天皇陛下のおことば

天皇陛下:東日本大震災から5年が経ちました。ここに一同と共に、震災によって亡くなった人々とその遺族に対し、深く哀悼の意を表します。

5年前の今日、東日本を襲った巨大地震とそれに伴う津波により、2万人を超す死者・行方不明者が生じました。仙台平野を黒い壁のような波が非情な速さで押し寄せてくるテレビの映像は、決して忘れることができないものでした。

このような津波に対して、どのような避難の道が確保できるのか暗澹たる気持ちになったことが思い起こされます。また、何人もの漁業者が、船を守るために沖に向け出航していく雄々しい姿も深く心に残っています。

このようななかで、自衛隊、警察、消防、海上保安庁をはじめとする国や地方自治体関係者、さらには一般市民が厳しい状況のなかで自らの危険や労をいとわず救助や捜索活動に携わったことに深い感謝の念を抱いています。

地震、津波に続き、原子力発電所の事故が発生し、放射能汚染のため、多くの人々が避難生活を余儀なくされました。事態の改善のために努力が続けられていますが、今なお自らの家に帰還できないでいる人々を思うと心が痛みます。

こうした苦難のなかで、政府や全国の地方自治体と一緒になって、多数のボランティアが被災者のために支援活動を行いました。また、160を超える国・地域や多数の国際機関、また在日米軍が多大な支援にあたってくれたことも忘れることはできません。

あれから5年、皆が協力して幾多の困難を乗り越え、復興に向けて努力を続けてきました。この結果、防災施設の整備、安全な居住地域の造成、産業の再建など進展が見られました。

しかし、被災地で、また避難先で、今日もなお多くの人が苦難の生活を続けています。とくに、年々高齢化していく被災者をはじめとし、私どもの関心の届かぬところで、いまだ人知れず苦しんでいる人も多くいるのではないかと心にかかります。

困難のなかにいる人々一人ひとりが取り残されることなく、1日も早く普通の生活を取り戻すことができるよう、これからも国民が心を1つにして寄り添っていくことが大切と思います。

日本は美しい自然に恵まれていますが、その自然は時に非常に危険な一面を見せることもあります。この度の大震災の大きな犠牲のもとで学んだ教訓を活かし、国民皆が防災の心を培うとともに、それを次の世代に引き継ぎ、より安全な国土が築かれていくことを衷心より希望しています。

今なお不自由な生活のなかで、たゆみない努力を続けている人々に思いを寄せ、被災地に1日も早く安らかな日々の戻ることを一同と共に願い、御霊への追悼の言葉といたします。