都市を「官能」で表現したセンシュアス・シティ

梅澤高明氏(以下、梅澤):2つ目のパネルディスカッションは、都市開発です。

2つの議論をしたいなと思っています。

1つは、都市が持つ多様性がその土地の魅力や競争力をどうアップさせるのか。多様性から都市へ、という矢印の話です。それから2つ目は、多様性を包摂する都市をつくるには、どういった都市開発やまちづくりが大事なのかという話です。この両向きの矢印について議論をしたいと思っています。

村上さんは内閣府なんですけど、例の国家戦略特区の担当チーフです。おそらく今なにか国会答弁で大事な案件を答えて、それが終わり次第かけつけるということです。

村上さんを待つ間、クラインさんと島原さん、それぞれどんなかたちで都市開発、あるいはまちづくりに関わっていらっしゃるのかをお話いただくところからお願いしたいと思います。

では、最初に島原さんいいですか?

島原万丈氏(以下、島原):どうも、こんにちは。島原でございます。

私は株式会社LIFULLのLIFULLのHOME’S総研という民間の小さなシンクタンクをやっております。株式会社LIFULLのLIFULL HOME’S総研は、不動産の探しポータルサイト「HOME’S」の中にある非営利の組織でございます。こちらで住宅や住まいや都市、街に関わる調査研究レポートを発表して、いろいろなところでお話しさせていただく仕事をしております。

今日、お声を掛けていただいたのは、2015年に発表しましたセンシュアス・シティ(官能都市)の調査レポートです。200ページぐらいあるレポートですが、今はすべてPDFで無料公開しています。このレポートがきっかけになろうと思います。

梅澤:「官能都市」というキーワードで200ページのレポートを書いてしまうというこの深さがすごいと思って、今日来ていただきました。

島原:ありがとうございます。都市に官能をつけて表現するというのは、おそらくこのレポートが最初ではないかなと思うんですね。

街の心地よさ=アクティビティがあるかどうか

島原:みんなさんは「センシュアス・シティ」に対して、官能という言葉がついているためセクシーな街という印象を持つ方もいるかもしれません。しかし、官能という言葉には幅広い意味があります。五感を楽しませる、五感で感じるというのが本来の意味です。

どうしてこのレポートをつくったかというと、今、とくに東京に住んでいると、都市がどんどん作り変わっています。再開発があちらこちらで行われていて、どんどん高機能な街ができ上がっている。

こういう現実がある一方で、都市の均質化をすごく招いている、引き起こしているのではないか。

(スライドを指して)この絵は、Googleの画像検索で「再開発」と入れていただくと、ズラッとこういうビルが出てきます。ほとんど、どこも同じようなかたちです。これは東京だけではなくて、日本全国の主要な地方都市で検索してもだいたい同じような感じになります。

つまり、再開発あるいは高機能化という流れの中で、日本中の都市が、とくに中心市街地が同じような姿になっていってる。

これはなぜこうなっていくのかというと、街を建物や施設といった箱物……ハードウェアで評価しようとしているからなんじゃないか。防災性もそうですが、いろいろな機能を詰め込んでいくとこうなってしまう。

でも、街で暮らす人間が感じる「街に対する心地よさ」は、ビルではかれるものではありません。実際にそこでどういう生活をしているか、暮らしをしているか。つまり、「日々どういうアクティビティがあるか」ではかれるのではないかと考えています。

そこで、全国でアンケートして都市の評価をしました。どんなアンケートをしたかというと、動詞=アクティビティですね。動詞で都市を評価してみたらどうなるのか。

1つには、人間同士の関係性に着目したような活動ですね。例えば共同体に帰属していたり、馴染みの飲み屋で常連客と盛り上がっているなどの行動をしたかどうかで、共同体に帰属している意識をはかれるのではないか。

あるいは、ロマンスがある街とはどういうものか。例えば、「(過去に)デートをした」などもありますけども、「路上でキスをした」「素敵な異性に遭遇した」など。こういう経験があるのかないのかを、32項目に渡ってアンケートしたのです。

これは身体性です。体が気持ち良く感じるかどうか、美味しいものを食べたのか、水や緑に直接触れることができたのか、回り道して歩くことを楽しんだのかなど。こういったアクティビティがどの程度豊かに発生しているかという観点で都市の評価しました。

アンケート結果を見てみました。こういったアクティビティが豊かに発生している都市を最終的に見ていくと、非常に多様な人が住みやすい。外国人も住みやすい。LGBTの方も住みやすい。シングルマザーもシングルファザーも住んでいる。こういった多様な方が住んでいる街であるということがわかった。

もう1つは、今日の議論の先読みをしてしまうかもしれませんけども、街の構成要素としては非常に混在している。いろいろなものがごちゃごちゃと混在している街です。古いものも新しいものも混ざっている街であるということがわかりました。

こういったレポートで、年間100回ほど講演をしたり、レクチャー、研修の講師をしたり、街づくりに直接自分がつくっているわけではないのですが、その意識づけに対して関わっているような仕事をしています。

梅澤:ありがとうございます。ちょっと後でいろいろ深掘りをさせてください。

2020年の先へ向けて作りたい3つの街

梅澤:クラインさんの前に僕の自己紹介を先にやらせてくださいね。

僕はA.T. カーニーに所属しています。ここはいわゆる経営コンサルティング会社なんですけど、その活動と半分オーバーラップするようなかたちで、都市開発のコンサルティング、あるいはコンセプト立案のお手伝いみたいなことをして、具体的にいくつかの街で手掛けています。

(スライドを指して)これはA.T. カーニーとしてやっているというよりは、ここにいる12人のチームでやっています。

これは「NEXTOKYO」というチーム名で動いている、民間のプロボノチームです。この前のナイトタイムセッションで話をしてくれたライゾマの齋藤精一さんと斎藤弁護士ですね。それから、この後のセッションに参加をしていただくロフトワークの林千晶さんも含む12人の民間有志チームで取り組んでいます。

どんな議論をしているかというと、これは東京の未来についての提言なので、「渋谷も含めて東京ワイドで、こんな東京を、とくに2020年の先に向けてつくっていきたいよね」という話です。まず総論の横串のテーマとして3つ掲げています。

1つ目がクリエイティブシティです。いわゆるクリエィティブ産業、文化創造産業がエンジンになるような都市にしたい。そのためには当然、先ほど議論していたナイトタイムカルチャーやナイトタイムエコノミーも発展をさせていきたい。これが1つ目のテーマです。

2つ目のテーマがテックシティ。テクノロジーというイメージは、幸いにして東京、あるいは日本全体に対して持ってくれている部分が多いです。これは、かなりアニメの影響が強いんです。日本あるいは東京というと、ブレードランナーの都市のイメージだったり、あるいはロボットのイメージだったりを持ってくれていたりします。

それを活かして、本当の意味でテックをもう1回、日本全体で盛り上げていきたい。そして東京がその先陣を切っていく。そのためにはIoTというキーワードは、ほぼすべての会社で経営課題として議論が始まっていると思います。

このIoTを自社の中に閉じ込めて技術開発をするのではなくて、どんどん街に実装をしていくことで、2020年を目がけてやってくる外国のビジネスマン、あるいは観光客の人たちにも、「IoT都市東京」というショーケースを見せていくことができればいいと考えています。

実は、東京は広い意味でテクノロジー産業です。相当盛り上がる機会をつくれるのではないかなと思います。当然、シェアリングエコノミーも含めてです。

3つ目のテーマとしては、フィットネスシティを掲げています。これは今のセンシュアス・シティの話にも繋がるんですけども、水や緑を大事にし、外に出て歩いて体を動かして、より健康になっていくライフスタイルを実現する都市をつくりたい。そのためには水辺の活用みたいなものも、とても大事なテーマになります。こんな議論です。

街や国をあげてさまざまなデータを集め、サービスに活かす

梅澤:とくに一番中心になると思う、クリエイティブシティなんですけど。一言でいうと、これもセンシュアス・シティの島原さんのメッセージと重なります。一つひとつの街のエッジをどれだけ鋭く磨いていくことができるか。

それも一つひとつの街ごとに違う方向にエッジを磨いて、いろいろなクリエイティブな集積がある街をつくる。例えば東京に5つ、あるいは7つできたら、世界最強のクリエイティブシティになると思います。

裏返して言うと、似たような複合都市開発が東京中で起こってしまったら、そういう姿にはならない。そうではなくて一つひとつの街がどれだけ個性を磨けるかというところで徹底的に勝負をしてもらう。こういったことをいろいろなステークホルダーに提案をして回っているというのが我々の活動の1つの幹です。

渋谷といえば、おそらくストリートカルチャー、あるいはエンターテイメントなどがあったりします。池袋といえば、もっと女性のパワーを引き出せる街になるかどうか。秋葉原でいえば、電脳やサブカルの先になにをつくっていけるのか。こういったエッジを磨いていきましょうという提案です。

それから、テックシティに関してです。先ほどIoTと申し上げました。私は経営コンサルタントが本分ですが、いろいろな産業で、実にさまざまなテーマで研究開発中だったり、実証実験に入っていたりします。

少し残念なのは、わりと閉じていて、自社だけでできることをこじんまりとやっている会社が多いことです。

大事なのは、やはりデータをかき集め、それを使って価値あるサービスを顧客に提供していく。これがIoTの本質だとすると、街をあげて、または国をあげて、もしくは10社が1つになっていろいろなデータを集める。そして、これでどれだけ幹の太いサービスがテーマになると思います。そんな取り組みをするきっかけが、2020年に起こればいいなと思っています。

(スライドを指して)これもチームでやってきた仕事です。先ほど斎藤弁護士は風営法改正の先陣を切ってくれました。そしてもう1つ、我々のチームで主導してやったのが、まさに国家戦略特区チームへの提案を通じて、クールジャパンとインバウンド観光に関する外国人材の就労ビザ緩和です。これは6月に特区法改正案が成立し、9月に施行されました。これが我々の仕事の1つでした。

今日は短い時間なので、本当にさわり部分だけをいくつかお話ししました。おそらく来週には『NEXTOKYO』という本が出ます。チームメンバーでもあるカフェ・カンパニーの楠本さんと私の2人で、メンバー12人の知恵を取りまとめた本です。ご興味ある方はぜひお願いします。宣伝でした(笑)。

観光客を動かすには文化やアートが必要

梅澤:はい、ではクラインさんお願いします。

Astrid Klein氏(以下、クライン):はい。私たちの建築事務所はクライン・ダイサム・アーキテクツで、代官山で設計させていただいてます。

当時の課題は、わりとゆったりな場所やプレミアムエイジ……50代の人たちのために、居心地のいい場所をつくるということだったのです。古い木がたくさんあり、周りの環境もよいものをつくりました。これをつくったこともあり、それまで少しさみしかった代官山がまた盛り上がってきました。街おこしにエフェクトがあり、トップアドバイザーのなかで「渋谷で行くべき場所」の5番目になりました。それもうれしかったです。

実は私たちが来日した時は、まだバブル時代だったんです。80年代の最後のほうでした。

私はわりとコンサバティブなロンドンのRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)から出た若い学生だったので、雑誌で東京の建築を見たんです。なにか意外な建物ですよね。アサヒビアホールやシネマライズなど「こんなアイコニックな建物が東京にあるんだ」「見に行こう」と思ったんです。そのアイコニックな建物のために私たちは遠くからきたんですね。

今もインバウンド観光など、だいたいのツーリズムでは、どこかのアイコニックな建物を目的にいくわけなんです。スペインの小さな町でビルバオがありましたが、(それ以前は)なにもなかったんですね。フランク・ゲーリーがビルバオをつくっただけで、すごく経済力アップになり、世界中から観光客がくるんです。

やはり、観光客を動かすには文化ですよね。アートですよね。このような大きなストリートアート……シカゴのクラウドゲートなんですけれど、なにかInstagramのモーメントになるんですね。それが広がって、みんなうれしくなるわけです。

街を楽しく探検できることは重要なんじゃないかと思います。ただAからBまでトランジットで行くだけではなく、川沿いなどでゆっくり休んだりできたらいいなと思っています。

今回は渋谷をおもしろくして、それがロマンスに繋がればいいなと思っています。そのためには、こういったものもあったらいいなと思います。カフェやアートなど、文化で観光客がよく訪れているんじゃないかと思います。

東京にはデザインミュージアムがない

梅澤:クラインさん、アイコニックな建物を見たいと思って来たのが最初ですと。それを東京でつくりたいと思って、住み着いちゃったということですか?

クライン:そうですね。やはり「若い建築家たちといろいろやってみたい」などありますね。規制された建築や景観条例、高さ条例、道幅なども必要なんですけれど、それよりビジュアル的にインパクトのあるものです。こういうのをつくったんだみたいとすごく思いますね。

梅澤:ロンドンなどですることは厳しいですもんね。

クライン:そうですね。ロンドンも厳しい(笑)。東京のほうが可能性もいっぱいあるんです。バブル時代にはいっぱいあったんですけど、どんどん四角いガラスのカーテンウォールのビルが増えてきて、わりと効率的な建築が多くなっていきました。でも、やはりもっと観光客が行ける場所を考えたほうがいいんですね。ミュージアムなど。

いつも思うんですけど、東京はあまりデザインミュージアムがない。

梅澤:ないですね。

クライン:ファッションミュージアムもない。

梅澤:建築ミュージアムもない。

クライン:最近できた建築倉庫はおもしろい場所なんですけど、ミュージアムではない。アートミュージアムはいくつかあるけれど、日本のファッションで世界中に誇れる伝統的な着物もあるのに、なぜファンションミュージアムはないの? ということですね。デザインミュージアムも、世界中で日本の伝統芸が憧れられているのにないですよね。

梅澤:つくりましょう。

クライン:アイコニックな建物をつくりたいと、声を掛けてください。

梅澤:アイコニックの建物で渋谷区にミュージアムをつくりましょう。わかりました。今日の提案その1。

「住む渋谷」と「遊びに来る渋谷」のズレ

梅澤:島原さん、先ほどのセンシュアス・シティのことを聞きたいのですけど。東京で見るとセンシュアス・シティのランキングで上のほうにあるのが文京区、台東区、千代田区ですね。

島原:あと目黒区、品川区。

梅澤:そのあたりが、センシュアスである理由と、渋谷が入ってない理由を教えてください。

島原:東京では文京区や千代田区、台東区。このあたりは都心近くのエリアではありながら、下町的のコミュニティが比較的残りつつも、やはり都会的な要素が大変ある。かつ名店と言われる老舗のようなお店から、本当に下町の居酒屋のようなものもあり、お寺や神社などもある。街の小さなところにギュッとコンパクトにいろいろな要素が集まっているんです。

梅澤:しかも新旧。

島原:そうですね。新旧あるんです。それに対して渋谷区は全国で15位なので、そんなに低くはないんですけども、そういったトップクラスのエリアと比べてやや弱いところの1つは、地域コミュニティがなく住民コミュニティです。

先ほどの例でいうと、馴染みの飲み屋で常連客と盛り上がったり、お寺や神社にお参りしたりといったような、地域と関わるきっかけが少ないんです。

それからもう1つは、やはり自然に触れ合う機会が少ないこと。大きな公園はあるんですが、街中で小さな自然に触れるような機会が少ないところもデータ的に弱みです。もう少し定性的に見れば、実際に住んでいる人にとっての渋谷と、ほかの街から遊びに来て楽しむ渋谷には少しズレがあるのかなという気がします。

梅澤:なるほど。でも、どちらにせよタワーマンションが建っている武蔵小杉はセンシュアスではない?

島原:ないですね。

梅澤:まさに先ほどの写真みたいな。

島原:はい。

再開発で失われる「街のひだ」

梅澤:そういえば『MONOCLE』という雑誌をみなさんご存知ですかね。イギリスのライフスタイルマガジンで世界で一番たぶんリスペクトされている雑誌だと思いますけど。

島原:そうですね。

梅澤:『MONOCLE』がQuality of Life Survey(クオリティ・オブ・ライフサーベイ)というものを毎年やっていて、2017年の1位は、実は東京です。それだけではなくて、2015年、2016年も1位は東京です。いろいろコメントは書いてあるんですけど、去年書いてあったコメントが、島原さんが言っていることにどんぴしゃりなんです。

「Balance between hight tech eficiency and neighborhood values」と書いてあったのかな。「ハイテクの効率性と、それから伝統的なご近所の価値観のバランスが東京はいいよね」と言っていたんですね。まさに新旧混ざっていて……。

島原:そうですね。新旧の新しい街、古い街、それから高い街、安い街……と言うと変ですけど、高級な街、それからもう少し庶民的な街。こういったものが東京では地形的にも歴史的にもギュッと近いところにある。

渋谷も、青山の下がったところの消費地域なわけで、そういった異質なものがせめぎ合っている。すごく隣接しているところが、東京のおもしろさだと思うんです。そういうものも大再開発ビルをバンバンやっていくと、そういったひだが少しなくなっていく。空間的にもコンテンツ的にも、なくなっていく傾向があります。

梅澤:タワーマンションだと、住んでいる人たちのプロフィールがみんな似てきますよね。子どもは1人か2人の夫婦で、比較的年収が高め。今は30台後半かもしれないけど、20年後はみんなその人たちがいる、みたいなね。

島原:そうですね。大山顕さんというライターの方がおもしろいことを言っていました。マンションのデベロッパーさんの広告で「○○に住まう」といった広告があるじゃないですか。あの広告のキャッチコピーを分析されているおもしろい方がいらっしゃるんです。

その方がすごく秀逸でおもしろい分析をしていたのは、高層タワーマンションの売っているキャッチコピーの言葉を全部並べて分析していく。「郊外の閑静な暮らしを都心でしたい」というのがニーズらしいですね。

街中の都心の本当に賑やかな所に住みながら、うんと高いところで街の喧騒とは距離をとって暮らしたいような方々に向けてコピーが書かれているということを、大山さんが分析をされていたのです。街の中に住んでいながら、地域の雑多性などを必ずしも良しとしないような方々が住んでいらっしゃる可能性が高いということになると。

梅澤:先ほど垂直につくったゲートシティでしたっけ?

島原:そうですね。

梅澤:だから閉鎖しちゃったんです。わりと同質な人たちが住んでいて、そのコミュニティに属するビルの中の人たちはいいにしても、外とはあまり繋がる気はない。

島原:ない。そういう傾向がある気がしますね。

渋谷には「街を味わえる場所」がない

クライン:その人たちは、マンションの隣の人にもあまり興味がないんですよね。渋谷は東京の一部であり、観光客は増える。そしておもしろくなるんですよね。そこに住んでいる人たちだけではなく、観光客ももっと大事にしなければいけないのではないかと思います。

梅澤:大事にしていないと思うのはどんなところですか?

クライン:今は観光客にとって「渋谷に来てなにをすればいいの?」と言えば、ハチ公を見に行くなどがあります。

梅澤:交差点で写真を撮ったり。

クライン:はい。交差点で写真を撮って代々木公園に行くと思うんだけど「うーん」となるんですよね。交差点以外は、あまり心を動かすものがないんじゃないかなと思うんです。

梅澤:なるほど。

クライン:そういうものを考えると、ストリートがあったりカフェがあったり、ゆったりできる場所があったほうがいいんじゃないですかね。

梅澤:それもオンエアだとなおさらいいですよね。

クライン:そこでなにかイベントがあったりすると、その街の雰囲気になるんですよね。今の渋谷は商業施設が多い。正直言って、みんな1日中買い物をするわけではないんですよね。

梅澤:そうですよね。

クライン:したくない。なにかそういう「街を味わえる場所」がなかなかないんじゃないかなと思うんですよね。

目立つサインより行きたくなる場所を

梅澤:2年ぐらい前、ニューヨークにしばらく住んでいたんです。ちょうどオフィスがタイムズ・スクエアのそばでした。

最近タイムズ・スクエアへ行かれた方はおわかりかと思いますが、ルビーレッド・ステアーズという巨大な階段をど真ん中にぼーんと起きました。なんのことはない、そこに座って少しゆっくりするだけなんです。

4段くらいあって、高さが数メートルの巨大な階段なんです。真っ赤な階段です。それを置いただけで、人の滞留時間が長くなりました。また、それがインスタ映えするので世界への発信力も増します。

島原:そうですね。東京に限らず日本は公共空間、とくに道路の活用に対してものすごく保守的というか、事実上ほとんど使えないようになっています。私の知り合いで千代田区のほうでストリートにベンチを置くプロジェクトをイベント的にやってみた人がいます。

まあ、ベンチを置いただけですよね。置いていると座って、お話をする方には、次のアクティビティが生まれてくるわけです。

そのベンチを置くという一定期間のイベントですら、終電の後、2時間に1回ぐらい見回りをしなければいけない。「酔っぱらいが寝たらどうするんだ」「なにかどうするんだ」というようなことをすごく突きつけられていました。

梅澤:納税者としては、その税金を払いたくないですよね。

島原:ないですよね。ストリートを使うということに対して、すごくハードルが高い。私の好きな海外の都市だったら……リスボンなんかは大好きなんですけど、そのストリートはオープンカフェの店ばかりですよね。

梅澤:ですね。

島原:その中に街が埋まっているみたいなかたちですね。

クライン:いつも思うんですけど、みんな「うちの店に来い」と言うために、できるだけ大きいサインをつけるじゃないですか。

梅澤:しかも真っ赤なやつとかね(笑)。

クライン:しかし、サインより「人がいっぱい入っている」などがあり、それを見ると「ここはいい場所だろう」「私もそこへ行きたい」となる。ストリートカフェってまさにそんなものなんですよね。

私たちは動物みたいな感じで、みんなと一緒にいたいんですよ。そこで安心を感じるんです。だから、サインよりもストリートカフェといった、なにか人がいっぱい歩いていて、そういった人たちを眺めることが楽しい。

なにもしていなくても、見ているだけで「ああ、こういう人っておもしろい」となり、ある人は「自分も見てほしい」と思ったり。そういった単純なことが、渋谷ではなかなかできないんですよね。

観光客は「楽しかった!」の思い出を持って帰りたい

梅澤:渋谷の名誉のために言えば、ほかの街よりはだいぶがんばっているのかなとは思います。ハロウィンもしかり、いろいろなイベントをやっている。しかし、まだまだできることあるよね。

島原:そうですよね。まだまだできることはあると思います。例えば、宮益坂はもう車を止めちゃってもいいんじゃないか、とかね。車だと、あそこでどうしても渋滞します。車は別に(別の道を)回っていけばいいわけだから、あそこをすべて止めて、お店がどんどんテーブルを出していけばいい。あそこのストリートはちょっとした表参道みたいになるじゃないですか。

梅澤:いいですね。

島原:こういうことを、警察もそうですけど、やはり市民も「道路を占有する誰かが商売みたいに使うことはけしからん」「道路で遊ぶのはけしからん」と、ある意味、非常にルールに対して律儀なまでの硬さがあります。

これは逆にいうと、今日のテーマではないですけど、多様性みたいなものに対して……つまり歪なものをどんどん排除していく。そうすると、誰からも文句を言われないように角をとっていくような社会風潮に繋がっていくんじゃないかなと思いますよね。

梅澤:いっそのこと、渋谷のスクランブル交差点を含めて、渋谷の中心部は車を進入禁止にしてしまうのはどうですか?

島原:OKだと思いますね。

梅澤:走る人と、あとパーソナルモビリティをOKにする。パーソナルモビリティは今6キロメートル規制が掛かっているのですけども、それはちょっと緩すぎるので10キロぐらいまでOKみたいな感じにする。そこにはフードバーが並んでいて、しょっちゅうイベントがやっていて……というのはどうですか? そういう渋谷は、みなさんは住みたくないですか?

島原:渋谷駅まで車でいくというイメージは、あまりないじゃないですか。渋谷駅の横を通ることはあるけども、通過しているだけだったりします。車で行っても渋滞しながら通過しているだけであって、あそこが通れなくてもそんなに困らないんじゃないのかな。実際に、公共の交通機関が少し入れると問題ないかなと思うんですけどね。

クライン:もっとみんなで体験したいなど、ライフスタイルでエクスペリエンスは最近の大きなキーワードですよね。それが思い出になるじゃないですか。その思い出になるようなことをしっかり考えていくようにする。スクランブル交差点がハロウィンで賑わっていたことを覚えているんですが、だったらスクランブル交差点で世界最大のピクニックがあってもおもしろいんじゃないかと思いますよね。

観光客もそういったユニークな……ユニークだけではないですが、なにか「楽しかった!」という思い出を持って帰りたいんですね。「観光できて、見てみてすごかった!」と。それもいいんですけれど、なにか1つ物足りないですね。

梅澤:陣取りゲームなどをスクランブル交差点でやってたら楽しいかな(笑)。

島原:そうですね(笑)。

梅澤:なにかいろいろ考えることはあるよねという話ですね。