きっかけはAirレジに対する残念じみたツイート

―さっそくなんですけれど、そもそもお2人はお知り合いだったのでしょうか?

大宮英紀氏(以下、大宮):確か昨年の春くらいに、Twitter上で鶴田さんのAirレジについてのツイートを見て、それですぐに僕の方からコンタクトしたんです。

というのも僕、「Airレジ」でリアルタイム検索をよくしているんですよ。世の中の方々のAirレジに対する評価・思い・捉え方を調べるためですね。当時、鶴田さんはBOOK LAB TOKYOを立ち上げようとしているところで、レジを探していたようでした。リアルタイム検索で「(Airレジで)商品登録ができない」というツイートが上がってきていて、「誰がつぶやいているんだろう」と追いかけたら、鶴田さんだったんです。

よく読んでみると「UIはすごくよくて使いやすいのだけど、書店として商品登録できる数が少ない」「残念」とあったんですね。なんというか、残念じみた感じのつぶやきが(笑)。「ちょっとこれは挽回せねばならない」と思って、「機能改善していくので、いったんそのお話をうかがわせてください!」と直接連絡をとったのが始まりだったと思います。

―鶴田さん、その時の印象はどうでした?

鶴田浩之氏(以下、鶴田):はい。「UIは使いやすいのに、書店という業態でやる上では難しいな」「残念だな」とつぶやいていたら、大宮さんから即メールが来まして。なんというかその……(笑)。

大宮:見られてる、みたいな(笑)。

(一同笑)

鶴田:僕、それまでに一度、IVSのLaunch Padに出ていた大宮さんを生で見ていたんです。同じ業界ということもあって、そのときの印象が残っていたんですね。だから、コンタクトいただいた時「あ! あの時プレゼンをしていた人だ」とすごくうれしくて。すぐに「会いましょう!」となりましたね。

大宮:お会いしてからは、鶴田さんの要望や、比較検討する時の判断軸など、いろいろ聞きましたね。

鶴田:そうですね。私もモノづくりの人間として、トップの方からいちエンドユーザーである僕がメールをもらうなんて体験自体が素敵だなと思っていて。そういう点でも、今後に期待できるなという気持ちがあったのは間違いないです。結果、Airレジ導入を決めた一因だったと思います。

―大宮さんのコンタクトがきっかけとして大きかったと思うのですが、ほかにもなにかあったりするんですか?

鶴田:まず、学生アルバイトなどのスタッフにとって使いやすいかどうかは重要です。ひと通りほかのサービスも検討していたんですが、実際にサンプルでレシートを流してみるなどしたとき、いわゆる「説明書」がなくても使えるのはAirレジでした。初めて使ってみた時「あ、できた」と、ちょっと感動したんですよね。

唯一の妥協ポイントは“商品管理”

大宮:僕がいうのもあれですけど、Airレジを含めて何社くらいで比べたんですか?

鶴田:3つくらいですね。その中でシンプルに使えると思ったのがAirレジでした。こういったサービスでは「高機能」と謳っているものが多いんですけど、現場としては機能性より簡単に使えることが大事だと思います。導入して、スタッフみんながすぐに使えて、かつ日々のオペレーションでトラブルが起きない。導入後、オペレーションとして使えるようになるまでの時間ロスをなくすことがとにかく大事なんですね。

大宮:鶴田さんは、今までいろんなサービスを作られているじゃないですか。BOOK LAB TOKYOさんもですが、サービスづくりにおいて大切にしていることにはどんなものがあるんでしょうか?

鶴田:僕、社員に対してよく「ドックフーディングしよう」「ファーストユーザーであれ」と言っているんです。要するに、まずは自分たちで使ってみる。作っている本人の欲しいものを作るという思想で、スタートアップをやっているんです。だから、うちとしても現場の声を聞いて作るのは大事な要素です。

大宮:そのあたり、僕も同じですね。使う方の声を聞くのももちろん大事ですが、自分たちが使ったり体験することが不可欠で、この過程をへてやっと自分たちが意思を持ち、それを貫くことができるのだと思っています。

レジに関して言うと、お店の方に「どんなレジがいいですか?」と聞いても、具体的な答えが返ってくるパターンはほとんどないです。なぜなら、人は見たものや知っているものの範囲外で物事を考えるのは、とても難しいことだからなんですね。

実際に使ってもらって感想は聞くものの、どういった商品コンセプトにするのか、どう作っていくのかは、作り手側から提案していかなきゃいけないんですよね。

僕が鶴田さんと初めてお会いして話した時、同じ作り手だからなのか、Airレジのコンセプトみたいなものをすぐに理解してくれて、なんというか、共鳴してもらっているような印象を受けたんです。

一方で、BOOK LAB TOKYOさんでなにを大事にするのかなどもちゃんと考えられていて、その上でサービスを選んでいた。その目線の中からAirレジを選んでいただいたのは、僕として本当にうれしかったんです。

鶴田:1つ補足しておくと、なにかを選ぶ時、必ずどこかに妥協することってあるものだと思っています。その妥協ポイントが一番少なかったのも事実なんです。

妥協ポイントを超えるために必要なものは、サービスのコンセプトへの共感や、それが持続され、改善されていくと確信できることかなと思いました。Airレジには、妥協ポイントを超えるものがあったんですよね。

大宮:ぶっちゃけ、Airレジへの妥協ポイントは……?

鶴田:やはり、商品管理ですね。

大宮:商品管理! それはBOOK LAB TOKYOさんの特性上、登録する商品(書籍)が多いため……?

鶴田:そうですね。そこの工夫は、やはり苦労しました。今はみんな慣れたので、新しいスタッフのオペレーションコストに関しても、そこだけ少し時間がかかることも織り込み済みです。でも、年間7万タイトルも刊行されているのが出版業界です。少量多品種の業態に対しては、まだ十分ではないかなと……。

大宮:ここでお伝えするのもあれなのですが、ご安心ください、商品登録できる上限数は大幅に改善しています。BOOK LAB TOKYOさんにあるたくさんの書籍が全て登録できるくらいまでに進化しています。

具体的な仕事の話になってしまいますが、BOOK LAB TOKYOさんは在庫管理もしているんですか? とても手間のかかる、お店の方々を悩ます作業だと多くの方々からお聞きします。 

鶴田:それでいうと、在庫管理が課題であり、取り組んでいきたいと思っています。少量多品種で仕入れ、販売、返品というプロセスがある書店の在庫管理は本当に大変で、通常は取次会社が提供するPOSシステムを利用します。それがAirレジの中でも完結できたら素晴らしいのにと思っているんですけど。

大宮:なるほど。僕らはサービスを作る時に大事にしているのが、ユーザーにヒアリングすることはもちろん、ユーザーがなにをやっているのかをしっかり観察することです。声なき声、じゃないですけど、実際に行動していることでヒアリングでは出てこないニーズを見つけることができます。加えて、自分でやってみる、というのもすごく大事なんです。お店の方々になりきって共感してサービス作りに活かすことを大切にしています。

Airレジを始めた時、立ち上げメンバーの1人は飲食店を経営して、そこで試験させてもらったこともありました(編集部注:リクルートは副業可)。自分たちが持っているコンセプトが正しいのかどうか、それを機能に落とし込めているか、すごく試行錯誤しました。今お話にあった商品管理も、僕なりのソリューションだったんですね。

鶴田:たとえば、スマートフォン版のAirレジがもしあれば、朝スタッフが出勤して、仕入れ在庫を簡単にピッと登録できるとよりいいなぁと思ったりすることがありますね。今だとPCを立ち上げてログインして、管理画面から商品データを追加して登録して……となるので。

汎用性を保つため、ユーザーの要望にどこまで応えるか

鶴田:大宮さんのお話を聞いていて思うのは、同じ小売業とか飲食業にしても、さまざまな商品バリエーションがあります。すべて適応しようとすると相当大変じゃないですか。

例えば、季節性がある商品ばかりだと入れ替えが多いので在庫管理はそれほど重要ではない。でも、グランドメニューがある程度決まっていると、在庫管理が必要になる。僕らみたいな本屋だと、毎日数十冊増える日もあったりします。こういった、それぞれ違いすぎるニーズに対して、なにか課題感みたいなものは持っていたりするんですか?

大宮:そうですね。Airレジだけでなく、ある業種向けサービスは同じ課題を抱えているかもしれないですね。

課題があり、それに対するソリューションはどの業種のものでもいいという発想が、そもそもあったりします。なので、飲食業界のため、小売業界のため……というのではなく、それぞれみなさんがお持ちの課題をAirレジが解決する。それが基本コンセプトです。なので、今鶴田さんがおっしゃったことは、モノづくりとしてすごく悩みましたね。

例えば既存のシステムに対して、ユーザーの要望に合わせてカスタマイズできる。それによって追加料金をいただく。これでユーザーの実現したいことができるようになりますが、一方で汎用性がなくなるんです。

世の中は変わっていく。変えるためには、高い保守料や機能開発コストをいただかざるを得ない。僕らとしても細かく期待に応えたい気持ちはありますが、将来を考えた時、お店の方々にとっての学習コストや運営コスト、サービス追加コストなど、トータルでコンセプトを提案していくようなカタチにしていかないといけないと思ったんです。

そこでカスタマイズを選ぶと、「Aというお店にとっていい」「Bのお店にとっては半年後くらいまではいいけれど、1年後にはダメになる」となるかもしれない。それはバランスをどうとっていくのがいいのか、社内でもすごく議論していますね。

鶴田:やはりそうなんですね。

大宮:ただ正直、これには正解がないと思っているんです。自分たちが持っているコンセプトを大事にしますが、結局、それをユーザーに評価されないと意味がない。なので、ユーザーが望むものを100パーセント叶えるというよりも「将来的にこうなるといいな」に向けて作っているという感じですね。

決済がたくさん登場する中「◯◯のクレジットカードは受け付けられない」「電子マネーだけ使えない」が増える。お店側としては、そういった事態を防ぐために、対応できる機種ごとに投資することになる。そういった先々のことを考えた時、決済の自由度をどうやって保てるか、僕らはいつも議論しているところなんです。本当に「未来のお店の方々に喜ばれるものをどうやって提供し続けられるか」を、会話しながら作っている感じですね。

―「◯◯のクレジッドカードを使えない」を防ぐために、それぞれに対応する決済システムを揃える必要があったんですね。

鶴田:そうなんです。Suica用とかカード用とか、いろいろごちゃごちゃとレジ周りに並べることになるのですが。それは自分で見てみてもあまり印象が良くないですし「1台にまとめられないのか」と思うところはありました。

支払う行動はシンプルなものがいい

あと、加えて大変なのが、それぞれ決済オペレーションが違うことです。決済システムを増やす=スタッフが覚えなくちゃいけないオペレーションが増える&契約手続きも増えるというのが、これも悩みのタネでしたね。

僕は今回のBOOK LAB TOKYOが初めての店舗運営なので、比較対象はないですが、やはりAirペイのように「1つだけでほとんどの決済がOK」というのは、すごく楽になっていると感じますね。

大宮:実は僕、お店で並んでいる時、こっそりレジ周りを写真に撮っていてですね……。(写真を見せて)とある店舗、これ成田空港のお店なんですけど、クレジットカードや交通系IC、Apple Pay、そのほかWAONなど、さまざまな決済に対応するために、複数台の決済システムを導入しているんです。デカいPOSにクレカ用端末2台、WAON・ID用端末にSuica・Edy用端末がつながっていて、おかげでカウンターは本当にごちゃごちゃです。

Apple Payで支払いたいと伝えた際に、4つある端末のどれにかざせばいいか直感的に分からなかった……。店員さんに聞いてもよく分からないから、諦めて現金で払いました。現金を持っていたから良かったものの、なかったらどうなっていたのかと。僕ですらわからないから海外旅行者ならなおさらわからないと思いますし、手持ちの現金があるかも分からない。こんな負を解決したいんです。

1つにまとめることで、先ほど鶴田さんが言われていたように、お店の方々が覚えることも少なくなりますし、場所も取らない、そしてユーザーもなんの煩わしさもなくスピーディーに支払うことができる。お店にもユーザーにとってもカンタン・シンプルってのが一番。

鶴田:そういえば、今年に入ってSuicaなどの交通系電子マネーを使うお客さんが増えましたね。店長も喜んでいます。

大宮:あ、そうなんですね!

鶴田:BOOK LAB TOKYOではコーヒー1杯だけの決済も多く、そこでピッと決済されるようになった印象がありますね。スタッフからも「かなり多いですよ」と聞いています。Apple Pay対応も楽しみです。

大宮:それは物理的なプラスチックカードでですか? それとも、iPhoneとかApple Watch?

鶴田:どちらもですが、やはりスマートフォンをかざす様子は目立ちますね。うちに来るお客さんに関しては、最新のiPhone7で決済される方も最近よく見かけます。

僕自身も、一時期はオートチャージのSuica対応クレジットカードを使っていましたけれど、Apple Pay経由でSuica支払いができるようになって、カードは今は完全にお蔵入りしていますね。

大宮:お蔵入り(笑)。

鶴田:iPhoneの中に集約されることで、業界全体にいろんな動きがありましたよね。それが今、最終的なユーザー体験になってきている。お店として、提供する側にいる者として、「Suicaに対応しました」「iPhoneで支払いができます」と言えるのは、やはりうれしいですね。

大宮:「使えるようになりました!」というのは、どうやって伝えているんですか?

鶴田:お店にポップを出しているのと、Twitterなどを使ってたくさん告知します。そのときにリプライが飛んできて「うれしいです」と言ってもらったことがありました。

大宮:では、現金で払っていた方が1度Suicaで払うと、その後はずっとSuica?

鶴田:そうですね。完全に切り替わっていますね。

「便利」が溢れすぎるのは良くない

―先ほど大宮さんが「未来のお店の方々に喜ばれるものをどうやって提供し続けられるか」と話されていました。そのあたり、もう少し具体的に教えていただけますか? 決済を1つにまとめることで、今後はどんどん人間にしかできないことが浮き彫りになるかと思うのですが、そのあたりもどう見られていますか?

大宮:僕らとしては、便利なもの画一的なものは確かに必要ですが、一方で溢れすぎるのは良くないと思っているんです。

例えばAmazon Goは画期的ですし利便性が高いのですが、ものを買うという体験が画一的になると考えています。素早く済ませたいシーンもありますが、人は利便性だけでなく、いろんな体験をしたいと思うシーンもがあります。

僕らとしては、利便性がある一方で「お店ならではのことがしたい」「コンセプトを活かしたい」という方々を支援するサービスを作りたいんです。つまり、人と人との関係性を無くすではなく、人と人との関係をより自由に、そして強めてくサービスが作りたい。

決済サービスを導入すると、お金もかかるし、作業も覚えなきゃいけないし、レジ周りでもいろいろやらなきゃいけないし。お店の方々がそういったものに時間を割くのではなく、持っているコンセプトにまっすぐ向き合えるようにする。余計なことを考えなくてもいいようにする。これが、Airサービスのコンセプトとして、すごく大事にしていることです。

キャッシュレスは1つの手段です。そういったサービスが広がっていくことは、僕らにとっても重要です。一方で……どうなんですかね。鶴田さんもサービスを作っている立場ですし、お店を経営している立場でもあります。

今、世の中はキャッシュレス化すると言われていますが、今後お店はなにを大事にしていくことになるんでしょうか。例えばBOOK LAB TOKYOさんではなににこだわっていくことになるのか……とか?

鶴田:うちと対極にあるのはコンビニだと思っています。とにかく効率化を目指し、商品をさばいていく。うちは接客業があり、小売業でもあるところでちょっと特殊ですが、回転率や滞在時間を考えると、会計自体はそれほど急がなくて大丈夫なんです。

決済が電子化されることで、それが符号的役割を果たして、個人と結びつくきっかけになるわけですよね。お客さんが過去にどんな商品を買ったのか、来店頻度や好みはどうなのか。接客業にとって、進歩だと思っています。レジトークとして「先日のあの本はいかがでしたか?同じ著者の新刊が来月出ますよ」といった話題が作れるのではないかな、と。

BOOK LAB TOKYOは、毎日3〜4種類の豆を仕入れて提供しているコーヒースタンドでもあるので、書籍だけでなく、お客様のコーヒーの好みの味や、好きな豆の品種も分かる。自然な形でおすすめ商品を提案できますし、お客様との対話による満足度も高まる。スタッフもきっと意識が変わりますよね。それは、当店で求めているニーズです。近い将来、それができると想像すると、とても楽しみですね。

大宮:今お話いただいたのは、どちらかというと高い生産性、高い効率性で商品管理などのバックヤード作業をなくして、接客に時間をかけて、人と人とのふれあいを大事にしたいということですか?

鶴田:そうですね。顧客体験にフォーカスできるのは大事だと思っています。現金払いだと、それで手一杯になります。レジでお釣りを間違えないようにしっかり数えてたりするだけで、終わってしまいますから。

でも、Suicaなどでピッとしていただくのは、本当に一瞬です。だから、そこに「間」が生まれる。電子決済が増えてくると、お客さんの「顔を見て」レジができる。そこの体験をフォーカスできるのは大事ですね。