「習慣を疑え」 PayPal創業者ピーターティールが新たな挑戦の大切さを説く

ハミルトンカレッジ 卒業式 2016 ピーター・ティール

PayPal創業者であり投資家でもあるピーター・ティール氏が、2016年度ハミルトンカレッジ卒業式に登壇。元々は弁護士を目指し、レールにしたがって勉学に励んできたというティール氏が、PayPalを創業することになったきっかけについてスピーチしました。自身の経験を振り返った上で、レールをたどることこそが最大の問題であり、新しいことを行うことこそが大事なことであると説きました。

大学の頃は弁護士になりたかった

ピーター・ティール氏:ご紹介いただき、ありがとうございます。この場に立つことができて、大変光栄です。

多くの卒業式講演者と同様に、私がここに呼ばれたのは、ご両親や教授たち以上に、みなさんの身の上をまったく知らない希少な人間の1人だからなのでしょう。

(会場笑)

みなさんの多くは、21か22歳ですね。みなさんは、今まさに社会で働き始めようとしています。

私はこの21年間、誰の元でも働いたことはありません。今日ここでその理由を話すとすれば、私にとって未来を考えることは、自分の生計を立てることにつながるからだと言えるでしょう。

今、行われているのは卒業式です。新たな始まりです。私はテクノロジー投資家として、この新たな始まりに投資をしています。私は、まだ目に見えないもの、まだ生まれていないものを信じているのです。

キャリアの初めの頃から、そういったことを行っていたわけではありません。1989年、みなさんが今いる場所に座っていた時、私は弁護士になりたいと言っていました。

実際に弁護士が1日の間なにをしているかは知りませんでした。しかし、まずはロースクールに行かなければいけないのは、わかっていましたし、学校は私にとって、馴染みのあるものでした。

中学、高校、大学、そしてそのままロースクールへ行くまで、私は競争心を持ちながら進学してきました。

子供の頃からずっと挑んできたのと同じように、ここでもまた試験で競い合うのだとわかっていましたが、今度は専門職の社会人になるためにやるのだと、みんなに言うこともできました。

そしてロースクールで猛勉強をした結果、私はニューヨークの大手法律事務所に就職できましたが、そこがとても奇妙な場所だと後から気づきました。外から見れば誰もが入りたがる場所なのに、中から見たら誰もが出たがる場所だったのです。

(会場笑)

7ヵ月と3日後に退職した時、同僚たちは驚いていました。そのうちの1人は、アルカトラズ島から脱獄できるなんて知らなかったよ、と私に言ってきました。

(会場笑)

最大の問題は“レールをたどること”

今思うと変な話です。脱出するためにすべきことはただ1つ、目の前のドアをくぐり、戻らなければいいだけです。

しかし同僚たちは、出て行くのは非常に困難だと感じていました。彼らのアイデンティティーのほとんどが、競争を勝ち抜き、トップを奪うことにとらわれていたからです。

私は法律事務所を去るとすぐに、最高裁判所の事務官の面接を受けました。若い弁護士にとっては、その時に取れるトップ賞のようなものです。間違いなく、競争人生の最終ステージといっていいでしょう。

しかし、私は落ちました。その時は完全に打ちのめされました。まさに、この世の終わりのようでした。

それから約10年後、私は古い友人に偶然再会しました。面接の準備を手助けしてくれた人物で、しばらく会っていなかったのです。彼の第一声は、「やあ、ピーター」や「元気か?」ではなく、「それで、事務官になれなくて、がっかりしているか?」でした。

もしあの最後の競争に勝っていたら、私が中学校から続いていたレールから外れずに、カリフォルニアへ引っ越して新規事業を共同設立することも、新しいことを生み出すこともなかったと、私たち2人は知っていたからです。

弁護士を目指していた野心を振り返ると、将来の設計よりもむしろ、現状のアリバイ作りだったように思えます。両親や友人、そしてほとんどは自分自身に聞かれた時に、心配するな、レールから外れてないよ、と答えるための言い訳だったのです。

私は人生のレールを順調に進んでいました。しかし、回想してみて、どこへ向かおうとしているのか深く考えもせずに、レールをたどることこそが、最大の問題なのだとわかったのです。

テクノロジーの新規事業を共同設立した時、私たちは正反対の方法を取りました。はっきりとした非常に大きい計画がある業界の方向性を変えてやろうと意識的に試みたのです。

私たちのゴールはまさに、新しいデジタル通貨を創り、米ドルに取って代わることでした。

エズラ・パウンドは「新しくせよ!」と言った

私たちのチームは若かった。事業を初めた頃、23歳以上は私だけでした。初めてサービスを開始した時、最初のユーザーは自社で働く24人だけでした。

一方、国際金融業界では、100万人もの人々が働いていました。彼らの何人かに私たちの計画を話しているうちに、あるはっきりしたパターンに気づきました。銀行で経験を積んだ人間ほど、私たちの事業は成功しないと考えてしまうのです。

彼らは間違っていました。今や世界中の人々がPaypalを使って、毎年2,000億ドル以上の取引を行っています。

私たちは最終目標を果たすことはできませんでした。世界はいまだにドルが優勢の状態です。この世界を奪うことはできませんでしたが、しかし、その過程のなかで、成功を収めた企業を創ることはできました。そしてもっと重要なことは、新しいことを行うのは難しいが、決して不可能ではないと学べたことなのです。

みなさんは人生の現時点で、未来に比べて、限界もタブーも恐れも知らないはずです。この無知を無駄にしてはいけません。外へ出ましょう。そして先生やご両親が無理だと考えていたこと、やろうとも思っていなかったことを実行するのです。

教育や伝統には価値がないとみなせ、と言っているわけではありません。たとえば、ここハミルトンカレッジを1905年に卒業した著名人、エズラ・パウンドからもインスピレーションを得ることができます。

パウンドは詩人であり、ちょっとした預言者でもありました。彼は己の使命を3つの言葉で、こう宣言しました。「新しくせよ!(Make it new)」。

彼はこの言葉と同時に、古きものについても語っていました。伝統における最高のものを取り戻し、そしてそれを一新することが彼の望みだったのです。

ここはハミルトンです。アメリカにあり、アメリカは西洋と呼ばれる世界の一部であり、私たちは独特な伝統を持っています。受け継いできた、その伝統とは、「新しいことを行う」ということです。

フランシス・ベーコンやアイザック・ニュートンの新しい科学は、今まで本に書かれていなかった真理を発見しました。

この大陸全体は、新世界と呼ばれています。この国の創始者たちは、「新世界の秩序」と呼んでいるものを創ろうと試みました。アメリカはフロンティアの国です。新しいものを探さない限り、伝統に忠実とはいえないのです。

発展を遂げたということは、アメリカの歴史が終わること

では、どうすればいいのか? 今日はどれくらい新しいといえるのか?

「急速な変化の時代を私たちは乗り切ろうとしている」という言葉は、よく言われるありふれたものですが、この事実が変わってきている、ということは公然の秘密です。

コンピューターは速度を増し、スマートフォンも若干新しくなった。しかし一方で、ジェット機は遅くなり、電車は故障し、家は高価で、収入は一定のままです。

現在、「テクノロジー」という言葉は、情報テクノロジーという意味です。いわゆるテクノロジー業界は、コンピューターとソフトウェアを開発しています。

しかし1960年代では、「テクノロジー」は、もっと広い意味を持っていました。コンピューターだけに限らず、飛行機、医薬品、化学肥料、原料、宇宙旅行、あらゆるものが含まれる言葉だったのです。テクノロジーは、あらゆる分野を前進し、水中都市の世界や月世界旅行、測定できないぐらい安い燃料の実現へ向かっていました。

アメリカは、発展途上の国から分離させた「先進国(developed country)」であると、私たちは聞かされてきました。この説明は、中立を装ったものです。しかしこれは、中立とは、ほど遠い。なぜなら、新しいことを創造する伝統は終わりだと、はっきり思わせるものだからです。

我々は発展を遂げたと言ったとしたら、「その通りだ」と、私たちは答えるでしょう。しかし、それはこの国の歴史が終わるということです。この国は、すでにすべての発展を終えた、あとは他国が追いつくだけだと、私たちは言わんばかりになっている。

しかしその見解からすると、1960年代の、あの夢のような、はるかにすばらしい未来のビジョンは、ただの間違いだったということです。この国の歴史が終わったものとしたい誘惑を、はっきりと拒絶すべきだと私は考えています。

自分自身に忠実になるな

もちろん、私たちは慣れていないことを行うには無力だと信じてしまうことにすれば、それは間違いではありませんが、自己満足の1つにすぎません。自然の成り行きを責めるべきではありません。あくまで私たち自身の過失によるものなのです。

よく知った道や伝統は、クリシェ(ありふれたもの)のようなものです。クリシェは、どこにでもあって、たまに正しいこともありますが、定期的な繰り返し以外はなにも正当化できないものです。

今日は、特に2つのクリシェを問うことで終わらせていただきたいと思います。

まずは、シェイクスピアから。彼はこんな有名な言葉を残しています。「自分自身に忠実であれ」。

彼はこの言葉を書いてはいますが、発言はしていません。『ハムレット』の登場人物、ポローニアスに言わせています。しかし、ポローニアスはデンマーク王の重臣でありながら、ハムレットに「退屈で老いさらばえた愚者だ」と言われています。

ここから、シェイクスピアは2つのことを教えてくれています。

1つ目は、自分自身に忠実にならないこと。本人だからといって、どれだけ自分のことを知っているというのでしょうか?

みなさんは、かつての私のように、他人との競争に刺激されるかもしれません。必要なのは、自身を育て世話をするために、自制心を持つことです。やみくもに自分自身に従ってはいけません。

2つ目は、たとえ年上からの助言でも疑えと、シェイクスピアは伝えているということです。

ポローニアスは父として、娘に助言をしますが、内容はひどいものでした。ただ受け継ぐだけでは称賛されない西欧の伝統を、シェイクスピアは忠実に例えてくれているのです。

永遠に生きるかのように毎日を過ごすこと

もう1つのクリシェは以下の言葉です。「その日が最後の日のように、毎日を過ごすこと」。

これを助言として活かす一番いい方法は、まったく正反対のことを行うことです。永遠に生きるかのように、毎日を過ごすのです。

これはつまり、なによりもまず、これからもずっと長い間、一緒に過ごすのだと思って、周りの人々を扱うべきということです。

今日みなさんがした選択は重要です。なぜなら、その結果は時が経つにつれ、どんどん大きくなるからです。これは、アインシュタインが発言したとされる、「複利こそ、宇宙でもっとも強い力だ」という言葉そのものです。

金融やお金の話ではありません。長期的な友情や、長く続く人間関係を築くことに力を注げば、最高の利益を得られるということなのです。

ある面では、みなさんが今日ここにいるのは、ハミルトンカレッジから勉学の道へ進む許可をもらったためでしょう。そしてそれは今日、終了しました。

もう1つの面では、みなさんが1人で道を行くのを支えてくれる友人たちと出会えたからこそ、ここにいると言えます。そして、この友情はこれからも続きます。友人たちに親切にすれば、何年か後に、彼らも返してくれるのです。

みなさんが今まで行ってきたすべては、卒業として、形式的には終わりを迎えました。私の希望でもあるのですが、みなさんは今日、今まで自分が成し遂げたことを、時間をかけて祝福すべきでしょう。

しかし、今日の卒業式は、もう1つの終わりの始まりではないのだと、覚えておいてください。これは、永遠の始まりなのです。

そして私はスピーチを進めるにあたって、もうこれ以上、みなさんの時間を遅らせないことにしたいと思います。

ありがとうございました。

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