鈴木敏夫氏が語る、10年後のジブリ像 「ウォルト亡き後のディズニーも、一度は衰退した」

ジブリの教科書「ナウシカは日本を変えたのか?」鈴木敏夫×朝井リョウ×川上量生 #6/6

このほど製作部門を解体し、小休止に入ると発表したスタジオ・ジブリ。プロデューサーの鈴木敏夫氏は10年後のジブリをどう考えているのか? ウォルト亡き後のディズニーを引き合いに「長年売れ続けることの難しさ」を、ドワンゴ会長の川上量生氏、作家の朝井リョウ氏を相手に語った。(ニコ論壇より/この動画は2013年に放送されたものです)

ジブリはハリウッド映画化しないのか?

川上:では、ここからは……ユーザーさんから質問がきてるんですか?

スタッフ:はい、質問コーナーに移りたいと思います。今日もたくさん質問を送っていただいてありがとうございました。まず最初は、鈴木プロデューサーへの質問です。「ナウシカの漫画版をハリウッドで実写化したいと思いませんか?」という質問が来ています。東京都の男性です。

鈴木:実は、そういう申し出は過去にいっぱい来たんですよ。ナウシカだけじゃなくて、ラピュタとか。当然、宮﨑駿にそれを確認しなきゃいけないんで、彼とも話し合ったんですけどね。とにかく宮さんとしてはNOであると。僕としても別の理由っていうか、宮﨑駿が作る以外ではやっぱりうまくいかないだろうな、という思いがあって。それで実現してないっていうのが実情ですね。まぁ未だに、いろいろな話は来てます。

インタビュアー:ありがとうございます。次の質問です。長野県の男性の方からです。「宮﨑さんの中で、全て伝えられないことに対する葛藤があったのでしょうか? 116分という上映時間に宮﨑さんの思いは全て詰め込まれたと思われますか?」という質問です。

鈴木:宮﨑駿という人は、分けて考える人なんですけどね。分けてっていうのは、ナウシカの漫画のほうは、個人作業。自分が本来やりたいことをやれるものだと。しかしそれが多くの人が読むのにふさわしいかどうかは、別の判断ですよね。

ところが、映画っていうのは公衆の面前にさらされる。だとしたら映画は個人的な動機で作っちゃいけない、公的なものであるべきだと。こういう考え方が彼の中にあるんですよ。それをやってるっていうことで、この116分に関しては彼は基本的には満足してますよね。ただラストシーンに関してはちょっと未だに、何かあるみたいですけどね。

朝井:いまだにそういう話をされるんですか?

鈴木:いや、僕には何も言わない。

朝井:(笑)。怖いなぁ。

『もののけ姫』だけ舞台化が許された理由

川上:さっきの質問と関連しますけど、じゃあなんで映画化はNGで、もののけ姫の舞台化はOKしたのか? っていう疑問が……。あれは本当に珍しいことなんですよね?

鈴木:あれは本当に珍しいことで、実は舞台化の話もいろいろあったんですけれども。もののけ姫の舞台化の時には、2つ理由があったと思います。1つは、ニック・パークという人がいて。この人は、ご存知の方も多いと思うけれど『ウォレスとグルミット』を作っているアードマンというところのアニメーターですけど、この人と個人的に親交があるんですよ。

それで、彼からの問い合わせというか推薦で「自分が保証するから、この人たちにもののけ姫の許諾をもらえないか?」と。「自分はこの劇団を応援しているんだ」と、そういうメールが、ある日僕のところへ届いたんです。仮に演じてみたビデオがあるから、それを見て判断してくれと。

それで宮さんのところへ行きまして、「ニック・パークからこんなメールが来ている。なおかつ映像が来ているので、一緒に見てくれないですか?」と。それで見て、言葉にすると多少誇張が入るんですけどね、5秒も経たないうちに「いいよ」って言い出したんですよね。

朝井:へぇ~。

鈴木:今(2013年当時)、いろんなところのスポットなど流れてるあの映像なんですけど、おもしろかったんですよ。原作を丁寧になぞるというよりは、自分たちの解釈でもののけ姫を踊りにする、そこがおもしろかったんです。それで宮さんも、本当即決でしたよね。「これはいい」って言って。

朝井:即決だったんですね。

鈴木:そうなんですよ。あっ! 今日チケット持ってこようと思って……。僕、朝井さんにあげようと思ってたんです。忘れちゃった~! 玄関に置いといたのに、本当に……。

朝井:また、いずれ……(笑)。

もののけ姫・サンvsナウシカ 勝つのはどっち?

インタビュアー:ありがとうございます。それでは次の質問です。京都府の40歳の男性の方からです。「もののけ姫とナウシカ、どっちが強いですか? 生きるためにどんな残酷な攻撃も厭わないもののけ姫に分があるように思います。しかし、ナウシカは虫笛で、原始的なもののけ姫を誘導しそうです」という質問が来ています。

鈴木:もののけ姫って、彼女のことを言っているんですね?

朝井:サンのことですね。

鈴木:誰が考えたってナウシカですよね。戦う攻撃能力に優れてるので。そう思いますね。

朝井:僕もやっぱりナウシカなんじゃないかなぁと思いますね。ナウシカって、原作でちょっと悪の方に針が振れそうになる時に、結構な勢いでバンって振れるじゃないですか。サンってリーチも短いし、ナウシカのほうがガッと行くんじゃないかなって思いました。ごめんなさい、くだらない話しちゃって。

鈴木:いえいえ(笑)。

川上:空中戦とかもできますよね。

朝井:戦うプレイスタイルがね(笑)。

10年後のスタジオ・ジブリ像

インタビュアー:ありがとうございます。それでは次の質問です。スタジオジブリの未来について心配している方から質問が来ています。東京都23歳の男性の方です、鈴木プロデューサーに質問です。「我々ジブリファンは、ジブリの未来が気になります。将来の監督、プロデューサー像にどんな人を求めていますか?」。あともうひとつが、37歳の男性の方です。「鈴木さんは10年後のスタジオジブリはどのようになっていると予想されますでしょうか?」という質問が届いています。

鈴木:未来について考えるっていうのは、1つの正しい考えだと思いますよ。あるビジョンを抱いてそれに到達すべく努力する。でもね、人間にしろ会社にしろ、それだけが生き方じゃない。目の前のことをコツコツやってたら、それによって開ける未来っていうのもあるんですよ。どちらかというと、高畑にしても宮﨑にしても僕にしても、そっちのタイプ。だからあんまり先のことを考えませんね。なるようになる。そう思ってます。

川上:「いきあたりばったり」っていう……。

朝井:すごい翻訳の仕方ですね(笑)。

インタビュアー:「将来の監督・プロデューサー像にどんな人を求めていますか?」という質問が来ているんですけれども。

鈴木:やりたい人がやればいいんですよ。ジブリっていう場はあるわけだからね、やりたい人はどんどんやればいいし。その人がこういう人であってほしいとか、そういうことは考えない。だってその頃、僕らは関係ないもん。

川上・朝井:(笑)。

鈴木:ねぇ。

朝井:ねぇって言われちゃいましたね(笑)。ファンからすると、今のジブリを引っ張ってくださってる方々にはずっとどこかで関わっていてほしいなって思っちゃいますよね。「関係ない」って言ってほしくないなあって。

鈴木:高畑勲は77になっても作ってるし、宮﨑駿は72になっても作る。それがどこまで行くかですよね。だからいちばん幸せなのは、作りながら死んじゃうことですよ。

朝井:ファンからしたら幸せじゃないと思いますけど、ご本人たちはそうかもしれないですね。

川上:ファンから見てもそうだと思いますけどね。まだ作家が生きていて、でも作っていないって淋しいですよね。

朝井:そう言われてみるとそうですね。死んでほしいっていうわけじゃあ、もちろんないですけどね。

川上:(笑)。

「ウォルト後」のディズニー映画が復活した理由

鈴木:例えばディズニーという人がいて、いろんな作品を作り続けたでしょ? 亡くなった後もディズニースタジオは残ってて、いろんな人が作っている。でもそれはディズニーじゃないですよね。たまさかジョン・ラセターっていう人が出てきて、ディズニーとピクサーが一緒になってやってますけど、ラセターはおもしろいですよね。そういう人が出てくるかどうかですよね。

朝井:ディズニーは別のものを入れてまた新しいものになって……、ジブリもそうなるかもしれない?

鈴木:参考までに申し上げると、ディズニースタジオって、ウォルト・ディズニーが健在でがんばってた時は、スタッフが2,000人だったんですよ。それでいろんな作品を作ってた。ところがディズニーが亡くなった後、いちばん少ない時は200人まで減るんですよ。

その間もディズニーのアニメーションは作られていたんだけど、何の注目も浴びない。もう終わるかなと思ってたら、あるプロデューサーが登場したんですよ。カッツェンバーグかな? この人がある人と組んで、新しいディズニーを作る。この人がプロデューサーとして優れていたんでしょうね。それまでいろんな新しい映画に挑戦してたのに、古典を素材に持ち出して、それで『リトル・マーメイド』だとか『美女と野獣』だとかを作った。

よくわかってるんですよね。映画っていうのはドラマがないといけない。ところが劇的なドラマっていうのは、必ず差別に触れるじゃない。それをオブラートに包んで、しかし感じさせる、っていう方針を作ったんですよ。

あと2つあるんですけど、1つは、女性を主人公にする。3つめは、音楽に力を入れる。これによってカッツェンバーグという人はディズニーを再生させることに成功する。これはおもしろかったですよね。この人がディズニーを去った後、今ディズニーはラセターが『トイ・ストーリー』の路線でやっている。ジブリにおいてそういうことが起こるのかどうか、それはわかりませんよね。

朝井:良きタイミングでそういう人が現れるのか。

鈴木:高畑も宮﨑も僕もそろそろどっか行っちゃうから、川上さんと出会った時に、「ちょっとジブリやりませんか?」って僕言ってたんですよ、忘れてましたけど。どうですか?

川上:やめてくださいよ……。

鈴木・朝井:(笑)。

川上:本当にねぇ、ドワンゴやってくれる人を探したいですよね。

朝井:自分ではなく、探したいと(笑)。

『千と千尋の神隠し』で常識を覆した宮﨑駿氏

川上:でもジブリを見てて思うのは、宮﨑駿さんがナウシカを作ったのがちょうど42~3歳で、僕より少し若いぐらいの時なんですよね。それからジブリの歴史が始まるわけじゃないですか。

『千と千尋の神隠し』が最大のヒットですけど、あれは21世紀に入ってからですよね、2001年ですから。その時はもう60歳ぐらいですよね。それを考えると、ものを作れる年齢って、全盛期が60歳前後みたいな、そういうことがありえるんだっていうのが。

鈴木:あれは歴史を破りましたよね。映画でこれまでずっと語られてきたことは、どんな監督といえど、代表作は40代だって。宮﨑駿はそういう常識をひっくり返したと思ってるんです。年をとってからもおもしろいものを作った人として、例えば(葛飾)北斎がそうでしょう。「60歳までの作品は意味がない。そこからのやつが俺の作品だ」と言ったのはあの人らしいし。そういうことがあるんだというのを証明した気がしてますけどね。

朝井:勇気づけられる。

川上:そう。すごい勇気づけられるんですよ。朝井さんは23だから……。

鈴木:あと50年書き続けられるんですよ。

朝井:うわぁ、頭が痛い……。よく考えられない……(笑)。

川上:40年後にどんな代表作を書くのか。

朝井:40年後にも代表作が生まれる可能性があるってことですよね?

鈴木:途中で少し休憩したっていいしね。

朝井:本当ですか?

鈴木:宮さんなんて、『未来少年コナン』が36、『カリオストロの城』が38なんですよ。それまでどうしてたかっていうと、高畑勲のもとで絵を描くスタッフの1人だった。15年間なんですけど、「俺の青春を返せ!」なんてよく言ってるんですけどね。15年間の中で考えたものを、その後映画化していったんですよ。

朝井:じゃあ15年は休めるのかな。

鈴木:宮﨑駿の成功例を言うと、下積みの時間を充実させてたんですよ。

朝井:本当にそこは大事ですよね。

人生を書くなら、人生を生きなければいけない

川上:結局売れてる人って、どんなジャンルでもスケジュールがめちゃめちゃ忙しいじゃないですか。こんな生活やってたら、才能なんてすぐ枯渇するだろうみたいな。長いことやってる人って、結構ゆったりとものを作ってる人が多いんです。でも、そういう人はそういう人で、ずっと遊んでばっかりいても才能が枯渇するじゃないですか。

やっぱりものづくりをするのに休むって重要なんだけど、その休み方が結構大切で。遊ぶっていうことじゃなくて、なにか別のことで働いたほうがいいんじゃないかなっていう気はするんですよね。

鈴木:イギリスなんかにもいろんなベストセラーの作家がいますけど、作家だけやってる人ってほとんどいないんですよね。大概みんな別の職業を持ってるんですよ。医者だったり、魚屋さんだったり、実に千差万別。イギリスのラグビーをやってる人たちもみんなそうですよね。日本だけが特殊でしょ。

川上:絶対そっちのほうが正しいですよね。だって人生を書くんだから。人生書こうと思ったら、人生を生きてる人じゃないと。

朝井:それ、もっと言ってほしいです!

鈴木・川上:(笑)。

鈴木:朝井さんは会社に勤めてるんですよね。これは絶対おもしろいですよ。

朝井:っていう風に言われて、安心したいんですよ。会社に入るって、安定したお金が毎月入ってくるっていう意味でもあるじゃないですか。僕はそこは全然重要視してないんですけど、やっぱりそういうところに身を置くと、創作意欲とか沸かなくなるんじゃないのか? って言われることも多いんですけど、そこは関係ないんですよね。別の世界に身を置くっていうことを、僕はすごい大事だと思っていて。

鈴木:昔は座付き作者っていたでしょ? ある劇団で、給料をもらいながらシナリオを書くとか。作家であると同時にサラリーマンでもある、そういう制度ってあったんですよね、日本だって。だって日本の映画監督なんてみんなそうじゃない。黒澤(明)をはじめ、みんな東宝の社員だったんだから。そこで、めんどくさいことにぶつかるわけですよ。でもそれが映画を作るうえで、すごく役に立った。

朝井:作家としての美学で、退路を断って表現に入魂する、1つのことに入魂することが美しいというのがあるんですけど、これって他人事だから言えることであって。その後もし専業作家になって何かが尽き果ててしまった時、責任持ってくれないわけじゃないですか。

鈴木:そこは、二刀流、三刀流に……。

朝井:三刀流?(笑)

川上:バイトもやる(笑)。

鈴木:例えば、大佛次郞という作家。あの人は『鞍馬天狗』っていう、若い人はわからないかもしれないけど、新選組と戦う覆面をしたおじさんの物語を作って、とにかく映画化したら大ヒット、小説もバンバン売れていた。でもその一方で、フランス文学もやってたんです。そうすると二刀流でしょ?

朝井:頭いい人なんですね……。

鈴木:でしょ? その人の場合は同じ名前で両方書き続ける。『丹下左膳』を書いた林不忘なんていう人は、名前を5個ぐらい持ってる。

朝井:今もいらっしゃいますよね。怪談話を書いたり、エンタメを書いたり。

鈴木:人格も別なんだよね、その場合。

朝井:大変そうですね、生きるの。

鈴木:でもそれが楽しめるかどうかだよね、その人のキャパシティの問題があるから。

朝井:作家が別の世界に身を置いてもいい、それがプラスに働くんだよということは、お2人にどんどん発信していただきたい(笑)。

川上:自分で発信してくださいよ。

朝井:自分で言ったら、自分がやってることは正しいですよ! っていう押しつけになっちゃうじゃないですか。だから別の人に言ってほしいんです。

川上:というところで、時間もだいぶオーバーしてしまいましたけど……。

鈴木:足りないと思ってた。

川上:そんなことないんですよ。

朝井:どうやら過ぎていたようです。

川上さっきの(ボード)を出した段階でかなり終わってましたね。ということで、今日はありがとうございました。

鈴木・朝井:ありがとうございました。

川上:だいぶずれていきましたけど、今日は「ナウシカは日本を変えたのか?」というテーマでお送りさせていただきました。それではみなさん、どうもありがとうございました。

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ジブリの教科書「ナウシカは日本を変えたのか?」鈴木敏夫×朝井リョウ×川上量生

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