「妻が喜ぶ」「子どもの精神衛生上いい」の要望に応えたい

――ちなみに、利用者の視点から「これもあればいいのに」といったものはありますか?

渡邊真吾氏(以下、渡邊):やはり立地でしょうか。私の場合は品川のサテライトオフィスを使っているのですが、以前は川崎に住んでいて、サテライトオフィスへ向かうために、子どもと一緒に電車に乗っていました。

混む時間帯だったりすると、たとえ10分程度でも辛いので……。いろんな場所にあればベストだなと思います。とはいえ「では、次はどこがいいですか?」と聞かれると、うまく答えられないですが。

石田恵一氏(以下、石田):私も同様で場所ですね。今は品川と鷺沼の2カ所なので、トライアルとして参加するとしても、使える人が限られます。拠点が増えるほど、利用者の範囲も広がりますし、検証もしやすくなります。

長田健登氏(以下、長田):それに関しては、検討は開始していまして。

首都圏では、私鉄や地下鉄が放射状に伸びているじゃないですか。その路線をカバーするかたちで増やしていくことを考えていたりします。数字が1人歩きするのは避けたいですが、そうすると10〜15ほどキッズスペースができることになります。そうしてある程度の数ができたときに、初めて企業にとってのセーフティネットとしての効力を発揮していくんだろうなと思っています。

企業は、従業員に対して公平性を保たなければいけません。だから、特定エリアに住んでいる人だけに恩恵があるといった状況は良くないと考えています。かと言って「都心に来てください」とするのも、満員電車が辛くなります。なので、なるべくはやく、そういった状態を作りたいと思っています。

これは、私たちとしても相当な覚悟でやらなきゃいけない。適切なかたちがどういうものなのか、利用者さんの声を集めつつ、想定しながら作っていきたいと考えていますね。

――さまざまな場所にあるだけで、働き方が広がりますね。

長田:先ほどの話で言うと、今ある一番の価値は、企業がセーフティネットを確保することだと感じています。学級閉鎖など、これまでであれば会社を休まなきゃいけなかったとき、休まずに仕事を継続できるセーフティネットです。

とはいえ、あくまでも保険的なものなので。企業内で月1〜2回くらいしか起こらないようなことに高いお金を出して施設を作るなど、そういった判断にはならないと思っています。私たちのようなサービスプロバイダがシェアする仕組みを作り、少しの費用負担でさまざまな企業が使えるものを構想して始めたんです。

今後は、セーフティネットの役割以外でも、先ほどのお話にもあったような「妻が喜ぶ」「子どもの精神衛生上いい」といったものも世の中のニーズとして捉えていきたいなと思っているところですね。

キッズスペースはママスクエアが運営

渡邊:あと、これは利用者側からなのでわからないのですが、いつもキッズスペースで子どものお世話をしてくれる方がお2人くらいいらっしゃって。絵本を読んでくれたりブロック遊びをしてくれたり。かなり手厚いサービスに感じるのですが、どう考えていらっしゃるんですか?

長田:キッズスペース内で子どもの見守りをしてくださっているのは「ママスクエア」という、育児領域のプロフェッショナルの会社さんです。

基本的にキッズスペースの利用は前日16時までの予約が条件です。その時点での予約状況に応じて、確保している保育士さんを呼び寄せて、子どもの見守りがしっかりできる体制を組めるように考えてくださっていますね。

石田:利用者の確保という観点だと、ソフトバンク社内で挙がった声の中には「0歳から預けたい」というものもありました。あと、これは少し難しいかもしれませんが、病児保育みたいなものも可能になると、より使用用途の幅を広げられるんじゃないかという声もありましたね。

長田:なるほど。

――「仕事ができない」となるのは、子どもが風邪を引いて微熱が続いていたりするときだったりするので。メリットがあるように思いますね。

石田:保育園に預けられないときこそ使えるとなると、利用者はぐんと伸びるんじゃないですかね。

長田:そうですね……。とはいえ、今の段階だとキッズスペースは保育施設ではないので、基本的には託児行為はできないんです。キッズスペースでは「育児行為をしているのは、あくまでも連れてきた親御さん」ということになっています。なので、前提条件として子連れで利用されている方々は、子どもを残して施設を離れることはできないんですね。

となると、例えば朝9時から夜までサテライトオフィスで働くとなるとオフィスから離れられないので、使える職種が限られてしまう。そこも、課題の1つだなと思っていますね。

保活の先にある「小1の壁」を見据えた設備

――利用者の男女比としては、今のところどれくらいなのでしょうか?

渡邊:半々くらいのイメージがありますね。個別ブースなので、全体を見渡せているわけではないのですが。それでも、見かける範囲内でも半々の印象があります。キッズスペースを使っていない方もいましたね。

――実際に、子どもを連れてこられる方はどれくらいですか?

渡邊:キッズスペースに、常に子どもがいる印象はありますね。というのも、うちの子を預けるときに「1人だった」ということがなかったので。常に何人かはいらっしゃるイメージです。

石田:それ、うちの子にとってはよかったです。一緒に遊んだりお絵描きしたり、非常に微笑ましい雰囲気になっていて。1人だけだと、やっぱりちょっと本人も飽きちゃうんですよね。

――キッズスペースで受け入れ可能な年齢はいくつまでですか?

長田:小学生の受け入れも可能になっています。でも、まだあまりいないですね。

渡邊:確かに、見ないですね。そういう意味では、勉強するスペースがもう少しあっても良い気がしますね。一応、案内には「小学生はここで勉強できますよ」と書いてあった気がしますが、今の雰囲気ではちょっと難しそう。

長田:そうですね、どちらかというと遊ぶためのスペースになっていますね。

石田:利用できるのは小学校6年生までですよね、確か。

長田:そうですね。

――今だと保活といった小学校入学前の子どもの預け先のニーズが高まっている雰囲気ですが、この後の問題として「小1の壁」がありますよね。まだはっきりと顕在化していないものの、この問題も徐々に認識度が高まっているところがあります。

長田:そうですね。リクルートさん、ママスクエアさんとの相談の中で、その背景も含めて小学生を受け入れていますね。

石田:あと、高学年になってくると、あそこに連れて行かなくても、たぶん家でお留守番ができちゃうっていうのはもしかしたらあるのかもしれないですね。

長田:とか、習い事へ行ったりとか、いろいろありますもんね。

今後はキッズスペースの質と量の両面での進化を検討

――今後、こういった子連れで行けるサテライトオフィスでどういった使い方を期待していますか?

渡邊:妻がもし「こういう資格をとりたいから学校へ行きたい」「こういう仕事のお手伝いがしたい」といったニーズがあったとき、積極的にサポートできるんじゃないかなと思っていますね。そういった、家族の発展的な希望を叶えるためにも、こういう施設があるとすごく安心して「子どもを任せろ」と言えるような気がしています。

そういう意味では、今は前日予約でいいので、思いついた時に使えるのはいいな、というのはありますね。私自身も柔軟にできたら、もっと妻の選択肢も広がっていくんだろうなって、すごい希望は持ちながら継続的に使っていきたいとは思っています。

――そろそろお時間なので。サテライトオフィスもなのですが、こういった取り組みの将来について感じていることを教えてください。

渡邊:継続的に使いたいと本当に思っているので、中長期的に維持いただくことを期待しています。仕事の効率化と合わせて、先ほどの、家族の可能性を広げる意味でも非常に期待しています。

石田:私の場合は社員のニーズに答えられるかという点で、例えば会社を休まなきゃいけない状況をいかに回避するか、そういう仕事ができない頻度を減らす機会を作っていきたいと思っていますので。そういった効果につながる改善を図っていただけるとありがたいです。

先ほどの年齢の話や病児保育の話など含めて、規制などで難しいかと思うのですが。少しでもそういった機会を増やしていただけると、当社としてもより活用の幅が広がるので、ぜひお願いしたいですね。

長田:今おっしゃっていただいたようなことも含め、「質を上げる」を進めていくことが1つですよね。そこは、託児行為の是非も含めて、今後検討しなければならないと思っています。

そしてもう1つとして、もともと我々が展開しているサテライトオフィスでは、どこでも働くことができるという、ネットワークの価値をちゃんと作ることを目的の1つとしています。そういう意味では、今回のキッズスペース付きサテライトオフィスでも、その部分では同じところを目指すようチャレンジしていきたいと思っています。

みんなが満員電車に乗らなくても、家の近くで今と同じような価値を享受できる。まずは、そこが目指すところですね。