溶けない氷河の正体

ステファン・チン氏:イランのザグロス山脈を探索すると、驚くような光景を目にします。彩り豊かな、真夏でも決して溶けない氷河です。

しかし嵐が起こると、溶け出していくのが観察できます。それは、実はこの氷河が氷ではなく、固い岩塩でできているからなのです。

「岩塩氷河」には、通常の氷河とは異なる点がもう一つあります。冷たい氷の氷河とは異なり、塩の氷河は地表でできたものではありません。長い時間と圧力、浮力の力によって、地中深くで形成されたものなのです。

今日のペルシャ湾の大部分は、太古の塩の層の上にあります。この塩の層は、カンブリア紀の初期である約5億4千万年前に、海水が蒸発してできたものです。そして、非常に長い年月が経過します。

塩の層が形成されて以降、さまざまな物質がその上に堆積したため、塩の層はほとんどの地域で地下10キロメートルに埋没してしまいます。

塩ではない通常の岩石であれば、この層は埋没したままだったでしょう。しかし条件が重なると、塩の層は上昇し、地表に「浮かび上がって」きます。これは「浮力」の力です。浮力とは、海に船を浮かべたり、お風呂に泡を浮かび上がらせるのと同じものです。

太古の塩の層が徐々に岩石の下に埋没していく様子を考えてみてください。岩の層が堆積すればするほど負荷は増します。岩そのものと同時に塩の層にも圧はかかります。

こうした重圧により岩盤層は圧縮され、時の経過と共に岩盤層の密度が上昇します。ところが、上の岩盤層の密度が上がっても、塩の層の密度は変わりません。

これは、岩に水分を含んだ小さな穴がたくさんあるためです。圧力を受けた岩は、スポンジをつぶすような要領で穴がつぶれます。ずいぶんと重量のあるスポンジですよね。

ところが塩の層には水分を含有する穴がなく、スポンジというよりはレンガのようなふるまいになります。レンガはつぶれませんね。この圧力を受けた際のふるまいの差異によって、塩の層の密度は、上層の岩盤層よりも低くなります。

水ではなく、塩だから生まれた特徴的な色合い

浮力の力により、密度の低い物質は、その他の密度の高い物質よりも上に移動しようとします。そのため、上層の岩に割れ目や柔らかい箇所があれば、塩は徐々に地表に浮かび上がってきます。

これは、足の指の間から泥がにじみ上がってくるのに似ています。このようにして、地層の割れ目などに沿って、上層に堆積して形成される岩石層「ダイアピル」が形成されます。

このプロセスには何万年もかかり、うまく条件が重なれば塩はやがて地表に達し、塩の巨大な丘である「岩塩ドーム」が形成されます。ペルシャ湾岸だけでも、このような岩塩ドームが200個近くも見られます。

こうした岩塩ドームが「流れ出す」と、冒頭でお話しした雄大な「岩塩氷河」になります。チューブから歯磨き粉が押し出されるように、流れる塩は溢れ出て堆積し、周辺の渓谷に流れ込むのです。

この岩塩氷河は何キロメートルにもおよび、氷の氷河と同様にクレバスやモレーンを形成します。そして、塩に含まれる不純物により、氷河は特徴的な色彩となります。

塩は常に固形を保つものではないため、濡れれば溶け出します。しかしペルシャ湾岸は降雨量のきわめて少ない砂漠地帯であるため、岩塩氷河は溶け出すことはなく留まっています。

その他の地域でも、米国ユタ州のオニオンクリークなどの乾燥地帯では、同様に岩塩氷河が見られます。しかしもっとも見ごたえのある場所と言えばやはり、ザグロス山脈が圧巻でしょう。