共感を生む「13文字」の法則

――マツコ・デラックスさんのお話しを聞いていると、なぜか自然と「うんうん、そうなんだよなー」と納得してしまいます。ほんとに自然とそうなってしまう。あの話術には、どんな秘密が隠されていると思いますか?

前田鎌利氏(以下、前田):僕、マツコさん大好きなんですよね。だから、テレビを拝見しながら、よく分析しています(笑)。それで指摘したいのは、まず第一に「13文字の法則」ですね。

――「13文字の法則」?なんですか、それ?

前田:マツコさんのコメントって、すごく短いですよね? 共演者をばっさり切るトークが大人気ですが、第一声はほんとに短い。ズバッと印象的な言葉を吐くわけです。そして、その多くは13文字以内にまとまっています。

これはおそらく、テレビ画面のテロップの文字数に合わせているのではないかと、私は考えています。

テロップの文字がずらずら長いと読めないですよね? だから、13文字以内に収めることで、音声と文字の2つの要素でドッと強い笑いが生まれる。自然と共感を生んでいる背景には、13文字の法則で、一発で僕たちの心に入るメッセージを打ち出しているからだと思うんです。

――なるほど、おもしろいですね。でも、なぜ、13文字なんですか?

前田:これは、人間の短期記憶のスペックによるものですね。どんな人でも一度に判読できる文字数は13文字程度と言われています。それ以上の文字数のものは文章として読まないと意味が理解できない。

だから、『社内プレゼンの資料作成術』と『社外プレゼンの資料作成術』でも、「キーメッセージは13文字以内の『強い言葉』にまとめる」と繰り返し述べています。

社内プレゼンの資料作成術

11月2日に開催する「ダイヤモンド社プレミアム白熱講座」で詳しくご説明するのですが、プレゼン資料に限らずさまざまな資料をつくるときには、読み手の心にアプローチするために、人間の脳のあり方を意識することが重要です。日本最大のニュースサイト「Yahoo!」のニューストピックの見出しも13文字が上限になっているのは有名な話です。

横田伊佐男氏(以下、横田):つまり、マツコさんは、瞬時に「見出し」をつくる能力に長けているということですよね。

「見出しをつける」とは、読み手や聞き手の「脳内処理負担」を減らす作業です。長い文章を読んだり、長い話を聞いたりしてから「要はどういうことなんだ?」と読み手や聞き手がまとめるのは、とても負担がかかります。見出しは、その負担を書き手や話し手が代理するということなのです。

試してみるとわかりますが、新聞の記事本文だけを読んで、自分で見出しをつけようとすると、結構な労力がかかります。新聞のつくり手は、その記事で「要は何が書いてあるか」が一瞬で読み手に伝わるように、見出しを練るわけですね。

しかも、強い言葉でなければ、誰も、記事本文を読んではくれませんから、そこに相当の知力を振り絞るわけです。それをマツコさんは、話し手として瞬時に見出しをつけている。これは、すごいコピーライティング能力だと思います。

「マツコ・デラックス流」のプレゼンで成果を出す

――このマツコ流の「見出しづけ」の技術、ビジネスのプレゼンに応用することはできるのでしょうか?

前田:できると思います。とくに「社外」プレゼンに有効でしょうね。マツコさんになったつもりで見出しをつけてみたり、説明をしたりしてみると、相手に伝わりやすくなるかもしれません。

というのも、たとえば営業に行ったときに、いきなり細かい話をしても聞いてもらえないですよね? それよりも、なにかインパクトがある短い言葉を口にしたほうがよっぽど効果的です。

そして、「どういうことだ?」「その話の先を聞きたい!」と思ってもらう必要がある。だから、マツコさんが営業したら、ものすごい結果を出すと思いますね(笑)。

――たしかに……。

前田:それだけじゃないんです。営業に行ったときに、向こうの決裁権限をもっている人が同席してくれることはほとんどないですよね? つまり、営業をかけた先方担当者に、社内の決裁権者を説得してもらわなければならないわけです。

そのときに、こまごまと文字のつまった資料を決裁権者に渡して、「なんかよくわからなかったんですけど、こんな営業がありました。ざっと目を通していただけますか?」などと言われたのでは、全然ダメ。その決裁者は、100パーセント資料を読んでくれません(笑)。

ところが、インパクトのあるワンフレーズを先方担当者にインプットできれば、それを決裁者に伝えてもらうだけでも効果的。「営業資料を読んでおこうか」と思ってもらえるわけです。

この「また聞き効果」を生むためにも、短くて強いワンフレーズは非常に重要です。

マツコさんのワンフレーズだって、「マツコが昨日、こんなこと言ってたよ」などと、視聴者の伝聞で伝わって、ファンを広げているのではないかと思います。この伝播力がすごいんじゃないですかね?

横田:確かに「また聞きでも正確に伝わるように」というのは重要なポイントですね。強くて短いキャッチコピーをつけられるかどうかで、伝播力が全然違います。

説得力を生み出す「型」

前田:そうですね。もちろん、マツコさんのようになるには才能が必要ですが、僕のような凡人でもある程度はできる。というのは、そんなフレーズを生み出すためにも「型」があるからです。

横田:「型」ですか?

前田:はい。まず、数字を使うことです。「売上倍増」と言うより、「売上2倍」と数字を使ったほうが、目に飛び込んできますよね?

そのうえで、比喩を活用するといいですね。『社外プレゼンの資料作成術』でも紹介しましたが、「比喩法」を使うと、数字のインパクトをより強めることができます。

社外プレゼンの資料作成術

よく、「東京ドーム○個分の広さ」なんて表現しますよね? あれです。「1,000平方キロメートル」と言っても実感がわきませんが、「東京ドーム○個分」と聞くと「おお、すごい!」と実感してもらえるわけです。

――なるほど。それを、どんなふうに使うのですか?

前田:たとえば、僕が社内システムの営業マンだとします。そのためには、そのシステムを導入すれば、導入企業の経費削減になることを訴える必要がありますよね?

そのときに、単に「経費削減」と言うよりも、「年間5,000万円のコスト削減」と数字を使ったほうがグッときますよね? ここで、さらに比喩法を使います。

たとえば、営業先の会社が営業マンを増強したいと考えているとします。ならば、「営業マン10人追加採用が可能」と置き換えてあげるわけです。

横田:なるほど、それは効果的ですね。つまり、相手のニーズに合わせて、数字を比喩的に読み替えてあげるわけですね?

前田:そうです。やはりプレゼンは、どこまで相手の立場に立てるかが大事ですから。相手がほしがっている数字を見つけるというのは、強いフレーズを生み出すうえで非常に重要なことだと思います。

「社長の視点」でプレゼンするとうまくいく理由

横田:それは、社内プレゼンでも同じなんでしょうね。僕は前田さんの『社内プレゼンの資料作成術』を拝読して、「社内プレゼンで絶対に押さえるべき『3つのポイント』」という項目にとても感銘を受けたのです。

社内プレゼンで絶対に押さえるべき「3つのポイント」 1.「本当に利益を生み出すのか?」という財務的視点 2.「現場でうまく回るのか?」という実現可能性 3.「経営理念」に合致した提案であるか?

たしかに、これが盛り込まれていると、本当にスムーズに決裁できるんですよね。ところが、実際にはこの3つのうち、どれかが欠けているプレゼンが非常に多い。だから、うまくいかないんですよね。

そして、重要なのは、この3つのポイントは、社長が常に考えていることだということ。つまり、「それで、本当に利益を生み出せるの?」「現場でうまく回るの?」「その提案ってうちの方針とは違うじゃない?」という社長目線で、モノゴトを考えているかどうかが重要なのだと思うのです。

前田:そのとおりですね。社内プレゼンの場合には、お客様が社長に置き換わるわけです。社長が求めているものを提供する。この姿勢が決定的に重要ですね。

会社に所属している以上、社内プレゼンは「社長の立場」で個々人が提案しなければいけない。それができないから、決裁をもらうことができずに「出直して来い」と突っ返されてしまう。その結果、お客様のためにプラスになるプロジェクトも実施できないということになる。

逆に言えば、最短最速で決裁をもらうためには、常日頃から社長の視点で見ておけばいいわけです。

横田:そうですね。要するに、社内外を問わず、相手の視点でモノを考えるのが、説得力を生み出す最大のポイントということですね。

前田:ええ、まさにそれが伝え方の神髄だと思っています。11月2日に開催する「ダイヤモンド社プレミアム白熱講座」では、この神髄を深く掘り下げてお伝えしたいと考えています。

横田:それは、楽しみです。