ヨーロッパ・日本でサッカー漬けの少年時代

──山中さんの幼少期から今に至るまでの話を教えてください。

山中大介氏(以下、山中):東京都の大田区生まれです。父親は大手広告代理店で仕事をしていて、小学校の頃は父の仕事の都合でヨーロッパに暮らしていました。小学1~3年はオランダで、4~5年までイギリスの学校に通いました。

今ではまったく話せませんが、当時は子供の吸収力で自然にオランダ語も英語も話せていたようです。

また、小さい頃からサッカーが大好きで、オランダ時代はアヤックスという有名プロサッカークラブの下部組織に所属していました。しかし、親の都合でイギリスに行くことになり、結局2年程度しか所属はできませんでした。

イギリスでもサッカーを続け、日本帰国後も地元のサッカークラブチームに所属しました。中学卒業後は慶應義塾高校に進学し、そこでもサッカー部に所属しました。

神奈川県は高校サッカー指折りの激戦区でもあり、3年生の最後の大会では準々決勝で強豪「桐光学園」に敗れ、そのまま引退しました。サッカー以外でも友達と馬鹿(渋谷で鬼ごっこ等)をやった青春時代だったと思います。

大学でアメフトを始めたきっかけは体が細いというコンプレックスからでした。生まれつき太りづらい体質で、高校までずっと体重が50kg台(身長175~178cm)だったのですが、大学でもサッカーをやろうと大学サッカー部の門を叩いた際に、「線が細いからお前は一年間ウェイトやっていろ」と言われてしまいました。その時とても悔しかったのを覚えています。

しかし転んでもタダでは起き上がらない性格で、「どうせウェイトやるなら、もっとフィジカルが求められる世界にチャレンジしてやる」と思い、周囲の反対を受けながら、アメリカンフットボールの世界に飛び込みました。

そして1年間で体重を15kg増やし、大学2年生でオールジャパンに選ばれるまでになりました。そのときは、自分のコンプレックスに打ち克った気がしてとてもうれしかったです。

社会人でもアメフトを続けるか、迷った時期もありました。しかしアメリカンフットボールの世界で最高峰はどこだとなったら、NFLじゃないですか。残念ながら、自分がNFLまで行って活躍するとは当時の自分には考えられなかったんです。

私は中途半端に社会人になってスポーツを続けるというのがすごく嫌いなんですね。社会人になったら社会人のルールで戦おうと考え、社会とは何かを考えるようになりました。

就職の基準は「自分の可能性の幅を狭めないところ」

就職の際の自分の基準は「自分の可能性の幅を狭めないところ」でした。就職活動を行うのは所詮学生です。社会に出るときに、そもそも社会というものがわからないんですね。そこで、私は自分の可能性を狭めない、とりあえず大きな会社に入ろうと、三井不動産、三菱地所、三菱商事、三井物産だけ受けました。

これも高校受験と同じで基本的にいいといわれるところばかりですね。振り返って見ると私はものすごくミーハーな選択を繰り返していますね(笑)。

就職活動を経て、一番最初に内定をいただけた三井不動産に就職しました。いざ社会に出てみるといろいろと見えてくるものがありました。「社会というものは何なのか?」ということを私は知りたかったのですが、現実に直面し、疑問を持ち始めたのがこの時です。

今、社会に求められていることを、大企業という「ハコ」で実現できるのか。

社会環境が激変する中、今までのやり方の延長線上に本当に幸せな未来があるのかどうか、多くの人々が疑問に思っています。

しかしだれもそれを指摘せず、今までやってきたことを正として既存のパイの食い合いを同業種間でやっているのが現状でした。

私にとっては疑問に思っていることが表現できない企業の状態に疑問でしたし、これが社会なのかと現実に直面しました。社会に出て、本質的に解決しなければいけない問題がもっとあるんじゃないかと痛感しました。

三井不動産を退職して、地域開発・街づくりへ

三井不動産の方針が「地域社会の役にまったく立っていない」「地域社会の敵だ」とはもちろん言わないのですが、もっと本質的に地域社会の役に立てるのでは感じてしまいました。

今のままだと本当の意味で良い社会を実現するのは難しいと思ったわけです。では誰が悪いのかと、突き詰めて整理していくと、実は社会の仕組みそのものではないかと。

企業内でそういった疑問を持つ人々が行動に踏み切れない理由に、上司からの査定、評価も大きく関係しているとします。

上司の究極は社長です。では、「社長が社会の本質的な問題を解決できるようにしたらいいのでは?」と考えました。しかし、それも現実的には厳しいのです。会長や社長がなぜ利益率を重視しているかというと株主がいるからなんです。彼らは会社に金銭的利益の最大化を強く求めます。

そして株主を説得しようとしても、無理なんです。そもそも株主は世界各地にいますし、不特定多数で、なにより顔が見えないからです。顔が見えない人に語りかけるのは虚しいです。この社会の悪いところは、顔が見えない株主が一定の権力を持つことだと思います。おそらくこの問題を大企業の内部にいて改善できる可能性はないと思いました。

なので、とりあえず会社辞めようと決めました。というのが、私が三井不動産を辞めたきっかけです。

今、私たちは「完全地域主導」の地域開発を進めています。それは、地域が地域の未来のためにお金や人やアイデアを出し合い、地域開発・街づくりを通じて、自分たちの住む地域社会の課題を解決していこうという取り組みです。

私たちはすでに20億円調達しましたが、そのすべては地域に住む・関わりのある、企業や人となっています。

中央行政や大手資本はおそらくリスクや採算指標の観点から私たちに投資をすることは難しいと思います。

地域が地域の未来ビジョンに対して共鳴したからこそ、豊かになる街を投資価値とし、私たちの会社は資金調達を行うことができました。

それでは豊かな街とは何か。私たちは人々が豊かに生きる上で大切なことは「産業・交流・教育・医療・一次産業」の5つであると考えています。それぞれの詳しい説明は割愛しますが、この5つの要素をいかに本質的に豊かにできるか、地域の方々と共に考え、挑戦し、創り上げたいと思います。

そして私たちは「株式会社」にこだわりがあります。それは経済を変えなければ、社会は変わらないという強い思いがあるからです。

私たちは地域が経済として独立し、地域が自分たちで豊かな街づくりを進めるための仕組みと仕掛けを提供する会社でもあると認識をしています。

山形県庄内地方に家族で移住

──山中さん自身は庄内の方ではないですが、庄内の地元の方を採用してきたわけですよね。そのときの苦労話があれば教えてください。

山中:いまの組織は外部パートナーの方も入れて全部で10人くらいです。今は初期メンバー集めのフェーズです。地元庄内出身の方もいれば、UIターンの方もいらっしゃいます。2020年までには100名近い会社になると考えています。

まず、私自身が庄内出身でないことが、地域の人たちとの関係性での苦労につながったかというと、実はあまりそういった経験はありません。

私自身が家族と共に住民票を移して庄内に住み始めたことを、地域の人たちは「よくそんな選択をしたね!」と言っていただけますし、覚悟が本気だとわかるにつれて、本当に多くの地域の方が協力していただけるようになりました。

ただし採用については、とくに「庄内から全国の人たちを募集」することの難しさを感じています。

今回アマテラスさんとお会いしたのも何かのご縁だと思い、ぜひ今後ともよろしくお願いできればと考えております。

YAMAGATA DESIGNが求めるのは、社員のストーリー

藤岡:山中さんが求める仲間の人物像など教えてもらえますか?

山中:会社なんてものは単なる「ハコ」にしか過ぎないと思える人に来ていただきたいと思います。人が本当に豊かに生きる社会の実現に向け、やらなければならないことはたくさんあります。そのために大切なことは、個人の志であり行動です。

私は代表取締役ですが、会社法上必要だからその役職を務めているに過ぎません。YAMAGATA DESIGNは地域経済から街づくりをデザインする、まったく新しい地域開発の「ハコ」です。

その「ハコ」を通じて、社会を良くしたい、地域社会を良くしたいと思って来てくれる方に来ていただきたいと考えています。

そして私たちのチームに参加いただける方には、その人自身のストーリーが必要です。YAMAGATA DESIGNで働いているから「YAMAGATA DESIGNのストーリー」ではなくて、YAMAGATA DESIGNで働いている○○さんがなぜ今回はこういう思いをもって取り組んでいるのかという「1個1個のストーリー」を大事にしていくようにしていきたくて、我々の会社HPには実は一人ひとりのストーリーが載っているんです。

しかも、私たちの会社の社員だけではなく、プロジェクトに関わる人々のストーリーも掲載させていただいています。

結局は会社ではなく個人です。ですからその人自身のストーリーをしっかり語れる人であることは私たちの会社の採用前提です。最強の個人の集団を作っていきたいと考えています。

藤岡:最後にYAMAGATA DESIGNで働く魅力を教えてください。

山中:「5年後ぐらいに私たちの会社が存在していれば、それは私たちの会社が伝説になっていることを意味している」と社員とはよく笑いながら話しています(笑)。

私たちの事業のリスクは大きいです。しかし、誰かがやらなければならない事業でもあり、だからこそ挑戦する価値があると思います。

完全地域主導の地域開発は、これからの時代の新たなスタンダードになると考えています。私たちはここ庄内からその歴史を作っていきます。

地域ファイナンス、地域不動産開発、教育事業、医療事業、一次産業事業、ホテル事業、図書館事業、etc、私たちの行動・事業は多岐に渡ります。アマテラスさんを通じて出会える方々を含め、多くの志持つ方々と共に、挑戦し続けられれば幸甚です。

藤岡:山中さんの熱さにやけどしそうです(笑)。素晴らしいお話ありがとうございました!