「絶望する瞬間は必ずある」
ハリウッドのセクハラ体質を告発した記者が戦い続ける理由

ロヨラ・メリーマウント大学 卒業式 2018 ローナン・ファロー

ロサンゼルスの名門校であるロヨラ・メリーマウント大学(LMU)の卒業式に、ジャーナリストのローナン・ファロー氏が登場しスピーチを行いました。 女優ミア・ファロー氏と映画監督ウディ・アレン氏の息子であるファロー氏は、約1年前にハリウッドのセクハラ体質についての告発記事を執筆。告発前夜の苦悩を振り返り、卒業生たちに人生の苦難の乗り越え方を教えました。

渦中のジャーナリストが祝辞

ローナン・ファロー氏:2018年の卒業生のみなさん、こんにちは。教職員のみなさん、学生のみなさん。おめでとうございます。

保護者のみなさん、お疲れさまでした。子ども部屋は取り壊しましょう。そして、クローゼットとして使いたかったのに、長らく使えず我慢していたスペースを取り返してください。

(会場笑)

スナイダー学長、プーン副学長、ヴィヴィアーノ会長。素晴らしいご紹介をありがとうございました。ご紹介いただいた内容からもわかる通り、この1年は私の人生の内でも、もっとも盛りだくさんの一年間でした。非常にくたびれました。

(会場笑)

ずっと不眠不休でしたので、トランプ大統領がチャック・トッドを「眠れる愚か者」と罵った時には、うらやましかったです(笑)。あまりにも眠っていなかったので、おじいさんやおばあさんが踊る、あの気持ちの悪い医薬品の広告を見て、何か副作用を起こしたのではないかと勘ぐる始末でした。

(会場笑)

この過酷な一年間で明るみに出すことができた一連の報道が、世の中に衝撃を与えることができたのは光栄なことです。

(会場歓声)

リスクを冒して私に話をしてくれた、勇敢な情報提供者たちや、これらの報道で社会を変え続けてくれた勇敢な活動家たちのおかげです。さらにみなさんが喝采すべきなのは、私だけではなく、壁を打ちつけて打ち壊し、凄惨な事実を明るみに出した、多くのリポーターたちです。

凄惨な事実を白日のもとに晒す

私たちが耳にしたのは、長い年月を沈黙の中に過ごした、性的虐待やハラスメントのサバイバーたちの声です。

男女を平等に扱わない、すべての人に敬意と尊厳をもってしても、接することのない暗部を作ってしまった過ち。これに対して、私たちは、社会全体の問題として総力を上げ、取り組んでいくべきです。卑劣な行為に及んだにもかかわらず、権力を持つ男性が長期間守られて来たシステムの闇が今、続々と白日のもとに晒されています。

たった今、私が学位授与式のスピーカーとして、温かなご紹介を受けたように、メディアが仕事の結果を出した「後」の人物を取り扱う場合は、何か素晴らしいことのように受け取められがちです。最初から綺麗に包装され、リボンで結んであるかのようです。

私は今でも凄惨な事実の取材を続けています。その中で不快な人物にも遭遇しますし、脅迫も多数受けます。取材中の収入も厳しいです。ですから、こういった温かなご紹介を受けたり、賞をいただいたり、どんなに小さくても支援いただけるのは、身に染みてありがたいです。

でも、ここでお時間をいただいてお伝えしたいのは、世間に衝撃を与える「前」に、信念を貫いて仕事をするとはどういうことか、という話です。

私が性的虐待の取材中に直面した困難について、以前に公の場で少し話したことがあります。先ほどお話ししたような、権力を持つ男性が指揮するシステムが、私を潰しにかかってきました。信頼していた人物には裏切られました。メディア界の巨大な権力が、隠ぺいの手先となりました。

「こういう話をしてくれ」とよく依頼を受けます。性的虐待についての事実をこれほどまでにも長い間黙殺してきた、強大なシステムを理解するのは、当然ながら非常に大切なことです。しかしこの話は、もっと後でもできます。今日みなさんにお話しするのは、もっと別のことについてです。

告発前に訪れた逆境

私が話すのは、物語のもっとシンプルで個人的な側面です。近い将来に間違いなく、みなさん全員が、それぞれのバージョンを経験することでしょう。ジャーナリストだけでなく、エンジニア、現場監督、教師、医師、教授、炭鉱夫にも起こりうる物語です。

現実問題として、この一年で告発してきたような事実を報道し始めた頃は、私はまったく歓迎を受けませんでした。普通に仕事をしている一人に過ぎず、この報道をサクセスストーリーだと思う人はほとんどいませんでした。

みなさんの同情を引こうとして、こうした話をしているのではありません。またとないキャリアのチャンスだと考えていましたし、誇れる仕事をしたとも思っておりますし、受けた称賛を当然のこととも思ってはいません。

しかし現実問題として、私のキャリアは風前の灯でした。食らいつけば食らいつくほど、完膚なきまで叩きのめされました。

1年ほど前、報道機関の支援をまったく受けられない時期がありました。契約はちょうど満了するところで、虐待の取材を止めることを拒否した後は、まったくの無職になりました。出版社は私を見捨て、何年もかけて書いた原稿は、1ページすら目を通してもらえませんでした。

別の出版社が、ワインスタインの記事を特ダネにしようと急いでいて、どうやら私が出し抜かれそうなこともわかっていました。この件を報道できるかすらも危ぶまれ、1年間の取材のために、すべてを捨てる価値があるのかがわからなくなっていました。私を信頼してくれた多くの勇敢な女性たちに、不利益を与える結末になる可能性もありました。

尾行され脅迫を受けていたので、私は自宅を出ざるをえませんでした。権力と富を持つ男性から、個人的に合法的な脅しを受けており、アメリカ国内でも最高の弁護士たちを使って「お前を抹消させてやる」「将来をぶち壊してやる」と言われていました。

自分のやっていることは正しいのか

圧倒的不利だったにも関わらず、やっとのことでこのニュースを世に報道する道を見出した時、果たしてみんなが関心を示すのか、非常に不安でした。なぜなら、一年間、会議室で重役たちに「こんなものは『報道』ではない」と言われ続けてきたからです。被害女性たちについて、何ヵ月も人々の話題に上り、議論と分析が行われ、大問題だと認識される「前」のことでした。

必要以上に謙遜しているつもりはありません。この報道の直後は本当に、1、2か月間どころかひょっとしたら永遠に、ジャーナリズムの仕事に戻れないかもしれない瞬間だったのです。

みなさんには、私には自信があったと言いたいところです。「自分を確信していた」「周りなど気にしていなかった」「地獄へ送られようとも信念を貫こう」と考えていた、とお伝えできればと願います。

映画であれば、主人公が不敵に笑って帽子のつばを降ろし「報道を止めたければ、俺の死体を超えて行け」と吐き捨て、肩で風を切って部屋を出て行く場面でしょう。クリント・イーストウッドあたりが主演ではないでしょうか。

(会場笑)

しかし実際のところは、私は落ち込み、怯え、果たして自分のやっていることは正しいのだろうかと悩んでいました。

私のやっていることは誤りだと、非常に説得力を持って忠告してくれる人が、大勢いました。決して悪い人たちだからではありません。1年前の世間のあり方を見て「この報道にはそれだけの価値はない。この1本のニュースを世に出すことによって、君は他の多くを失ってしまうだろう」と結論付けた人たちです。

彼らはこれまでの事実に基づき、私たちの文化が何を受け入れ、何に関心があるのか、合理的な判断を下した、私が心から信頼する人たちです。

上司は言いました。「もう止めるんだ。あきらめろ」。代理人は言いました。「あなたのキャリアにとってあまりにも障害が多い。あきらめてください」。愛する者たちですら、こう言いました。「本当にそれほどまでの価値があるの?」 世にまったく顧みられず、たかだかニュース1本のために、私のすべてのキャリアが台無しになる可能性がありました。

私はこれらの意見に真剣に耳を傾けました。「本当にそうかもしれない」と感じていたからです。

決断の成否は「後」からしか判断できない

昨年の秋、私は最悪の状況にいました。眠れず、体重が著しく落ちていました。

私は、恋人に電話をかけていました。気の毒な彼女には、ずいぶん長く迷惑をかけました。この時期の私は、彼女にひっきりなしに面倒な電話をかけていました。

次の情報提供者との接見に向かうタクシーの車内で、他社にスクープを出し抜かれそうだという知らせに大きなショックを受け、私はすすり泣いていたのです。泣くのをやめようと努力はするのですが、余計に酷いことになりました。鼻水も垂らして汚らしいありさまでした。

「ひどい空振りだった。危ない橋を渡り過ぎた。すべてを失ったのに、誰にも気づいてすらもらえない」などと言っていたと記憶しています。パートナーは言いました。「わかったわ。あとでゆっくり話しましょう。でもまずは、タクシーの運転手さんにしっかりチップを払うのよ」。

運転手の名前はオマール、ミーティングの時間にちゃんと間に合わせてくれて、対応はとても親切でした。オマール、ありがとう。

でも私はあきらめませんでした。リスクを冒して告白をしてくれた女性たちに報いなくては、自分を許すことができないと思ったからです。実際に私は、あきらめませんでした。

また、それほど高潔ではない理由としては、危ない橋を渡り過ぎたため、このニュースを世に出す以外に、抜け出す道がなかったこともあります。

あきらめることこそしませんでしたが、私は、自分が間違った決断をしたのではないかと考えはじめていました。そしてこれこそが、今日みなさんにお伝えしたいメッセージなのです。

後から振り返って初めて、自分の選んだ道が正しかったか否かはわかります。戦い続けたこと、屈辱を甘んじて受けたことが正しかったのかは、後からわかるものです。一つの報道をあきらめないことが正しかったのでしょうか、もしくは譲歩して他の道を進む方がよかったのでしょうか。

譲歩するのは臆したからではなく、人にできることは限られており、他にも世に出すべき報道はたくさんあるからだとしたらどうでしょう。

決断の瞬間は、将来がまったくわかりません。そのニュースが後にどれほどの重要性を持つかもわかりません。自分が戦っているのは正義のためなのか、エゴのためなのか、単に勝ちたいからなのか。このニュース報道では自分は果たしてヒーローなのかといった意識が、判断を鈍らせます。

しかし感覚、本能、もしくは直観的な反応でもよいのです。内なる声が、自分はどうあるべきかを教えてくれるはずです。でもその時にはまだ、確信を持つことはできません。

だからこそ、みなさんが語ってくれた、それぞれの物語に、私は感謝の念を捧げます。先が見えなくても目を向けてくれた人たち。不明瞭で愚かしく、打算的でなくても正しくあるよう促す、内なる声に耳を傾けてくれた人たちです。

LMUの勇敢な学生たちの物語

昨年の9月、ヴァンデルとマホーニーを始めとするこの大学の3年生が、ハッシュタグ「#BlackatLMU」のもとに、日々受ける偏見の物語をシェアしてくれました。不愉快ですが耳を傾けるべき物語です。彼らは、キャンパスの人種問題について大学当局とミーティングも開いてくれました。

さらに10月、親の移住の関係でアメリカに入国した若者を国外強制退去から保護し、2年間の滞在資格を認めるDACA(Deferred Action for Childhood Arrival)の廃止が決まった時には、2018年卒業生であるヘイデン・タナベが、24時間のロビー活動を行い、不法移民学生を支援する重要性を訴える声明のために、イエスズ会学生団体の会長の署名を28名分集めました。

今日、みなさんとともに卒業するはずだったマイケル・ピーターズは、昨年、臓器移植を待つ間に亡くなりました。友人たちによると、彼は控えめで物静かな人だったそうですが、大学報に情熱的な論説文を寄稿し、臓器ドナーとなることがいかに世の貢献になるかを訴えました。亡くなった後もなお、彼からは学ぶべきものがありました。

「自らを注視し、内なる学ぶべきものを見なさい。忍耐をもってこれらを成しなさい。そうすれば、あなた自身とあなたの声に耳を傾ける人の救済が約束されるでしょう」。新約聖書「テモテへの手紙1」第4章16節からの引用です。

学生たちが立ち上がり声を挙げ、正しいことを求める内なる強い感性に従い、難しい問題に立ち向かうことで私たちに教えてくれたのは、大切なことです。なぜなら、こういった行動を取るのは、みなさんが生きていく中で、今後ますます難しくなっていくからです。

私たちは、より楽な道へと流される文化の中に生きています。天秤は、抗議をする者よりも金銭を得る者に傾きます。眠れる熊を起こさずに物語を黙殺する文化であり、戦いを促す声を信じないよう迫る文化です。

私たちの文化がこのようなメッセージを発信する理由は、周囲を見回せばわかります。安易な道に流れ、不道徳で利己的に振る舞うと、讃えられるからです。世界はこのように回るのだと安直に結論づけられてしまうのは当然です。

心の奥底から絶望する瞬間は必ずある

私がみなさんに贈る言葉は以下のとおりです。

みなさんがどんな職を選ぼうとも、どんな方向に向かおうとも、みなさんのキャリアにおいて、心の奥底から絶望する瞬間があるでしょう。

例えば難民を診察する医師になるかもしれませんし、債権回収の差し押さえで稼ぐ金融業者になるかもしれません。絶対にそうはならないでほしいですけどね(笑)。

自分自身や家族、コミュニティのために、何をするのが正しいことなのか、まったくわからなくなる瞬間です。

そんな時には、どうか自分自身に対して寛大になり、内なる声を信じてあげてください。私たちはこれまで以上に、真理に導かれる自分の感性を大事にするべき時代に生きています。野心や煽情主義、セレブリティ、卑俗さや勝つためには何でもやることを褒めそやすような、気紛れな文化は必要ありません。

もしみなさんの多くが、内なる声に耳を傾けるようになり、みなさんの世代が、前の世代の過ちを繰り返さないことを証明すれば、正しい行いは、珍しいものでも、困難なものでも、特殊なものでも、プレッシャーでもなくなるでしょう。

2018年卒業生のみなさん、おめでとうございます。

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