実は珍しくない、光る哺乳類たち

マイケル・アランダ氏:カモノハシが珍しい動物であることに、議論の余地はありません。哺乳類でありながらアヒルの顔を持ち、卵を産み、毒があるのですから。世界の不思議な動物の中でもトップクラスの奇妙な生き物です。

さらに、実はカモノハシは蛍光色に光るのです。

肉厚で水を弾くその毛皮は、私たちにカモノハシが光ることを教えてくれます。さらには、暗闇で光る哺乳類の存在をも教えてくれるのです。

みなさんが、「カモノハシは世の常識を超越した存在だ」と思い込んでしまう前にお伝えするべきことがあります。実は、光る哺乳類はそれほど珍しくはなく、思いのほかたくさんいるのです。

蛍光発光は、その物質が光を吸収し、別の色の光として放出されるために起こります。これは、生物が化学反応によって光を生成する「生物発光」とは異なります。

実際に、蛍光発光する生物はたくさんいます。一例として、サソリの体は蛍光発光しますし、パフィンのくちばしには蛍光発光するマーキングがあります。

しかし最近まで、オポッサム(フクロネズミ)やその近親の有袋類以外には、蛍光発光する哺乳類はあまり知られていませんでした。北米に生息するムササビ(new world squirrel)は有胎盤哺乳類ですが、同様に蛍光ピンクに光る能力を持つことが明らかになっています。

“目立つため”に光る者と、“身を隠すため”に光る者

2020年の論文によりますと、博物館に保管されている複数のカモノハシのはく製標本にUVライトを照射したところ、美しいシアンの光を放つことがわかりました。

哺乳類を始めとする生き物がなぜ蛍光発光するのか、その理由はよくわかっていません。現在知られている蛍光発光する哺乳類は、夜行性、もしくは夜明けや日没時に活動する薄明薄暮性であることはわかっています。

知られている限り、日中に活動する昼行性の哺乳類の中に蛍光発光するものはいません。つまり、昼間に活動する私たち人間は、テクノミュージックのライブに行く際に、おしゃれな姿になり損なったわけですね。

暗闇だと視界が悪いため、ムササビのような薄明薄暮性(注:明け方と夕方に活発に行動する習性)の動物は紫外線が強い時に活動します。紫外線を吸収して可視光線として発光する力は、お互いを視認する際に便利なのかもしれません。

逆に、カモノハシの場合は身を隠すために蛍光発光すると考えられています。カモノハシの天敵は紫外線を使って獲物を探すため、紫外線を吸収してしまう毛皮は見つかりにくいのです。

1つ留意しておきたいのは、カモノハシは確かに哺乳類としては変わり種ですが、蛍光発光すること自体はなんら珍しくはないのです。むしろ、蛍光発光するものが多数派なのかもしれません。

私たちは、ふだんからアライグマやコヨーテなどにブラックライトを当てて歩く習慣はありませんから、蛍光発光する哺乳類は、実はごく身近にいるのかもしれません。さらに、蛍光発光する生き物がたくさんいるかもしれないという証拠もあります。

恐竜がいた時代には、哺乳類はみんな光っていた?

ムササビは有胎盤哺乳類、オポッサム(フクロネズミ)は有袋類、カモノハシは単孔類です。これらはみな、哺乳類の主な分類体系に属するグループです。進化生物学では、あるグループに属する生物に共通の形質がある場合、それは共通の祖先から受け継がれたものと考えます。

つまり、哺乳類が蛍光発光するのは、祖先から受け継いだ共通の形質(共有祖先形質)だと考えることができます。

しかし、これらの動物が「収斂進化」(種にかかわらず、環境に合わせて同じような形へと進化すること)の一例として、それぞれ単独にその形質を発達させた可能性もあります。さらなる研究が要されますが、まずはこれらの哺乳類が蛍光発光する遺伝的メカニズムを解明しておく必要があります。

すべての哺乳類においてそれが同じだった場合は、祖先から受け継いだものと考える手がかりとなるでしょう。収斂進化であった場合は、まったく別の遺伝子がよく似た働きをするようになったと考えられるからです。

しかし、太古の昔にはすべての哺乳類が蛍光発光していたと考えるほうが自然でしょう。というのも、恐竜に捕食されることを避けるため、初期の哺乳類は闇に潜む夜行性である必要がありました。初期の夜行性の動物たちにとって、蛍光発光には現代の動物たちと同様の利益があったに違いありません。

カモノハシに不思議な特性がたくさんあるのは事実ですが、闇で発光する特性は、さして特異なものではなかったのかもしれません。それはそれで、とても不思議だとは思いませんか?