頭をぶつけて記憶喪失することの恐ろしさ

ハンク・グリーン氏:今回は記憶喪失についてです。

ドラマや映画などのストーリー中に劇的なシーンをいれることは、とてもいい方法ですよね。

フレッド・フリントストーン(注:アメリカのTVアニメ『原始家族フリントストーン』の登場人物)の場合は、転がってきた玉に頭をぶつけてしまい、突然自分が誰なのかわからなくなってしまいました。その後、また頭をぶつけた際に正常な状態に戻りましたよね。

アニメとしてはとてもおもしろいのですが、実世界で考えてみると頭をぶつけた際の脳しんとうによって記憶喪失になることが実際にありえる上に、それはとても深刻なことなのです。

では、一体どのように記憶喪失が起こるのでしょうか?

記憶喪失でもっとも一般的な原因は、脳卒中、脳手術と感染症です。ただし、あなたの頭または身体への衝撃が、繊細な組織に損傷を加えるほどだった場合、脳しんとうが記憶喪失を引き起こすことがあります。

その損傷は数日の間、眠気や頭痛を招く場合もあり、とても深刻なものです。衝撃を受けた直後に、脳内に散在している神経細胞はとても脆くなり、外傷後記憶喪失に至ることがあります。

脳の損傷は、周辺の領域にも問題を引き起こすことがあり、それを「機能乖離」と呼びます。機能乖離は脳科学の不均衡と関連付けられています。とくに、脳内で指令を送る活動の抑制をしたり、注意力やモチベーションにおいて重要な役割を担う神経伝達物質のアセチルコリンがその一例です。

つまり、損傷を受けた神経細胞同士ではコミュニケーションを取ることができず、記憶することが困難になるということになります。

しかし、研究者たちはこれらの生物学的問題がどのように記憶喪失に関連しているのか正確には把握できていません。とくに、科学者たちが正確に把握できない理由としては、逆行性と前向性の2種類の記憶喪失があるためです。さらに複雑なことに、両種類とも脳しんとうに起因しているのです。

逆行性健忘は、過去に起こったことを忘れてしまうことです。例えば、映画『ボーン・アイデンティティー』でジェイソン・ボーンは自分が誰なのか、または自分がどこから来たかを覚えていません。

脳しんとう患者が怪我を負う前になにが起きたのか、そしてそれがどうして起こったのかを忘れているということは一般的なことです。本当にひどいケースでは、患者は数日間、数週間または数年間の出来事さえ忘れてしまいます。

脳組織の一部が回復すると、記憶の一部は戻り始めます。しかし、怪我直前の出来事はけっして思い出すことはできないでしょう。

一方、前向性健忘は新しい出来事を記憶できないという症状のことです。例えば、映画『ファインディング・ニモ』でドリーは新しい出来事をすぐ忘れてしまいます。

一部の患者は脳しんとうの後、注意を払うのに苦労することさえあります。それはアセチルコリンの不均衡に関係があるかもしれません。

医者たちは、頭部外傷の深刻さを測定するために、これらの症状すべてを使うことができ、患者の回復を追うことができます。

脳しんとうがどのように私たちの頭に影響を及ぼすのかを研究することが、よりよい治療がうまれる鍵となるでしょう。その治療が叶えば、患者たちは少しでも早く回復し、記憶を取り戻すことができるはずです。