感染症のかかりやすさと寒さには関連性はない

ハンク・グリーン氏:コロナウィルスSARS-CoV-2による感染症、COVID-19について、夏の数ヶ月で感染傾向が縮小する、もしくは終息するなど、さまざまな情報が飛び交っています。このウィルスが季節性の流行パターンを踏襲するか否かが、まだわからないからです。

インフルエンザウィルスや他種のコロナウィルスについての従来の情報からすると、研究者たちは、COVID-19の流行は季節性である可能性が高いとしています。

問題は、仮に季節性だったとしても、当面は状況に変化がないだろうという点です。というのも、パンデミックを起こしている感染症と、類似の既存の感染症では、感染傾向がまったく異なるからです。

今回のような新型のパンデミックウィルスは、すべての人が免疫を持っていないので、誰にでも感染してしまう可能性があります。感染拡大モデルにはさまざまなものが考えられますが、ウィルスへの季節的影響に関しては、研究者たちが関心を持つのは拡大の状況と気候、特に湿度との関係性です。

感染症へのかかりやすさと寒さには特に関連性はありませんが、季節性のインフルエンザは、一年のうち気温の低い時期に流行します。寒くなると部屋に閉じこもりがちになるため、理論上は人と人との接触率の平均値が上がり、季節性のウィルスの流行に関しては、人と人との高い密度が、感染症への感受性を上げる最大の要因だと考えられます。しかし、感染症が冬に流行する理由はそれだけではありません。

冬になると、気温が下がるだけではありません。多くの地域、特に地球上の温帯においては、湿度が低下します。多くの研究で一貫して、ウィルスは湿度が低いと生存しやすいことがわかっています。そのため、人から人へ感染しやすくなるのです。

新型コロナウィルスが湿気に弱い可能性はある

湿度が高いとウィルス感染が鈍化する理由は、実はよくわかっていません。しかし、インフルエンザウィルスやコロナウィルスなどは、人が呼吸したり咳をする際に肺から排出される飛沫の、外部表面に「乗る」ことにより感染が広がることがわかっています。

湿度が高い際には、比較的大きな飛沫が空気中に留まるため、ウィルスが付着できる表面積が広いように思われます。しかし実際には、飛沫の表面はウィルスにとって居心地が良いとは言えません。

インフルエンザウィルスとコロナウィルスは、どちらもエンベロープウィルスであり、脂質成分の層で覆われています。飛沫の表面ではエンベロープは破損しやすく、ウィルスは死滅します。つまり、新型コロナウィルスが湿気に弱い可能性は十分にあり、その結果として季節性であると考えられるのです。

少なくとも一つの論文が、湿度レベルが高い場合に、中国の一部地域でCOVID-19の感染率が下がったことを示しています。しかし、この論文は査読前のプレプリントにすぎません。

温暖湿潤な気候下での感染が少ないという指摘も多くありますが、シンガポールなどの地域では多数の感染が見られ、この議論にも疑念が残ります。つまり、新型コロナウィルスが湿気に弱いかという疑問の答えは、現時点では不明なのです。

湿度の変化に弱いことが判明した場合でも、まったく新しいパンデミックのウィルスには季節性はありません。新規のウィルスには、すべての人もしくはほとんどの人に免疫がないためです。あまりにも多くの人が感染しやすいため、湿度が感染拡大に有意な影響を与えないのです。

感染症が大流行するかどうかのカギとなる要因

過去のインフルエンザのパンデミックにおいても、同様の現象が見られてきました。季節性のインフルエンザとパンデミックのインフルエンザの流行において鍵となる差異は、感染症に対して感受性を持つ人の人数です。例えば、2009年の豚インフルエンザのパンデミックでは、従来の系統の季節性インフルエンザの流行パターンは踏襲されませんでした。インフルエンザの流行は通常であれば湿度の影響を受けますが、多くの地域において、パンデミックのインフルエンザは春夏を通して感染の拡大が続きました。

2010年に刊行された論文では、実際に起きたニューヨーク市での豚インフルエンザ流行の統計を基に、仮想のインフルエンザのパンデミックの拡大モデルが、異なる感受性のパーセンテージごとに作成されました。すると、理論上は湿度レベルが上がって感染がもっとも鈍化する8月であっても、80パーセントの人に感受性があれば、パンデミックの拡大は続くであろうことがわかったのです。5月と6月であれば、60パーセントの人に感受性があるだけでも感染拡大は続きました。

参考までに、この動画収録時でアメリカにおいて確認されたCOVID-19の感染者数は、全体に対してごくわずかです。実際の感染者数は、はるかに多いと思われます。しかし、もっとも多いとされる見積であっても、感染者数は全人口の5パーセント以下だとされます。つまり、全人口の80パーセントよりもはるかに大勢の人々に、まだ感受性があるということになります。

COVID-19が季節性のウイルスだとしても安心できない理由

まだはっきりとはわかりませんが、季節性のインフルエンザ同様に、COVID-19が季節性の厄介者になる可能性は十分にあるのです。しかし仮に季節性だとしても、COVID-19は、私たちに期待どおりに一息つかせてはくれないようです。このウィルスに感受性のある人がまだまだ多すぎるからです。私たちのゴールは、実際に感染することなく、ウィルスに感受性のある人数を減らすことです。

現時点では、人との接触を制限することが、ウィルスの感染拡大を防ぐ最善手です。もし運がよければ、ワクチンを開発するまでの時間を稼ぐことができます。ワクチンで免疫をつけることにより、ウィルスに感受性のある人数を減らすことができます。

いったん感染し回復した人も免疫を獲得できればよいのですが、免疫ができるかはまだわかっていません。仮に免疫ができるとしても、その持続期間も不明です。

いずれの方法でも、結果として私たちが努力することにより感染症に感受性を持つ人数を減らすことができます。外気の湿度がどうであれ、COVID-19が現時点のように世界を脅かすパンデミックではなく、たまに季節的に流行する程度のウィルスとして、自然に終息することを願ってやみません。