さまざまな人たちを呼ぶために、さまざまな住宅を用意する

梅澤高明氏(以下、梅澤):もう1つの本題にいきましょう。「街の多様性を高めるために街づくりってなにをすべきなの?」という問いです。

いろんな街づくり協議会に引っ張りだこの島原さん。どうですか?

島原万丈氏(以下、島原):そうですね。多様性を高めるために街づくりはなにをしていくべきかでいうとですね。もちろんいろいろなことがあると思うんですけども、1つはやはり多様性を高める。そうすると、つまりその街にいろいろな人がいるということですよね。

いろんな人というのは男女だけじゃなくて、お金持ちも貧乏な方も、若い人もお年寄りも子どもも……というかたちですね。あるいはLGBTもそうでない人も、外国人も日本人も。いろいろな人が包摂をされる社会の状況が、まず多様性だと思うんですけれども。

単純にいろいろな人が雑多にいるというだけではなくて、それがどこかで薄っすらと交流するきっかけがあるかどうか。これはカフェだったり居酒屋だったりがわりと日本では接点になっています。しかし、なにかしら接触をする機会があるかどうかというのが、おそらく1つ大事なところで。それ以前にいろいろな人が住める場所をつくるには、建物が必要です。

それは持ち家の一戸建てしかないような街には、それを買える人しか住めないわけです。しかし、賃貸のマンションもあるアパートもある。古いマンションがあって、それを安く買ってリノベーションする若い人たちがいる。そのように安くいろいろな住宅を手に入れることができる手立てが用意されている。これが大事なんじゃないかなと思います。

梅澤:ということで、真打ちが登場しました。村上です。

村上敬亮氏(以下、村上):申しわけございません。

梅澤:お疲れさまです。

(会場拍手)

村上:つい先ほどまで、国会で炎上しておりまして(笑)。

梅澤:やはりそうですか。すみません。いろいろとお疲れさまです。

街づくりのポイントは民間出身の軍師

梅澤:さっそく村上さんにもキャッチアップしていただくということで。村上さん、街づくりや都市開発というテーマで、どういった仕事をされているか。とくに今なにが気になっているか。このあたりをお願いします。

村上:なるほど。地方創生を3年前に石破(茂)大臣が就任されて以来やっておりますので、たくさん活きのいい街づくりの事例を見てまいりました。

ポイントは軍師です。本当は補助金を使わないで済めば使わないに越したことはないわけでありますが、いずれにせよお金をとる際には「○○の街づくりだ!」と言ってみんな予算をとってくるんです。しかし、いったん予算をとってくると、今度は商店街振興組合さんが持っていったり、こっちの地元の盟主が持っていったり、観光組合が持っていったり。みんな「それは俺のお金だ」ということでバラバラなプレーを始めるんですね。

上手くいっているところは、民間出身の軍師が全体を上手に束ねて、しかもこれは地域の合意力との表裏でもあるんですけど「ちゃんとお前の戦略に任せよう」と。関ヶ原もやはり「真田幸村が本多正信にいったん任せるぞ」というゲームでないと、どんな優秀な武将を何人連れてきても勝てないわけであります。そこの軍師に委任する。そこに民間のプロがいる。

このかたちに持ち込めたところはだいたい成功しているというのが、この3年間見てわかったところですね。

梅澤:例えば?

村上:よく私が取り上げるのは、ちょっと有名になり過ぎましたが、宮崎県日南市の油津商店街です。

これはもう4年間で新規出店を20店以上出しました。この木藤(亮太)くんというのが、役所の人間なんだか民間の人間なんだかわからないようなポジションを上手につくりあげて、間を走り抜けながら、自分のポリシーを曲げずに積み上げていきました。その結果、オフィス大賞は出るわ、人は集まるわ、カープは優勝するわという、大変にめでたい事例になっていると思います。

梅澤:都市という感じではないですけど、広島県尾道市も最近いろいろやり始めたみたいですね。

村上:個人的には私、海賊の末裔なもんですから。しまなみ海道にはコミットしています。そのため、ずいぶんと尾道にも出入りさせていただているんです。しかし、単純な「古民家バンザイ」は、僕はあまり賛成しないのですが。

ただ尾道には古民家が多くて家賃が安い。1万円ぐらいで住める場所が確保できてしまうものですから、10万円あると普通に生活できちゃう。フリーターでも立派に一人前のフリをしている。

そこに加えて文化的におもしろい連中が集まっていくという大林監督の伝統があるとこうなるものですから、ドロップアウトしたおもしろい人がたくさん集まってきまして、夜飲みにいくと大変なことになっています。ちょっとそれが表に出てオーガナイズされるところまではいってないかなという印象もある。

一方で、なにかスポット的にすごくおもしろい人が集まっている。運河の向かい側の向島にあります尾道の、そのまた逆サイドにおもしろい連中が集まり始めたなどですね。そういったようなことが起きております。

来ればわかる、食えばわかる、使えばわかる

梅澤:なるほど。島原さんがセンシュアス・シティを2年前に提示をされました。高いビルをバンバン建てて、同質的な人や企業しか集まらないような極めて機能的なんが無機質な街ではいかんよね、と。都市に官能が必要だと日本中で叫びまわって啓蒙活動をされている人ですが、どう思いますか?

村上:官能ですね。「結局、共感を呼べないと血縁も人縁もない、なにかを語る歴史もない」「その中でどうしてそいつのことを信じるの?」というすごい消去法でいっても、おそらく人の感動がないと、人の絆はつくれない。官能することで繋がっていくしかない。そういうところにデザイン的要素も理屈抜きに入ってくるんじゃないかと思います。

たしかにおっしゃるとおり、うまくいっているところは軍師を立てているだけじゃなくて、官能の連鎖の輪が上手く広がる。できれば域内と域外で半々くらいで官能の輪が広がっているところは、結果だけ見るとやはりうまくいっている感じがしますね。

梅澤:よそ者も入って、うまく外とも繋がっている感じですかね。

村上:結局、地方創生をやってみて思ったんですけども、地域経済はほとんどが「来ればわかる病」「食えばわかる病」「使えばわかる病」と言っています。

梅澤:ちょっと説明してください(笑)。

村上:はい。おいしい食べ物はたくさんあるんですけど、どこがどうおいしいのが、いくらあるのか。これはほぼ例外なく「食えばわかる」と言われます。

梅澤:ああ、なるほど。

村上:この地域の魅力は? 「来ればわかる」と言われます。「ちょっと待て」と。来たことない人、食べたことない人に、どうやってその魅力を伝えるのか。平たく言うと、伝える気がないんですよ。

製造元としていい人がたくさんいても、自分で販路開拓して、自分で販売元になるというプラクティスを持っている方がほとんどいらっしゃらない。だから、自分の持っている可能性が言語化できないという特徴を持っていらっしゃいます。

そこのところを上手に突いていくためには、やはり地域の外側の言語空間を持っている人から見て「あなたのインナーの言語空間はこう見えるんですよ」と、どう見えるのかを言葉にして伝えてあげないといけない。いちいち内輪だけで話をさせていると「そうだよね、食べればわかるよね。来ればわかるよね。うんうん」で終わっちゃうんですよ。

それがまた1人のトップマネージャだけで繋がっているところは辛い構図です。外を向いても内を向いてもこの人は孤立する。そこを上手くリーダーをやっている人、ミドルマネージをやっている人、現場で走り回っている人、それぞれが域内にも域外にも官能のネットワークを持っている状態がつくる。

そして、あとはマネージする人のリーダーシップが上手いとけっこう上手くいく。そこがやはり上だけ繋いでお終いになっちゃっているケースが多いんですね。だから広がるといいなと考えていますね。

事務所ビル1階ロビーに秘められた可能性

梅澤:ありがとうございます。ちょっと本題に戻りましょう。多様性を促進する街づくりの役割。どうですか? クラインさん。

Astrid Klein氏(以下、クライン):そうですね。なにかバーティカルの街やマンション、事務所ビルだと、みんな毎日のように入れないんですよね。1階が必ずパブリックスペースになっていたら……と思うんです。そして事務所の人たちやビルの人たちのところへ地元の人たちが混じってくると、もっとおもしろくなるんですよね。

もう毎回いろいろなビルにミーティングへ行くのですが、そのたびに「大きなロビーは空っぽで冷たい」という感じがあるんです。こんなにスペースがあるのにもったいないと思うんです。「こういうものができる」「ああいうものもあったらいいな」「フードコートをロビーに入れてハッピーアワーをやろう」といろいろ考えられる。

ファッションショーをそこでやろうとか、トークをそこでやろうとか。そういったスペースでもっとおもしろく使えたらいいなと。小池(百合子)都知事も言っていましたが、美術館は5時や6時に閉館します。でもすごくすてきなスペースではあるので、それを夜でも使えたらどうなるのか。おもしろくなるんですね。

梅澤:今のクラインさんのお話は、そのまま村上さんの宿題になるんじゃないかと思うんですけど。

都市開発で容積率緩和は常套手段じゃないですか。今、東京全体で起こっていることは「イノベーションラボを入れたら容積率を緩和をするよ」と言って、そこら中の再開発はみんなイノベーションラボが入りました。

それから渋谷区がやろうとしているのは、「小さな劇場みたいなものをつくったら容積率緩和するよ」と、渋谷区に建つ大きなビルにみんな劇場が入ってきます。今の1階の使い方を容積率緩和の対象にしたら、だいぶ街の光景が変わりませんか?

村上:おそらくそのとおりなんですけども、2つコンディションがありまして、1つはやっぱりやることが先なんですよ。

要するに「How to do?」「What to do?」のソフトウェアのところを先に走らせないと、「ハードウェアで区画整理をしてここにあの機能を埋める」「ここにこの機能を埋める」と入ると、間違いなく失敗する。だから、「What to do?」がついていて素敵なパブリックスペースであれば、僕はすごくパーフェクトだと思いますね。

梅澤:先に実績を見せろということですね。

村上:そうですね。

クライン:せんだいメディアテークの1階がパブリックスペースなんですよね。それをすごく上手に使われているので、クリエイティブな活動など、けっこういっぱい人がくるんですね。

また、伊東豊雄建築設計事務所の伊東豊雄さんがすごく上手なので、岐阜にあるぎふメディアコスモスという図書館も、地元の人たちがそこでお弁当を持ってランチを食べたり、一緒に話したり、子どもたちと宿題したり、誰でも行ける場所という感じになっている。もっとそういうものがあったらいいなと思うんですね。

スペースがあるだけではなにも起こらない

島原:先ほどクラインさんがおっしゃった「1階を楽しくしたほうがいい」というのはまさにその通りで、容積率緩和の話をするといろんな方法があるんですけども。一番メジャーなのはテクニカルな話です。総合設計制度という制度がありまして、「1階に公開空地、つまり街に開かれた空地を提供すると、容積率や高さ規制を緩和してあげますよ」というルールに則ってやっているケースがほとんどなんですね。

だから、みなさんも超高層ビルの足元を少し注意深く見てもらうと、「この空地は公開空地です」と書いたプレートがあったりします。これは「使わない街に開いた空地をつくるから高さを使ってもいいよ」という話なんですが、現実的には公開空地と名付けられていても、ほとんどは実質的には巧妙に閉鎖をされているというか、デザインで入ってきにくいようにしている。

あるいは、広い面積が残らないように植栽を植えて、そこになんのイベントもお店もできないようにつくって、単なる豪華なエントランスにしてしまっているケースが非常に多く見受けられて。

梅澤:でも、容積率緩和を受けている?

村上:緩和は受けている。勘違いしているところは立入禁止というチェーンまで張っていて。

梅澤:うわあ、ひどい。

島原:その後ろに公開空室が入ってたりして、なにか笑えない冗談みたいなのが起こってたりするんですね。そういう公開空地つくり方。もう少し空地だけつくればいいということだと、いろんな抜け道が出てくるので、コンテンツがちゃんと入ることが大事です。

お店が入ることがベストですけども、常設のお店が入られるんだったらキッチンカーが入るスペースだったり、テーブルが置いてあったり、それぐらいでもいいと思うんですけどね。それが街のあちこちにあったら、再開発であっても街のストリートはおもしろくなるんじゃないかなと思いますけどね。

クライン:だからコンテンツなんですよね。スペースがあっても、そこでなにかを起こすためにはキューレーションすることがどんどん大事になるじゃないですか。よく美術館にキュレーターがいるんですけども、街ではどういうイベントで、どう盛り上がるかというキューレーションチームがいたらいいですよね。少しずつ現れてくると思うんですよね。

梅澤:このイベントもある種、渋谷のキュレーションチームがやっているイベントですからね。そういうものが大事だということですね。