もう「製造原価」から価格の設定は出来ない

吉田浩一郎氏:これを見たときに皆さんが思われると思うのは、個人の力を活用するというのは企業にとっては20世紀では非常に敷居が高い。「やっぱり個人事業主には発注できないから、法人格を作ってください」というのはよくある話ですね。そうしないと(ルートが)開けないというのがよくありました。それがなぜ今、政府・企業が個人の力を活用しはじめているのか。そこには、大きな変化の本質というものがあると考えています。

価格の源泉が「製造原価」ではなくなっていること。これが大きな問題ではないかと。私自身、20代はメーカーにいて、その後は半導体業界におりました。そういった意味では20代はものづくりをずっとやってきたわけですが、その中でのひとつのビジネスモデルが転換点を迎えているということがあると思います。

例えばわかりやすい話では、本の値段というのは印刷代や印税、報酬、発行部数から「これだけのコストがかかって、何割のマージン乗っけて何万部売るから1冊いくらです」という形で割り算をして価格を出していました。この製造原価から価格を出すというのは、20世紀は非常に当たり前だったんですね。

ところが今起きていることは、皆さんもご存知のように電子書籍1冊9.99ドルで一律で販売されているという現象が始まっています。これはアマゾンさんがやってますが、それに反対した出版社がアメリカのほうにおりました。「我々のものづくりは我々が価格決定をするべきなんだ」ということでアマゾンに反対をしたところ、アマゾンは何をやったか。

「電子書籍だけじゃなくて、紙の本もあなた方の出版社は9.99ドルにします」ということで販売を開始して、圧倒的に売ってしまったんですね。つまりこの事象が何かというと、メーカー側が価格を決めるのではなくて、流通側、いわゆるユーザーにダイレクトに届いているほうが価格決定権があるんですよ、ということを伝えている。これは、日本でもよくあると思います。

例えばコンビニとかでも、いろんなメーカーさんでどんどん価格競争をして、ニーズがわかった上でプライベートブランドを作るということがあります。そういった意味では、ものづくりそのもので差別化ができる時代が、明確に終焉を迎えている。そういった可能性があると思っています。

「知」のあり方

あるアーティストが先月くらいに「皆さんがCDを買ってくれないから、芸術活動を続けられないです」と言っていました。皆さん、今はCDを買わないですよね。電子データになってiPhoneとかで聴くようになっている。

ところが、アメリカではさらに大きな流れができていて、定額制サービスというのが始まっています。Spotifyというサービス、あるいはアマゾンも始めましたが(Prime Music)、大体10ドルで20万曲聴き放題です。そこに対して音楽のメーカーさん、いわゆる「○○ミュージック」といったところが出資もしているという形です。そして、アメリカでは定額制の読書サービス、10ドルで電子書籍が読み放題というサービスが産まれはじめています。

このように、「知」のあり方が劇的に変わっているんですね。知を持っている人たちがその知を本にすることで販売できた、あるいはものづくりをして、何千万円何億円かけてレコーディングして作ってたものをCDの形にして売ることでペイしていた。そういうことが起きなくなっているんです。

さらに映像ですね。もともとは皆さん映画館に足を運んでいたんですが、今ちょうど就活の時期で学生さんと話して、「映画館に行かない人はどのくらいいる?」というと大体3分の1くらいは映画館で映画をまったく見てないです。そういった人たちは何をやっているか。スライド右側のように、テレビのかわりにスマートフォンで映画を気軽に見ています。皆さんご存知だと思いますが、これも10ドルで何千本を見放題というようなサービスが産まれて、それを日本のテレビ局が買収するという事象が起きています。

クラウドソーシングから実現した、モノの差別化

この事象のように、今お話ししてわかるとおり何千万円何億円かけて映像を作った、音楽を作ったものがその価格で売れなくなっているんですね。これが、20世紀のものづくりをやっていたメーカーが抱える共通の課題なんだと思っています。それをどうしようという中で、その答えのひとつがクラウドソーシングにあると思っています。

例えば、スターバックスですね。スターバックスは2008年にリーマンショックで経営危機を迎えたとき、創業者のハワード・シュルツさんがCEOに復帰して7100店舗を(一時的に)閉じました。そこで何を言ったのか。「製品を見直すのではなく、顧客との関係を見直そう」……今までのスターバックスは、コーヒーを見直していた。コーヒーをどうしようかとずっと考えていた。そうではなくて、顧客との関係を見直そうと。

それで作った「My Starbucks Idea」というクラウドソーシングサイトは、非常に有名な事例なんですね。これは顧客と対話するサイトになっていまして、例えばコーヒーの味、紙コップの形、店員の態度、支払い方法、流す音楽、立地条件、こういったあらゆるところについてユーザーからアイデアをもらって、「Ideas In Action」という欄で企業がどういうふうにユーザーに応えたかということがすべて開示されてるんですね。

いわゆるスターバックスというブランド・プロダクトを作る過程そのものがすべて開示されて、ユーザーとともに作るという姿勢になっています。

実際に産まれた商品がこれですね。「You Are Here」というマグカップ。旅行好きのスターバックス愛好家が、「旅行先に行くたびにスターバックスに立ち寄るんですが、どこのスターバックスも変わらないんです。旅の思い出になるようなスターバックスを作ってもらえませんか?」ということで、ご当地マグカップを作ったんですね。

これが今、非常に盛り上がっていて、例えば留学している仲間が自分の国に帰ったときに、自分たちの国のマグカップを贈りあってコミュニケーションしていたり、これを目指して週末に旅をするバックパッカーなんかも結構誕生しています。あるいは海外のオークションサイトで、日本のスターバックスのマグカップをすべて集めたいんだという、昔でいえば観光地にあるスタンプとかコインとか、そういった感覚でやっているんですね。

ここに書いてあるように、「旅の思い出」「コミュニケーションツール」「コレクターズアイテム」としてのスターバックス。ここには、もはやコーヒーという概念はほとんど存在していない。このときに、製造原価から離れた消費が行われているわけです。こういった旅の思い出でしたら、おそらく製造原価は50円か100円だと思うんですが、1000円であっても、1500円であっても、あるいは2000円であっても買うんじゃないかな。それは旅の思い出だからですね。

そしてウォルマートさんも、クラウドソーシングサイトを自社で展開しています。「Get on the Shelf」というもので、ウォルマートの商品は、想像するだけでもありふれたものが並んでいるという中で、そうじゃなくて「顧客がほしいものを並べるよ」、あるいは「顧客がほしいものを作るよ」というサイトですね。私自身、昔地元にCO-OP(生協)があって、お客様カードに「ポテトチップスのりしお味を入れてほしい」ですとか、そんなものを書いた思い出があるんですが、そういったことがインターネットでできてしまうという流れです。

商品開発・企画を個人に開放して、こうやって「グランドチャンピオン」という形で、実際にものができたら「皆さんがほしいと言ったものを並べますのでぜひ来てください」ということで他のスーパーマーケットや競合と差別化をするという流れができています。

「過程を共有するという共感」が、価格の源泉となっていく

そして何よりも、このNASAの例ですね。NASAは「Nasa crowdsources ideas for future missions to Mars」ということで、火星上陸のアイデア自体を、予算が限られてるということでその技術課題を全部オープンにしたんですね。これはすごい事例です。アメリカにとって競合する国もあるかもしれないのに、誰でもアクセスできる状態にしてオープンイノベーションをしたと。

NASAが実際に考えてるのは、課題があるときに課題解決するのがもっとも善であって、社内・所内のリソースだけで解決できるかどうかってことは、必ずしも問題じゃないんじゃないかということで、こういった形で利用されています。

あるいは、午前中に孫さんが提携を発表したGeneral Electricですね。これも「Industrial Internet Quests」ということで、なんと航空機や医療の分野、いわゆる人の生命に関わるような分野でオープンイノベーション、社内だけではなく社外の技術者とコラボレーションするということをやっています。

General Motorsもこういったプロモーションビデオのシナリオを1回募集して、シナリオを決めたらその映像をクラウドソーシングで募集するということで、世界中のクリエーターとコラボレーションしています。

そして何より、思い返すとクラウドソーシングを国内で一番実践していたのは孫さんじゃないかと思っています。皆さんも見た「やりましょう」ですね。先ほどのスターバックスの事例のように、ツイッターで皆さんからワーッとアイデアをもらって、その中で孫さんがひとり一人に答えていくということで、ユーザーは熱狂していました。そういった形で、作る過程そのものをユーザーと共感する。その中でものづくりをするというのが今始まってるんですね。

我々の事例としても、ボンカレーさんとやらせていただきました。ボンカレーさんは今年の頭、「イメージを打破したい、新しくしたい」ということで、キャッチコピーを若い人たちに考えてもらおう、と。10万円、たった1週間で、4900点が集まったんですね。

それだけじゃなくて、「キャンペーンの一環として面白い」「企業側も進化してる」「全国民で参加すべきだと思う」という形で、別に強制されているわけでもない、広告費を払ってるわけでもないのに、話が面白いということでワクワクしてるわけですね。

「皆さんの声で作りました」「皆さんのお力でできました」という共感が、価格の源泉になる時代がやってきていると思います。20世紀は、製造原価が価格の源泉になっていました。そこから新たな形で、過程を共有するという共感が価格の源泉になる。そういう時代だと思っています。

実際に先週ちょうど終わったプロジェクトなんですが、アップリカさんがついにものづくり、ベビーカー自体をクラウドソーシングで募集しようということで、日本中のママやプロフェッショナルのデザイナーからいろんなアイデアが集まりました。これは毎月ご利用いただいてまして、ベビーカーや抱っこひものネーミング・キャッチフレーズ・コンセプトを、常にCo-Creation(共創)しています。

実際にいろいろなアイデアが集まってますね。個人の体験が産んだワクワクするようなデザインや、プロっぽいプロダクトデザインなど、いろいろ集まっています。

10年後、クラウドソーシング市場は1兆円規模になる

ということで、クラウドソーシングを活用すれば、研究であればオープンイノベーション、企画であれば商品企画、そして開発も、今「メイカーズワークス」で我々がクラウドソーシングを始めています。基板製造であるとか3Dモデリングのデータ、そういったもののプロトタイプをおもに作るクラウドソーシングで、非常に活発に利用されています。ですので、ここにいらっしゃるメーカーの方々、ぜひ一緒に事例を作らせていただきたいと思っています。

そしてマーケティングですね。ボンカレーさんのような共感型プロモーションなどです。

そういった形で、政府や行政、上場企業をはじめとして、たった2年で今35000社が利用しています。我々はベンチャーで、わずか30名です。そういった意味では、非常に急速な勢いでご利用が進んでいると考えていただけると思います。ヤフーさん、グーグルさん、マイクロソフトさん、こういった企業さんは当然として、ヤマハさん、アップリカさん、大塚製薬さん、あるいは講談社さん、日経BP社さん、テレビ東京さんといったメディアカンパニー、そして政府ですね。こういった方々にご利用いただいています。

我々のチャレンジが非常に社会的意義が高いということで、電通さん、伊藤忠さん、サイバーエージェントさん、デジタルガレージさんから総額14億円のご出資をいただいてます。

依頼された仕事の累計予算総額は、この2年で121億円なんですね。そして月間契約金額が当初の43倍にも成長していて、明確に今、日本最大のクラウドソーシングサイトに成長しています。

それだけじゃなくて、国内のクラウドソーシング市場はどうなっていくか。今日のホームページの告知のほうで1400億円市場と書かせていただいたんですが、我々の試算では急速に伸びていまして、10年後の2023年には1兆円市場と予測されています。