんな形を入れていく中において、説明をして、「それならば理解できるね」という説明責任を我々は果たしていくことが重要だと思います。

木原:はい。これから国会でも議論になりますから、ぜひ、田村さんには、引き続きいろんなところで、今日みたいに、わかりやすく説明をしていただきたいと思いますが、だいぶ時間も来ちゃったんで、大変申し訳ありませんが、最後に、田村さんが一言で言ったら「働き方改革」はなんだということをフリップで。

田村:さっきも申しました。「社会構造の改革」ということですね。やはり、雇用のみならず、日々の生活が変わっていく。それによって、日本の国が今までよりも、より成熟した社会になっていくための改革だと思います。今回の改革は、国民のみなさんが幸せに働ける、生活できるようなものであると。国民生活を豊かにする改革だと思っています。

木原:今日は「働き方改革」について、田村さんに話をいただきました。もっとたくさんしゃべりたいことはありますが、ご理解いただけたかな、と思います。これから生産性革命だとか、人づくり革命だとか、我々、取り組んでいくものがあります。「Cafesta」の特番で、また、たぶん田村さんにもお越しいただいて、みなさんにわかりやすくお話をしていきたいと思います。

今日の話は自民党のyoutubeやFacebookでもアップしていますので、ぜひ、ご覧いいただければと思います。それでは、今日の特番、『ゼロから知りたい「働き方改革」』は、これで終わりにしたいと思います。田村さん、今日は本当にありがとうございました。

田村:どうもありがとうございました。

木原:みなさんもありがとうございました。