この国で成功するためには土地がないといけない

古谷経衛(以下、古谷):今はそれこそ政策金融公庫の新創業融資制度とか、無担保で「ビジネスモデルさえよければ〇〇万円貸します」みたいな、よくあったじゃないですか?

『半沢直樹』で、半沢直樹が壇蜜に大阪・道頓堀のネイルサロンの店の審査を通す時に、「あいつ(壇蜜の愛人役)に頼るんじゃなくて、俺が事業計画書いてやる」って言って、300万円貸すとか。そういう描写ありましたよね。

でもそれは例外でね、この国で成功するためには土地がないといけないんですよ。なぜかというと、土地が担保になってくるわけです。

土地を担保に入れた金でさらに土地を買って、その土地の値上がりした評価額でさらに借入して土地を買って……。まさにそれがバブル経済だったわけですね。バブルが崩壊して久しいですが、未だに日本という国は全部、土地本位社会なんですよね。

もちろん土地の評価額が1億円だとしたら、「1億円、貸してくれない?」って言ったら、実際にはそれは無理です。だから、7掛けとか6掛けぐらいの6,000万円くらいで借りることになるわけですが、でもそれはやっぱり土地がないと話にならんわけです。

でもすごく問題なのは、株とかで大成功してどこでも土地を買える人だったら、今の東京でバッと買えますけど。今の土地の値段は、バブルよりは安くなっていますけれども、坪単価的にはおいそれと庶民が買える水準ではないんですよ。いわんや若者をや。

今でも東京で土地を持ってる人はいるわけですね。細分化された零細土地所有者が星の数ほどいる。でも、それは我々の親の世代、あるいはもっと親の世代が、土地がものすごく安かった時代(戦前、戦中、高度成長前)にそこを買って住んでいただけの話なんです。それの子孫が、今のリア充なんですね。こういう理論はどうでしょう?

勝部元気(以下、勝部):あのですね、私、実は昔から相続税100パーセントていうのを……。

古谷:相続税100パーセント? 

勝部:はい。いいなって、ずっと思ってましたね。

古谷:なるほど。

勝部:やっぱり、生まれた時点でリセットされるというのが理想ですね。というのも、今言っていたリア充というのをいろいろ見てきた時に、「ビジネス的な能力がないのに、なんでこの人たちはナマケモノのようにボケーっとやっているんだ」って思うんですね。

古谷:あー、わかります。

勝部:同じ土地があっても、もっと有効活用する方法はたくさんあるのに、なんかわけのわからないことをやって悠久に野放しにしていたりとか。

古谷:(笑)。

勝部:しっかりとしたデベロッパーとかにボンって投げれば、もっと有効活用して、ちゃんとした利益を生み出せるのに、なんでそんなふうにならないのか。

なぜ日本の都市開発って効率的に進まないのかなって思ったら、やはりその土着の人たちが土地を持っていて。しかも言い方が悪いですけれど、能力のない人たちが持ち続けてるからだっていうのがすごい気になっているんです。これはもう、相続税100パーセントしかないなと、幼心に気付きました。

生まれ育った土地にいる人の「余裕」

古谷:(笑)。今URになってますけれども、戦前から日本の公的な住宅政策は、日本住宅公社とかいろいろ、そういう公団とかから発生していったんですけど。団地って、だいたい郊外にあるじゃないですか?

あれはなぜ郊外にあるかというと、既存の地主とかの懐柔が難儀だったわけですよね。団地を都心に建てようと思ったら、地元の、例えばずーっと明治から住んでる地主が、「先祖の家だけは駄目や」とか言って立ち退きしてくれないから。

だから、多摩丘陵とかも、あれも要するに農地だったわけですね。それで農地を買い叩いたら、わりとすべて買収できたんですぐ進んだわけです。

ところが今、URの分布を見てるとわかると思うんですけ。あのニュータウンがなんで郊外にあるかというと、土地の取得が難儀なんですよ。だから都心で日本で再開発をしようと思えば、絶対に抵抗する地主がいるんですよね。

「なんで抵抗するの?」「なんでお金をある程度積まれても抵抗するの?」って思いますよね。だって別に、土地を売ったとしても売買代金が入ってくるからいいでしょう。あるいは、借地権を設定しておけば土地は取られないでしょう、と思うわけですね。

地主からすれば、その土地だけじゃないですよ。自分が持っている土地、本宅が100坪。実際には100坪だけじゃないです。本当はその周りに虫食い状に200坪とかがある。それは例えば、自分でアパートを建てている、あるいはコンビニに貸している、テナントにしている、分譲住宅にしている。

これでじゅうぶんやっていけるんで、「なんでわざわざ再開発せんといかんの?」と、その息子も親族もみんな同じ考えなわけですよ。地主は超保守的なのです。日本はかつて法的に借地を借りる側がものすごく強かったので、借地権を設定して立てられたら「先祖の土地が店子とられる」みたいな感情になるので、借地権であっても絶対に手放したくない。

だから再開発は進まないんですね。そのほか容積率などの法律もありますけれども。この日本の中の土地信仰みたいなものは、実は経済だけじゃなくて、そこでずーっと生まれ育ってる人の、よく言えば余裕、悪く言えば損得を度外視した祖霊信仰まで行き着く。

要するに、自分がどんなにハチャメチャなことをやったり、危機感がなくても、最終的には「親の土地があるんじゃ」となる。価値ある土地を相続するわけだから、危機感がない。それが、この国の土地本位社会の実相なわけです。

本当にキラキラしてる人は、自分で言う必要ない

それに比べて、後から土地にやってくる人です。後から土地を高値で掴む人ですから、そういう余裕がまったくないわけです。

余裕がないから、わざわざ自分がいかに都市的な生活をしているか、キラキラ女子みたいなことを世の中に言わないと、心がもう悲しくなってしまうわけですよ。

勝部:(笑)。

古谷:だって本当にキラキラしてる人は、自分で言う必要ないですから。そうでしょう?

勝部:そうですね。わざわざ言わないですね。

古谷:だから、意識高い系の人たちがSNSで、いかに自分がこのキラキラしてて輝いているのかを言わないといけないのかという心理を分析した時に、そこにはやっぱりコンプレックスと裏返しのものが存在する。

もっと承認されたいという、すごく心の余裕がない人たちなんですね。それは余裕があったら言う必要ないわけですよね?

クウェートの石油王とかわざわざそんなことしないですからね。クウェートの石油王のFacebookとか見たことあるんですけれど、だいたい自分の飼ってるヒョウとか映っている。

(会場笑)

古谷:純粋にかわいいから「このヒョウが、このヒョウが」「この動物が珍獣が」とか、だいたいそんなのばっかりで。もちろんその背景にね、すごい部屋が立派だなっていうのはわかりますけども。それの自慢をしたいとかじゃなくて、「僕はこのヒョウが好きなんだ」みたいな純粋な気持ちなんですよ。

自分がこんな人と友達だとか、あまり言わないんですよ。ヒョウが好き、ライオンが好きとか、そういう人が多いですね。

意識高い系に共通する「モテない」

勝部:ちなみに、何個か事例を挙げてらっしゃったじゃないですか?

古谷:「意識高い系」のですね。

勝部:一番、「うわぁ……」って思ってるのはどれですか?

古谷:拙著『意識高い系の研究』では第3章に書かせていただきまして。その意識高い系の具体的な人物の例が、4例5例ぐらい載ってるわけですが。まぁ、どれも捨てがたいんですけども……。

勝部:ランキングで言うと?

古谷:一番で言うと、最初にきてた青木大和くん。

勝部:はいはい(笑)

古谷:彼が一番この中では刺さったなぁと思います。青木大和さんと、友達のTehuくん。慶応大学の政経でしたっけ?

それでなんか突然、「若者と政治」みたいな団体を立ち上げるんですね。それで当時は18歳選挙権がものすごく言われていて、やっぱり若者と政治がメディア的にも親和性があったわけですよね。

それで朝日新聞、NHK、TBSとか、ばぁーって。その青木くんとTehuくんが作った「僕らの一歩が日本を変える。」にばぁーっと怒涛の如くきたわけですね。それで彼らは一瞬、時代の寵児になっていくわけです。

ところが彼は2014年に、安倍政権が衆院を解散する直前にです、自分の身分を偽って自分が小学4年生だという設定にして、安倍政権とか自民党を攻撃するというサイトを作った。

それ自体は別にやるやらないは自由なんだけれども、要するにその身分を偽ってまでなんでそういうことをするのか。ということがネットで大炎上になって、結局その青木さんは「これは自作自演でした。私が作りました」ということで、NPO法人を辞めて大変な問題になる。

当然、彼らの社会的信用は失墜してしまいますよね。だから今、青木さんのTwitterとか見てるとなんか細々としていまして……。

勝部:あ、そうなんですね(笑)。見てらっしゃるんですね?

古谷:ええ、もちろん見てますけれども。だから時代の寵児、要するに朝日新聞などに取り上げられる「若者の代表」とかで、当時はSEALDsの奥田さんもいたけれども。

もう1つ、やっぱりその青木さんていう人が、例えば「高校生を国会に連れていきます」とかね、そういうことを盛んにやっていたのが、今は見る影もない。完全に信用がなくなってしまった。

僕は彼の書いた本、原稿とかを一応チェックしたんですけれども、やっぱり彼も典型的な意識高い系大学生だったんですよね。というのは、青木さんは東京の人です。Tehuさんはその青木さんの友達のプログラマーで。関西の灘高校の出身だったはずです。

勝部:あ、そうなんですね。

古谷:確か灘高校で向こうではエリート。そこから慶応に来た人。つまりはその両人のコンビなんですけれども。青木さんが東洋経済オンラインというところで、一時期ちょっとだけ連載をしていて、そこに「なぜ自分はこういう大学生なのに、政治活動を始めたのか」っていうことを縷々(るる)と書いているんです。それを見ると、ひと言で言うと「めっちゃモテなかった」。

勝部:(笑)。

モテなくて陰惨な青春時代の弱者

古谷:本当に自分がモテなくて、すごいコンプレックスで。青木くんは法政二中に入るんですけれども、そこで、勉強がすべてだと思っていたら、なんか周りのリア充の子はまったくそんなことを考えてない。あ、リア充ていうかスクールカーストですね。スクールカーストの上位にいる人は、勉強がすべてだとはまったく考えていなくて愕然とした。

自分はなんかもう、その空間が嫌になって、逃げ出したくなった。ご実家がそんなに貧乏じゃないんでしょうね。それで青木くんは日本を逃げ出してアメリカに留学をして、また日本に帰って来て、慶応に入ったということなんですけれども。

要するに、青春時代にものすごいコンプレックスの塊だったんですね。Tehuさんもそうだと思うんですけれども、その青春時代に異性から承認されてないんですね。承認がものすごく足りなかったわけですよ。

だから大学になって、その若者と政治みたいな、朝日新聞とかNHKとかがばっと食い付くような、そういうものを飛び道具にして承認を得たかったわけですよね。承認に飢えていた。

モテなくて陰惨な青春時代の弱者ですよね。そういうのをずっと持ってきたから、いつか大学デビューで見返してやろうと思っていた。でも、なかなか大学デビューできないわけです。

だから、誰もいかないところを狙う。「若者と政治」というところにいって、それで承認を受けるんです。「若者と政治」という運動を始めると、これはまだ誰も開拓していないブルーオーシャン状態でしたから、ものすごい承認を受ける。テレビにも出るし雑誌にも特集される。

「モテない」からのブレイク

彼らの実相は、言葉はアレですけれども、よく言えばリベラルな左派。実際には、リベラルとはなにかと自己反駁したことすらないと思いますが、それはともかくとして、少なくとも反安倍的なイデオロギーを実は強烈に持ってたわけです。とくに青木さんの方が。

でも、それをあまりにも出すと、政治色がついちゃうじゃないですか。だから、これ以上メディアに使ってもらえないんじゃないかっていう恐怖心が出てきたんですね。

なぜなら、それまでのメディアからの承認が気持ちよくてたまらなかったんです。高校生までイケてなかった俺たちが、大学生になって初めて開花した。

でも、根底にある反安倍というイデオロギーを出しすぎると政治的に色がつきすぎて、メディアに取り上げられてもらえなくなるかもしれない。だからそれを隠して小4だっていうことにして、あのサイトを作ったわけです。

その軌跡が非常にわかりやすくて。典型的な、要するに青春時代をものすごいイケてなくて、ダサくて、暗くて、それが大学に入って大学デビューして、若者と政治みたいな、テレビや新聞とか、つまりは既存のメディアですが、そういった既存の大人たちが大好きそうなところにいったら、予想外にめっちゃブレイクした。

この承認を続けたい。でも本当は安倍は大嫌いなんだよ、と。「どこかでやりたいね」って、Tehuくんに相談したんでしょうね、これは私の推測ですよ。そうしたら、「小4ってことにして偽装してなんかやったらいいじゃないの」と言ったら、その作りが杜撰(ずさん)だったのでネットですぐバレたという話なんですけれども。

勝部:杜撰すぎでしたね。

古谷:杜撰すぎでしたね(笑)。

青春時代の承認の多寡から生まれる「余裕」

それと僕は、集団的自衛権問題の時にね、有名になったSEALDsの奥田さんと何回か対談させてもらってますけれど。奥田さんはね、ハッキリと最初から「安倍なんか大嫌いだ」って言ってるわけですよ。

勝部:はいはい。

古谷:僕はどちらかというと政治的には右の人間なんで、「安倍さんじゃしょうがないか、消極的支持でやむを得まい」と思ってる立場なんで。立場は違うんだけれども、奥田さんは非常に素直なんですね、己の感情に。それはいいと思った。

最初から「安倍は大変な立憲主義の破壊者だ」「こんなやつはとんでもねぇ」と奥田さんは言ってるわけです。なんでそこまで言い切れるかというとね、やっぱり奥田さん青春時代にモテたと思うんですよね。

勝部:(笑)。まぁモテるでしょうねぇ。

古谷:でしょ? いや、僕が同性として見てても、おそらく高校の時もモテたと思うし。中学の時もモテたと思う。

勝部:顔よくて、センスよくて、コミュ力もあって。

古谷:要するに青木くん×Tefuくんと奥田さんのなにが違うのかというと、青春時代の承認の多寡なんですよ。前者はほぼゼロ。後者は豊富。だから奥田さんは当時、明治学院の学生だったれども、大人になって、仮に一部のネット世論や保守系メディアから承認などされなくても「そんなもん関係ねえ」という余裕があったんですね。

こういう余裕があったから、彼らは最初から「反安倍」のイデオロギーを出したんです。最初から「安倍なんか大嫌いだ」と出したわけです。だから、そこの違いなんですね。

青木くんは、ぼんやりと左派・リベラルな世界観。でも、それを隠さないといけない。なぜ隠さないといけないかというと、この承認が続かなくなるかもしれないっていう恐怖があったんです。なぜならモテなかったから。つまり、承認に飢えていたわけです。束の間で手にしたメディアからの承認を、どうしても手放したくなかった。

(会場笑)

もちろんLGBTの人とかもいますから「異性」と限局してかかるのは語弊がありますけれども。でも、同じ男・同性だからわかるけれども、「異性から承認されない=モテなかった」っていう青春時代のルサンチマンって、その後の社会に出た時の行動とかに強烈な影響を与えると僕は思いますね。

まあ縷々話しましたが、DT(童貞)はつらいよ、心が歪むよと、まあこういう話ですな。

「意識高い系」の研究 (文春新書)