ニッチ商品がバカ売れする時代へ!?
ネット×ハードウェアが実現する「グローバルニッチ」の世界

尾原和啓×岩佐琢磨 #1/2

『ITビジネスの原理』10分対談
に開催

インターネットの発展によって、モノづくりの在り方が大きく変わりつつあります。これまでは大衆にウケるヒット商品しか売れなかったのが、ECやソーシャルの力によって、特定層にしか需要のない"ニッチ商品"がその存在感を強めているといいます。"家電のイノベーション"を起こす岩佐琢磨氏とITビジネスのプロ・尾原和啓氏が、その構造について語りました。

"ニッチ家電"が売れるようになった理由

尾原:CES(世界最大の家電製品イベント)に行かれていたみたいですが、今年はどうだったんですか?

岩佐:昨年からの流れでやはり「ウェブ ✕ ハードウェア」はすごい勢いできてますね。こう言うとすぐに日本だとインターネットに繋がるテレビとかインターネットに繋がるメガネってあったね、みたいな話になりがちですけど。

尾原:だいたいウェアラブルの話で終わってしまいますからね。

岩佐:海外はキックスターター(Kickstarter)とかインディゴーゴー(Indiegogo)といったクラウドファンディングの仕組みがあり、「こんなマニアックなハードウェアがCESに出てきたか!」という驚きがありますから。もうゾロゾロゾロゾロと連中は出てますんで。あれは非常に面白い流れですね。

尾原:どうマニアックなんですか?

岩佐:要するにインターネットが出てきてハードウェアのバリエーションが増えたという事実があり、マニアックというのは、ある特定の趣味の人のための機械といったものです。

たとえば登山する人のための機械。登山道具ってアイゼン(靴底に装着する金属製の登山用具)とかピッケル(杖の先につるはし状の金具をつけた登山用具)とかいろいろとあったじゃないですか。でも登山専用のGoogleグラスみたいなやつはまだないですよね。

尾原:ないですね。

岩佐:これって絶対に需要があるんです。標高や登山ルートが表示されるとか高山の空気の薄い危険ポイントがわかるとか、僕は山登りしないので詳しく必要な機能はわからないですけど、登山する人のために考えられたGoogleグラス。落としても壊れないとか、めちゃくちゃ軽いとか。

たいてい「そんなもの作ってもたいして売れないでしょ」となりますよね。ピッケルならまだしも、そんなん付けて登山する人なんてすき間の中のすき間。でも20世紀は存在しなかったこの超ニッチが、インターネットが登場してがらっと変わりました。考えてみてください。世界の人口70億人のうち登山できる人は何人いるだろうと考えると、けっこうなボリュームでいますよね。

尾原:世界で考えればけっこういそうですね。

岩佐:たとえば100万人として、その10%~20%が買ってくれたら、それで10万台、20万台売れますよね。

尾原:家電としてはヒットのレベルです。

岩佐:でもインターネット以前は登山用Googleグラスなんて作っても、世界の登山愛好家に知らせることができなかった。フランスの登山ショップのおっちゃんのところへ営業に行って「置かせてくれ」とがんばってお願いして、それでフランスにいる登山が好きな人たちの0.1%にやっと知らせることができた、みたいなことです。

尾原:ですね。商品の存在を知らせる手段がほとんどないですから。

岩佐:世界何十か国を行脚してもようやく0.5%みたいな世界だったわけですよ。それがインターネット、特にソーシャルメディアが出てきて加速度的に世界が変わったのだと思います。もちろんモノはいいものであることが前提ですけど、「登山家のためにGoogleグラス作りました」とどこかのサイトにポストする。そうすると「そんなのが欲しかった!」という人が絶対にいて、ポストをシェアしてくれます。

だってすごく欲しいけど世の中にそんなものは存在しないだろうと思っていたところに「できました!」ときたら、そりゃー話題になりますよ。商品のジャンルを登山ではなくご自身のお好きな趣味に置き換えて考えるとわかりやすいと思います。

「マニアック」を可能にしたソーシャル・流通・決済

尾原:この「10分対談」も「GoPro」(ウェアラブルカメラのブランド)で撮っていますが、まさにこのGoProもそんな流れでしたね。

岩佐:ですね。もともとGoProの社長はセミプロのサーファーで、臨場感ある撮影がしたかったというのがそもそもの始まりです。

尾原:GoProがソーシャルメディアと相性が良かったのも、サーファーにとってあの臨場感のある画がたまらなかったからですよね。「なんだこれ、すげえ!」とソーシャルでバズる。まさにこのコンビネーションです。

岩佐:さらに赤の他人が見てもGoProで撮ったサーフィンやっている映像が「かっこいいね、俺もやってみようかな」となった。だから用途がサーフィンだけにとどまらなかったということでしょうね。まあGoProまでは大成功しないまでも、特定の趣味の人たちには「これ絶対に鉄板や」というモノがあるわけですよ。わかんないですけど、料理をやっている人にとっての「レミパン」(平野レミがプロデュースしたフライパン)とか、料理しない人にとっては「なんであんなものが売れるんだ」となりますよね。

尾原:渋いところをいきますねえ。「レミパン」は「フタが立つので便利」とか「こんなにいろいろと使えるのでラクチン」とか、まさに同じことですね。

岩佐:「レミパン」はさすがにインターネットでもなんでもないですけど、つまり、あることをやる人のために徹底的に考えて作られたハードウェアと、インターネットのソーシャル・コミュニティが重なると、あっという間に世界中の愛好家にワッと広がる。マニアのために作った商品がそれこそ48時間、72時間とかそれくらいの時間でニュースになり一気に広がるんですよ。それこそ登山ニュースみたいなウェブサイトがたぶん世界中にあって、「こんなのが出たらしい」となる。

尾原:加速度的に広がりますね。

岩佐:さらに20世紀だと物流がその情報のスピードについていけなかったのですが、今は全部ECがやってくれる。それこそ尾原さんがいらっしゃる楽天もそうですけど、ECサイトに置いておけば世界中でモノが売れます。なんといってもクレジットカードで通貨の壁も超えられるのも超重要です。

尾原:基本的にモノさえ納品しておけば、物流や注文のことをほとんど気にしなくてもいい。

岩佐:要するにハードウェアの世界で今シーズンドリブン(季節商品中心)の商品開発がやりやすくなっています。

クラウドファンディングが可能にした新しいモノづくり

尾原:岩佐さんが革命的にすごいところって、モノを作るプロセスにもあると思います。昔だったらレミパンといっても金型のパターンをすごい種類作らないといけなかった。そのプロセスもだいぶ変わってきているわけですよね。

岩佐:そこも変わりましたね。中国の工場に持っていって「作って」と言えば作ってもらえるというのはやっぱり大きい。実際はそんな簡単な話ではないですけど、要するにバッと説明して設計図さえちゃんとパソコン上で書ければ、ネット経由で海外の業者にこれを送って作ってもらえるぐらいになってきましたから。

尾原:極端な話、現地に行かなくてもいいのでしょうか?

岩佐:僕は行くことをお勧めしますね。「色は黒で作ってね」と言ったら、黒とグレーの中間ぐらいの色になっていて「これじゃない」ということはありますので。

尾原:微妙なところですね。

岩佐:黒と言ってもGALAXYとThinkPadの黒はちょっと違うわけで、そういった細部や手に触った質感は現地に行かないとわかりません。ただ、昔と違って設計もすべてパソコンでできるようになったので、かなりラクになりました。とはいえ1000万円、2000万円規模の資金がいるので、僕が今日これが作りたいからと言って出せる金額じゃない。そこで冒頭のクラウドファンディングの話が出てくるわけですね。

尾原:先にみんながお金を払ってくれるので最初の資金がいらないと。

岩佐:日本のクラウドファンディングは残念ながらまだ1000万円、2000万円がバンバン集まる状況ではないですけど。CESの会場では「こいつキック(スターター)で2500万円集めたヤツだ」「これ2000万円集まったヤツ」みたいな感じで、「そら4000万円あったらここまで完成度が上げられるわな」と思います。

尾原:僕も最近、キックで「短時間睡眠できるメガネ」を注文しているんですけど、「この金額が集まったから、こんな機能を追加できたよ」というお知らせがあったり、これはすごく面白いエンタテインメントですね。

岩佐:最近ならクラウドファンディングを使わなくてもベンチャーキャピタルやエンジェル(投資家)がいるので、シークレットに作ってボンと発表してもいい。選択肢がだいぶ増えましたよね。しかしCESの会場にはほんとにスタートアップが増えたと思います。CESにはエウレカパックというスタートアップだけがあつまるエリアがあるのですが、そこも年々大きくなっていますし、メイン会場にもバンバン入り始めてます。

尾原:スタートアップが侵食してきているんですか。うれしいことですね。もう僕も4Kとかプレステ4とか単純にスペックが上がるだけではイノベーションを感じられなくなっています。

マニアを夢中にさせるグローバルニッチ

岩佐:あとニッチなハードウェアのことを、僕はいつも「グローバルニッチ」と言うようにしていますが、登山マーケットならどこの国、どこの地域に行っても同じ商品があるというものを作るのが今の流行りです。GoProも同じで、いつの間にかどこの国に行ってもアクションカムといえばGoProになっています。

尾原:ニッチでは完全にトップブランドですからね。

岩佐:ノイズキャンセリング・ヘッドフォンといえばJAWBONEですし、グローバル・ペネトレイト(世界を串刺しにした)な細い縦軸をいっぱい作っていく。これは100万台売ってなんぼのビジネスを展開する大手が苦手な領域です。世界を細くペネトレイトしてもマーケティングや営業の効率が圧倒的に悪い。大手は、だったらアメリカだけで市場シェア8割を持っていこうとする。

尾原:どちらかというとエリアに縛られたドミナント(支配的な)ブランド。

岩佐:その代わりにみんなが使うメジャーなものを作ろうとするので、今の家電業界全体が向かっているインターネットによって変革された新しいハードウェア業界がぶつかって火花を散らし始めている。徐々に新しい市場を侵食しつつあります。

尾原:それわかりやすい表現です。従来の家電業界はジオメティカル(地理的)なエリア・ドミナントの中に縛られていたけれど、インターネットの本質が点と点を結ぶことなのでインタレスト(興味)・ドミナントになっているわけですよね。ある特定なマニア・ドミナントというか、マニアに強烈な感動を与えて先に純粋想起を取ってしまうと、GoProのようにサーファーなら誰でも知っていて指名買いされる。ECのロジスティクス(物流)があれば全国どこでも届けることができる。すごいことですよね。

岩佐:インプレッシブ(印象)・ベース、インプレッシブ・ドリブンというイメージです。ハートにガツン! ときた、あるいは特定の趣味やエリアでその人たちのハートにボンと来たものであれば、そのへんの家電量販店で買うよりも、ネットで買おうとなるわけです。

尾原:まさにGoProは値段を見ずについ買っちゃいますからね。

岩佐:そんな商品ですね。

尾原:面白いお話でした。今日はありがとうございました。

<続きは近日公開>

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おばら・かずひろ 楽天株式会社執行役員・チェックアウト事業長。1970年生まれ。京大院で応用人口知能論講座修了。マッキンゼーを皮切りに、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、KLab取締役、リクルート2回、Googleなどの事業企画、投資、新規事業など歴任。現職は11職目になる。「TED」の日本オーディションに従事するなど、IT以外にも西海岸文化事情にも詳しい。
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尾原和啓氏 10分対談

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1 ニッチ商品がバカ売れする時代へ!? ネット×ハードウェアが実現する「グローバルニッチ」の世界
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